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158話 邪竜強襲⑩

ギリギリ・・・


俺にも聞こえるくらいに奴の歯軋りの音が聞こえる。

今にも歯がへし折れるのでは?と思う程に力の入った真っ赤な顔と血走った目で俺を見ていた。


「原住民の猿がぁぁぁ・・・・、この俺様を・・・、神である俺様を・・・」



ズルッ!



奴の失った腕が生えきたが、今までの腕とは違っていた。

普通の腕ではない。表面は真っ黒な鱗でびっしりと覆われており、鋭い爪が生えていた。

その部分だけ見ると・・・


(まるでドラゴンの腕みたいだ。)


背中の翼もそうだし、やはり奴は・・・


伝説として聞いた事はあるが、最高位のドラゴンは人間の姿に変化出来る。

ローズが神の世界から呼び出した神竜であるミドリさんもドラゴンの姿から人の姿へと変わっていた。


(それでか、奴の周りにいたのがドラゴン種ばかりだったのは。)


だから最強のエンシェントドラゴンをも支配下に出来たのだろう。



「まさか、お前がトカゲの神だったとはな。」



ブワッ!



奴から今までで1番の殺気が溢れ出した。

表情も先程以上に険しくなり、今にも飛びかかりそうな雰囲気だ。


「き、貴様ぁああああああああああああああああ!今!何を言ったぁあああああああああああああ!」


予想通りの反応だった。

これも文献に出ていたが、知性のある上級ドラゴン(エンシェントドラゴン等)はとてもプライドが高い。その為、彼らは自分達の事をトカゲと同じように言われる事を非常に嫌う。

まぁ、俺達人間も猿呼ばわりされれば気分が悪いのと一緒だ。


この事に関してはアレックスに感謝だよ。

アレックスが制度化した学院に通う義務教育のおかげで、卒業までにかなりの知識を得る事が出来た。

俺は元々冒険者になるつもりだったし、一般常識よりもモンスターや薬草の勉強が多かったよな。

勘違いしている冒険者も多いが、腕っ節が強いだけでは通用しないのが冒険者の世界だ。モンスターや魔獣、植物など色んな知識が無ければ生き残っていけない世界だったのは知っていた。

戦闘以外でも常に死と隣り合わせの世界だった。憧れだけでは通用しない。

前世の記憶が無かったあの無能と呼ばれて時代の俺が3年間も生き延びてこれたのも、こうした知識のお陰だったと確信している。


話を元に戻すが、奴は特にプライドが高そうだ。


(ならば都合がいい。)


「その腕、どう見てもトカゲの腕に間違い無いだろうが。お前が馬鹿にしていた原住民の猿にやり返されているんだぞ。そんなのはドラゴンじゃなくてトカゲで十分だ。」


ニヤリと笑ってやった。



「ふ!ふざけるなぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



シュン!



俺の予想以上に奴が激高し姿が消えた。


(だけど!)



ズン!



「がはぁ・・・」


俺の死角である真上から殴りかかってきたのを気配で察知し、数ミリだけ横に移動して躱し、すかさずカウンター気味に左フックを奴のボディに叩き込んだ。

苦悶の声を上げ奴の体がくの字に曲がった。


「さっきのお返しだぁあああああああああああ!」


ドカッ!


すかさず右拳を顎へ下から叩き込んだ。



「げひゃ!」



今度は情けない声を上げ仰け反った。


「まだまだまだぁあああああああああああああああああああああああ!」



ズドドドドドォオオオオオオオオオオ!



仰け反った顔面とボディに数十発の拳をぶちかました。



「あべべべぇええええええええええええええええ!」



言葉にならない悲鳴が奴から発せられた。



ズン!



「おごっ!」


俺の右肘が奴の鳩尾に深々と突き刺さった。

ソフィアの得意な攻撃の一つで、すぐに他の技に連携出来る。

喰い込んだ肘を始点にクルッと拳を回し、裏拳を奴の顔面に叩き込んだ。


「あがっ!」


裏拳が決まり数十メートルも吹き飛ばされたが、クルクルと回転し空中でピタッと止った。

俺を憤怒の表情で睨みつけているが、かなりのダメージを受けたのだろう、体がプルプルと震えている。


「貴様は・・・、その圧倒的な強さにこのオーラは・・・、貴様はまさか・・・」


「残念ながら、俺は俺だ。お前は俺の事を誰かと勘違いしているようだが、俺は勇者レンヤ!それ以上でもそれ以下でもない!」



「きゃぁああああああああああああああああああ!素敵ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」



ガバッ!



「へ?」



いきなり誰かに抱き着かれた。


(気配も殺気も感じなかった・・・)


モニュ!モニュ!


それよりもだ!

