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161話 邪竜強襲⑬

「ラピスさん!あの光は!」


アンジェリカがラピスへと叫んだ。


レンヤとヴリトラの戦いの余波から避難する為、アンジェリカ達はかなり離れた場所でレンヤを見守っていた。

その為、彼女達には今のレンヤの状況はよく見えていない。

その場所から天へと青い光が放たれていた。


「あの光は・・・」


ラピスの目からまたもや涙が流れる。


「レンヤ、今のままでは・・・、ダメよ、力が暴走している。フローリア様・・・、お願い、レンヤを見守って・・・」


ラピスの言葉に3人が固唾を呑んでレンヤの方向を見つめ見守っていた。


「レンヤさん・・・」

「勇者様・・・」

「ご主人様・・・」



ス・・・



天まで伸びていた光の柱が消滅した。


「レンヤ・・・、。とうとう・・・、あの力を制御出来たのね。」


ラピスが嬉しそうにレンヤの方向を見つめていた。

ティアマットも満足そうに頷いていた。


「ご主人様の今の力、我でもハッキリと分るぞ。今のご主人様からはとても静かだが、あの竜神王よりも強大な力を感じる。こんなに力強いのに不思議だ・・・、とても心が安らぐ。だけどな、体がザワザワして熱くなってきたぞ。」


トロ~ンとした表情でティアマットが自分の体を抱きしめた。


「ご主人様が欲しい・・・、ご主人様のあの逞しい腕に抱かれたい・・・、ご主人様、我を好きにして・・・」



「こら!」



ガン!



「ぐえ!」


ティアマットからカエルの潰れたような声が発せられた。

頭を押さえながら涙目でアンジェリカを見ている。

アンジェリカの手には魔剣デスペラードが握られていた。


「主よ、我の頭を何度もポカポカと叩かんでくれ。我の楽しい妄想の時間を・・・」


「ティア、欲情するなら戦闘中は勘弁してよ。雰囲気も何も全部ぶっ壊しになっちゃうんだからね。」


「す、すまぬ・・・、我としたことが申し訳ない・・・」



「アン!あのドラゴンからブレスが!」



エメラルダが叫ぶと、全員がヴリトラへと視線を移した。

黒竜から光輝く真っ白なブレスが上空へと吐き出される光景が全員の目に映った。


「レンヤァアアアアアアアアアア!」


ラピスが叫んだ。



「「「え?」」」



ラピス以外の3人が直後に短く声を出してしまった。


「アレってブレスを切り裂いているの?」


アンジェリカが呟いた。


4人が信じられない顔で目の前の光景を見ていた。

真っ白に輝くブレスがある1点から左右に分かれている。


「さすがはご主人様だ・・・、我のブレスよりも遥かに強力なブレスを切り裂くとは・・・」


ブレスの分かれている部分が大きく青色に輝いた。


「あれは!アン、とんでもない力よ!」


エメラルダが叫ぶ。


「えぇ・・・、あんなレンヤさんの力、初めて見たわ・・・」


アンジェリカが真剣な眼差しで見つめている。



カッ!



「「「「うっ!」」」」


あまりの眩しさに全員が目を開けられなくなっていた。



「感じるわ、レンヤの本当の力・・・、あれが、かつて神界を二分した創造神様の力と対になった破壊神と呼ばれた力・・・」


ラピスの目からポロっと涙が零れた。



カァアアアアアアアアアアアアアアア!



光が少し収まり全員が目を開けると、光の奔流に変化が起きた。

先程のように天をも切り裂くかのような青い光の柱が立ち上ると、その光に金色の光が螺旋状に纏わりついた。


「ラピスさん?」


「アン、心配しないで。あの光こそがレンヤに封印されていた力なの・・・、その力が今、目覚めたのよ。神さえも消滅させる『神殺し』の力・・・、ダリウスをも完全に消滅させる事の出来る唯一の力よ。」


「レンヤさんにそんな力が・・・」


「まだ完全には覚醒していないけど、私がフローリア様から教えてもらった事はね、そういう事なのよ。フローリア様・・・、残酷ですよ・・・、レンヤにそんな重い運命を・・・」


ラピスの目からは涙が止めどなく流れている。


「だけどな、ご主人様はそんな運命など気にもしていないと思うぞ。ラピスよ、もう少しご主人様を信じても良いのではないか?さっき会ったばかりの我が言うのも変だが、こうして我々がご主人様の元に集う事自体があり得ない確率だ。これは与えられた運命でなく、ご主人様が自分で手繰り寄せた運命だと思うぞ。そして、我々はそんなご主人様を手助けすれば良いのではないのか?その為に我らが集まったのではないのかな?」


「ふふふ・・・、そうね・・・」


ラピスが微笑んで光の柱を見つめた。


「まさか痴女のあなたに元気づけられるねんてね。私も焼きが回ったかしら?」


「痴女とは失礼な・・・、我らドラゴン族には服の概念は無いのだ。この格好でもマシと思ってもらいたいがな。」


「いやいや、全然マシで無いわよ。」


速攻でアンジェリカが突っ込んだ。



ズバァアアアアアアアアアアアアアアアア!



