165話 模擬戦①
「せい!」
キィイイイイイイイイイイン!
「はぁあああああああああ!」
ギャリィイイイイイイ!
袈裟切りで俺に迫ってくる剣を受けた瞬間、クルッと刀身を回転させ相手の刀身を受け流す。
しかし!
受け流した刀身が回転し刃の部分が上になり、勢いよく斬り上げながら俺の脇腹へと迫ってきた。
上段に構えていた聖剣を素早く正眼の高さまで引き下ろし、腰を捻りこちらも刀身で受け止めた。
「中々やるようになったな。」
俺がニヤリと笑うと相手もニヤリと笑う。
「こうして戦うと兄さんは本当に化け物だって実感するわ。まさか初見で『燕返し』を防がれるとはね・・・、あのザンの剣技だったけど、私は避ける事も出来ず情けなく脇腹を切られてしまったのよ。少しは兄さんも驚くと思ったのに、まるで見た事があるように軽々と受けてしまうなんて・・・」
やはりあの技は例の魔人の技だったのか。
知っていた訳では無かったけど、何だろう?自然とテレサの剣筋が察知出来たからなんだけどな。
無蒼流の『先の目』とは違う感覚だ。体が勝手に動く感じだな。まるでこの剣技を知っていたかのように・・・
(俺もかつて受けた剣技だったのか?)
それにしてもだ、この技を真似し自分の剣技にするテレサのセンスも素晴らしいと思う。
理屈では分かっていても、この高速の切り返しは体にも負担が大きい。下手すれば手足の健の1つや2つは断裂しても不思議ではない程の難易度の高い技だ。
それを1度受けただけで自分のモノにしてしまうなんてな・・・
(さすが剣神の称号持ちだけある。)
キン!
鍔迫り合いで膠着状態だったが、膝をほとんど曲げず足首のバネだけで一気にテレサが後ろに飛んだ。
俺もそうだけど、テレサの身体能力も人間離れしているよ。
「烈空波斬!」
剣を大きく横薙ぎに振るうと大きな三日月型の真空波が俺へと飛んでくる。
「テレサ!それは悪手だぞ!真空連斬!」
俺も横薙ぎに剣を振るうと、テレサよりもかなりの小型だがいくつもの三日月型の真空波が飛び出した。
ズバババァアアアアアア!
俺の方の真空波がテレサの真空波をズタズタに切り裂き、そのままテレサへと飛んでいった。
「空中へと飛んだのは失敗だったな。身動きが出来ない空中では打つ手が無いぞ。どうする?」
「まだ手があるわ!ミーティア!」
テレサの手に握られている聖剣が輝くと、彼女の背中に大きな銀色の翼が出現した。
そのまま一気に上昇し、俺の真空波を躱した。
(よく躱したな。だけど甘い・・・)
「兄さん!どう?」
テレサが空中で高らかに自慢していたけど、俺は既に次の手を打っていた。
ジャキ!
「チェックメイトだ。」
「え?」
俺は後ろからテレサの首筋にアーク・ライトを当てている。
「兄さん、いつの間に?」
テレサが『降参』といった感じで両手を上げた。
「俺の真空連斬を躱した瞬間、俺も空を飛んでお前の後ろに回っただけさ。」
「あんな一瞬で・・・」
ゆっくりと2人で地面に降りた。
アーク・ライトを収納魔法の空間に収め、そのまま右手をテレサの頭の上に乗せた。
テレサの頬が少し赤くなっている。
「お前の『目』は凄く良い目をしているよ。だけどな、少し目に頼り過ぎだな。」
「兄さん・・・」
「お前の意識と目が俺の放った真空連斬に集中しただろう?その瞬間さ。あれだけの時間、俺から目を離してしまったからな。俺にとっては欠伸が出るくらいの時間だったぞ。目だけに頼らず、周りの気配、相手の行動の先読み、一瞬の間だと思ってもやる事は山ほどあるからな。」
「そんな事が出来るのは兄さんくらいしかいないわよ。」
「大丈夫さ、テレサにも出来るよ。」
そう言ってテレサの頭を撫でるととても嬉しそうにしているよ。
たまに出てくる『アレ』が無ければ本当に可愛い妹なんだけどなぁ・・・
「へへへ・・・、兄さんにそう言われると本当に出来そうよ。」
(チョロいぞ、テレサよ・・・)
俺に撫でられて満足したみたいだ。
ユルユルに蕩けていた表情もキリっとしていつもの感じに戻り、自分の手に握っているミーティアをジッと見つめている。
「ミーティアもそうだけど、聖剣同士でかなり思いっきり打ち合っても刃こぼれも全然しないね。」
「そうだな、今の俺達の剣技レベルの模擬戦じゃ、普通の木剣や模擬戦用の刃を潰した剣じゃ練習にもならないしな。俺達の技術に剣が追い付いていない感じだよな。」
「そうね・・・、アン姉さんもそうだけど、人差し指くらいの小枝でも剣や鉄鎧までスパスパと切り刻んでしまうしねぇ~、木剣だと私達では剣を合わせたら柄だけ残して消し飛んじゃうし・・・」
「もしかして、アーク・ライトとミーティアが2本あるのは、こういった状況になると考えられていたかもな。これだけ剣を合わせても全く大丈夫なんだし、どちらかが取り残される事はないってな。お互いに強くなれるように考えられていたのかもな?」
嬉しそうにテレサが微笑んだ。
「そうね・・・、聖剣に感謝よ。こうして兄さんと私が一緒になれたのもこの剣のおかげだしね。」
ミーティアの青い宝玉が、ゆっくりと点滅している。その点滅がとても嬉しそうだと思ったのは俺だけ?
