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16話 ラピスの錬金術

「何か楽しそうね。」



・・・



「「はいぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」」

俺もアンも同時に叫んでしまった。


ドキドキしながら横に振り向くと、予想通りラピスが立っていた。


(またお前かぁあああああああああああ!何で同じパターンで出てくる!)


ラピスがニタニタしている。

「だってぇ~、急に何かピーン!って来たのよ。私の女の勘が訴えていたの、『絶対に何かある!』ってね。レンヤの場所は分かっているから転移で来ちゃったのよ。予想通りイチャイチャしていたわね。」


(おいおい、どんな勘をしているんだコイツは?俺の行動が分かるように何か細工でもされているのか?)


もうラピスから逃げられないのだろうな・・・

当時はこんな事をするとは思ってもいなかった。いくら好きだといっても異常だ。


昨日のラピスの言葉


『レンヤが死んだ時に私の心は壊れてしまったのかもね。』


この言葉が今のラピスを物語っているかもな。

確かにラピスの愛は重い!重過ぎると思う。だけど、ここまで俺の事を好きでいてくれるのは嬉しい・・・

だが、俺にラピスの重過ぎる愛を受け止められるのか?



ふっ!俺がヘタレなだけか・・・



ラピス1人くらいの愛を受け止められなくて、何が勇者だ!

こんなラピスにしてしまったのも、かつての俺の死が引き金だった。それにここまで好意を持ってくれるのは正直嬉しいし、そんな真っ直ぐなラピスを好きになっている俺がいる。



お前をしっかりと受け止める。どんなに愛が重くても俺は逃げない。



んっ!


そういえば、ソフィアもいた・・・


ラピス曰く、『もっとヤバイ奴』だと・・・


ゾッと背筋に冷や汗が出てきた。



やっぱり逃げたい気が・・・




「ホント、油断も隙も無いんだから!まぁ、面白い物を見させてもらったから許すわ。」


そう言って、俺とアンの指輪をジッと見つめていた。


「懐かしい風習ね。私が生まれた時でさえほとんど廃れた風習なのよ。でも、こうやって見ると悪くないわね。私もお揃いの指輪が欲しいわ。」


しかし、アンがペコリと頭を下げた。

「ラピスさん、ごめんなさい。これは2つしかないから・・・」


「それは分かっているわよ。だから作るのよ。悪いけどちょっと貸してくれないかな?」


「ラピス、作るって・・・、そんな事が出来るのか?」


ラピスがドヤ顔で薄い胸を張って踏ん反り返っている。

「そんなの簡単よ。全ての攻撃魔法をマスターしただけでは【大賢者】にはなれないのよ。錬金術に付与魔法などもマスターしなければならないからね。私の錬金術なら速攻で作れるわ。」


アンが指輪を外しラピスに渡した。

「レンヤ、ついでにあなたの指輪も貸して欲しいの。ちょっと機能を追加したいからね。」


ラピスに渡すって・・・

何か変な細工でもされるかも?ちょっと怖いぞ。


「レンヤァァァ~~~、また失礼な事を考えてるわね・・・」


ドキッ!

そうだった、ラピスはちょっとした仕草でも俺の心を読めるのだった・・・


「安心して、今回は役に立つ機能だからね。泣いて喜ぶ事は間違いないからね。」


「分かったよ。どんな機能が付くか楽しみにしているよ。」


「ふふふ、期待して待っていてね。」

俺の指輪を渡すとニコッとラピスが微笑んでくれた。


ラピスが指輪をじっくりと眺めブツブツと言っている。

「フムフム、材質はミスリル銀のようね。これに使われているのは相当の高純度なものね、よく見つけたものだわ。でも私にかかれば同等のミスリルは作れるし問題無いわね。それに、サイズ自動調整の付与魔法ね。しかも、装備者に危険があると自動的に防御シールドが発生する魔法も付与されているわ。それもかなり強力なタイプとは・・・、この指輪を贈った人は、アンの事を本当に大切にしていたのね。」


