141話 バンパイア達との対決⑨
「はっ!」
一瞬、状況が理解出来なかった。
何で俺は気を失っていたのだ?
・・・
・・・
(思い出したぁあああ!)
すると、俺は誰かに膝枕されている事に気付いた。
「あ、ラピス・・・」
とても嬉しそうに俺を見つめているラピスの顔が目の前にあった。
「目を覚ましたのね。ずっと私の膝で休んでいても良いのよ。こうやってレンヤの温もりを感じられるのは私にとってご褒美だしね。」
(おいおい・・・)
それは勘弁してくれよ。
ずっとこうして膝枕されるのもさすがに恥ずかしいから慌てて起きたけど・・・
(ん?)
記憶が飛んでいたが、段々と思い出してきたぞ。
よく考えたらこんな状況にされたのはラピスのせいだよな?
「ラピスさんやぁ・・・、こうなったのは誰かさんが爆裂魔法をぶっ放したからだよな?」
少しジト目で睨むとラピスが俺から目を逸らした。
さすがに少しは悪いと思ったのかな?
だけど、その後のラピスの反応が俺の予想を斜め上をいった!
「だってぇぇぇ・・・」
俯き加減で両手の人差し指を胸の前でツンツンとしている。
( !!!!!!!!!! )
何なのだ!この可愛いラピスはぁあああああああああああああああ!
(変なモノでも食べたのか?)
「バンパイア達から久しぶりに気持ち悪い視線で見られたし、慰めてもらおうとここに来たら、レンヤが女達に囲まれてたじゃないの。思わずカッ!となって魔法を放ってしまったのは悪いと思ったわ。だからこうやって、あなたが目を覚ますまで介抱してたじゃない。」
少しウルウルした目で俺を見てくる。
うわぁ~、ラピスめ・・・、あざとさを身に着けたな。
嫉妬深い上にあざとさまで身に着けたか・・・
師匠は誰なんだろう?と考えていたけど、やっぱりアイツだよな。
最近、特に仲良くなっているローズだろう。
お互いにどうやって俺にアピールするか相談しているみたいだと、テレサがこっそりと教えてくれたしなぁ。
(はぁぁぁ~~~~~~~~)
そんな仕草を覚えてしまったから、更に手強くなってしまったように思える。
パン!パン!
(ん?ラピスの後ろから音が聞こえたな。)
視線を音の出た方に移すと・・・
(はぁあああああああああっい!)
シャルとフランがニコニコと微笑みながら並んで正座をし膝をパンパンと叩いていた。
(何を?)
どうやら何をしたいかが分かったけど、敢えて無視を決め込んだ。
「もぉ!鈍感なんだから!」
シャルがちょっと拗ねた感じになった。
そんな仕草も可愛いけどな。
(おいおい・・・)
シャルとフランがしたい事は分かったけど、これはいくら何でもなぁ・・・
だってなぁ、まだ半分以上は気絶しているけど、彼女達20人以上が俺をジッと見つめているんだぞ。そんな視線の中でシャルに膝枕されるなんて、羞恥心で俺の心が壊れる。間違い無くな!
だから・・・
シャルに見えるように胸の前でバッテンを作ったけど、すっげぇ残念そうな顔をしているよ。
ラピスに対する対抗心だと分っているけど、少しは状況を分って欲しいよ。
今度、2人きりの時にちゃんと好きなようにさせてあげるから、それまで我慢してくれ。
(ところでテレサは?)
キョロキョロと周りを見渡すと・・・
(おいおい・・・)
アイツはまだ気絶していたけど、追いかけ回されていた女性に膝枕されているよ。
そしてその女性だけど、とても嬉しそうにテレサの頭を撫でていた。
(コレってもしや?)
俺は初めて見たが、彼女達は同性愛者なのか?
彼女達の目はハートに見えるし間違い無いだろう。
テレサは今はメイド服を着ているけど、騎士団にいた時の騎士服を着ている姿は、綺麗な女性というよりも男装の麗人って感じだった。
そして剣で戦う姿は確かに華麗でカッコイイよ。
「い!いやぁあああああああああああああああ!」
おっ!テレサが目を覚ましたようだ。
どうやら自分が女性に膝枕されていたのに気付いたみたいだ。
シュバッ!
