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150話 邪竜強襲②

(大量のドラゴンとワイバーンだと?)


この報告に数ヶ月前の光景を思い出した。

アンもラピスも俺と同じ事を思ったのだろう、俺に視線を移して頷く。


「勇者殿!」


カイン王子が俺へと声をかけた。


「もしや、これは?」


その言葉に俺も頷く。


「シヴァ、こんな事がこの街では今まであったのか?」


シヴァが首を横に振った。


「勇者様、こんな事は始めてよ。ワイバーンなら過去に数回襲撃はあったけど、多くても数体だったわ。それにドラゴンが襲って来る話は過去も無かった。しかも大量になんて・・・」



(やっぱりアイツらか・・・)



間違い無いな。



「レンヤさん!」


エミリアが俺を呼んだ。


「どうした?」


「お願いします!この街を助けて下さい!」


「どういう事だ?もちろん言われなくても手助けはするぞ。」


「普通の魔物なら私達や住民でも対処は出来るのですが・・・、だけど、今回は空を飛ぶ魔物で・・・」


(そういう事か!)


「空を飛ぶ魔物には対抗する手段が殆ど無いのです!ですから!あの時のフォーゼリア攻防戦のように助けて下さい!親友の!アニーが住むこの街を守って下さい!お願いします!」



「「私達からもお願いします!」」



カイルさんもディアナさんもエミリアの横に並び深々と頭を下げている。



「カイル・・・」

「ディアナ・・・」



サイロスさんとクレアさんがワナワナと震えていた。


「2人共・・・、私達の為に頭を下げるなんて・・・」


「別に大した事はないだろう。」


カイルさんがニカッと笑った。


「私達の大切な友人がいる街なんだぞ。それにな、この街に何かあってエミリアが悲しむ顔は見たくない。それだけ私達にとっても大切な街なんだよ。」


「カイルよ・・・、感謝する。」



アンとエメラルダの女の友情も良かったけど、カイルさん達の男の友情も悪くないな。

こうして見ると魔族も人間も変わらないと思う。

アンの願いでもある人間と魔族が仲良くなれる日が来るのも、そう遠くないように思うよ。


(その為にも、この街を守らないとな!)



「アン!ラピス!」


2人に声をかけるとゆっくり頷いてくれた。



「待って!」



(ん?)


エメラルダが前に出てくる。


「私も行くわ。」


「エメラルダ!大丈夫なの?」


アンが心配そうにエメラルダを見ていたが、「ふっ」と彼女が笑った。


「アン、私が誰だったのか忘れたの?」


「で、でも・・・」



バサッ!



どういう原理かは不明だけど、エメラルダが自分のドレスの肩口を掴みグッと引っ張ると、音を立ててドレスが脱げた。


ドレスの下には・・・


シヴァが着ているパンツスタイルの騎士服に似たようなデザインの服を着た姿で立っていた。


(この服は!忘れてはいない!)


「かつての魔王軍四天王が1人!氷のシヴァ!戦闘準備は整ったわ!」


凜とした立ち姿で佇んでいるエメラルダがいた。

当時のような少女の姿とは違い、今は完璧なスタイルだとも思える程に綺麗な女性に成長している姿だ。

今の姿の方が威厳を感じる。今思い出すと、あの時の彼女は無理に大人ぶっていたのだろうな。



「エメラルダ・・・、この姿は・・・」



アンがワナワナと震えながらエメラルダを見ていた。


「アン・・・、500年振りにこの姿になったわね。」


胸元に掛けられている小さな黒い剣のネックレスを手に取った。


「あなたのお父上である魔王様より下賜された魔剣よ。この魔剣には私の戦闘服が収納されているのよ。アンの魔装のように一瞬で装着出来るの。まさか、再びこの服を着て、しかも勇者パーティーと共闘するとは・・・、運命って不思議ね。」


「そうね・・・」



カッ!



