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160話 邪神強襲⑫

バサァアアア!


ヴリトラが背中の翼を大きく広げ空へと飛び立つ。

全身からどす黒い邪悪なオーラが噴き出し纏わりついている。

みるみるその体が巨大化し、真っ黒なドラゴンの姿になって空中で浮いていた。

ティアマットがカオスドラゴンになっていた時の姿よりも遙かに大きい。


空中のドラゴンが地上にいる俺を見た。


ゾクッ!


背中に嫌な汗が流れる。


(ヤバい!)


ドラゴンが口を大きく開けた。


カッ!


ズバァアアアアアアアアアアアアアアアア!


先程とは桁違いの威力の白い光線が地面に降り注ぐ。



「ふぅ、間一髪だった・・・」



光線が吐かれるギリギリの寸前で空中に逃れられたのは幸いだった。


しかし・・・


眼下の光景を見てみると凄惨な光景が広がっていた。

森の木々が焼き尽くされただけではなく、ブレスが炸裂した場所が深く抉れしまい、破壊された地面が延々と広がっていた。

ラピスの魔法『アトミック・レイ』を更に凶悪にしたような感じだ。


「こんなのが街に放たれたら一撃で街全体が消滅してしまうぞ・・・」


(ヴリトラ・・・)


「最後の最後に仲間に裏切られたか・・・、今のお前はもうお前じゃないな。」


右手を高々と掲げる。


「来い!アーク・ライト!」


掌に光が集まりアーク・ライトが具現化した。

グッと聖剣を構えた。


「これで最後にしてやるよ・・・」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






「ラピスさん!あれは何なの?」


アンジェリカの視線の先には超巨大な姿をした真っ黒なドラゴンが浮いている。


「あれがヴリトラの本当の姿・・・、竜神王としての・・・」


ラピスがガタガタと震え青ざめている。


「無理よ・・・、あんな存在・・・、いくら神でもあんな強大な力はあり得ないわ・・・」




「レンヤァアアアアアアアアアアアアアア!」




ラピスが絶叫しながら突然黒竜へと飛び出そうとした。


「ラピスさん!いくらあなたでもあの戦いに加勢するのは無理よ!」


アンジェリカが慌ててラピスを押さえた。


「アン!止めないで!レンヤが!レンヤがぁああああああああ!」


パニックになりかけているラピスをアンジェリカが押さえているが、ラピスの暴れる力が強い。


「ラピス様!」

「ラピスよ!」


エメラルダとティアマットが加わり、やっとの事でラピスを押さえ付ける事が出来た。


「ダメ!ダメェエエエエエ!このままじゃレンヤが!レンヤが死んじゃう!もう目の前でレンヤが死ぬのを見たくない!私が!私が助けに行かないと!だから、離して!離してよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


「ラピスさん・・・」


悲痛な表情のアンジェリカだったが、ギリッと歯を食いしばりラピスを見つめた。



パァアアアアアアアアン!



「えっ!」


右手を振り上げたアンジェリカがラピスの頬を平手で叩いた。

咄嗟の事でラピスも状況が理解出来ず、呆けた表情でアンジェリカを見つめていた。


「ラピスさん・・・、落ち着きましたか?」


アンジェリカの瞳からポロポロと涙が流れる。


「アン・・・、どうして?」


「私だって・・・、私だって・・・」



「私だって助けに行きたい・・・、でも・・・、でも!今の私達じゃ!レンヤさんの足手まといにしかならないわ!」


アンジェリカが絶叫した。


「レンヤを助けるなら私は命を懸けられるわ!命を懸ければレンヤだけでも助けられるわ!」


負けじとラピスも叫んだ。


「ラピスさん!それじゃダメなのよ!」


「どうして?レンヤは私の全てなのよ!私が命を懸けて当たり前の事よ!」


「もし!ラピスさんに万が一があったら・・・、レンヤさんが助かっても、残されたレンヤさんはどうするの!ラピスさんはレンヤさんを助けられて満足かもしれないけど、残されたレンヤさんや私達の事は考えたの?500年前!レンヤさんが亡くなった時、あなた達の気持ちはどうだったの?今度はレンヤさんがそんな気持ちになってしまうかもしれないのよ!」