巨大な光の柱が黒竜を切り裂いた。

胴体を真っ二つにされた黒竜の体が徐々に消滅を始める。


「あれは?」


その光景を見ていたエメラルダがアンジェリカへと視線を移す。


「レンヤさんが・・・、勝ったのね?」


「あぁぁ・・・、間違いないだろう。あそこから感じる気配はご主人様だけしか感じない。あの竜神王の気配は消滅した。ご主人様の完全勝利だ。」


ティアマットが満足そうに頷いた。



「レンヤ・・・」



ラピスの目には涙が溜まっていた。

そして、その視線の先には大きく光り輝く青い翼を捉えている。



「レンヤ・・・」



ギュッと両手を胸の前で握りしめている。



「レンヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



大声で叫びながらラピスが翼を大きく広げ、視線の先にある光の翼へと飛び出した。






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「これで全てが終わったな・・・」


俺の前にはもう何も無く、雲一つない綺麗な青い大空が広がっていた。眼下の森を侵食していた瘴気も大元の発生源が消滅したからか、その広がりはなくなり徐々に消え始めていた。このまましばらくすれば完全に消滅するだろう。


アーク・ライトは既に自分で収納魔法の中へと入ってしまった。


(あの女性がアーク・ライトとどういう関わりなのか?それに俺の力・・・、色々と分からない事ばかりだ。)



「レンヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」



(この声は?)


ラピスが大声で俺の名前を呼んでいる。

声の方へ顔を向けると・・・



「ぐえっ!」



凄い衝撃を胸に受け変な声を出してしまった。

俺の胸に受けた衝撃の元凶はというと・・・


「ひぐ!ひぐ!レンヤァァァ・・・」


ラピスが俺の胸の中で泣きじゃくっている。

ここまでラピスが泣くなんて・・・


「心配させて済まない・・・」


「レンヤの馬鹿ぁぁぁ・・・、もう危険な事はしないでよぉぉぉ・・・」


「本当に済まない・・・」



「レンヤさん・・・」


胸の中で泣いているラピスをジッと見つめていると声が聞こえた。


「アン・・・」


目の前にアンが浮いていたが、アンも目に涙をためている。


「笑顔でレンヤさんを迎えようと思っていたのに・・・、何で涙が・・・、ごめんなさい・・・」


とうとうアンの瞳からも涙が溢れ始めた。

そのまま俺に抱きつく。

ラピスとアンが俺の胸の中で一緒に泣いていた。



「忌々しいが、今は我らの出番は無いな・・・」

「そうね、アンのお邪魔虫になりたくないからね。」


ティアマットとエメラルダが3人から離れた場所で、腕を組みながらやれやれといった表情で浮いていた。



2人は俺の胸の中で泣いていたが、しばらくすると落ち着いたのかゆっくりと離れた。


「レンヤさん・・・、みっともない姿でゴメンね・・・」

「レンヤ・・・、無茶するのはもうこれで最後にして。でないと、今度は動けないように縛りつけるからね。」


アンは申し訳なさそうにしていたが、ラピスはハイライトの無い目を俺へと向けてきた。

まるでテレサの『アレ』のような感じだ。

最近のテレサは落ち着いていて『アノ』状態にはなっていない日々だったけど、代わりにラピスが『アレ』になってしまったのか?


(しばらくはラピスを変に刺激したらダメだな。)


くわばらくわばら・・・


しばらくするとラピスも落ち着いてきたのか、『アノ』目から普通の目に戻っていた。


(良かった・・・)


「さてと、みんなも心配しているだろうから戻るとするか?」


アン達が頷いたが、エメラルダが手を上げた。


「勇者様、ちょっとお願いあるけど、どうかな?」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ふぅ、どうやら全て片付いたようだな。」


カイン王子がグルっと街の中を見渡していた。


スタッ!


