表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

133/335

133話 バンパイア達との対決①

教会までの道のりは何事もなかった。

いや!この状況じゃ誰も手出し出来ないだろう!


「こうも恥ずかしいなんて、アレックスさんやセレスティアさんはよく出来ましたね。もう2度とやりたくないですよ。」


とっても疲れた顔をしたソフィアが横に立っていた。



それもそのはず・・・



教会が用意したオープンタイプの馬車に乗せられて教会までパレードをしていた。


(まさかこんな手を使ってくるとは予想外だった。)


オープン馬車にはソフィアを先頭にし、俺、ラピスが乗っていた。というか!乗せられた!

伝説の勇者パーティーが復活したお披露目の名目でパレードを行ったからだ。

俺達の馬車の後ろには元々の馬車が追随している。その中にアン、シャル、テレサ、フランが乗っていた。

メイド3姉妹は万が一を考慮してフォーゼリアの王城に避難させておいた。


(もちろん転移でこっそりだけどな。)


しっかし、こうして強制的パレードをされてしまっては・・・


確かにバンパイア達からの不意打ちは不可能だろう。その点は安心出来るのだが、逆に俺達も何も出来ない。

こうも観衆が多くては、教会に対しても協力的な態度をとらなくてはならない。

ここは聖教国の首都でもある聖都ウインブルだ。いくら俺達が勇者パーティーだろうが、ここでは教会の方が上の位置付けになる。


だから、教会からのパレードの提案も無下に断る事は出来なかった。


(教会の思惑に乗せられてしまったな。パレードと言っても護送されている気分だよ。)


教会の前には門にいた人達以上の人々が待ち構えていた。

ここまで熱狂的とは・・・


『聖教国』


狂信者の国と他国で言われているだけある。




話は冒頭のソフィアの愚痴に戻る。



ソフィアはニコニコと微笑みながら観衆へと手を振っていたけど、元々が引っ込み思案な性格の彼女はあまりパレードは得意ではなかった。

俺とシャルの婚約パレードでもソフィアとラピスも一緒にパレードをする計画があったけど、ソフィアがかなり嫌がったので、結局は俺とシャルだけのパレードになってしまった。


(俺だって恥ずかしかったぞ!シャルはさすがに王族だけあって、大勢の前で立つのは慣れていたみたいだったけどな。)


聞けば、500年前の時も魔王を倒した時の凱旋パレードも、ソフィアは辞退してアレックスとセレスティアさんが行ったとの事だった。


(圧倒的な強さを身に着けても、こんなところは変わっていないんだな。)


頑張ってニコニコ顔で手を振っていたけど、教会に着いた時は精神的にかなり疲れてしまったのかグッタリとしていた。


「バンパイアどもめぇぇぇ・・・、徹底的に〇〇を叩き潰して、すり潰して、二度と男として生きていけないようにしてやるからねぇぇぇぇぇ~~~~~~~~~」


ヤバイ!ソフィアがダークモードに入りかけている!

俺の下半身も思わずブルッとなってしまった。


(ソフィアよ・・・、そろそろ『玉潰し』キャラから離れてくれないかな?いつかは俺の『玉』もソフィアに潰される気がしてきた。)




巨大な正門を馬車のままくぐり、教会の中へと入っていった。

そのままホールまで案内される。


ぱっと見100人近くの神父、司祭、シスター達がズラッと並び俺達を出迎えてくれた。


(この反応は?)


「ねぇ、レンヤ・・・」


ラピスがソッと俺に耳打ちをしてきた。


「分っている。」


「全員がバンパイアとはね。500年でよくここまで増やしたわね。」


ラピスが感心したように見ていたが俺もそう思った。


バンパイアを増やす方法は3通りある。


1つ目はフランやユウ達のようにキラーバットから進化する方法だ。

だけど、この方法でバンパイアになるのは希で、奇跡的にバンパイアになれても最下位の能力しかない。フランやユウ達のような進化は普通は絶対起きない程のイレギュラーな進化だった。


(まぁ、俺達の血が異常なだけだったのだよな。)