今まで見たテレサの動きの中で最速だった。
瞬間移動でもしたかのように、一瞬で俺の隣まで来てガタガタ震えていた。
「に、兄さん、助けてよぉぉぉ・・・、私は兄さん一筋だし、いくら同性でもああやって迫られたら恐怖だよ。男ならズバッと容赦無く叩っ切るけど、一般人の女相手だとどうすればいいか分んないよ。」
(おい!本当に男相手だと容赦ないな。)
テレサは俺に抱き着いているから、さすがに彼女達はこれ以上近づいてこなかった。
怖い物知らずのテレサをビビらすとは、ある意味強者だよ。
テレサと再会してからずっとテレサの圧でタジタジだったけど、こうしてビクビクしている可愛いテレサも面白いな。
まぁ、本人にとってはそれどころではないだろけどな。
(面白がってスマン)
バン!
いきなり部屋の扉が開けられた。
「レンヤさぁあああああん!」
(この声は?)
元気一杯の笑顔でソフィアが部屋に入ってきた。
「私の方は終わったわよ!2度と逆らえないように徹底的にね。」
拳をグッと握りしめた。
「このソフィア様の鉄拳でしっかり教育させたわよ!」
「あっ!」
突然ソフィアが叫んだ。
「ゴメン!ほとんど全滅させちゃったよ。教育どころじゃなかったわね。」
おいおい、ほとんど全滅って・・・
どれだけの相手がいたか分からんが、逆らう逆らわない以前の問題だろう。
破壊兵器と化したソフィアは俺達の中では1番敵に回したらダメな存在だよな。
(逆にあいつらに同情するよ・・・)
ザワッ!
(何だ?いきなり部屋の中の雰囲気が変わったぞ!)
雰囲気が変わった元凶へと視線を移すと・・・
さっきまで大人しくしていた女性達全員がソフィアを見つめていた。
しかもだ!その視線がとても熱っぽく感じるのは気のせいか?
その中の1人がボソッと呟いた。
「ほ、本物のソフィア様・・・、私達・・・、修道女全員の憧れのお方が・・・」
ジリ・・・、ジリ・・・
彼女達がジリジリと動き始めた。テレサを追いかけていた連中も一緒だ。
不穏な空気を察知したのか、ソフィアから笑顔が消え冷や汗がダラダラと出ている。
「ちょ、ちょっとこれは何なの?」
彼女達の圧に押されソフィアがジリっと一歩下がった。
その行動が合図だったかのように女性達が叫んだ。
「「「ソフィア様ぁああああああああああああああああああああああああああああああ!」」」
「私達の憧れです!」
「是非とも握手を!」
「幸せですぅうううううううう!」
「はぁはぁ!こうして直にお会い出来るなんて!」
「抱きしめたいわぁあああああああああ!」
等々、欲望満載の表情で数十人の女性達がソフィアへと駆け出した。
「ひゃ!ひゃ!ひゃぁあああああああああああああああああああああ!」
あっという間にソフィアが女性達の波に飲み込まれてしまった。
身体能力では最強のスペックを誇るあのソフィアが、女性達になすがままに飲み込まれているよ。
敵対心の無い相手だからなのか、それか変に手を出せないか弱い女性達だからか。ソフィアだと軽く撫でる程度でも怪我では済ませられない事態になるかもしれん。強過ぎるソフィアの実力が仇になったかもな。
まさか、ソフィアにこんな弱点があったとは予想外だった。
「い、いやぁぁぁ~~~」「そこ触らないでよぉぉぉ~~~」「胸揉まないで、あぁぁぁ~~~ん」
・・・
何だろう?
ソフィアの色々な艶めかしい声が響いているが・・・
(一体何をされているんだ?)
確かソフィアは教会では絶対的に崇拝されていたな。
彼女達にとってはそんな神にも等しい憧れの人が目の前にいるんだ。
ファン心理からしても暴走するのは目に見えて分かる結果だったな。
ソフィアを撫でてご利益を貰おうとする行為だと思うが、あんな大量の人に揉みくちゃにされているし、いくら女同士でも触ってはいけないところもあちこちと触られているのだろう。
変な趣味に目覚めない事を願う。
「こぉおおおおおおおおおらぁあああああああああああ!」
ラピスの怒鳴り声が響いた。
ピタッ!
一斉にみんなの動きが止まった。
「あんたら死にたいの?」
ラピスがサッと右腕を上に掲げると、頭上に巨大な炎の玉が浮かび上がる。その炎を見て女性陣がブルブルと震えてソロソロとソフィアから離れた。
そのソフィアだったが・・・
顔を真っ赤に上気させて「はぁはぁ」言いながらへたり込んでいた。
髪も服も乱れて胸がもう少しで丸見えになってしまう状態だった。
恥ずかしそうに上目づかいで俺を見ているよ。
(うわぁぁぁぁぁぁぁ、すっげえ色っぽい!)
