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146話 マルコシアス公爵家④

『ふふふ・・・、懐かしい光景よのぉ。だが、良い思い出ではないがな・・・』


部屋の中に女性の声が響くと、その瞬間、シヴァの体が青白く輝いた。


「これは?一体何が起きたのだ?」


シヴァの変化にサイロスさんが声を上げた。


(何だ?急に部屋の温度が下がった気がする。)



ハラハラ・・・



「雪?何で室内なのに雪が降るの?」


クレアさんが目の前に舞っている雪を不思議そうに見ていた。



「貴様!何者だぁあああ!」



いきなりサイロスさんが叫ぶと、全員の視線が一斉にシヴァへと注がれる。

いや、正確にはシヴァの後ろにだ!


その視線にシヴァが気付き、慌てて振り向くと・・・


(まさか?彼女は?)


ラピスはニヤニヤしているけどな。


「シヴァ様!」


カイン王子と一緒に立っていたシヴァが、慌ててその女性に対し床に片膝を付き頭を下げた。


目の前にいる女性は、髪はまるで氷のように透き通った薄い青色で、瞳も髪と同じくアイスブルーだった。身に着けているドレスも氷の結晶のような青いドレスだ。


そして、全身から放たれている冷気は間違い無い!


「父上!母上!無礼ですよ!このお方は・・・」


目の前の圧倒的な存在感にシヴァの両親も誰なのか瞬時に気付いた感じだ。

シヴァが両親に叫んでいる最中にも関わらず、即座に娘と同じように床に膝を付き頭を下げた。


「このお方が・・・、まさか、伝説の精霊女王の・・・」



「我が主ラピス様、突然の事で申し訳ありません。我の勝手をお許しください。」



その女性はラピスへと深々と頭を下げた。


(やはりこの女性は間違い無い。)


「シヴァ、構わないわ。昔に話していたあの時の状況に似ているのね?」


ラピスが2人を見ながらニヤッと笑う。


「左様です。」


ラピスからシヴァと呼ばれた女性が再び深々と頭を下げる。


「精霊女王様に、ラピスと言えば大賢者?」

「そ、そんな・・・、どちらも伝説の・・・」


2人が今にも倒れそうな程に顔が真っ青になりガクガクと震えていた。



「シヴァ様!どうしたのですか?いきなり実体化されるとは?」



シヴァアニーが驚きの顔で見ていたが、その顔を見て優しく微笑んだ。

さっきまでは氷のような冷たい表情の彼女だったが、この時だけはまるで女神様のような慈しみを湛えた表情だった。


「あのシヴァがこんなに優しい笑顔をするんだね。」


ラピスが感心したようにシヴァを見つめていた。



「皆の者、少し昔話をしよう。」


シヴァがグルっと周りを見渡す。


「今の主はラピス様だが、遥か昔、我は別の人族の魔導士を主として仕えていた。その魔導士の女はある1人の男と恋に落ちた。」


(ラピスが生まれる前の話か?)


「その男とはある部族の族長の息子だった。しかしこの2人の恋は報われぬ恋・・・、その部族とはダークエルフの部族・・・、人族とは敵対していた。だが、周りの反対を押し切り2人は駆け落ち同然に逃げ出したのだよ。だが、逃げ切る事は出来なかった。彼女の実力なら追手のダークエルフごとき蠅を追い払うかのように撃退出来ただろう。しかし、愛する男の仲間・・・、無理に抵抗する事も出来ず、男と共に捕まったよ。」


シヴァが目を閉じ何か考えている仕草をしている。

昔の事を思い出しているのか?


「しかしだ、その女の身には男との子供を宿していた。ダークエルフはただでさえ子供が出来にくい種族で、子供はとても大切に育てる種族だ。身篭もっている子は人族との混血といえど、ダークエルフの血筋が入っている。生まれてくるだろうその子は、ダークエルフとして受け入れるのか?その部族の中で激しい論争が起きたよ。母子共に殺すか?それとも子供だけを受け入れ母親を殺すか?どのみち人族である母親は生かす気が無かったようだった。まぁ、その時は当時の魔王が人族と戦っていたし、魔族と人族の関係は最悪だったのもある。そして悲劇が起きた・・・、主は子供が生まれた直後に自ら命を絶ったよ・・・、愛していた男も後を追って一緒にな・・・」



『生まれてくる子供には罪はありません。私が気に入らないのなら、私の命を捧げます・・・、だから・・・、この子は必ず幸せにして欲しい。』



「そう言って、主と男は命を懸けて我が子の幸せを願った。そして、その部族は将来のある若者の命も結果的には奪ってしまったと激しく後悔したのだよ。人族だからといって差別し嫌悪した結果が最悪の事を招いてしまったとな。2人には何も罪は無い・・・、お互いに好きになっただけで何もしていないのに、何故断罪され迫害されなくてはならない。人族と魔族、それだけの理由で・・・、2人は何も悪くない、このような悲劇を起こした罪は自分達にあったと・・・、それにな、我も主から頼まれていた。この子が成長するまでの間は見守って欲しいとな・・・、その子には私の力を分け与え見守り、一族の中でも最強の魔法の使い手として成長した。」



