167話 模擬戦③
やっぱり力を使い果たしてしまったのだろう。俺に抱きついている力も弱く、すぐに手を放してしまった。
元気そうに笑顔で俺に微笑んでくれているが、まだ力が戻っていないのかぐったりした姿で俺に抱かれている。
「レンヤさん・・・」
「どうした?」
「レンヤさんのお姫様抱っこは本当に幸せな気持ちになるんだけど・・・」
申し訳なさそうなシャルの視線が、俺を通り越して後ろへと向いていた。
ゾクッ!
(背中に殺気の混じった視線を感じる・・・)
恐る恐る振り返ると・・・
・・・
(ひょえぇえええええええええええええええええええええ!)
ジト~~~~~~~~~~っとした目のテレサが俺を睨んでいた。
「兄さん・・・、分かっているでしょう?」
「は、はい・・・」
「次は私の番だからね。」
一瞬で殺気だらけの表情から、とってもいい笑顔の表情に変わった。
腕の中のシャルに視線を移すと、少し苦笑いをしている。
「まぁ、あのテレサだからねぇ・・・、ちゃんとしてあげないと本当に機嫌が悪くなるからお願いね。」
「りょ、了解です・・・」
シャルはテレサとはとても仲が良いからテレサの事は俺よりも良く分かっている。
(しかしなぁ・・・)
テレサの後ろにはアンにラピス、エメラルダも立っているよ。
(あの3人もか?)
何だろう?とっても気が重くなったのは気のせいか?
「ちょっとぉおおおおおおおおおおお!あんた達!何て事をしてくれるのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ソフィアが大声で怒鳴っている。
「あっ!」
シャルがソフィアの声で気が付いたみたいだ。
「レンヤさん、下ろしてくれませんか?」
「大丈夫か?」
「えぇ、立てるまでには回復しましたよ。お願いします。」
「分ったよ。」
どうやら大丈夫そうだ。
ゆっくりとシャルを下ろし立たせた。
少し足下がふらついているが、すぐにしっかりと立てるようになるだろう。
「ソフィア義姉様!ごめんなさい!」
シャルがソフィアへペコリと頭を下げた。
「シャルちゃん!そんな事はないわよ!」
ダダダッ!と駆け足でシャルの前までソフィアが走ってくる。
(は、速い!)
かなり離れていたのにあっという間にシャルに抱きついた。
「シャルちゃんが悪い訳じゃないからね。可愛いシャルちゃんをここまで追いつめた・・・」
ジロッとソフィアがラピスを睨む。
「ラピス~~~、ここまで追い詰める事はないでしょうがぁぁぁ~~~」
「な~に言っているのよ。」
ソフィアに睨まれたラピスだったが、そんな事は気にもせず涼しい顔だよ。
「シャルはそろそろ次の段階に進めようと思っていたの。まぁ、予想よりも早くアイリス様の魔法に目覚めたのは予想外だったけどね。」
「あ、あの魔法が?」
驚きの顔でシャルがラピスを見つめている。
「そうよ。あの魔法はね、アイリス様しか使えない特殊な魔法なのよ。神の世界でも最強魔法の1つに挙げられているくらいよ。シャルにはまだ早いかと思っていたけど、使えるようになったのは驚きよ。でもね、あの魔法は魔力だけじゃなくて体力も含めてかなり消耗するから、使って今のような状態になっても困るし、明日からは基礎体力を上げる訓練よ。」
「はい!」
シャルが元気よく返事をしてくれた。
ラピスとも仲が良くて何よりだよ。
シャルは本当に素直で良い子だ。王族だからといって全く傲る事も無い。まぁ、今のフォーゼリア王国の王族の人はみんなそんな感じだけどな。
アレックスも飾らない性格だったし、その気質が脈々と受け継がれているのかもしれない。
(そういえば?)
シャルに抱きついているソフィアだったけど、さっきまで模擬戦をしていたよな?
