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138話 バンパイア達との対決⑥

「さ~て、上への階段も見つけたし、ここに落とされたお返しをしに行きますかね。」


階段の前でソフィアが拳をポキポキと鳴らしながらペロッと舌舐めずりをしていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「アルファ部隊が聖女に全滅させられたならば、聖女は迷路の脱出階段をも見つけた事だろうな。最初の計画ではアルファ部隊は万が一の出口の警備を、デルタ部隊が聖女を血祭りにする予定だったが・・・」


エッジが床に開いた階段を眺めていた。



キラッ!



「む!」


階段の奥から何かが飛んで来た。


パシッ!


その何かをエッジが片手で受け止め、その手を見つめている。


「これはデルタ部隊の暗器・・・、なぜ?」


ヒュン!


「覇っ!」



ガシィイイイイイイイイイイイイイ!



「ぐあぁああああああああああ!」


エッジが咄嗟に腕を十文字にクロスした瞬間、勢いよく後ろに吹き飛んだ。

そのままの体勢で数メートルは後ろへと後ずさりしてしまっている。

しかし、両腕は2本とも折れてしまいブラブラしていた。


「こ、こまで凄まじい衝撃とは・・・」


エッジの視線は先程から地下に続く階段をずっと凝視したままだった。

その階段の入り口を背にして1人の女性が立っていた。



足を広げ腰を落とし、右拳をエッジに向けているソフィアだった。



「熱烈な歓迎ありがとうね。私からも歓迎会のお返しをしてあげないとね。」


ソフィアがニヤリと笑う。


「どうやらお気に召さなかったようで・・・」


エッジも不敵に笑っていた。


折れた両腕だったが、ダランと無造作に下ろすと折れた部分から白い蒸気のようなものが噴き出し、みるみると腕が再生している。


「あら?他のバンパイアと違って治りが早いわね。」


ソフィアが話すとエッジがニヤリと笑う。


「俺を今までのバンパイアだと思うなよ。バンパイアの序列は強さの順番だが、俺は立場の都合で序列順位をわざと下げているのだ。今までのバンパイアと一緒にしないでもらいたい。」


「そう・・・、私にとっては誰が来ても一緒だけどね。」


ソフィアが構えの状態で立っていたが、前に突き出している拳の人差し指を立てた。

その立てた指をクイッと曲げる。



ブワッ!



エッジから大量の殺気が湧き上がった。


「人間の女が舐めた真似を・・・、多少腕が立つくいらいで俺と対等に戦えるとは思うな!」


フッ!


突然エッジの姿が消えた。

一瞬でソフィアの真横に現われる。


「死ねえぇえええええええええええ!」


ソフィアの脇腹を目がけてエッジが無造作に拳を叩き込んだ。



しかし・・・



フワッ



ソフィアは真横に吹き飛んだが、殴られて吹き飛んだ様子は感じられなかった。ソフィアが殴られた打撃音すら聞こえなかった。

まるで蝶が舞うように軽やかにクルクルと回転し、十数メートル離れた場所に音も立てずに着地した。


「手応えが無いだと?」


エッジが拳を見つめながらワナワナと震えている。

しかし、ソフィアの方は微笑みを崩していない。


「別に驚く事もないと思うけどね。あなたの拳が私に当たる直前に、私の方から飛んだだけの事だからね。軽功を使えばそんなに難しい事ではないわ。さっき、あなたに落とし穴に落とされた時も、あれだけの高さなのに傷一つなく済んだのも同じよ。それにね、私に許可無く触れて良い男性はレンヤさんだけなの。それ以外全部お断りしているからね。」


「舐めた真似を・・・、だが!逃げてばかりでは俺に勝つ事が出来んぞ!勇者が来るまでの時間稼ぎか?勇者と協力すれば俺を倒せると思ったか!」


スッとソフィアの視線が鋭くなった。


「何を勘違いしているのかしら?」


「どういう事だ?」


エッジの視線も鋭くなった。


しばらく2人が睨み合っていると・・・


「がふっ!」


突然、エッジが口から血を吐いた。


「何が?いつの間に?」


信じられない顔で自分の体に視線を落とすと、鳩尾にクッキリと拳の痕が残っている。


「そういう事よ。」

ソフィアはニコッと微笑んだ。

「横に飛んだ瞬間に一発お見舞いしておいてあげたわ。そっと軽くね。もしかして?見えなかったの?」


エッジがギリギリと歯を鳴らし鬼のような形相でソフィアを睨みつけている。


「たかが人間の女ごときが・・・、下等生物のくせに『たまたま当てた』だけで勝った気になるな・・・」



クイクイ



またもやソフィアが人差し指を曲げ挑発している。


「本当に『たまたま当てた』のか・・・、そんな事も分らない程にレベルが低いなんてね。人間を下等生物と侮っている時点であなたに勝ち目がない事が分らないのね。」



「ふざけるなぁ・・・」



エッジがドン!と足を広げ構えると、みるみるうちに鳩尾から白い煙が上がる。


「この序列四位・・・、いや、真の序列二位の俺に敵うとでも?影達を倒して調子にのるな!影なんぞ単なる使い捨ての駒、次元が違う俺の力をこの目に焼き付けて死ぬが良い!」


スッと右腕をソッとソフィアへと向けた。



「シャドウ!バインド!」



ズル!


