168話 模擬戦④
「まぁ、レンヤさんも男の人ですから、大きな胸に目が行ってしまうのは仕方ないと分かっていますけどね。」
ジト~~~~~~~~~~っとした目でシャルが俺を見ていた。
しかし、すぐにニコッと微笑んだ。
「だからといって、レンヤさんは身体的特徴での差別はしませんから安心していますよ。ペッタンコな私でもたくさん愛してくれますからね。」
そして自分の胸に手を添えた。
「実はね、レンヤさんはまだ気付いていないかもしれないけど、フランの言う通り最近は少しづつ大きくなっているのよ。胸だけが成長期のようになっていて発育が普通の人よりも早いみたいだから、今までのブラが急にきつくなって・・・、先日、大きいサイズに変えたの。」
シャルがそっと俺の耳へと唇を近づけ囁く。
「この事はラピス様には内緒ですよ。このまま大きくなれば来年にはテレサ以上になるかもね。大人フランのような念願の憧れだった巨乳にね・・・、うふふ・・・、楽しみよ。」
(う~ん・・・、確かにこんな事はラピスには言えんな。)
来年のペッタンコ同盟の崩壊が目に見える。
第一同盟者のシャルが抜けるのは確実だろう。盟主であるラピスの落胆ぶりが目に浮かぶ。
「シャルの裏切り者ぉおおおおおおおおおおお!」とか言って数日寝込むかもしれん。
(その時はその時でラピスを慰めてあげないとな。)
おっと!
いつまでもこんなネタを続ける訳にはいかん。
本当にスケベなエロ親父と化してしまう。
さて、気持ちを切り替えて真面目に2人の模擬戦を見学しよう。
ドン!
ズガッ!
2人の打撃音がビリビリと空気を震わせている。
少し残念なキャラのティアだが、ここまでソフィアと打ち合うとは想像もしなかった。
伊達に世界最強のカオスドラゴンと呼ばれているだけあるな。
「はぁああああああああああああ!!」
ソフィアの左フックがティアの顎に襲いかかる。
あんなのを喰らったら一瞬で意識が刈り取られてしまうぞ。
「なんのぉおおおおおおお!」
ガシッ!
ティアの右肘がソフィアの拳を受け止めた。
あの右肘も凄いが、それ以上にソフィアの拳の強度はどうなっている?
肘と拳なら普通は拳の方が打ち負け、拳が砕けてしまうはずだ。
しかし、そんな事も起こらないどころか、肘で受け止めたティアの方が逆に飛ばされてしまった。
ズザザザザザ!
地面を滑りながら後退していたが、十数メートルを滑りやっと止まった。
「いたたたぁぁぁ・・・」
痛そうにティアが自分の肘をさすっている。
キッとソフィアを睨んだ。
「貴様ぁぁぁ、どんな硬い拳をしている・・・、受けた我の肘が力負けするとは・・・」
「そんな貧弱な肘をしているあなたが悪いのよ。」
ニヤリとソフィアが笑った。
「そうだな!お主に文句を言うのは筋違いだった!それならこれはどうだ!」
グッと構えをとったティアが十数メートルの距離を一瞬で詰める。
「もらったぁああああああああああああああ!」
腰の入ったしなりのある蹴りをソフィアの太腿へと叩き込んだ。
あんな鞭のように纏わりつく蹴りを受けてしまと・・・
(どうする?)
下手に受けると太腿の骨が確実に砕けるぞ!
しかも、あの蹴りの威力は骨だけじゃなく、筋繊維までズタズタに引き裂く程の威力だ!
「狙いが丸分かりよ!」
ソフィアが叫び地面にしっかりと足を踏ん張り、ティアの狙い通りに太腿で蹴りを受け止めた。
ドン!
しかし、ソフィアの太腿には何も変化が起きなかった。
ただ、ソフィアの受けた左足の地面が波打ったように衝撃の跡が残っていた。
(あれはソフィアお得意の化勁か?)