こんな事が奴等にバレてしまうと大変危ない。

今のところはソフィアの聖女である特別な血だけしか狙われていないが、念には念を入れてバレないようにしよう。


2つ目は男と女のバンパイアが番となって子供を作る事だ。人間の夫婦みたいな感じだろう。

だが、エルフ以上に寿命の長い(ほぼ不死と言われている)彼らの間にはなかなか子供が出来ない。そもそもバンパイアは強さ=序列の考えが強いから恋愛感情というのも希薄だったりする。

露骨に俺に好きと言って結婚を迫るフランや、感情が豊かなユウ達は例外な存在だろう。


(あ!)


そう言えば、ナブラチルさんもバンパイアの中では珍しい部類かもしれん。

アンもあれだけ喜怒哀楽が激しいバンパイアは見た事が無いと言っていたな。


(そのおかげでユウ達と仲良くなれた事には感謝だ。いつかは本当の家族になったりしてな。)


10年後に夫婦になるとは、現時点では想像してなかったよ。

しかも!すぐに子供も生れたのにはアンもラピスも奇跡だと言っていた。


1つ目や2つ目の方法ではここまでのバンパイアは増やす事は無理だろう。

ここ以外でもメルボンの街やエタッドの街にも多くのバンパイア達がいた。


(ここまでの数を増やすには・・・)


最後に3つ目の方法、この方法がバンパイアが『吸血鬼』と呼ばれる由縁だ。

そして確実に数を増やす事も可能だ。


バンパイアの吸血行為は相手の精気を取り込む事が本来の目的であるが、その時に相手を眷属化させる事も可能である。眷属化するとその人間もバンパイアとなり、身体能力は人間とは比較ならないくらいに向上する。そして寿命もほぼ永遠になるのだが、欠点もある。

血を吸われた人間はそのバンパイアの奴隷となり命令の拒否は出来ない。

また、バンパイアという魔物と化しているので、年数が経つにつれ人間としての自我が無くなり、本能で行動するまさしくモンスターとなってしまう。

その成れの果てが生ける屍グールだ。グールになってしまう前に眷属化させたバンパイアを倒せば、元の人間に戻る事は可能だ。しかし、奴隷と化してしまった状態では命令にも逆らう事も出来ず、結局は闇の住人となってしまう最後しかない。

だが、グールになってしまえば最後、もう人間に戻る事は出来ない。

生ける屍となってしまい、いくら俺達でも安らかに眠らせてあげるしか方法が無かった。


この眷属化は任意で出来るけど、そのバンパイアが相手の事を余程気に入りずっと手元に置きたい時に使う手だ。だけど、基本的に人間は下等生物としか思っていない連中だから、奴隷を増やす考えしか持っていないだろう。それ以外には美しい女性をコレクションするゲスな奴等だな。


(バンパイアと人間のラブロマンスは聞いた事が無いしな。)


それか、戦力の増強として人間を眷属化し兵隊として使役するかだろう。


今の目の前にいるバンパイア達はこのような感じで間違いないと思う。



(しかし、どうする?)



今までの街みたいにあからさまに敵対行動をしてくれば俺達の行動も簡単なんだろうが、今、目の前にいるバンパイア達は単に並んでいて頭を下げている。

戦闘を意識して気合いを入れて中に入ったけど、敵対の意志が全く感じられないから肩透かしを食らった気がする。

この状態で相手がバンパイアだからといって俺達から手を出す事は出来ない。


どう対応するか悩んでいたところに5人の男が前に出てきた。

後ろにいるバンパイア達と比べ強さは別格だな。多分ロードからハイロードクラスに間違いないだろう。


ザっと俺達が身構えたが男達はにこやかな顔を崩していない。

その雰囲気が更に不気味さを掻き立てた。


「勇者殿」


5人の中から更に1人が前に出てくる。


(何だ?)


