140話 バンパイア達との対決⑧
「アンジェリカ様・・・」
アーガンが呆然とした表情でアンジェリカを見つめていた。
「そのお姿・・・、まるで女神・・・」
呆然と立ちすくむアーガンに彼女はニコッと微笑んだ。
「どうかしました?」
その言葉にアーガンが我に返り首を振った。
「どうしてです?たった一度だけですが、私はあなた様の魔装をこの目で見ました。確か魔王様と同じ黒の甲冑でしたが、ここまでで全身全てではなく、しかも翼まで・・・、その翼もまるで女神のように・・・」
「これが今の私・・・、この力は女神フローリア様から・・・」
両手を胸に添え微笑む。
「そして、レンヤさんが私を愛してくれた証・・・、レンヤさんから授かった新しい力・・・」
この世の男性全てが魅了されるのでは?と思う程にうっとりした笑顔を浮かべている。
「そ、そんな・・・」
アーガンがガックリと膝を突き項垂れていた。
「わ、私のアンジェリカ様が・・・、私の伴侶となるお方が、あんな下賤な人間のものになっただと?」
しかし、ワナワナと震え立ち上がった。
「認められない・・・、絶対に・・・、こんな事は絶対にぃいいい!認められない!アンジェリカ様が勇者と結ばれた?魔族を滅ぼす宿命の勇者がぁあああああああああああ!そしてぇぇぇ、下等生物を滅ぼしこの世界の頂点に立つ我ら魔族がゴミの人族から力を貰った?」
ねちゃぁ~とした笑みがアーガンに貼り付いている。
「あぁぁぁ~~~、お可哀想に・・・、アンジェリカ様は勇者に洗脳されてしまったのですね。私が敬愛するアンジェリカ様はそんな事は絶対に口にしません。我ら魔族の事だけ考え、魔族が世界を支配すると望んでいらっしゃるはずです。」
ペロッと舌舐めずりをする。
「アンジェリカ様ぁぁぁ~~~、あなた様は私がお助けしますよ。勇者に汚された高貴なお体・・・、私が綺麗に浄化させてあげます。隅々まで・・・、徹底的に・・・、汚れてしまった血を全て抜き、私の熱い情熱に燃える血を注いであげます。そうすれば私だけを愛し、私だけを見てくれる。そして永遠にその美しいお姿を私だけが見る事が出来る。ふひゃはははははぁあああ!そうすれば2度とそんな下らない言葉を口にする事も無いでしょう。」
「狂っているとしか思えない程に目茶苦茶ね。全く話が噛み合わないなんて・・・、あなたはここまで堕ちたのですか?」
アンジェリカの視線が鋭くなった。
「ふはははははぁあああああああああああああああ!何を仰るのですかぁあああ!私は正常ですよ!おかしいのはアンジェリカ様!あなた様でしょうが!人族は奴隷であり、家畜であり、餌なんですよ!エルフもドワーフも獣人もそう!我ら魔族だけが頂点に君臨し支配する、この世界こそが正しく絶対の世界なんです!」
「この歪んだ認識が邪神ダリウスの呪いなんでしょうね。そんな呪いを受けなかった私は幸せですね。」
そう呟くと彼女の翼が輝きだした。
「な、何だ!この光は?」
毅然とした姿勢でアンジェリカが立っていた。
「アーガン!あなたはもう手遅れなのでしょう。500年もの歳月でここまで歪に、その間に犠牲になった人々がどれだけいたのか・・・、想像するだけで胸が痛みます。」
ジャキ!
アンジェリカの右手に漆黒の剣が握られた。
剣の切っ先をアーガンに向ける。
「かつての父の部下であったあなたへのせめてもの慈悲です。私が直接あなたに永遠の眠りを与えましょう。安らかに眠って下さい。」
「ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
アーガンが絶叫する。
「手遅れになったのはあなた様です!あの可憐なお顔・・・、その美の結晶ともいえるお体・・・、その崇高なお心も・・・、下等生物の下らない価値に囚われてしまったなんて・・・、勇者めぇえええええええええええええええええええええ!その下賤な血がぁああああああああ!アンジェリカ様を変えてしまったのかぁああああああああああああああ!」
にやぁ~と笑った。
「もう手加減しませんよ。神にも匹敵する私の力!この力を目に焼きつけ!私の言う事だけを聞く人形になりなさい!そんなあなたを私だけが永遠に愛してあげますよ・・・、誰にも邪魔されないところで・・・、ふはははぁあああああああああああああああああああああああああ!そんな未来を想像すると笑いが止まりません!最高の未来にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
「気持ち悪い・・・」
アーガンの発言に思わずアンジェリカがブルっと震えたが、キッとアーガンを見据えた。
フォン!
