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137話 バンパイア達との対決⑤

SIDE  ???


「おい、これはどういう事だ?」


部隊長であるアルファ・ワン様がとても深刻な表情で通信の魔道具を見つめていた。


「隊長、どうかしました?」


私の言葉で気が付いたのか、慌てて私へと顔を向ける。


「デルタ部隊の反応が消え連絡すらない状態だ。我らアルファ部隊と双璧を成す精鋭部隊が・・・」


(なぜだ?)


あの部隊からの連絡が無くなった?

我ら法王様直属の影の精鋭部隊がだぞ・・・


影をまとめる序列四位でおられるエッジ様の直属10名で構成されている、影の中でも最上級のメンバーだ。

その10名をアルファ、デルタと5名づつに分け、今まで暗部としての仕事をこなしてした。

今までは1部隊での活動でも問題は無かったのだが、今回は部隊を合わせての作戦で勇者達を抹殺するはずだった。


これだけの精鋭が揃っているんだ。

勇者パーティーなど恐れる事など無い!


だが、過剰なくらいの戦力で聖女たった1人の抹殺指令が出た。

聖女1人の為にここまでの事をするとは信じられない。

メルボン、エダットの街で聖女の浄化魔法が侮れないとの上層部からの判断だった。


(たがが人間の女1人、いくら聖女だろうが我らに敵うはずがない!)


そう思っていた・・・



隊長の顔が時間が経つにつれ益々険しくなってきている。

私を含め、隊長以外の4人の隊員も緊張が伝わってきたのか、最初の頃にあった余裕の表情が無くなってきた。



「信じられん・・・」



隊長がポツリと呟いた。


「エッジ様から聖女はヒュドラの生息テリトリーに落としたと連絡があったが、どれだけ確認してもヒュドラの反応が無い。我ら5人総掛かりでないと倒せないヒュドラだが、どこに消えたのだ?その直後にデルタ部隊の反応も消えている。」


ゴクリ!と全員の喉が鳴った。


「まさか聖女が1人でここまで?」


私がそう呟いてしまったが、全員が黙っている。


しかし、その沈黙を隊長が破った。


「アルファ・ファイブ!そんなのはあり得ん!いくら聖女の称号を持っていようが、相手はサポートと回復しか能の無いたかが人間の女だ!たまたま魔道具の調子が悪いだけだろう。我ら影はエッジ様に恥ずかしい姿を見せる訳にはいかん!」


「「「そうです!」」」


流石は隊長!この悪い雰囲気を切り替えてくれた。

私が1番尊敬しているお方だ。


(一生付いていきます!)




ドォオン!



ドォオオオオオン!



ドォオオオオオオオオオオオオオオン!



(何の音だ?しかも段々と近づいている?)




「そ、そんな・・・」

隊長が真っ青な顔で魔道具の画面を見ている。

「か、各部屋のガーディアンの魔物の反応が次々と無くなっていく・・・」


ゾクッ!


(何だ?この悪寒は?)


とてつもない恐怖が全身を貫いた。

バンパイアたる私が恐怖だと?


それにこの音は?



「に、逃げるんだぁあああああああああ!」



隊長がいきなり怒鳴った。

こんなに慌てている隊長の姿は初めて見る。


その瞬間・・・



ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!



壁がいきなり破裂した。


衝撃で埃と砂塵が舞い上がる。


(な、何が起きた?)



ズシャッ!



「だ、誰だ!」


信じられない光景を目撃してしまった。

崩壊した壁から現われたのは・・・



「う、美しい・・・」



思わず見惚れてしまう。

ここまで美しい女性がいるなんて・・・


腰まであるサラサラな金髪にエメラルドグリーンの澄んだ瞳。誰もが一目で虜になってしまいそうな優しい微笑みだけど、その微笑みの中に凜とした強靱な意志を感じる。

そして、これだけの埃と砂塵が舞っているのに、その女性の服は染み一つ付いていなかった。

真っ白な法衣に金の豪華な刺繍が施されている。

このジメジメで陰気な地下迷宮の雰囲気とは真逆の存在だ。


目の前の存在が誰かすぐに分った。


「こ、この人が聖女・・・」


ドキドキと心臓が脈打つ。

私はこの地下での任務があったので、聖女の姿を見たのは今回が初めてだ。

我らバンパイアでさえ魅了されるとは・・・


上層部が危惧されるのは分る。

我ら誇り高いバンパイアが人間の女に見惚れてしまうなんて屈辱だ!



