153話 邪竜強襲⑤
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
(くっ!)
やはり魔神と呼ばれるだけある。
ドラゴンの頭の上に立って腕を組んでいるだけなのに、その存在感は圧倒的だ。
しかも!
ヴリトラが立っているドラゴンは普通のドラゴンではない!
(エンシェントドラゴン・・・)
この世界に5体いる古から存在するドラゴンだ。
前世ではドラゴンの山でドラゴンの素材を集めている時にシルバードラゴンと遭遇したが、正直、魔王と比べ物にならないくらいに強大な存在だった。
どう足掻いても勝てない存在の1つだろう。
だけど、そのシルバードラゴンは中立の立場だったので無事に山を下る事が出来た。
だけど・・・
今回は完全に俺達の敵となっているのだろう。
あのヴリトラの移動手段なのか?
そんなエンシェントドラゴンを従わせた奴は俺の想像以上の強さを持っているかもしれない。
あの赤紫色のドラゴンは俺の記憶が確かなら・・・
カオスドラゴン
5体のエンシェントドラゴンの中でも最も凶暴で最強の存在だ。
当時の俺だったら相手にすらならなかっただろう。
(だけど!)
今の俺は更に心強い仲間も増えた。
あの時とは違う!
それにだ!ここで奴らを食い止めないと、エメラルダ達の街が滅ぼされてしまう。
「絶対に負けられないな・・・」
ギュッ
俺の左手を誰かが握った。
「アン・・・」
「大丈夫よ・・・」
アンが俺の手を握っていたが、その眼差しは魔神達を見ていた。
とても力強く、俺の不安を吹き消す程に安心してしまう眼差しだった。
「すまん・・・、少し弱気になっていたよ。」
「仕方ないわ、あの存在感は私でも恐怖を感じるからね。でも、私はもう狼狽えない・・・、みんなの希望でもある魔王はそんな弱いところを見せられないの。父は確かに悪逆非道な魔王でしたが、どんな相手でも絶対に逃げなかったわ。強い相手であればあるほどに自信満々な態度でね。」
「それが魔王としての資質、決して譲れない矜持よ。」
「ありがとうな、元気が出たよ。」
やっぱりアンはアンだ。いつも俺の支えになってくれる。
まぁ、みんなそうだけどね。
前世の時とは違う事・・・
俺を助けてくれる人がこんなにもたくさんいる事だ。
当時の俺は自分の事ばかりしか考えていなかった。
そんな俺を支えてくれていたアレックスにラピス、ソフィア・・・
今なら分かる。こんなにも俺の事を心配してくれていたんだな。
そう思うと力が湧いてくる。
これが勇者としての力なんだろう。いや、誰もが持っている力・・・
(だからこそ、こいつらには決して負けられない!)
「レンヤ!」
ラピスが俺を呼んでいる。
「残りの雑魚は私とエメラルダで何とかするわ!だから!あんた達はエンシェントドラゴンと魔神を頼むわ!」
残りの雑魚とはいっても・・・
ワイバーンはほとんど落としてしまったから、残っているのは後方に待機しているドラゴン達だ。
いくらラピスとエメラルダが強いといっても、あのドラゴン達に対しては無理があるのでは?
「心配しないで。」
ニッコリとラピスが微笑んだ。
(また心を読んだか?)
「本当に私とエメラルダだけでも十分だからね。それでもオーバーキルにならないように気を付けるわ。でないと、あんた達まで巻き添えになっちゃうし。」
「そんなにか?」
「そうよ!500年前に自分の弱さを呪ったのはソフィアだけではないわ。私も眠りに入ってからの400年は大人しく眠っていた訳じゃないから。」
ペロッと舌なめずりをしている。
(何だ?いつものラピスと雰囲気が違う・・・)
「アドレナリンが出てきて、ちょっと興奮しているだけよ。あまり私の暴れる姿を見せたくないから、早くアンと一緒にあのクソ神のところに行って!」
「わ、分かった・・・」
しかし、突然、ラピスが俺に抱きつきキスをする。
唇が離れるとうっとりした表情になった。
「ラピス・・・」
「ふふふ・・・、気分が高揚するとちょっとエッチな気分にもなってしまうの・・・、別にフラグでもないから安心して戦ってちょうだいね。」
(フ、フラグって?)
「よくあるじゃないの。決戦前に告白すると死んでしまって話をね。でも、今回はそうじゃない・・・、500年前のあの時に絶望は十分味わったわ。だから、今はそうならないよう、私も徹底的に頑張ったのよ。変わったのはソフィアだけじゃないわ。」
「分かったよ。任せるけど、絶対に無理をするなよ。」
「何言っているの?私よりもレンヤ達の方がもっとヤバい奴の相手をするのよ。」
「だから・・・、絶対に死なないでね・・・、今のキスはその約束・・・」
その気持ちは受け取った。
だから・・・
今度は俺からキスをする。
ゆっくり顔を話すとラピスの目に少し涙が滲んでいた。
「絶対によ・・・、大好き・・・」
フワッと俺の頭上へと浮かび上がり、エメラルダの隣へ並んだ。
「レンヤ!親玉は頼んだわよ!それとアン!」
「ラピスさん・・・」
「今夜はご馳走をよろしくね!戦勝祝いにエメラルダの歓迎会もしないとね。今日は戦いが終わっても休まらないわよ!」
「はい!臨むところです!」
アンが嬉しそうに返事をする。
そしてキリっとした表情に戻り俺を見つめた。
「レンヤさん、行きましょう・・・」
「そうだな。」
アンの手を取り、一気に奴の待つ場所へと飛び立った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「行ったわね・・・」
「そうね・・・」
ラピスとエメラルダがレンヤ達の方をジッと見つめていた。
「さて・・・、私も本気を出しますか・・・」
ギリっとラピスがドランゴンの群れへ視線を移す。
右手に握った杖を掲げた。
「ビックバン!」
カッ!