「でもね・・・」
嬉しそうにしていたテレサが少し不満げな表情に変わった。
「チェッ!最初に約束した『勝った方が何でもお願いを聞いてもらえる権利』だったけど、負けちゃったね。無茶苦茶悔しいよ!」
「おいおい・・・、そこまで何を期待していたんだ?今でもテレサの好きな事はさせてあげているぞ。」
「だってぇぇぇ・・・」
ちょっと拗ねた顔で俺を見つめている。
「今まで兄さんと2人っきりでデートした事が無いのよ。アン姉さんとシャルはいっつもデートしてるのに・・・」
(あぁ~~~、拗ねちゃったよ。)
「分かった、分かったよ。今度、テレサと2人っきりでデートしような。好きなところに連れて行ってあげるぞ。」
「本当に?」
すっごく嬉しそうな顔でテレサが迫ってくる。
「も、もちろんだ!」
ギュッとテレサが抱きついてきた。
「へへへ・・・、嬉しいな。じゃぁ・・・」
テレサの行きたいお店を聞いていたが、段々と背中に冷や汗が流れてくる。
いくつか候補が上がってきたが、色々と回って最後に行きたいと希望していた店は最近王都で流行りの店だった。
「おい・・・、この店って・・・、カップル限定で、しかもイチャイチャ度判定がその日の最高だったら料金が全部サービスになるけど・・・、そんなにも行きたいのか?」
「もちろんよ。兄さんと私がこの世で最高のカップルだと見せつけないとね。約束したからね、絶対に2人っきりでデートよ!」
「ははは・・・」
やっぱりテレサはいつものテレサだったよ。
「あっちもかなり派手にやっているわね。かつての魔王四天王の実力は相当ね。」
「あぁ、あの時は本気で殺し合いになるまでに勝負が着いて良かったと思うよ。」
俺とテレサの視線の先にはアンとエメラルダの模擬戦の姿が映っていた。
アンは黄金の鎧を纏い大きな翼を広げ魔剣を構えている。
エメラルダは氷の翼を広げ、氷の双剣を両手に握り構えているが、彼女の周囲には十数本の氷の剣が浮いていた。
「エメラルダ、あの時と比べて更に剣の腕が上達したようね。双剣以外にも全方位から剣が襲いかかってくるなんて・・・、気を抜いたら一瞬で細切れになってしまいそうよ。」
「アンこそ剣に磨きがかかったようね。魔剣デスペラードといえ、たった1本でこの『剣の舞』を捌くとは予想外だったわ。」
アンが魔剣を下段に構え「ふぅ」と息を吐いた。
その呼吸に合わせエメラルダが両手に構えた双剣を大きく左右に広げた。
「これからが本気の勝負よ!」
「アン!500年前に模擬戦で負けた時の雪辱を晴らすわ!」
「そんな昔に負けた事を根に持たないでよ!」
(俺もそう思う。)
ダッ!
2人が勢いよく飛び出す。
「はっ!」
エメラルダの右手の剣が横殴りにアンを襲った。
「なんの!」
ガキィイイイイイイイイイ!
魔剣を持ち上げ逆手でエメラルダの剣を受け止めた。
「上手く受けたわね!この状態でもう1本の剣をどうするの?」
シュバッ!
エメラルダが右手の剣を魔剣に打ち合わせたまま、腰をグッと屈め左手の剣をアンの脛へと切りかかった。
(こいつ等!模擬戦じゃないぞ!お互いに殺す気で戦っている!)
「甘いわ!」
ニヤッとアンが笑った瞬間、魔剣を握る拳を起点にしノーモーションで飛び上がる。
(嘘だろう?ソフィア並みの身体能力だぞ!」
そのままエメラルダの頭上を飛び越え、剣を横なぎに振りかぶった。
スパァアアアアアン!