化勁は使われると本当に厄介な技だよ。
ソフィアとの模擬戦でも使われた事もあったが、あれは本当に不思議な技だ。
打撃を与えても全く手応えが無い。まぁ、ソフィアほどの力の受け流しを出来る人間は存在しないと思うが、あれを初めて経験した時は何が起きたのか全く分らなかった。
いくら模擬戦とはいえ女性を殴るのは気が引けた。そんなに力を入れずにソフィアへ拳を打ち込むと、掌で受け止められた。
不思議な事に、俺の拳がソフィアの掌に触れた瞬間、全く手応えが無くなった。寸止めで当たった瞬間に拳を止めた訳でも無い。勢いが一瞬で消えてしまった感覚だった。
混乱している間にソフィアの右ストレートが顔面に炸裂してしまったけどな・・・
ソフィアが言うには、当たった瞬間、相手の受けた衝撃を体内で螺旋状に変換し体の外に放出するって・・・
(正直、理解出来ん!)
極めれば打撃に関しては無敵になれるみたいだと自慢していたな。
まだまだ師匠の域になっていないから、練習あるのみ!との事で遠慮しないで打ってこいと言われた。
(無理無理!ソフィアにそんな事は出来ん!)
それにしてもだ、自分では未熟と言っている割りには、ティアの本気であるあれだけのパワーの蹴りの力を受け流すとは、やはりソフィアの強さは化け物クラスに間違い無い。
そこまで強くなった理由も、『俺の隣で一緒に戦いたい』って理由だしな。
こんな俺をここまで想ってくれるなんて男冥利に尽きるよ。
「お返しよ!」
ソフィアが高くジャンプをし、クルッと回転しながら踵をティアの頭へと落とした。
ティアは頭上に両手を交差し、ソフィアの踵落としを受け止める。
ゴシャァアアアアアアアア!
「ぐっ!」
ティアが苦しそうに声を上げた。
足下はさっきのソフィアのようにティアを中心として小規模なクレーターが出来上がっている。
ソフィアの踵落としの威力はこれで分かるだろう。
まともに脳天に喰らえば頭蓋骨陥没どころではないな。頭が体にめり込んでしまうだろう。
そんな悲惨な死に方はしたくない!
「これしきの事でぇええええええええええ!」
ソフィアの踵を受け踏ん張っていたティアが、咄嗟にソフィアの右足首を掴んだ。
「しまった!」
ティアの行動にソフィアが初めて動揺した表情になった。
「ふふふ・・・、やっと捕まえたぞ!これなら衝撃を逃がす事は出来まい!」
足首を掴んだまま、ソフィアを地面に叩き付けるように投げた。
「くっ!」
ソフィアが頭を庇うように腕を縮めた。
ズドォオオオオオオオオッン!
「うわぁ~~~」
俺の隣にいるシャル唖然とした表情で目の前の光景を見ている。
「あれが人間同士の戦いなの?ティアは元の姿がドラゴンだから分かるけど、ソフィア義姉様はもう人間を辞めているのは確実ね。あんな戦いをする人間なんて信じられません。」
(シャルよ・・・、そう言っているけど、お前も似たようなものだぞ・・・)
ソフィアが地面に叩き付けられ、その場所は深く抉れてしまい、ソフィア自身は深い穴の中に埋もれてしまっている。
(勝負ありか?)
「なかなかの人間だったな。この我をここまで追い詰めたのは・・・」
ティアが穴の前で仁王立ちになりニヤリと笑った。
「まだよ!」
ズン!