空を飛んでいたシヴァがカイン王子の隣に降り立った。


「街の上を一通り回ったけど1匹もいなかったわ。」


「そうか・・・、シヴァご苦労だな。空を飛べる君がいて本当に助かったよ。」


カイン王子がシヴァの肩を優しく抱くと、シヴァは嬉しそうに彼に寄りかかった。


「私は当たり前の事をしたまでよ。もうそろそろ夫婦になるし、お互いに助け合わないとね。」


「シヴァ・・・、君と出会えてこうして一緒になれた私は本当に幸せ者だよ。これからもずっと頼むよ。」


シヴァがカイン王子にチュッとキスをし、ギュッと腕に抱き着いた。


「私もあなたに会えて良かったわ。もう十分に幸せにしてくれているし、私の方こそずっと一緒にいてね。」


「もちろんだ。騎士の名に賭けて君を幸せにする。」


お互いに見つめ合い再びキスをした。



「はぁ~~~、私は何を見せつけられているのよ?すぐそばに私がいるって事を分っているのかしら?」


エミリアがため息をしてから拳を胸の前でグッと握った。


「もう、アニーのおかげで体がウズウズしてしまったじゃないの・・・、ダーリン、今夜は覚悟していてね。朝までずっとダーリンに甘えちゃうんだから寝させないよ。うふふ・・・」


妖艶な笑みを浮かべ、ペロッと舌舐めずりをしていた。



ちょっとHな妄想をしていたエミリアだったが・・・


「えっ!何?この気配は?」


急に真剣な表情に戻り、街の外の空へ視線を移した。


「嘘・・・、こんなのって・・・」


エミリアの様子が違っていた事に2人が気付き、シヴァも街の外の気配に気付いた。


「エミリア・・・、こんな事って・・・、勇者様やお祖母様に何かあったの?」


2人がゴクリと喉を鳴らし街の外をジッと見つめている。

その様子にカイン王子も今の状況が異常事態だと気が付いたみたいだ。


「シヴァにエミリア嬢、何を感じたのだ?」


しばらく2人が黙っていたが、シヴァが鋭い視線でカイン王子を見る。


「あなた・・・」


「本当にどうしたのだ?」


「もしかして、この街が滅ぶかもしれない・・・、私とエミリアの力でも手に負えない程の存在が近づいているわ。」


「そ、それだけの存在だと・・・」


しかし、カイン王子がニヤリと笑った。


「ふふふ・・・、ようやく私がおとこを見せる時が来たな。シヴァにエミリア嬢!早く義父上と義母上のところに行って脱出をするのだ!それまでの時間は私が稼ぐ!」


剣をグッと構えるとシヴァも隣に立ち双剣の魔剣を構えた。


「あなた!何を言っているの!私とあなたは寿命以外では死ぬ時は一緒よ!そう約束したじゃないの!あの世まで付き合うわ。」


「シヴァ・・・」


「唯一の心残りがあるとしたら・・・、あなたとの子供をこの手で抱けなかった事ね。」



「エミリア!」



シヴァが叫んだ。


「アニー!」


「エミリア!後は頼んだわよ!早くお父様のところに行って住民の避難を進めて!それまでは何としてでも時間を稼ぐわ!」


「わ、分った!でも・・・」




シュン!




「「「そ、そんな・・・」」」


3人の頭上に赤紫色の巨大なドラゴンが浮いていた。


「そ、そんな一瞬でここまで来るなんて、あり得ない・・・」

「あの赤紫色のドラゴンは・・・」

「まさか、最強のエンシェントドラゴンの・・・」


絶望の表情が3人の顔に浮かんでいた。

カオスドラゴンに睨まれた3人は、まさに『蛇に睨まれた蛙』のようにガタガタと震え動けないでいた。




「やっほ~!」




突然、カオスドラゴンの背から明るい声が響いた。



「「「へっ?」」」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「奴が死んだ。仕込んでいた魔力探知の反応が無くなったな。」


「そうね・・・、私の蟲からの視界からも見えたわ。最後は真っ二つにされてね。そのおかげで私の蟲も消滅させられちゃったわ。」



薄暗い大きな部屋の中で男女2人が離れた場所に座っていた。



「だけど、あの光・・・、ふふふ・・・、とうとう・・・」


女が光悦した表情で自分を抱きしめている。


「ダーリン・・・、やっぱりあのお方だったのね。次は遠慮しないわ。必ず私のモノにして・・・、永遠に私だけを愛するように・・・、うふふふ・・・、そう調教するのも楽しみね。」


「けっ!この変態が・・・」


男が吐き捨てるように言葉を放った。


「まぁ、俺はこの世界で狩りを楽しむだけだ。人間なんて腐るほどに次から次へと湧いてくるからな。ダリウス様はこの世界を滅ぼす事に決めたようだし、気の済むまで人間狩りを楽しむさ。まずはこの世界に来てから作った試作ゴーレムで遊んでみるか?」


「ふん!この殺人狂が・・・、あんたの方が変態よ!」


2人がニヤリと笑い、その姿が影に溶け込むように消えた。


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