「はっ!」



アンジェリカの言葉にラピスが放心状態になった。

そのラピスをアンジェリカが優しく抱きしめた。


「私達は家族・・・、誰一人欠ける事は私が許さないの・・・、だからね、ラピスさん・・・、レンヤさんを信じましょう。必ず勝って私達のところに戻って来るって・・・」


「アン・・・」


ラピスの瞳からも涙が止めどなく溢れている。


「ゴメン・・・、本当にゴメンね・・・、私、どうかしていたわ。あの時、レンヤが死んだ時・・・、あの光景がずっと忘れられなかった。今もあの光景を思い出してしまって・・・、ふふふ、みっともないわね。だけど、生まれ変わったレンヤは約束してくれたわ、『絶対に死なない』と・・・」


ラピスもアンジェリカを抱きしめた。


「私がレンヤを信じなくてどうするの?アン、あなたはレンヤの最高の妻ね・・・、悔しいけどレンヤの正妻はやっぱりアンで間違っていないわ。」


「ありがとう、ラピスさん・・・、でもね、みんなの助けがないと私は何も出来ないの。」


そしてアンジェリカがエメラルダとティアマットに視線を移した。


「エメラルダ、そしてティアマット・・・、いえ、ティアって呼んだ方が良いかな?」


ティアマットが嬉しそうに微笑んだ。


「主よ、『ティア』か・・・、その呼び方は最高に気に入ったぞ。これからはそう呼んでくれ。」


「それじゃ、改めてティアにエメラルダ・・・、私は完璧でも何でもないから、これからも私を助けてね。そして、みんな一緒に幸せになりましょう。」


「あぁ、もちろんだ。」

「当たり前じゃないの。私はアンと一緒に幸せになるって家を出てきたのよ。」


「だからね、ラピスさんも・・・」


そして全員が遙か遠くにいる黒竜へと顔を向けた。


「レンヤさんは必ず勝つ!そして笑顔で戻ってくると信じているわ。私達も笑顔でレンヤさんを迎えましょうね。」






◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






聖剣をグッと構えた。


「それにしてもデカいな・・・、神レベルとなればこれだけの存在感は当たり前か。」


俺の目に前には巨大な黒竜と化したヴリトラが浮いている。

その大きさは並みの城くらいはあるのではなかろうか。


しかし・・・


その存在からはとてつもなく邪悪なオーラが吐き出されている。

さっきのブレスで地上の森は壊滅的な被害を受けてしまったが、黒竜から溢れ出すオーラが森へと注ぐと、オーラの触れた場所から連鎖的に木が枯れてしまっていた。


「オーラというか、まるで伝承にある魔界の瘴気みたいだ。いや、これは間違い無く瘴気だろう。」


このまま奴の瘴気がまき散らされてしまえば、この森一帯が不毛の地へと変えられてしまう。街への被害が無くても、この瘴気の森が近くにあれば街へも必ず悪い影響が出るだろう。


(一刻も早く瘴気を浄化しないと・・・)



ボボボボボ!



奴の周りに黒い球が無数に浮かんだ。

あの瘴気が物理的に俺を襲う気だろうな?


ザァアアアアアアアアアアアアアア!


意志を持ったのかのように一斉に俺へと向かって飛び出した。


「一つ一つ撃ち落とすのも面倒だな。」


右手を前に突き出した。



「ブラックホール!」



ブォン!


俺の前に小さな黒い球が出現する。


「呑み込め!」


叫んだ瞬間、黒い球が勢いよく黒竜へと飛び出した。

俺から飛び出してからみるみるとその黒い球が巨大化した。



ボシュゥウウウ・・・



黒竜から放たれた黒球を全て呑み込んだ。

そのまま黒竜へとぶち当たった。


「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


黒竜が叫ぶと、その黒い翼の片割れが消失している。

俺のブラックホールに呑み込まれたのだ。


だけど、片翼となっても黒竜は空中に浮いていた。


「ドラゴンの飛行能力は翼に魔力を纏わせて浮く言われているが、どうやら奴は違うようだな。そもそも、形はドラゴンかもしれないが、もう別物になっている可能性も考えられるな。」


再び聖剣を構えた。


「死して尚あいつらの道具として使われるか・・・、プライドの高いお前なら屈辱的だろうな?死よりも苦痛だろう。」



ジャキ!