しかし!



聖女が我らよりも下の存在だと思った事は間違いだったと、骨の髄まで思い知らされてしまった。



ゾクッ!



(何だ!この背筋を突き抜ける殺気は?)


目の前にいる聖女の視線が突然変わった。

まるで目の前にいる全ての存在を射殺すのでは?と思える程に冷たい視線で我々を見ていた。

ガクガクと足が震えてしまう。

たかが人間の女なのにここまで殺気を放つ事が出来るのか?我ら影の頂点でおられるエッジ様でもここまで冷え切った殺気を放つ事は出来ない。


ゆらりと我々を見渡してから口を開いた。


「どうやらここが終点みたいね。あなた達の後ろにある階段を登れば地上に上がれるのかしら?迷路なんて今はまともに攻略する気も無かったから、最短距離で壁を突き破りながらあなた達の気配を追ってきたけど、どうやら当りだったみたいね。」


(壁を突き破りながら最短距離でここまで来たと?)


「し、信じられん・・・」


隊長が青い顔をしながら呟いている。私も今の聖女の言葉が信じられない!

この迷路の壁を突き破るのは私達でも不可能だ!

しかも!今の聖女の手には何も持っていない。素手でどうやってこの壁をぶち破ったのだ?

それにだ!数部屋ごとに魔物を放っている。例えあのヒュドラの部屋からここまで一直線で来ても、途中で何部屋を通過すると思っているのだ?全ての魔物を倒さない限りここへは来る事が出来ない。


(それこそあり得ない話だ!)


「ふ、ふざけるなぁああああああああああ!」


隊長が剣を抜き聖女に斬りかかった。



パキィイイイイイイン!



甲高い音が聞こえたと思った瞬間に部隊長の動きが止まっている。


いや!聖女の両腕が部隊長の胸に突き刺さっている。

右手に握っていた剣が半ばで折れ宙に舞っているのも見えた。


「白狼金剛神掌!」


「うぼぁああああああああああああああ!」


ドムッ!


部隊長が断末魔の悲鳴を上げ、直後に背中が弾けた。内臓や骨が血と共に飛び散る。


直前まで何が起きたのか全く見えなかった。

剣を折った?どうやって?

部隊長が一撃で?

聖女とは何者?


色んな思考がグルグルと頭の中を回っている。


「私の気を注入した破壊だから、いくらバンパイアでも復活は出来ないわよ。」


聖女が変わらず冷たい視線で、倒れた部隊長を見下ろしていた、

部隊長の体が砂となり崩れ消え去った。


エッジ様の次に強い部隊長がたった一撃で倒されてしまうのは信じられなかった。

だが、私の目の前に起きている事は現実だ。



「さて、残りは4人ね。さっさと終わらせるわよ。」


聖女がニヤリと笑い腰を落として構えをとった。

右足と右拳を前に出して体は相手に対して直角に向け、体の中心の急所は絶対に相手に向けないようにしている。

こんな構えは見た事が無い。

しかし!聖女から発せられている殺気は、今まで感じた事がない程に強烈だった。


(こんな殺気はエッジ様でも出せないレベルだ!聖女は何者なのだぁあああああああ!)


「ダークレイ!」

「ダークフレア!」


サードとフォースが魔法を放った。

黒い火球と光線が一直線に聖女へと高速で飛んでいく。

一連の動作から聖女は徒手空拳が得意そうだ。そうなると、遠距離からの魔法では手が出ないはずだ!


「甘いわね・・・」



ドン!



(嘘だろう・・・)


目の前で起きた事が信じられなかった。

前に突き出していた拳を軽く左右に振るだけで魔法をはじき返していた。

素手で魔法を跳ね返すなんて今まで見た事も無い!

聖女は本当に何者なのだ?


見た目は真っ白な法衣を纏っている絶世の美女だが、中身は本当に人間なのか?


ふと、頭の中にある言葉が浮かんできた。



『悪魔』



この世界に存在しないが、女神教の教えの中で神と敵対する者と言われている。

その力は神と同等であると・・・


悪魔が聖女の姿でこの世界に現われたのか?