男達が深々と頭を下げ、しばらくしてから再び頭を上げる。


「どうやら誤解されているようですが、我々は一切勇者殿方々には敵対行為をするつもりはありません。あなた方のご想像通り我々はバンパイアですが、戦いは嫌いなのです。あのナブラチルやフェーデのような愚か者と一緒にしないでもらいたいものです。」


「そうなのか?」


「そうです。でないと、こうして皆様を歓迎でお迎えする事はありませんでしたからね。」


「レンヤ・・・」


ラピスが俺の袖を引っ張っている。

お!念話を送ってきた。


【白々しいけど、ここで私達が暴れる訳にいかないわ。そんな事をしたら私達の方が立場が悪くなるし、それこそ相手の思うツボね。】


【私もそう思うわ。】


ソフィアも相手に気付かれないようにゆっくりと頷いた。


【仕方ないな。相手の思惑に乗ってみるか。まぁ、俺達には転移の指輪もあるし、万が一はそれで逃げれば大丈夫だろう。】


【【【そうね】】】


アン達も含めみんなが頷く。


「どうかされましたか?」


男が心配そうに俺達を見ているが、俺達は念話で会話しているから話の内容は漏れていない。

そのままこいつらに合わせてみるのも悪くないだろう。


「いや、大丈夫だ。こうも熱烈なな歓迎を受けた事が無かったから、嬉しくてちょっとびっくりしていただけだ。」


「そうですか。喜んでいただけで何よりです。」


男が奥へと手を伸ばした。


「それでは皆様をご案内致します。」


(さて、どう出てくるか?」)






「しまったなぁ・・・」


俺の隣にはテレサしかいない。

各自バラバラにされてしまった。


俺とテレサ、アン、ラピス、ソフィア、シャルとフラン、完全にバラバラになっている。

5人のバンパイア達が個別に案内すると言ってきたし。その提案にそのままのってしまったのもあるけどな。


(ちょっと舐めてたかも?)


その一人の案内で部屋に通された。


「兄さん、大丈夫よ。多分だけど、誰も傷一つ付けられないと思うわ。」


「そうだな。あいつらの強さは良く分かっている。」


かなり広いホールだったが、目の前には女性のバンパイアが数十人待ち構えていた。

どう見ても歓迎されているような雰囲気では無い!それは断言出来るよ。


俺達を案内してきた男が部屋に入るなり態度が急に変わったし・・・


(まぁ、予想通りだったけどな。)


「がはははぁああああああああああああ!俺は序列5位のリーバーだ!勇者よ!いくら貴様でも不死の我らに敵う訳が無い!聖女は序列4位のエッジが仕留める筈だ!安心して殺されるんだな!」


女達の後ろにリーバーが立っていた。


「う~ん・・・、弱ったな。」


「兄さん、どうしたの?バンパイアぐらい別に全滅も簡単じゃないの?」


「そうなんだけどな、ほら、女バンパイア達の首筋を見てみな。」


彼女達の首筋には牙が立てられた痕があった。

あのリーバーに吸血行為をされ眷属化されたのだろう。


「兄さん、あの傷は?」


「多分だが、あのバンパイアに噛まれ眷属化され操られているのだろうな。」


「許せないわ・・・」

テレサの怒りに火が付いたみたいだ。全身から殺気がゆらりと立ち上っている。

「助ける方法は無いの?」


「簡単だ。噛まれて眷属化され操られているなら、操っている本人を倒せば呪縛は解ける。あれは一種の呪いみたいなものだからな。だから、元を絶てば良い事だ。」


「分ったわ。アイツは私が倒す。女を操るだけじゃなくて、その後ろにふんぞり返っているなんて絶対に許さない!私には聞こえるわ、彼女達の泣き声が・・・、早く解放して欲しいって声がね。」


テレサが収納魔法から聖剣ミーティアを取り出し構えている。とてもやる気になっているから、今回はテレサに任せよう。


「テレサ、それじゃ俺は女バンパイア達を抑える。その間に頼むぞ。」


「任せて!兄さん!」


その瞬間にテレサがバンパイア達の方へと飛び出した。

最近はソフィアに鍛えられているだけあって、以前と比べても動きのキレが良い。


「さて、テレサの援護だ!グラビティ・プレッシャー!」


右手を前に突き出し魔法を放った。


メキョ!