斬!
「むっ!」
アンジェリカが黒剣を縦に振るうと、アーガンの右手が二の腕から切断され床に落ちた。
しかし、腕を切り落とされたアーガンは全く動じていなく、涼しい顔で床に落ちている腕を眺めていた。
「ほぉ、これがあの伝説の魔剣『デスペーラド』ですか?確かに凄まじい切れ味ですね。」
その落ちた腕を無造作に拾うと、傷口に切り落とされた腕を押し当てた。
シュゥゥゥゥゥ
白い煙を上げ、切り落とされた腕が元に戻った。
腕を伸ばし手を広げたり閉じたりして感触を確かめている。
「どうですか?私の能力は?バンパイアの再生能力を遥かに超える不死の力。切り落とされて気付きましたが、あなた様の魔剣は単に切れ味が良いという訳ではありませんね。魔力自体が切断されていましたから、空間を切り裂いて腕を落としたのでは?確かにこれならどんな防御も関係ありませんね。どんなに硬かろうが、魔法の障壁を張ろうが、空間ごと切断されてしまえば何の障害にもならないです。まさに一撃必殺の最強で最凶の魔剣に間違いありませんよ。」
ギリっとアンジェリカが唇を噛んだ。
「たった1回切られただけでよく分かりましたね。しかも、この再生能力はまさにこの前に王国で見た魔神と同じレベルね。あなたが自分を神をも超えると増長するのもよく分かるわ。」
「何を仰います!」
アーガンがニヤニヤと笑っている。
「神と同レベル?いえ、私は神を超えたのですよ!あなたの魔剣すら通用しないこの体!さぁ、無駄なあがきは止めて私の血を受け入れて下さい。」
「それはお断りします!」
剣を握っていない左腕を前に突き出した。
「ブラック・ホール!」
メキョッ!
アーガンの目の前に黒い球体が浮き上がり、その球体にアーガンの体がひしゃげながら吸い込まれた。
床には膝から下の両足だけが立ったまま残されている。
静寂が部屋の中に漂った。
「いくら超再生でも脳と心臓を潰されれば、生物である限り復活は無理で・・・」
「なっ!」
静まり返った部屋にアンジェリカの声が響いた。
残された足から逆再生画像のようにアーガンの全身が元の形に復活している。
「これなら!」
すぐに魔剣を十字に振り抜いた。
「ブラッディ!クロス!」
ズバババァアアア!
再びアーガンの体が4つに切り裂かれ飛び散り床に転がる。
ズルッ!ズル・・・
ブルっと動いてから4つに分かれた全身が1つの場所へ移動を始めた。
「ダーク!フレアァアアア!」
アンジェリカの指先から巨大な漆黒の炎の玉が4つ飛び出す。
その1つ1つがアーガンの体に命中し、全ての体が燃え尽き灰となった。
「これなら・・・」
モゾ・・・
真っ黒な灰がモゾモゾと蠢いている。
「うぇ~、気持ち悪い・・・」
目の前の光景にアンジェリカが眉をひそめた。
灰が一か所に集まり山となってその中からアーガンがニヤリと笑いながら出てきた。
不思議な事に裸ではなく、豪華な法衣をしっかりと着ている。
「アンジェリカ様、何をしようが私には通用しません。」
「そうみたいね。」
「そうです!この500年間にどれだけの生命をこの身に吸収したとお思いですか?私のこの細胞一つ一つに魂が宿っているのですよ。無限の生命力!例えあなた様であろうが私を倒す事は不可能!この星にちっぽけな剣をどれだけ刺そうが無駄な事と同じなんですよ!」
「だからといってぇえええええええ!」
ズバッ!