アンがゆっくりと頷くと、今度はアンが金色の光に包まれる。

輝きが収まるとエメラルダが叫んだ。


「この姿は!」


黄金の甲冑を纏い、薄く金色の輝きを放つ翼を生やしたアンが佇んでいた。


「私もこうして勇者レンヤさんと一緒に戦うって想像もしなかったわ。」


「これが女神様に認められたアンの姿なのね。本当に女神様みたいだわ・・・」


「ふふふ・・・、私もいつまでもお姫様って言われたくないのよ。自分の居場所は自分で作るわ。」


アンが不敵な笑みを浮かべた。


「そうでなければ魔王を名乗れないわ。これからもね。」


「優しい魔王を目指していても魔王は魔王・・・、私が仕えるに相応しいわ。」


「エメラルダ、ありがとう。頼りにしているわ。」


「任せて。」


2人が見つめ合い微笑んだ。


俺と結婚しようが、ラピスやソフィア達とどれだけ仲良くなろうが、アンにとってのエメラルダは別格な存在なんだろうな。

2人を見ているとそう思う。


アンの性格だと邪神の事が終わらない限り、自分から会いに行く事は無かっただろう。

自分の事を後回しにし、周りに気を遣う感じだし・・・

今回のラピスの気遣いに感謝しかない。



「準備は整った?」



おっと!ラピスの声だ。


「俺達は大丈夫だ!」


俺が返事をするとアンもエメラルダも頷く。


「我々もOKです。」


カイン王子を先頭にし、シヴァとエミリアが続き頷いた。


「カイン王子殿下!あなた様にはご迷惑をかけられません!あなたの身に万が一があっては・・・」


サイロスさん達が慌てている。

それはそうだろう、カイン王子はいくらシヴァの婚約者とはいっても魔族領に関しては手を出せない。公人としての立場がある。

他国の事情に簡単に口出しは出来ないんだよな。


だけど・・・


「今は義父さんと呼ばせて下さい。私は彼女の婚約者です。彼女の故郷が危機に晒されているのですよ。そんな状況で私が他国の王子だからといって身を隠すわけにいきません。私も王族の端くれ、民を守るのも使命の1つです。彼女の故郷なら私の故郷と同じ!一緒に戦います!」


やっぱりカイン王子はアイツの子孫だ。

困っている人を見捨てられない、勇者だった俺よりも勇者だったよ。



(お前の正義の心は脈々と受け継がれていたよ。)






ダダダダダ!


城内を駆け足で走り抜け、正門から街へと飛び出した。

目の前に飛び込んできた光景は・・・



「くっ!」



(もう既に街が襲われている!)


先行していたと思われる十数体のワイバー-ンが街の上空を旋回している。

街を確認してみたがまだ被害が出ている感じではない。上空にいるだけで街への攻撃はまだのようだ。


しかし、街の外れには・・・


目測だが、遠くに100体以上のワイバーンとドラゴンの姿が確認出来た。

このままではそんなに時間もかからず街に到着してしまう。


「ラピス!」


「分かっているわ!」


ラピスに声をかけるとすぐに返事が帰ってきた。


「やっぱりアイツらよ!あの町外れにいる群れの中にいるわ!別格に邪悪な反応が1つ感じる!」


「やはり魔神か・・・」


「間違い無いわ。誰か分からないけど、あの3人のうちの1人よ。」


「だったら遠慮はいらないな!」



「「フライ!」」



俺とラピスが叫ぶと、2人の背中に真っ白な翼が具現化した。


外に出て街の様子を見て、さっきのエミリアの言葉の意味が分った。

上空で旋回しているワイバーン相手には、街の人々は殆ど手出しが出来なかった。

弓を撃ってもほぼ真上に飛ばすしかないので、ワイバーンのいる高さまで届かない。

魔法も撃ってはいるが、射程外なので駄目だった。

ラピスやソフィアのような極大魔法レベルでなくては話にならない。

ただ、威力が強力過ぎる魔法は街にも被害が出てしまうので使えないんだよな。


普通に届かないなら・・・


こうして空を飛べる俺達が迎撃するしか方法が無い。

まぁ、今の俺とアン、ラピスならワイバーンだろうがドラゴンだろうが敵ではない。


問題があるとしたら・・・


やはり魔神との戦いだろう。

魔に堕ちたとはいえ元々は神の一族だし、実力は確実に俺達より上だ。


(苦戦は免れない・・・)


幸いにも今いる魔神は1人だけみたいだし、勝機はあると思う。

しかも、魔神は俺達がここにいると分って襲って来た訳ではないだろう。

さっきの話の中でマルコシアス家を新しい魔王の配下になれとの誘いがあった。だけど、マルコシアス家はその話を受け入れてはいない。

今回の強襲は魔王軍の配下になるかならないかの最後通告の意味合いと予想される。

たまたまタイミングが合ったのだろうな。

だけど良かった。

俺達がいない時に襲われ、この街が滅ぼされでもしたら・・・


そう思うだけでゾッとする。


(魔神相手とはいえ、絶対に負けられない戦いだ!)