女バンパイア達が一斉に床に這いつくばっている。

俺の放った超重力の魔法で立っていられなくなっていた。いくらバンパイアの身体能力とはいえども、かつて魔王にトドメを刺したラピス直伝の重力魔法だ。そう簡単には破れないからな。」


「兄さん!サンキュー!」


テレサが跳躍し女バンパイア達を一気に飛び越え、リーバーへと斬りかかった。



ザシュ!



「ちっ!」


テレサが忌々しい表情で舌打ちをしている。


「手応えが無い・・・」


テレサの表情とは正反対にリーバーはニヤニヤ笑っていた。


「ぐふふふ、これが聖剣ミーティアか?さすが伝説の剣だけあって凄まじい切れ味だ!だけど残念だったな。どんなに切れ味が良くても俺は切れん。」


リーバーの体が霞む。


(これは!)


「俺は霧!霧に物理攻撃は効かん!剣士であるお前にとって俺との相性は最悪だっったな。」


(確かに・・・)


バンパイアの固有能力にコウモリや霧に変化出来る。

さすがに霧になってしまうと剣では切れないだろうな。空気を切るようなものだ。


「お前の美しさはこの女共と比べても別格だな。喜べ!お前は殺さないでおこう!そしてコレクションに加える名誉を与えてやる!お前では俺には勝てない。大人しく俺の牙を受け入れるんだな。永遠に美しいままの姿を与えてやろう!ふはははははぁあああああああああああああああ!」


(もう勝った気でいるなんて、だけどな・・・、テレサを舐めるなよ。)


テレサの目がスッと鋭くなる。


「な~にを言っているのこのバカは?私があんたのコレクション?ふざけないで・・・、私は兄さん以外の誰のものにもならないのよ。私を束縛する事、私を好きにしていいのは兄さんだけなの・・・、あぁぁぁ、気持ち悪いわ!あんたの私を見る視線だけでも吐き気がする。兄さんと私を引き離そうとするなんて・・・、万死に値するわ・・・」


ニタァ~と、テレサがとても怖い笑顔で微笑んだ。


(うわぁ~、久しぶりのヤンデレモードのテレサだよ。)


「あんたみたいなカスには勿体ないけど、冥途の土産に見せてあげるわ。」


「ふ!ふざけるなぁああああああああああ!」


リーバーが真っ赤な顔で怒鳴りながらテレサへ殴りかかった。



スチャ!



テレサが剣を水平に構えた。



カッ!



剣が一瞬だけ輝いた。





静寂が辺りを包む。



「無蒼流秘奥義・・・、無塵斬・・・」



テレサが呟くと、動きの止っていたリーバーが慌てて自分の体を確かめていた。


「な、、何だ?何も起きていないではないか・・・、そんなこけおどしで・・・」



サァァァ~~~



「な!何だ!これはぁああああああああああああああ!」



リーバーの手足の先から煙のように消滅が始まった。


「何が起きた・・・?」


顔面に大汗をかきながら狼狽えているが、テレサはニヤリと笑った。


「あんたの体は霧に変化して剣が通じないと思っているけどね、この技は刹那の間に数億回の斬撃を放つの。そして私が切るのは単に物ではないわ。これは原子を斬る技・・・、物質としての存在そのものを葬り去る斬撃よ。」



「人間ごときが、そ、そんなバカな・・・」



「この技を受けたが最後、塵のように消え去り無となるだけ・・・、例外は無いわ。」



「い!嫌だぁあああああああああああああああああああ!不死たる俺が!生物の頂点の俺が!下等な人間に負ける?そんなの・・・、死にたくなぁああああああああああああああああああっいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」



ザアァァァ!



リーバーが叫んだ瞬間に全身が煙のように霧散し消滅してしまった。


残心の姿勢だったテレサが俺に向き直り微笑んだ。


「あまりにも弱くて手応えが無さ過ぎたわ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