顔面が何か柔らかいモノに包み込まれている!

何なのだ!この極上のマシュマロのような柔らかさに温かさ・・・


(いかん!)


慌てて俺に抱き着いてきた物体を引き剥がしたが・・・



・・・



バルン!バルン!


(何だ!このユサユサと揺れているブツは?)


驚きはしたが、目の前のとても大きな2つの物体の谷間に俺の顔が挟まれていた事を理解した。

ビキニアーマーを装着した胸だと分ったが、あまりの胸の大きさにビキニアーマーが役に立っているように見えない。

痴女用のビキニアーマーではないかと思ってしまうほどだ。


(ローズよりもデカい胸だ!)


一体誰だろう?と顔を上げると。


(誰?知らない顔だ!)


紫色の艶のある髪に、は虫類の様に縦に瞳が割れている赤い瞳。魔族とは違う形状の赤紫色の角が頭の左右から生えている。

この世の者とは思えない程に美しい女性がいた。

そして、その顔がトロ~ンと赤く上気し俺を見つめていた。


今度は胸ではなくうっとりとした顔が俺の顔へと近づいた。

真っ赤な艶めかしい唇がゆっくりと開いた。


「其方をご主人様と呼ばせてくれ・・・、そして、我に慈悲を・・・、ご主人様の子を孕ませ・・・」



スッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!



「痛ったぁあああああああああ!」


痴女が頭を押さえ俺から離れる。

その後ろには・・・


アンが魔剣を構え浮いていた。


(怖い!)


いつものニコニコしている表情でなく、この女をゴミでも見るような冷たい目で見ていた。


アンはこの女の頭を手に持っている魔剣で殴ったのでは?

さすがに刃の部分で殴ってしまえば頭がスプラッタになってしまうだろうから、剣の腹の部分で殴ったと思う。


(それでも痛いだろうなぁ・・・)


そして・・・


頭を痛そうに押さえているビキニアーマーの痴女?だけど、彼女もドラゴンの翼が生えていた。

今までに見たこともないし、本当に誰なんだ?


「ティアマット・・・、レンヤさんはまだ戦闘中よ。邪魔するなら、あなたから先に叩っ切ってあげるわよ。頭をかち割るんじゃなくて、物理的に首を刎ねて・・・」


「主よ済まぬ!我の理想の雄にあまりにもどストライクだったもので、思わず我を忘れてしまった・・・」


そう言って涙目でアンを見ている。

間違いなくアンの知り合いだよな?



「全く・・・」


(今度はラピスの声だ!)


超巨大なモーニングスターを肩に担ぎながらアンの隣に浮いている。

ラピスの目もアンと同じようにビキニアーマの女をゴミを見るような冷たい目で見ているよ。


(それ以前にだ!)


あのモーニングスターは何なのだ?

デカい!って呼ぶレベルではないぞ!あんなのを振り回して迫って来る姿を見れば、確実にトラウマになってしまうぞ!

それだけ異常な大きさだ!


「エンシェントドラゴンは人化出来るって聞いた事があったけど、こんな痴女だったとはちょっと予想外だったわね。取り敢えず叩き潰したら静かになるかしら?」


(何だと!彼女がエンシェントドラゴンだと?)


ラピスが肩に担いでいた超巨大なモーニングスターを片手で構える。

武器を向けられたビキニアーマの女がガタガタと震えていた。

あんな武器を我が身に振り下ろされると思ったら恐怖でしかないよな。


「ゆ、許してくれ!いくら我でもこんな武器には耐えられん!エルフの女よ!頼むから落ち着いてくれ!」


「ラピスさん、これ以上はダメよ。」


アンの言葉でラピスが「ハッ!」とした感じになり、表情も元に戻った。


(ラピスよ・・・、本気で殴り殺すつもりだったのか?)


「アン、この痴・・・、いや、女性は誰なんだ?」


「レンヤさん、これにはちょっと事情があってね・・・」


何だ?アンが言い難そうな感じだ。


「ご主人様!我はカオスドラゴンのティアマットと申す!」


必死な感じで俺を見ているのだが、何で?


いやいや!

この人は何を言った?


カオスドラゴンだって?