「えっ!」
エメラルダの驚愕の声が響いた。
アンの剣の一振りでエメラルダの背中の氷の翼が粉々に砕け、十数本もの浮いていた氷の剣も同様に砕けていた。
スタッ!
エメラルダから十数メートル離れた場所にアンが優雅に着地する。
すぐに振り返り俺へと微笑んだ。
「どう?少しはレンヤさんの前でカッコイイところを見せられたかな?」
(凄いな。)
そんな言葉しか出ない。
ぱっと見で軽く剣を振ったように見えたが、アンの魔剣の固有能力である『空間を斬る』斬撃で一瞬の内にエメラルダの翼と周りの剣を切り刻むとは・・・
しかも、エメラルダの体を傷付けないよう、斬撃の加減も完璧だ。もし本気でアンが斬撃を放ったら、エメラルダの体はズタズタにされるのでは?
本気で戦っているように見えても、お互いに気を遣いながら戦っているのだろう。
(見ていて楽しそうに剣を交えているしな、)
剣の実力を見ると、アンの方がエメラルダよりも一枚上手の感じがする。
「さすがはアンね。魔王様を輩出されたアルカイド公爵家の秘剣だけあるわ。私の剣術がここまで通用しないなんて・・・」
しかし、エメラルダの目にはまだ強い意志を感じる。
「だけど、剣術以外の魔法も併用して戦う魔剣士としての勝負ならぁあああああああ!」
ギン!
アンに粉々にされた氷の翼が一瞬で再生した。
「そうね、そろそろ本気で勝負しましょうね。だからといってエメラルダ、勝ちは譲らないわよ。」
アンが魔剣を右手だけで構え、切っ先をエメラルダへと向ける。
対するエメラルダは氷の双剣を目の前で交差した。
「その余裕がどこまで続くか?喰らいなさい!」
ズドドドォオオオオオオオオ!
アンの不意を突いて上空から大量のアイス・ジャベリンが降り注いだ。
100本は軽く越えている!そんな数を無詠唱でしかもトリガー無しで放つとは・・・
最強の氷魔法の使い手であるシヴァの名に恥じない実力だ。
「たったそれだけの芸なの?」
「そんな訳、無いでしょう。」
アンがニヤッと笑うと、エメラルダも同時に笑った。
エメラルダの周囲を回っていた氷の剣が更に増え、大量の剣がアンへ向かって飛び出した。
「そんな小手先の技でぇえええ!」
アンが翼を広げ上空へと飛び上がる。
上から降り注いでいるアイス・ジャベリンへと自ら飛び込む感じだ。
魔剣の能力で空間を切り取り、アイス・ジャベリンを消滅させ逃げ道を作るつもりか?
「かかったわね!飛べる能力が逆に仇になったわよ!」
エメラルダが叫んだ。
「舞え!剣よ!その狙いは外さない!」
その言葉を合図にアンへと向かっていた氷の剣が更に分裂し、アイス・ジャベリンの数を上回る。
「更にぃいいいいい!アイス・スパイク!」
地面から何十本もの鋭い氷の杭が、上空のアンへと一気に迫った。
(マジかい・・・)
上空からは豪雨のようなアイス・ジャベリンが降り注ぎ、前後左右と隙間なく氷の剣が襲い掛かって、しかも!下からも大量の鋭い氷の杭が迫ってくる。
360°全方向からの攻撃で、どこにも逃げる場所が無い。
しかもだ!脱出しようとどこかに攻撃をしようにも、そうすればそれ以外の方向から集中砲火されてしまうのは明らかだ。
普通に考えればアンに逃げ場も勝ち目も無い。
完全なるチェックメイトになっていて、エメラルダの勝利は揺るがないだろう。
「アン!勝ちは貰ったわよ!このオールレンジからの攻撃に死角は無いわ!」
(だが!)
アンの目にはまだ諦めの色が見えていない。
「エメラルダ!私を舐めないでよ!」
魔剣をグッと上に掲げた。
漆黒に輝いている刀身が白く輝いた。
(嘘だろ?)
目の前の光景が信じられなかった。
あの魔剣が黒色以外の光を放つ事は聞いた事も無かったし、当然、見た事も無かった。
だが、今、俺の目の前で魔剣デスブリンガーが白く輝いていた。
「リバース・グラビティ!」
アンが叫ぶと刀身が更に輝き、全身が白と黄金の光に包まれる。
ドン!
その瞬間、アンに迫っていた全ての攻撃が180°方向を変え、遠ざかっていってしまった。
「は?」
エメラルダが信じられない顔で棒立ちになっている。
ジャキ!
「チェックメイトよ。」
アンがにこやかに微笑み、エメラルダの喉元に剣を突き立てている。
「私の負けね・・・、完敗よ・・・」
フッとエメラルダが微笑み両手を上げた。