アンジェリカが剣を振るとアーガンが再び縦に割れた。
しかし、またもやゆっくりと元に戻ってしまう。
「ふはははぁあああああああああああああああああああああああああ!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄!無駄ぁああああああああああああ!無駄ですよ!私には物理攻撃は一切効果はありません!魔剣だろうが魔法だろうが、私は無敵なんですよ!」
アーガンがとてつもなく醜悪な笑みをアンジェリカへと向ける。
「そろそろ無駄だと悟ってはいかがでしょうか?さぁぁああああああああ!私の血を!血を受け入れるのです!永遠の命!永遠の若さ!永遠の美しさ!私と一緒にいれば手に入るのですよ!」
「あなたの操り人形としてね。」
吐き捨てるようにアンジェリカが呟いた。
「何を言っているのでしょうか?これは運命なのですよ!私とアンジェリカ様が結ばれる為の!そして人間に汚されたアンジェリカ様の高貴な血を浄化する唯一の方法なんですから!」
「はぁぁぁ~~~~~~~~」
アンジェリカが再び長い溜息をした。
「レンヤさんとテレサさんなら無蒼流で、ラピスさんならそれこそ息をするように、ソフィアさんも大聖女の力で、シャルも女神化でこの状況を何とでも出来るでしょうね。」
目を閉じ、右手で剣を握り胸の前に掲げた。
「私達は邪神を倒す戦いを始めたわ。こんな神にも劣る存在に手間をかけるなんて、みんなに笑われてしまうわね。」
左手の人差し指と中指を真っ直ぐに伸ばし、剣の刀身に添えた。
その2本の指先が金色に輝いている。
「この力はレンヤさんからもらった光の聖なる力・・・、そして、私からはレンヤさんに闇の暗黒の力を与えたわ・・・、光と闇、2つの相反する力を持った私とレンヤさんだけしか使えない力・・・、神すら滅ぼせる究極の力よ。一歩間違えればこの身どころか、この世界すら跡形も無く消し去る事すら出来る力よ。この力!その身で存分に味わいなさい!」
スッと指先を刀身に滑らせると、漆黒の刀身に金色の光が纏わりついた。
「な、何が起きているのだ?」
アーガンがブルブルと震えながらアンジェリカの魔剣を見つめている。
「し、信じられん・・・、この力は・・・、今まで感じた事のない強力な力が・・・」
アンジェリカがカッと目を開けた。
「この力の名前は・・・、『虚無』」
「全ての事象を『無かった事にする』力・・・、神すらも存在そのものをも消し去る、神の力を遥かに凌駕する力よ。」
「そ、そんな力が・・・、それこそあり得ない・・・」
アンジェリカの目がスッと細くなる。
「これは私とレンヤさんの心が通じ合い、決して交わる事のなかったものが1つになった証!私達は今までの歴史が出来なった事が出来たのよ。だから!魔族と人族が一緒に仲良く暮らせる世界が出来る事を信じるわ!」
ズバァアアアアアアアアア!
一気に魔剣を縦に振り下ろした。
「あぁぁぁ・・・」
アーガンが情けない声を出している。
「体が、体に力が入らない・・・、何が起きたのだ?」
ピシッ!
頭頂部から縦に黒い線が走った。
その線の中央、胸の部分に黒い球が出来る。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・
その黒い球が少しずつ大きくなっていく。
「い、嫌だ・・・、私が、この私が消える?何でだ?私の記憶から私自身が消えていく・・・」
「そうよ・・・」
相変わらず冷たい視線でアーガンを見つめていた。
「あなたの存在は無かった事に・・・、どんな再生能力、鉄壁と言える防御力があっても防ぐ事の出来ない攻撃よ。」
「その名も『虚空閃』、あなたを葬り去る剣。」
「へぎゃぁあああああああああああああ!」
胸の黒い球が大きくなりアーガンを飲み込むと、そのまま輪郭がぼやけ消滅してしまった。
「あなたの存在は無かった事になったわ。ほとんどの人の記憶にもあなたが存在した事さえ消え去っているでしょう。」
ポロっと一滴の涙が流れていた。
「せめてもの情けです。あなたが存在した記憶は私は一生忘れません。かつての優しかったあなたに免じて・・・」