「母様・・・」

アンが涙ぐんでいた。


「解析完了よ。材料は全て揃っているからすぐに作るわね。」


ラピスが収納魔法から銀色の小さな塊を取り出した。

「コレはミスリル銀のインゴットの欠片よ。この指輪に匹敵するくらいの純度だから、そのまま使えるわね。」

その塊を掌に置き、なにやら呟いている。


ミスリルの欠片がグニグニと動き出し、少しずつ指輪の形になっていく。

しばらくすると、アンから借りていた指輪と全く同じ指輪が出来上がっていた。


「ふふふ、これなら殆ど見分けがつかないわね。これからが【大賢者】ラピスの本領よ!」


ラピスの作った指輪の隣に俺とアンの指輪を並べ手をかざした。

3つの指輪が仄かに輝き、すぐに光が消えた。


「これで良し!完璧に仕上がったわ。」


ラピスが借りていた指輪を俺達に返してくれた。


「レンヤ、アン、指輪の裏側を見てみなさい。世界に1つしか無い指輪よ。」


どれどれ・・・

何だ!これは!指輪の裏側に何かが彫られている。


これは・・・


俺の名前だ!


アンも・・・

「信じられない・・・、こんな場所に私の名前が彫られている。ラピスさんの言う通り、この指輪は私1人だけの指輪・・・、こんな細かい細工なんて余程の職人でないと無理よ。」


こんな事が出来るなんて・・・


「驚くのはまだ早いわ。アン、指輪を着けてちょっと私と一緒に来て。」

そう言って、アンとラピスが俺から離れて部屋の隅に行ってしまった。


「レンヤ、あなたも指輪を着けて。」


「おぅ、分かった。」


指輪を着けてみた。


(う~ん、別に何も起きないけど・・・)



【聞こえる?レンヤ、聞こえる?】


(何だ、これは?ラピスの声が頭の中に聞こえる。一体・・・)


【ふふふ、驚いた?この指輪に念話の機能を付けたのよ。これなら遠く離れていても会話が出来るし、聞かれたくない内緒話もOKだからね。】


【凄いな・・・】


【レンヤさん、聞こえますか?】


【その声はアンか、大丈夫だ、聞こえるよ。】


【良かった・・・、こうして話すのは初めてだし、ちょっと緊張するね。】


【あぁ、俺もだよ。】


【どう?驚いたでしょう。この念話機能も一対一の会話から、3人で一緒に会話出来るように切り替えられるわ。だけど注意してね。この念話は心の声がダイレクトに発信する事もあるから、慣れないうちは言わなくてもいい事まで伝わってしまうからね。アンも分かった?」


【はい、注意します。】


念話か・・・、これは便利な機能だよ。離れていても会話出来るのは助かるな。


【好き・・・】


(はい?アン、どうした?)


【好き】【好き】【好き】・・・


アンを見ると真っ赤になってあたふたしている。


【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】【好き】・・・


うぉおおおおお!頭の中でアンの声が際限なく反響してるぅううううううう!


「アン!発信の回路を切って!」

ラピスが叫んだ。


ピタッと声が止んだが、恐ろしく精神が削られた気がする。精神耐性のスキルが全く役に立ってなかったよ。悪意じゃなかったからか?


「レンヤさん、ゴメン・・・、心の声が漏れてしまうと意識してしまったら、次から次と頭の中に浮かんでどんどん抑えが効かなくって・・・」

アンがペコペコと頭を下げているが、念話には慣れていないから仕方ないだろう。


「ラピス、確かに嬉しい機能だけど、一歩間違えれば『泣いて喜ぶ』んじゃなくて、『泣いて許しを請う』拷問道具にもなるぞ。頼むから、俺が寝ている間、ずっと頭の中で囁かないでくれよ。夢の中で大量のお前に追い駆け回される夢を見そうだ。こんな夢を毎日見せられるとシャレにならないからな。」


ラピスがサッと俺から目を逸らした。

(マジかい・・・、やっぱり考えていたんだな・・・)


「分かったわ。レンヤに嫌われたくないし、レンヤの嫌がる事はしないわね。」


アンの方に視線を向けると、アンも視線を逸らした。

(アン!お前もか!)


だけど、気が付いて良かった。毎晩、お前達に追い駆け回される夢を見させられる事を阻止出来て助かったよ。頼むから、夜はゆっくりと眠らせて欲しいものだ。


「今の念話以外にも状態異常、精神攻撃耐性の付与もしておいたから、防具としても優秀なアクセサリーにしておいたわ。もうレンヤを失いたくないし、アンも大切な家族だからね。」