「ソフィア」
「どうしたの?」
シャルと楽しそうに見つめ合っていたソフィアだったけど、声をかけると俺の方に顔を向けてきた。
「そういえば、ティアは?」
そう!さっきまでソフィアはティアと模擬戦をしてる最中だった。
あの爆発があるまでな。
「あ!あぁぁぁ・・・、彼女ねぇぇぇ・・・」
チラッと視線が上へと泳いだ。
「ラピスとシャルちゃんの魔法の爆発で、私は横に飛ばされてしまったけど、ティアは上へと飛ばされてしまったのよ。丁度、ジャンプした瞬間に爆発があったからねぇ・・・、飛び上がった勢いに爆発の衝撃であっという間に星になったみたいね。」
「そうか・・・」
「「惜しい(可笑しい)人を亡くしたわ・・・」」
ラピスとソフィアが見事にハモった。
「勝手に殺すなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
どこか遠くから声が聞こえる。
「「「あっ!」」」
全員の視線が空へと注がれた。
ヒュゥゥゥ~~~
両手を前に出すと・・・
ポス!
俺の腕の中にティアがスポッと嵌った。
「ご主人様ぁぁぁ~~~、ナイスキャッチ!」
まぁ、いわゆるティアをお姫様抱っこの要領で受け止めた訳だ。
「ティア、お前、空を飛べるんじゃなかったか?」
しかし、ティアはニコニコしながら俺の首に腕を回す。
「最初は飛ぼうと思ったけどな、下にご主人様がいたものだし・・・、ちょっとだけ微調整してな、うふふ・・・」
「俺が受け止めないって事は想像しなかったのか?」
ティアの顔が少しずつ俺に迫って来る。
いやはや・・・、ティアの天元突破した美貌がここまで目の前に来ると、美人耐性がある俺でもさすがに照れてしまう。
「ご主人様のこんな照れている顔も可愛いな。何故、我が空を飛ばなかったというとな、必ずご主人様が受け止めてくれると信じていたからだ。そして、我の願い通りに受け止めてくれた・・・」
更にティアの顔が迫って来る。
「これが女としての幸せか・・・、こうも我の心がときめくとは、やはりご主人様は我の運命の人・・・、我の全てを捧げられるお方・・・」
ティアの上気した顔がすぐ目の前に!
そして唇がお互いに触れる寸前だ!
「ちょっとタンマ・・・」
ガシィイイイ!
ティアのすぐ後ろからソフィアの声が聞こえた。
この展開は100%予想していたけどな。
ギリギリ・・・
ティアの頭をソフィアが鷲掴みにしていた。
「私の目の黒い内は抜け駆けのラブロマンスは認めないからね・・・」
ブン!
「うきゃぁあああああああああああ!」
アイアンクローの状態からソフィアがティアを放り投げた。
しかし!
ティアが空中でクルクルと回転し、スタッと華麗に地面に着地した。
そしてニヤリと笑った。
「なかなかやるな・・・、今までとは違う殺気とパワー、さっきまでのは様子見だったか?」
「そうよ・・・、いくら世界最強のカオスドラゴンとはいえ、私の力をどこまで受け止められるか分らなかったからね。でも・・・」
今度はソフィアがニヤリと笑った。
「この白狼神掌拳を受け継いで、ようやくレンヤさん以外に本気で戦える相手みたいね。」
グッと右拳と右足を前に突き出し、いつもの構えをとった。
「そうか・・・、実は我も同じでな、力を抑えたこの人の姿で戦っても、誰も我に並ぶ者はいなかった。強いというのはここまで退屈と思っていたが、どうやら今からの戦いは楽しめそうだな。」
対するティアは構えをとらず無防備に立っていた。
「あら?私に先手を取らせてくれるの?」
ソフィアがニコニコしているが目が笑っていないのが分った。
「我を見くびるな。数多の強者との戦い、その全てを受け止め呑み込んできたのだ。対人戦闘でも遅れは取らんぞ。」
ティアがニィと口角を上げた。
「それじゃ、お言葉に甘えてぇえええええええええ!」
ザッ!
ソフィアが瞬間移動をしたかのように俺の目の前から消えた。
次の瞬間、ティアの目の前まで移動し、正拳突きをティアの鳩尾へと叩き込んだ。
「甘い!」
パシ!
ティアが呟くと左の掌底でソフィアの正拳突きを受け止めている。
(出来る!)