「うぼぁあああああああああああ!」
穴の中からソフィアが急上昇しティアへと激突した。
右肘が深々とティアの鳩尾に突き刺さっている。
ガクッ
ゆっくりとソフィアが肘を抜き離れると、ティアががっくりと地面に両膝を着いた。
「無念・・・」
そのまま倒れそうになったが、ソフィアが駆け寄りティアを支えた。
「ソフィア・・・、お主・・・」
しかし、そんなソフィアはティアにウインクをした。
「恨みっこ無しの模擬戦よ。今回は私が勝ったけど、次はどうなるか分からないわね。ここまで本気で戦えるなんてティア以外にいないわ。だから、また戦いましょう。」
「そうだな・・・」
ティアはニヤリと笑った。
「我も長らく最強の座に居座り続けて腑抜けになったようだ。ソフィアよ、我の目を覚まさせてくれた貴様に感謝する。」
「しかしなぁ・・・」
ティアがグルっと俺達を見渡した。
「本当にこの時代はどうなっている?1万年以上生きた我だが、ここまでの猛者が一堂に揃う事は無かったぞ・・・、我の強さも霞んでしまうくらいだ。ご主人様から聞いた邪神との戦い、その為に女神が強者を集めたのかもしれん。そして、我もこの仲間に・・・」
アンがニコッと微笑むとみんなも微笑んだ。
「ティア、難しい事は考えない。みんなレンヤさんが好きで集まっているメンバーなのよ。もちろん、ティアもそうよね?」
ティアもアンつられてなのか微笑んだ。
今までの中で一番可愛い笑顔だよ。
「そうだな・・・、我の一目惚れがご主人様だった・・・、今までの竜王としての生活を全て捨て一緒になりたいと思って、こうして山を離れた事に後悔はしていない。皆よ、改めてよろしく頼む。」
ティアが深々と頭を下げると、みんなが一斉に拍手をしてくれた。
その日の夜・・・
「今夜は我との・・・」
ベッドの中でティアが幸せそうな表情で俺を見つめていた。
今はあの日の夜のような激しい事は無くなったが、代わりにかなり甘えてくるようになった。
2人っきりの時限定だけどな。
(それはそれで可愛いんだけど・・・)
「王でいる間は孤独だった。だが、今はご主人様に主と・・・、毎日がこれだけ楽しく眩い光景だとは思わなかったぞ。」
チュッと軽くキスをしてくれる。
「ご主人様と我の寿命は違い過ぎる、まぁ、ラピスとご主人様の関係も我と同じだろうが・・・、だが、ご主人様が生きている限りはずっと我は傍を離れるつもりは無い。」
ギュッと抱きついてくる。
そうするとティアの大きな胸が押し付けられてくるからとても気になる。
この感覚はなかなか慣れないよ。
「愛しているぞ・・・、この幸せが永遠に続けば・・・」
幸せそうな顔のティアが目の前にあるけど、ふと、ある事をいきなり思い出した。
「ティア・・・、今更思い出したけど・・・」
「どうした?」
「そう言えば、ティアってドラゴンの山で竜王をしていたよな?」
「そうだが、どうしてそんな話を?」
「そんな話をラピスから聞いたけど、ティアは俺達と一緒になってからはどこにも行っていないよな?だったら、いつ後釜のエンシェントドラゴンに竜王の引き継ぎをしたのか気になってしまってな。」
ダラダラとティアの顔から汗が流れている。
「もしかして?」
ティアがゆっくりと頷いた。
「はぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~」
海よりも深いため息が出てしまう。
「やっぱりか・・・」
「だけどな、ご主人様よ、もうこの時間となっては何も出来ん。そして朝までは2人の時間だ。ドラゴンの山の事は明日考える事にする。だからな・・・」
さっきまでの動揺していた顔が、いきなり妖艶な笑みに変わる。
「今は我の事だけを考えて欲しい・・・、我だけを愛して・・・」
「分かったよ・・・」
まぁ、今はティアの気持ちを優先しよう。ホント、俺も甘いな。
ティアにキスをすると蕩けるような顔で俺を見つめている。
そのまま俺の胸の中に顔を埋めた。
日中の模擬戦の疲れが出てきたのか、すぐに寝息を立てている。
(ソフィアとのあれだけの模擬戦だ。疲れない方が不思議だよ。)
ティアにはそう言われたけど、魔王が降臨した帝国の事もあるし、これから通過するシュメリア王国の通行許可の件等と色々とやる事は山積みだな・・・
(明日からも頑張らないとな。)
ティアが幸せそうな寝顔で俺の胸に頬ずりしている。眠りながらなのに器用なものだ。
この表情を見ているだけで疲れが吹き飛びそうだ。
「こんなのを見てしまうと泣き言は言えないな・・・」
ティアのおでこに軽くキスをし、ティアを抱きながら(ティアに抱き枕にされながら?)俺も目を閉じた。