そう思った瞬間に全身がガタガタ震えた。

そんな存在に我々が敵う訳が無い!



「しっ!」


聖女の鋭い呼吸が聞こえ我に返った。

魔法を放った2人へと駆け出し、あっという間に2人の前まで移動している。

しかし、その動きがまるでダンスを踊るように軽やかにステップを踏んでいた。


サードの右手首を掴み頭に手を乗せ一気にジャンプし、サードの後ろへと立った。

しかし、手首を掴みながら後ろへと回ったので、サードの肩の関節が外れ利き腕は使い物にならなくなっている。

それよりももっと恐ろしい事を聖女は行っていた。

サードの頭から手を離さず後ろへと回り込んだので、首がそのまま180°回転してしまっている。その状態のまま肘を背骨の中央に当てた。


ボキィイイイイイイ!


上半身が肘を支点にくの字に折れ曲がった。同時に首も後ろへと90°折れ曲がっていた。

いくらバンパイアでも同時に首と背骨を折られてしまってはすぐに回復は出来ない。

聖女の右手が仄かに白く輝いたと思った瞬間に、サードの上半身が塵となって消えた。


あまりの事で隣にいるフォースは一瞬硬直し動けないでいた。


その隙を聖女は見逃さなかった。

腕を取り足を払うと、フォースは練習の人形のように床に転がった。

しかし、聖女はただ転がすだけの事はしなかった。

フォースが転がった瞬間、膝を喉に落とした。


「がっ!」


フォースの短い悲鳴が聞こえたが、床に転がったまま動かなくなった。

すぐに下半身だけになったサードと共に砂となって崩れてしまう。


一瞬のうちに2人も瞬殺だと!しかも部隊長も含め反撃する間もなく葬り去るなんて・・・


(やはりアレは悪魔だ!)


あっという間に3人も撲殺しているのに、真っ白な法衣には返り血どころか埃すら付いていない。


「白い悪魔・・・」


ゴクリと喉が鳴った。



「アルファ・ファイブ・・・」


私の前にいるセカンドが私の名前を呼んだが、その顔は血の気が引き蒼白だった。


「お前はすぐにここから脱出し、すぐさまエッジ様に報告しろ。アレは人間では無い、正真正銘の化け物だ。間違い無くエッジ様、いや!法王様よりも強大な存在だ。我らでどうにもならん。すぐに逃げるように伝えるのだ。」


「セカンド、お前は?」


「お前を逃がす時間稼ぎくらいはするさ・・・」


セカンドが悲しそうに俺に微笑みかけた。


「セカンド・・・」



「後は頼んだぞ!」



叫びながらセカンドが聖女へと飛び出した。



ドパン!



「あ”!」


聖女が一突きしただけでセカンドの胴体が消し飛んだ。

直後にセカンドの体が塵となって消えた。


ゆらり・・・


聖女がゆっくりと私へと向き直る。

セカンドの時間稼ぎも全く役に立たなかった。


(もう逃げられない!)


だがエッジ様には聖女が危険な存在だと伝えなくてはならない。


(方法は?)


今回は私が通信の魔道具を持っていた事を思い出した。

これならエッジ様に連絡が出来る!


ジリジリと聖女が近づいてくる。

魔道具のスイッチを入れた。


(よし!これで!)


「こ、こちらアルファ・ファイブ!」


【どうした?アルファ・ワンは何をしている!】


エッジ様の魔道具に繋がった!


「エッジ様!アルファ部隊は私を残して全滅に・・・、部隊長は真っ先に滅ぼされれしまい、このままではデルタ部隊と同様にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


あぁあああああああああああ!聖女が!


【アルファ・ファイブ!どうした!何が起きているのだ!】


聖女がもう目の前に!


「ひっ!く、来るなぁああああああああああ!エッジ様!我々は決して手を出してはいけない存在に手を!」


【だからどうしたのだ!】


聖女が!いや!悪魔が!白い悪魔が拳を私へと!


「あ、悪魔が!白い悪魔がぁああああああああああ!や!止めてくれぇええええええええええ!うぎゃぁあああああああああああああああああああ!」


無慈悲な拳が私へと振り下ろされた。


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