「それと、アン、あなたの指輪にはもう1つ機能を追加しておいたわ。」

アンの体が一瞬光った。


「なっ!」


「レンヤさん、そんなに驚いてどうしたの?」

アンが不思議そうな表情で俺を見ている。


「アン、その姿は・・・、アン、あの鏡はまだ使えそうだから自分で見てくれ。」


近くに使えそうな姿見の鏡があったので、アンが鏡を覗き込んだ。


「えっ!嘘・・・、これが私?」


アンの頭に生えていた黒い角が無くなっていて、真っ赤な瞳もラピスと同じ濃い青色になっていた。


「どう?気に入った?これなら誰もあなたが魔族とは思わないでしょうね。どこから見ても人族に見えるわ。残念だけど、人族にとって魔族は恐怖の対象だからね。500年経った今でもそれは変わらないの。いくらアンが友好的だとしても、そのままの姿では必ずアンの事を誹謗したり迫害される事があるのは間違いないわ。それが現実・・・」


「そうですね・・・」


「だから、アンが堂々と人族の中でもいられるように変化の魔法も付与したのよ。これなら町中に出ても問題無いからね。」


「ラピスさん、私の為にここまでしてくれて・・・」

アンが涙ぐんでラピスに抱きついている。とても優しい笑みでアンの頭を撫でていた。


「お互いにレンヤを愛する者同士だからね。あなたに何かあってレンヤの悲しむ顔を見たくないのよ。私もあなたが気に入ったのもあるけどね。」


そして俺の方を見た。

「でもねぇ~、今のあなたは人族の姿だけど、滅多にお目にかかれない程の美少女だからねぇ~、絶対に1人では出歩いちゃダメよ!どれだけナンパされるか想像出来ないわ・・・、レンヤ、ちゃんと守ってあげてよね。」


「分かったよ。」




「アン、必要な物はこれで良いのか?」


「うん、これで大丈夫だと思うわ。」


「ちょっと待って。」

ラピスが待ったをかけた。

「この部屋にはかなりの本があったみたいね。ほとんどがボロボロで見る事も出来ないけど、いくつかは魔法で保護されているのか、無事なものもいくつかあるわね。」


「そうね、魔導書や歴史書は劣化が無いように保護の魔法がかかっているわ。」


「それなら私が貰うわ。まだ知らない魔法があるかもしれないし、魔族の歴史は興味があるわね。人族の歴史書とどう違うか興味があるわ。」

そう言って、自分の収納魔法で次々と収納していった。




その日の夕方、夕食前のリビングにて


「レンヤ、昼間見つけた歴史書の中に魔王の事が書いてあったわ。魔王がなぜ人族を滅ぼそうとしているのか?それ以外に色々と面白い事も書いてあったわ。」

ラピスが本を読みながら俺に話しかけてきた。


「そうか、あの時は魔王を倒す事しか考えていなかったし、魔王は人族を滅ぼすものだと漠然としか考えていなかったな。どんな事が書いてあったのだ?」


「さすがは魔族で書かれた本ね。私の知っている知識と違うわ。この本に書かれていたなら魔族が人間を恨むのは分かるけど、どうも邪神に恣意しい的な意図がありそうね。それに踊らされていた魔族も人族も可哀想だわ。」


「ラピスさん、それはどういう意味?魔族が人間と対立するのは邪神が関係していたというのは?そもそも邪神って?」


「そうね、アンも真実は知った方が良いかもしれないわ。どんな理由で魔族が生れ人間と対立する事になったのか・・・」



ラピスが女神様から聞いた話はこうだった。


女神フローリアの美しさに心を惹かれた神の1人であるダリウスがフローリアに求婚した。だけど、フローリアはそれを断った。

断られた事に逆恨みしたダリウスが嫉妬心から邪神となってしまい、復讐としてフローリアの管理しているこの世界を滅ぼそうとした。

世界は滅亡寸前となったが、見かねたフローリアがダリウスを滅ぼした。その時に滅ぼされバラバラになったダリウスの血肉から魔族やモンスターが生れたとの事だ。


(この世界の人にとっては迷惑な話だよなぁ~、フラれた腹いせに世界を滅ぼそうとするなんて、神様の考える事は分からないよ。)


だけど、ダリウスは完全に滅んでいなかった。

ダリウスの心臓はどうしても破壊する事が出来なかった為に、この地に神殿を築き封印をする事になった。

そして月日が流れたが、ダリウスの負の感情は増大していった。


魔族にとってはダリウスは創造神であり崇拝していたが、その中からダリウスの力を受け継ぐ事が出来る者が現われた。

受け継ぐのはダリウスの強大な力と、フローリアが生み出した人間を憎む心を・・・


その者が初代魔王であり、人間との長い戦いの始まりでもあった。


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