アーク・ライトの刀身が縦に割れる。


「その無念・・・、俺がお前を楽にしてやるよ・・・」



精神を集中する。


「はぁああああああああああああ!」


ブワッ!


全身から青色のオーラが噴き出し、そのオーラがアーク・ライトへ集中した。


(こ!これは!)


刀身が青く輝き、青い光の柱が遙か上空へと伸びた。


しかし!


「マ、マズい!」


力が制御出来ない!

あまりにも強大過ぎる力がアーク・ライトから放出されている!

このままだと力が暴走して、ヴリトラだけでなく辺り一帯まで吹き飛ばしてしまう!


(くそ!まだ俺には過ぎた力なのか!)



ス・・・



(何だ?)


俺の右手に半透明の女性の手が添えられた。


慌てて右を見ると・・・


(誰だ?)


右手に添えられた手と同じように半透明な姿をした女性が俺に寄り添っていた。

その女性が和やかに俺を見ていた。


(何て美しい女性なんだ・・・)


フローリア様に匹敵する美貌の女性だった。

純白のドレスを纏い、真っ赤な瞳に身長よりも遙かに長い金髪をなびかせていた。


(この瞳は・・・)


思わずアーク・ライトにはめ込まれている宝玉に視線が移動した。


「この宝玉と全く同じ色の瞳・・・、まさか・・・、君は?」


その女性がニコッと微笑み頷くと、姿が徐々に薄くなり消えてしまった。


「き、君は!」



ガカッ!



「これは!」


あれだけ暴れていた力が安定している。

宝玉が赤く点滅していた。


「ありがとう、アーク・ライト・・・、いつも助けてもらってばかりだな。」


上空まで伸びていた光の柱だったが徐々に短くなってくる。

2メートルほどの青い光の刀身が出来上がった。


その時、黒竜の口が俺へと開き、口の奥がチカチカと輝いた。


(ブレスか!)


だが!


「くそ!俺の後ろには!」


マズい!アン達がいる!



「デカブツ!俺はここだぁあああああああああああああああ!」



一気に上昇すると、奴の口も俺を追いかけた。


「この角度なら!アン達も地上も影響はぁあああああああああ!」



カァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



奴の口から極太のレーザーのようなブレスが放たれた。

一瞬の間にブレスが目の前まで迫ってくる。



「そんなブレスなんかぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」



聖剣を上段から一気に振り下ろした。


「一刀両断!真っ向!唐竹割りぃいいいいいいいいいいい!」



ズバァアアアアアアアアアアアアアアア!



アーク・ライトの刀身を起点にブレスが左右に割れた。



「ま、負けるかぁあああああああああああああああああ!」


アーク・ライトの青い刀身がブレスを真っ二つに切り裂いていく。

そのまま全力で奴へと突撃した。



「ヴリトラァアアアアアアアアアア!」



再び刀身が天へと伸びると、青い光の柱と化した刀身に黄金の光が螺旋状に巻き付く。



「安らかに眠れぇええええええええええええええええええええええええええええええ!」



一気に黒竜へと激しく輝いている刀身を振り下ろした。



「全ての理を!因果をも断ち切る!無蒼流!究極奥義ぃいいい!『断絶っっっ』!」



斬!






黒竜の首の付け根から胴体が2つに割れた。

瘴気で体が作られていたのか、黒い霧が噴き出るように体が崩れ始めた。


首がゆっくりと俺へ向くと目が合った。

先程まで生気を感じられない死んだような目だったのに、今は意志を感じる目だ。


「ヴリトラ・・・」


黒竜の姿のヴリトラだから表情が分らないはずなのに、何故か俺へと微笑んだように見えた。



「さらばだ・・・、俺の生涯のライバル・・・、もし次に会える時があれば友として会おう。そしてブルーよ・・・、お前との喧嘩、楽しかったぞ・・・」




「俺もだ・・・、友よ・・・、さよならだ・・・」



ヴリトラの姿が黒い霧となって消滅した。






「ふぅ、終わったな・・・」


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