思わず俺も赤面してしまった。
「ソフィア様に何て事をするの!お仕置きよぉおおおおおおおお!サンダー!レイン!」
バリバリバリィイイイイイイイイイ!
シャルの声が聞こえたと思ったら、彼女達に大量の雷が落ちた。
文字通り『雷が落ちた』って事だな。
みんな気絶して死屍累々の光景が広がっているけど、シャルよ、本当に大丈夫なんだろうな?
シャルも過激になったものだよ・・・
彼女達がちょっと気の毒に思ってしまった。
落ち着いたのかソフィアが立ち上がり俺に抱きついてくる。
「ふえぇぇぇ~~~、レンヤさ~~~ん、私、もうお嫁に行けなくなったよぉぉぉ~~~」
グリグリと大きな胸をここぞとばかりに押し付けてきた。
「何をどさくさに紛れて変な事しているのよ。」
スパァアアアアアアアアアアアアン!
「痛ったぁぁぁぁぁ~~~~~~~」
最近見慣れた光景になってしまったが、ラピスが杖を取り出しソフィアの頭を叩いていた。
あの杖は魔法を使う時よりもソフィアの頭を殴る時に使う回数が圧倒的に多い気がする。完全に鈍器の扱いになっていないか?
「ソフィア、あなた・・・、思ったよりも余裕があったわね。もしかして、狙って襲われていた?レンヤに同情してもらうように?」
その瞬間、ソフィアの視線が泳いだのを見逃さなかった。
(おい!この状況を利用したってのか?侮れん・・・)
「あんたはレンヤと結婚したんじゃないの?お嫁に行けなくなったって?じゃあ、すぐにでも追い出してあげるわよ。ふふふ・・・」
にやぁ~とラピスが微笑むと、ソフィアは俺から離れ乱れた服を直しラピスへと構えを向けた。
「あらぁ~、追い出されるのはあなたの方よ。ふふふ・・・、一般人じゃないあなたなら手加減しなくても良いし、思う存分叩き潰してあげるわ。」
バチバチとラピスとソフィアの視線の火花が飛び散った。
「仲が良いですね。」
(この声は?)
振り向くとアンが立っている。
女神の鎧のような金色の魔装をした状態で、背中には大きな翼が生えていた。
どうやら転移で移動してきたようだな。
「「「ま、まさか・・・」」」
さっきまでソフィアを追いかけていた彼女達だったが、いつの間にか復活してアンの姿を見て硬直している。
「「「女神様ぁあああああああ!」」」
全員がアンの前で平伏し頭を下げた。
今のアンの姿はまさに女神と思われても間違いないだろう。
その姿は髪の色と角がある事以外はフローリア様と同じ感じだしな。
頭を下げている彼女達はアンの角には気付いていないようだ。
それにフローリア様の神気は金色だし、アンも金色の鎧と翼だ。神殿の女神像にも似ているし間違えられても仕方ないだろう。
そのアンはいつものように微笑んでいたが・・・
「あんた達、女神様は私達に用があるから、あんた達はこの部屋から出ていって頂戴。」
ラピスがパンパンと手を叩き彼女達を部屋から出した。
今のアンは神々しさが表に出ているけど、あまりジロジロと見られると魔族とバレてしまうし、ラピスの判断は正しいのだろう。
「レンヤ、私達も外に出て行くし、後はよろしくね。」
そう言って、俺とアンを残し、ラピス達も部屋から出て行った。
「アン・・・」
「ラピスさんやソフィアさんとは本当に仲が良いのですね。」
俺が見つめるとアンも微笑みながら俺を見つめた。だけど・・・
「まぁ、500年前からの縁だしな。もうずっと切れないんじゃないかな。」
「そうね・・」
ダッ!
アンが駆け出し俺に抱きついた。そのまま顔を俺の胸の中に埋める。
「頑張ったな・・・、やはり法王は?」
「はい・・・、500年前に四天王の部下であったアーガンでした。私の事もよく知っていましたし、こうして当時の知り合いがいた事が心から嬉しかったです。」
「でも・・・」
「私が彼を倒し消滅させました・・・」
アンの瞳には涙が溜まり、今にも零れそうだった。
「知った人を私が手にかけるなんて・・・、歪みに歪んでいくら手遅れだったとしても・・・、これも茨の道を選んだ結果でしょうが・・・」
とうとう涙が溢れ、静かに俺の胸の中で泣いていた。
泣き止むまで俺は優しく静かにアンを抱きしめていた。