ソフィアの足下の影から黒い触手が這い出てくる。


ヒュン!


あっという間にソフィアの足、腕、首など全身に触手が巻き付いた。


「これは?」


さっきまで憤怒の表情だったエッジがニヤニヤと笑っている。


「どうだ、自分の影に縛られる気分は?これで動けまい。ふふふ・・・、ゆっくりと料理してやろう。」



「ダーク!ボール!」



エッジの周囲に拳大の黒い玉が大量に浮いている。


「ふふふ、これでお前の体を少しずつ削ってやる。ジワジワと体を消滅させられる痛みと恐怖・・・、どこまで耐えられるかな?まぁ、普通の人間だと2、3発で泣き叫び『殺してくれ!』と懇願していたが、その絶望の顔を見ながらジワジワと消滅させるのが最高の楽しみだよ。」


「悪趣味ね・・・」


「下等生物相手にこの俺がわざわざ相手をしてやっているのだぞ。逆に名誉な事だ!取り敢えず、頭と肺、心臓さえ残しておけばすぐには死なん。そんな姿を勇者に見せるのも一興だな。大切な仲間の聖女がこの俺に蹂躙された姿を見せたらどんな顔をするか?」



「ふはははははぁあああああああああああああああ!最高だよ!人間の絶望!その声を聞く事!その顔を見る事!堪らん!堪らんよ!」



狂気の顔でエッジが笑うと、大量に浮いている黒い球の1つがエッジの目の前に移動した。


「貴様の麗しい顔は最後まで残すとしよう。その美しい顔が恐怖でどこまで歪むか?楽しみだよ。」


黒い球がゆっくりとソフィアへと動き出した。


「まずは手足の先から消滅させるとするか?その生意気な右手の人差し指、私を挑発する事がどれだけ失礼な事か分らせてやる!」



「本当にクズね・・・」



ソフィアが「はぁ~」と深いため息をした。



ドン!



ソフィアの足下の床がいきなり爆発した。


「な、何が起きた?!」


驚くエッジだったが、ソフィアが立っていた場所は砂埃が大量に舞い上がり、その姿が全く見えない。

しばらくすると砂埃が薄くなり、そこにはソフィアがゆらりと立っている。

あれだけの砂埃が舞っている中で立っているのに、真っ白な法衣は全く汚れていなかった。


「お、俺のシャドウ・バインドが・・・、身動き出来ない貴様がどうやって抜け出したのだ?」


「別に大した事はしてないわよ。」


ソフィアがニヤリと笑う。そして、その足下は・・・



右足を中心に床が無数にひび割れ、小規模なクレーターが出来ていた。



「普通に震脚をしただけよ。」


「そ、そんな・・・、身動きは出来ないはず・・・」


「そぉ、別に難しくはないわよ。例え身動きは出来なくても全身の筋肉は動かせるからね。体内の筋肉の運動エネルギーを一気に足裏に集中させただけよ。まぁ、軽くしておかないと床をぶち抜いてしまうし、また地下迷路に逆戻りは勘弁だったから、手加減するのが大変だったけどね。」



「ば、化け物め・・・」



エッジの額から大量の汗が流れているが、再びニヤリと笑う。


「だが、この大量のダーク・ボールには太刀打ち出来まい!これは触れたが最後!どのようなもので消滅させるのだ!もう生温い真似は止めだ!一気に消滅させてやるぅううううううううううう!」


その瞬間、大量の黒い球がソフィア目がけて飛んでいく。


「そんな児戯など・・・」


「ひゅっ」とソフィアの口から短い呼吸が発せられた。


「はぁああああああああああああああああああああ!」


ズドドドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


パァアアアン!


「白狼千手拳!」


一瞬で全ての黒球が消え去ってしまい、ソフィアが構えの残心をとった姿で佇んでいる。


「そ、そんなバカな・・・」

信じられない表情でエッジが棒立ちになっていた。

「素手で俺のダーク・ボールを・・・、対消滅せず俺の魔法だけが消滅なんて・・・」


「あら?別に難しくないし、簡単な事だったけどね。」


ボッ!