「まさか、その子とは・・・、そしてその一族とは・・・」



サイロスさんが冷や汗をかきながらシヴァを見ていた。

シヴァがゆっくりと頷いた。


「だからだ、我の名前がこの一族の最高位の魔法使いの称号となっているのだよ。かつての一族の愚かさを忘れない為にな・・・、だが、気の遠くなる年月で、その意味も忘れ去られてしまったようだ。」



「我が一族にそんな過去が・・・」



「まぁ、今は昔と違い殺す殺さない話にはならないと思うが、あくまでも今の話は物騒だった頃の昔話だ。今は今の時代の考え方がある。だがな、愛というものはいつの世も不変だと我は思っている。愛する者を勝手な都合で引き裂く事のないように・・・」



シヴァの全身が雪に包まれ、その雪が散ると姿が消えていた。

その舞い散っていた雪がシヴァアニーの周りを舞い体へと吸い込まれていった。


両手をソッと自分の胸に当てた。


「シヴァ様・・・、私は決して忘れません。私は必ず幸せになります。彼と一緒に・・・」



クレアさんが立ち上がりシヴァアニーの手を握った。


「アニー、気持ちは変わらないのね?後悔はしないの?」


ゆっくりと頷くと、クレアさんが微笑んだ。


「分かったわ・・・、私はあなた達を応援するわよ。まぁ、元々そのつもりだったしね。」


「母上・・・」


シヴァがポロポロと涙を流した。


「あなたがシヴァの名を受け継ぐのにどれだけ努力していたのか、私はずっと見ていたわ。あなたはいつも真っ直ぐ、そして母の名誉をいつかは取り戻すとも言っていたわね。そんなあなたが選んだ相手よ、絶対に良い人に決まっているわ。種族は関係ないの・・・」


「お、お前・・・」


サイロスさんがアワアワとした表情で2人を見ていた。

そのサイロスさんをクレアさんが微笑みながら見ている。


「あなた・・・、もうこの子を私達一族のつまらないプライドに縛るのは止めない?私は母と違って力が無かったからシヴァの名前を受け継げなかったわ。そして、その重責をアニーが引き継ぎ、見事に名前を受け継いだ。でもね、これがこの子の本当の幸せなの?かと思ったのよ。母の名誉を回復する、自分が一族の中で最強にならなくてはならないと、ずっとこの子は自分よりも私達一族の為を思ってきたわ。」


クレアさんの顔が再びシヴァへと向いた。


「アニー、本当にゴメンね。私に力が足りなかったばかりに辛い思いばかりさせて・・・、でも、あなたは本当に自分のやりたい事を見つけたのね。長老会や分家の顔色を伺う事を辞めてまで・・・、アニー、これからはあなたの好きにしなさい。あなたのしたい事、あなたが良いと思った事をね。」


そっと掌をシヴァの胸元に当てた。


「あなたの中にはご先祖様と同じ精霊女王様がいらっしゃるわ。さっきの光景で確信したの。女王様があなたを認めているのよ。誰もあなたを縛る事は出来ない。我がマルコシアス家の守り神があなたの中にいらっしゃるのだから・・・」


「は、母上・・・」



「当主としての判断、私の友人に対しての判断はとても嬉しく思いますよ。」


アンが立ち上がり2人へ微笑む。


「わ、私を友人と?本当によろしいのですか?」


シヴァが慌てて臣下の礼をとり頭を下げた。


「もちろんですよ。この姿の時は上下関係はありませんし、私はそう思っていましたけど、ダメでしたか?」


「そ、そんな勿体ないお言葉です!」


「ふふふ、相変わらず真面目ですね。そして・・・」


アンがダンタリオン家へと視線を移した。


「エミリアさん、もちろんあなたもよ。」


カイルさん達も立ち上がり一斉に頭を下げた。


「は!ありがたきお言葉!我が娘、エミリアをよろしくお願いします!」


カイルさんが返事をすると、アンが少し苦笑いをしている。


「本当に生真面目なんだから・・・、ダンタリオン家はじいやの頃と変わっていないわね。」


サイロスさんとクレアさんが不思議そうにアンを見ている。

彼がおもむろにシヴァに声をかける。


「アニー、あの人族は一体何者だ?お前だけじゃなく、カイル達まで頭を下げるなんて・・・、しかもクレアが当主だとは人族が知るはずもないぞ。」


「知っていますよ、マルコシアス公爵家は代々女性が当主となっているはずですよね?」


「ば、バカな・・・、なぜその事まで知っている。貴様、本当に何者なのだ?」



「父上・・・、無礼ですよ・・・」



シヴァの全身から冷気が溢れ出した。


「アン、いい加減にしないと、この部屋全体が凍りついてしまうぞ。」


今度は俺へ微笑んだ。


「本当はエメラルダに会うまでは正体を隠していたかったのですが・・・、ドッキリをさせられなくて残念です。」



今度はクレアさんが冷や汗をかきながらガクガクと震えている。


「母の事を呼び捨てに?正体とは?」



「そして・・・、アニーもディアナも畏まる相手とは?」



「まさか?まさか・・・」



その瞬間、アンの全身が輝く。


輝きが収まると黄金の瞳に黄金の角を生やしたアンが立っていた。

右手に魔剣デスペラードを握り、正面に掲げている。


「まさか、魔族?」


「しかも・・・、その魔剣は?」


サイロスさんとクレアさんから止めどなく涙が溢れていた。




「「アンジェリカ様!」」




「「お目覚めになったのですね・・・」」


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