「我は一目でご主人様に惚れた!心から惚れたのだ!だから!我を捨てないでくれ!」


彼女のあまりの必死さに、アンもラピスも空気と化して黙っていたエメラルダも何て言ったら良いか分からない顔をしている。


突然、野太い声が響いた。



「貴様らぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!俺様を無視してぇえええええええええええええ!」



「「「「「あっ!」」」」」



(そうだった・・・、こいつの事を忘れていた。)


彼女のインパクト(見た目)が強過ぎて、すっかりヴリトラの事が頭から抜けていたよ。


声の方に視線を移すと、体のあちこちから血を流してるヴリトラが、俺を憤怒の表情でブルブルと震えながら見ている。

しかし、俺からカオスドラゴンのティアマットへ視線を移すとニヤリと笑った。


「カオスドラゴンが色気のある女に変化出来るとはな・・・、メスとは分かっていたが、ここまでの上玉な女とは思わなかったぞ。貴様ほどに美しい女は神界でも滅多に目にかかれないだろう。こいつら猿どもを皆殺しにしてから、貴様を俺が手に入れる!奴隷として精々俺に尽くすのだな。がはははぁああああああああああ!」



「ご主人様・・・」



ティアマットが縋るような目で俺を見ている。


「我らドラゴン族は神である竜神には逆らえん。しかも、奴は竜神の中でも最高位である竜神王の1人だ・・・、我は相手が神であろうがゲスな男の元に行きたくない・・・、お願いだ・・・、助けてくれ・・・」


(やはり奴は・・・)


ヴリトラはドラゴン達竜種の神である竜神だったとはな。

エンシェントドラゴンでさえも支配下に置ける強さと神気・・・


堕ちてしまった神の一柱がこのヴリトラと分かっていたけど、あの神竜であるミドリさんと同等とはな。

ミドリさんの強さというか存在感はとてもじゃないけど凄まじい力を感じた。

だけど、今、目の前にいるヴリトラは確かに圧倒的な強さを感じるが、あのミドリさんと同じような凄まじい威圧感は感じない。


今の自分と比較しても負ける気はしない。

それだけ、今の俺の解放された力は凄まじいものを感じた。


「ティアマット・・・」


彼女に視線を向ける。


「ご主人様・・・」


「安心しろ。俺がお前を守ってやる。あんなゲスな神にお前は渡さん!今は下がってアン達と一緒にいろ。」


ブワッとティアマットの瞳から涙が流れ、ゆっくりと下がりアンの隣に浮かんでいた。



「あぁぁ・・・、完璧に堕ちたわね。レンヤの無自覚たらしには・・・、いろいろとこれからの事の整理もあるし、ちょっと忙しくなるわね。まぁ、彼女を遊ばせる気は無いから何をさせようかしら?」

「エメラルダ、強力なライバルが増えたわよ。ティアマットは私から見ても相当な実力だけど大丈夫?」

「う~ん、あれだけの色気もあるし、元がカオスドラゴンだしね。正直に言えば厳しいかも?力でも女としての色気でも・・・、でもね、私も負ける気は無いわよ、。いくら最強のエンシェントドラゴンでも女の勝負には負ける気は無いわ。私とアンで勇者様をメロメロにしようね。」



(う~ん・・・)


ラピス等が何を言っているかよく聞き取れないけど、ろくでもない話であるには間違いないだろう。

頼むから穏便に収めてくれよ。



「原住民、いや、猿めぇええええええ!少しは強くなったと思ったら大間違いだ!俺もこれで本気が出せる。俺の戦闘形態を見て絶望しろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



メキャ!



「これは!」


ヴリトラの見た目が徐々に変化していく。

頭の両脇に魔族のような黒い角が生え始め、みるみるうちに大きく捻じれていく。

今の右腕のような真っ黒な鱗に覆われた皮膚が全身へ覆われていった。

顔も野性的な人間の顔だったが、鼻と口が突き出し、まるでドラゴンのような顔に変化する。


「ドラゴン人間?」


まるでドラゴンが人型のような姿に変化した。

元々が2メートルを超える大柄な体だったが、さらに大きく筋肉で全身が膨れ上がっている。

そのヴリトラの目がクワっと開かれた。


「今の俺の姿はそんなちんけな呼び方ではない!今の俺はドラゴニュート!ドラゴンの力強さと人型の機動力、竜神王に相応しい最強の形態なんだよ!俺の真の力をその目で焼き付け死ねぇえええええええええええええ!」



ドン!



「がっ!」


ヴリトラの呻き声が響いた。


「それが貴様の本気か?」


一瞬で奴の懐に潜り込み、右拳を鳩尾に叩き込んだ。

俺の右腕が肘まで奴の体にめり込んでいる。


めり込んだ拳を抜き、今度は左フックを横っ面に叩き込んだ。


ズドン!


「がはっ!」


殴られた横っ面の鱗が砕け散りキリキリと回転しながら吹き飛んでいった。

しばらく飛んでいたが、ビタッと空中で止まり俺を睨みつけている。


「さ、猿がぁぁぁ・・・、よくもぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


グッと右拳を前に突き出した。


「これがお前が猿と侮っていた人間の本気だよ。傲慢な堕ちた神・・・、いや、邪竜か?神界の神に代わり、俺が成敗する!」


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