しかし、ティアは受け止めた瞬間、次の行動に移っていた。
グッとそのままソフィアの拳を握り、右手の掌底を右手の肘へと添える。
そのままの状態でティアが腰を屈めた。
(あれは!)
ティアがソフィアの懐へ体を潜り込ませた。
ソフィアの右手の拳と肘を極めたまま、自分の肩へソフィアの腕を乗せる。
(マズいぞ!腕を逆間接で極められたまま投げられると!)
ティアは本気でソフィアと勝負をしている。
そのままだと右腕が破壊される!
いくらソフィアが回復魔法で怪我を治しても、技でソフィアがティアに負けた事になってしまう。
(この瞬間で勝負が着いてしまうのか?)
しかし、ソフィアもニヤリと笑っている。ティアの行動を完全に読んでいる感じだ。
バッ!
ソフィアが飛び上がり、空中で一回転してから地面へと足から着地した。
「なかななやるわね・・・、打撃だけでなく投げも極めていたなんて・・・」
「ソフィア、お主もな・・・、完璧なタイミングで極まった裏投げを容易く凌ぐとはな。」
「師匠には散々血反吐を吐かされましたから・・・、ねっ!」
ドン!
「ぐっ!」
ソフィアが諸手の掌低突きをティアに放った。
かなりの距離があるのに、衝撃波だけでティアが遙か後方へと飛ばされた。
「私達が本気で戦うとみんなに迷惑がかかるから、少し離れた方が良いからね。」
ソフィアの背中から大きな白い翼が出現する。
翼を大きく広げティアの飛ばされた方角へと飛び出した。
「甘いわぁあああ!」
今度はティアが背中から大きなドラゴンの翼を出現させ、ソフィアの拳を受け止めた。
次の瞬間、ソフィアの体勢が崩れた。
ソフィアの拳を受け流して姿勢を崩したようだ。
そのままソフィアの頭上へと跳び、右手を振り下ろした。
ドォオオオオオオオオオオオオン!
「ぐっ!」
ソフィアが頭の上で両手を交差し、ティアの拳を受け止めた。
しかし、ティアの攻撃の威力は凄まじく、受け止めたソフィアの足下の地面が衝撃の余波で吹き飛び、大きなクレーターが出来てしまっている。
あんな攻撃をするティアもティアだが、その力を受け止めたソフィアもやはり化け物だと思う。
(それにしても・・・)
今のティアはシヴァと同じデザインの騎士服を着ている。
さすがにあの紐ビキニのような姿になっていない。
あの姿はさすがになぁ・・・
ローズよりも大きな胸がバルン!バルン!と揺れているんだぞ!
あの紐ビキニアーマーだし、ほぼ生乳揺れだ!
そんなのが目の前でだぞ!
俺だけでなく、他の女性陣も気になって模擬戦どころではなかった。
まぁ、騎士団の訓練所で模擬戦を行った時は、団員が総出で模擬戦見学に来ていたが、ティアが戦っている時は全員が前屈みになって股間を押さえプルプルと震えていたし、かなりの人数が鼻血を垂らしていたよ。
このエロ男共が!
そんな事があって、ラピスがエメラルダの魔剣を参考にし新しい指輪をティアに渡したんだよな。
普段着の服と戦闘時の騎士服を収納させておき、一瞬で着替えが出来るようにしておいた。
いつものティアはアンを主人として仕えているからメイド服を希望していたけど何故?
後で教えてもらったけど、テレサのメイド服姿を気に入ったとの事なんだが、まぁ、本人が気に入っているから俺からは何も言えないな。
キチンと服を着ているのだが・・・
それでもティアの胸は大きく揺れているのが見える。
今はソフィアと肉弾戦をしているから尚更だよな。無意識のうちに視線が吸い寄せられてしまう。
(ん?)
横から視線を感じたので、そちらへ顔を向けると・・・
・・・
「レンヤさんのエッチ・・・、視線で丸分かりよ・・・、レンヤさんはやっぱり大きい方が好みなのかな?」
ちょっと拗ねた感じのシャルが俺を見ていた。
しばらくはシャルの機嫌を直すのが大変だった。