ドラゴン達の中で一際大きな光の玉が浮き上がった。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「「「GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」
ドラゴン達の悲鳴が響き渡った。
浮き上がった光の玉が、一瞬で目も開けられないほどに激しく輝くと大爆発を起こした。
その爆発に十数体のドラゴンま巻き添えを喰らい、粉々になって地面へと落ちていった。
「まぁ、これくらいの威力に抑えておかないと後始末が大変だしね。」
「次は私の番ね。」
バサッ!
大きく広げた氷の翼が青白く発光した。
「オーロラ!ブラスター」
ドラゴン達の上空に巨大な虹色に輝く魔法陣が浮かび上がった。
ズバババァアアアアアアアアアアアアアア!
「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」」」
魔法陣から青白い光線が何本も発射され、次々とドラゴンを討ち抜いている。
あっという間に十体以上のドラゴンが蜂の巣にされ墜落していった。
「へぇ~、氷系魔法にもアトミック・レイみたいな魔法があったんだ。」
ラピスが感心したような感じで落ちていくドラゴンを見つめている。
「これは光魔法のようなものとは違うわ。この魔法はダイヤモンド・ダスト系の最上級魔法よ。細かい雪の結晶を圧縮し高速で打ち出しているの。さしずめ、質量のあるビームってところかしらね。超高密度の氷の柱を飛ばしているから、単なる魔法障壁じゃ防げないわ。」
「さすがは元・四天王だけあるわ。しかも、シヴァが認めたくらいだし、これくらいは普通にしてもらわないと、私も張り合いがないわね。」
「そうね・・・」
エメラルダがニヤリと笑った。
「こうして魔法を使って戦うと、500年ぶりだけど戦場に戻ってきた気がするわ。確かに人を殺めた事はなかったけど、モンスターや魔獣は数えきれないくらいに倒したし、何かね、感覚が少しづつ昔に戻っているのが分かる。」
エメラルダの周囲を回っていた数百枚の氷の羽根が、いくつものリングとなって回っていた。
「2人の魔法でドラゴンも半数まで減ったわよ。アン達も頑張っているし、私達は最初の予定通りにトカゲ共を駆逐しましょうね。」
「エメラルダ、それじゃ勝負よ。広域魔法だとあっという間に終わってしまうし、一体づつ倒していかない?どっちが多く倒せるかね。」
「望むところ!元・四天王の力を舐めないで!」
「ふふふ・・・、多少は強くなったようだけど、この私と同等に戦えると思ったら大間違いよ。力の差を徹底的に分からせてあげるわ。」
2人が見つめ合い、にちゃぁ~と粘着質な笑顔を作った。
そして同時にドラゴン達へ振り向いた。
「あんた達には恨みはないけど・・・」
「私に敵対したからには・・・」
「「1匹たりとも生かしておかないわよぉおおおおおおおおおおお!」」
「アイス・ブレード!」
エメラルダが叫んだ瞬間、周囲を回っていた氷の羽根に変化が起きる。
ジャキ!
何十枚もの羽が集まり1本の剣の姿に変化した。
同様に宙に漂っていた羽が集まり、十数本の剣がエメラルダの周囲に浮かんでいる。
「さて、かつての魔王軍四天王・シヴァの真の力を見せてあげるわ。」
翼が青白く輝き一気に1体のドラゴンへと飛び出した。
そのドラゴンが口を大きく開けると、真っ赤な炎を口から吐き出す。
「甘いわ!シールド!」
翼から新たに数十枚の羽が分離し、エメラルダの正面へ集り壁となった。
バチィイイイイイイイイイイイ!
「無駄よ!」
羽が組み合わされて出来た盾は、ブレスの炎の直撃を受けてもビクともしなかった。
そのまま突進し、シールドをぶつけ炎を跳ね返した。
「GAAAAAAAAA!」
ドラゴンは自分のブレスで自分の顔を焼いてしまい大声を上げている。
「隙あり!」
エメラルダの周囲に浮いていた氷の剣が一斉にドラゴンへと飛んで行く。
ザシュ!
1本の剣がドラゴンの首を刎ねた。
あまりの剣の速さにドラゴンは悲鳴を上げる事も出来ず絶命した。
ズバババァアアアアアアアアアア!
追い打ちをかけるように残りの剣がドラゴンの体を切り刻んでいった。
細かい肉片となって地面へと落ちていく。
「容赦ないわねぇ~~~」
ラピスが関心したようにエメラルダを見ていた。
「あれだけの数の羽根に一糸乱れない剣の制御、あの時にこの技を使われたら勝負はどうなったか分らなかったわね。あなたの技は一対多数の技だし、それがもし私達へと向いていたと想像するだけでゾッとしたわ。」
「まぁ、あの時は使えなかったのよ。人に使うには残酷すぎる技だし、私は他の四天王とは違って快楽殺人者じゃなかったからね。だけど、例えこの技でもあなた達には勝てなかったでしょうね。奥の手があるのは私だけではないでしょうしね。」
「良く分かったわね。」
ラピスがニヤリと笑った。
「私が魔法だけの頭でっかちの女だと思ったら大間違いよ。戦女神でもあるフローリア様の巫女の力、この目に焼き付けなさい。」
ラピスの右手に握られている杖が輝いた。
「はぁ?」
エメラルダが信じられない表情でラピスを見ていた。
「あんな武器ってあり得るの?あんなのが相手だったら、さすがに魔王様でもどうしようもないわ!」
しかし、クスッと微笑んだ。
「勝てなかったのは当たり前だったわね。」