「がはっ!」


いきなりエッジが何かに叩かれたように後ろへと吹き飛んだ。そのままゴロゴロと床を転がっていたが、体勢を立て直し立ち上がる。


「何が?」


またもや信じられない表情でソフィアを見つめていた。

そのソフィアはまだ微笑んでいる。


「コレが答えよ。まぁ、あなたレベルじゃ分らないから教えてあげるわ。」


ボン!


再び何かが破裂した音がした瞬間、エッジの足下の床が弾けた。そのには拳大の大きさの穴が開いていた。


「難しい事はしていないわ。あの玉に高速で拳を叩き込んだだけよ。対消滅の反応が起きる前に拳を引き、衝撃だけを玉に伝えたのよ。たったそれだけね。」


「ば、バカな・・・、そんな動きは人間どころか俺でも出来ん・・・」


「そう?簡単だけどね。光よりも早く拳を打ち込めば良いだけなのよ。神と呼ばれる存在は誰でも出来るわ。私はそれを真似しただけ。」


「そ!そんなのが出来る訳がない!たかが下等生物の人間が神の真似事など!」



「奇跡・・・」



ソフィアがボソッと呟いた。


「奇跡だと?」


「そうよ・・・、人の想いの力はね限界は無いのよ。自分の体と心を極限まで高める・・・、その果てにある究極の現象・・・。それが奇跡よ・・・、人間が神をも越える力を発揮出来るの。私は神である師匠にこの事を教わった。あなたが下等生物と見下している存在だけど、時には神をも越える存在にもなれる。」




「それが人間!あなたは人間を舐め過ぎよ!」




フッ!


ソフィアの姿が掻き消えた。


「ど、どこだ?」


ドン!


「ぐほぉおおおおおおおおおおお!」


エッジが叫んだ瞬間、ソフィアが彼の前にいきなり現われたが、彼女の左拳が深々とエッジの脇腹に突き刺さっていた。


「リバーブロー!いくらバンパイアでもこの地獄の苦しみには耐えられないでしょうね。あなたは私に絶望を味あわせてあげると言ったわね?代わりに私があなたに絶望を教えてあげるわ。」


ソフィアのボディブローが深々とエッジに刺さっていたので、苦悶の表情でエッジが体を屈めた。エッジはソフィアと比べかなり身長が高かったが、屈んでしまった事により顔面がソフィアの顔の高さになっている。

屈んでしまった為、ソフィアの目の前に無防備な顔面を曝け出してしまっていた。

その隙をソフィアが見逃すはずがない!


ソフィアはエッジの右脇腹に突き刺さっていた拳を引き抜き、すかさずエッジの顔面に右フックを叩き込んだ。


グシャ!


「ぐはっ!」


右フックを叩き込まれ左へとエッジが吹き飛びそうになってしまったが、すかさずソフィアの左フックが叩き込まれる。


「へぎゃ!」


再び右フックがエッジの顔面に炸裂した。


ドン!


ドン!ドン!


ドン!ドン!ドン!


あまりにも高速でソフィアのフックが交互に叩き込まれてしまっているので、エッジは倒れる事も出来ずサンドバッグのように叩かれ続けていた。


「ひゃ、ひゃめてくれぇぇぇ・・・」


顔が腫れ上がってしまい、まともに喋る事も出来なくなってしまっているが、そんなエッジの懇願も無視し殴り続けている。

エッジは半ば意識を失い膝が折れ倒れ始めた。


「まだよ!」


倒れ始めたエッジの顎を、今度は斜め下からのショートアッパを叩き込み浮き上がらせる。


「ぎゅえ!」


顔面が再びソフィアの目の前に戻ると再び左右のフックの連打が続く。


ドン!


「た・・・」


ドン!


「たしゅ・・・」


ドン!


「へて・・・」


ドン!


エッジが気を失う事も出来す、微かに聞こえるようなか細い声で懇願していた。


「これで終りよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」



ドゴォオオオオオオオオオオオオオオン!



ソフィアの強烈なアッパーがエッジの顎を真下から捕らえた。

アッパーの直撃を受け、エッジはクルクルと回転しながら天井へと飛んでいく。



ゴシャァアアアアアアアアアアア!



エッジが天井に上半身をめり込ませているがピクリとも動かない。



サァアアアアアアアア・・・



塵となり消滅してしまった。


「少しはマシな相手かと思ったけど手応えが無かったわね。」


クルッと身を翻し扉へと歩き始めた。


「汚いモノを殴っちゃったし気分が悪いから、レンヤさんにリフレッシュさせてもらいましょうね。レンヤさん!愛しのソフィアが向かいますよ。待ってて下さいね。うふふ・・・」


軽やかにスキップをしながらソフィアが歩き始めた。

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