奇跡のようなタイミングに感謝しつつも、気を引き締めていかなくては・・・



「アニー!」


エメラルダがシヴァに叫ぶ。


「お祖母様!もちろん、私も習得しています!」


その言葉にエメラルダが微笑んだ。


「さすが私の孫ね。あいつらにシヴァの名前は伊達でないって見せつけてあげましょう!」


「はい!」


シヴァが元気よく返事をした。


「「フロスト・ウイング!」」


2人が同時に叫ぶと、急に周囲の気温が下がった気がする。


バサッ!


「おぉおおおおおおお!」


思わず感嘆の声が出てしまう。

そして2人の姿に見とれてしまった。


2人の背中には・・・



薄く青白く輝く大きな白い翼が出現している。

羽根の1枚1枚が氷で出来た薄く鋭利な刃物のようなものだ。

それがいくつも集まり翼のように見えていた。


「これは?」


「これがシヴァの証である氷の翼よ。空を飛べるだけではなく、攻防一体の武器にもなるわ。」


「500年前の時は使っていなかったけど?」


「あの時は室内だったしね。それにこれが無くても、自分の実力なら余裕で勝てると思っていたわ。結果的にはあなた達にボロボロにされてしまったけど・・・」


エメラルダが苦笑いをしている。


こんな奥の手があったとは驚きだ。

そしてこの氷の翼からはとても強い魔力を感じる。


本気になる前に勝負が決まって良かったと思う。

お互いに譲れないところまでの戦いになっていれば、確実に彼女は命を落としていただろう。

そうなると、今、この場で彼女とも会う事は出来ないだろうし、アンもそれこそ本当にこの時代に1人ぼっちだったのかもしれない。


(こうして生き残ったのも運命なのだろうな。)



「アニー!こっちの準備は終わったわ!」


エミリアがバカでかい漆黒の大剣を肩に担いでいる。


「エミリアちゃん!その剣は!もしかして?」


コクリとエミリアが頷くとエメラルダから涙がポロっと零れる。


「まさか・・・、エミリアちゃんがデスブリンガーの継承者だなんて・・・、再びこの目で魔王様の愛剣を見れるとは・・・」


「おばさん、泣かないで。何で私がこの魔剣に選ばれたのかも分からない・・・、でもね、私は決めたのよ。私はかつての魔王様のようにはならない!私は守りたいものの為に戦う!その心があれば魔剣も応えてくれると思っているわ。」


「そうね・・・、魔剣は聖剣と同じで意志のある剣・・・、こうしてエミリアちゃんに継承されたのはそうかもね。守る為の力・・・、その力に限界が無いわ。私はあの時、身に染みる程に味わったからね。勇者パーティーの力はまさにその力の具現者だったわ。」


「お祖母様、それなら私も同じですよ。」


いつの間にかシヴァの両手には漆黒の双剣が握られている。


「これは!長い間継承者が現れなかったあの?」


「そうです。」


シヴァが頷いた。


「エミリアと一緒に戦いたい・・・、エミリアの背中を守りたいと願ったら、私の中で声が聞こえました。『友を』と・・・、気が付けば私の手の中にこの剣が握られていました。」


「まさか、私が生きている間にデスガイアを見られるなんてね。デスブリンガーとデスガイアはあなたとエミリアちゃんのような関係だったのかもしれないわね。エミリアちゃんを大切にしなさいよ。」


「はい!お祖母様とアンジェリカ様のような親友になるつもりです!」


その横でエミリアが嬉しそうに微笑んでいた。


彼女達も間違い無くアンと同じ様に一生の親友と呼べるような関係になるのでは?と思う。

アーク・ライトとミーティアのような感じなんだろう。

アレックスと馬鹿をやっていた時を懐かしく思った。



「これで準備は完了ね?」



ラピスが俺達を見渡すと全員が頷いた。


「シヴァ達はこの街の事を頼む!」


「任せて!これだけの数なら全部叩き落としてあげるわ!」

「アニーが落としたのを、この私がバッタバッタと切り刻んであげる!」

「私はこの2人のフォローだな。一緒に付いていくだけでやっとかもしれないかも?」


彼女達は鼻息が荒いけど、カイン王子はこの2人を見て少しゲンナリした顔をしているよ。

まぁ、とってもアクティブな彼女達だしな。

付き合わされる方も大変だろう。


(その気持ちは良く分かる!)


「俺達は大将首の方だな。まさか、このタイミングで俺達がいるとは思っていないだろう。不意打ちみたくなるけど、あの時の決着をつける!」


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