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132話 聖都ウインブルに到着

さて、無事に聖都に着いたの良いとして・・・


「この光景は何なのだ?」


街の門の前には女神教の司祭やシスターがズラッと並んでいた。

その後ろには街の人だろうか、ざっと見でも数百人は教会関係者の後ろに並んでいた。

まぁ、あいつらの使い魔がずっと上空で監視していたのは知っていたし、そのまま何もせず放置していたから、俺達がこの街に来るタイミングは分かっていただろうな。


それにしても・・・


エタッドの街のように事前に襲われるかとも想像していたが、全くそのような気配も感じずに、予想を裏切りまさかの大歓迎で迎えられるとは想像していなかった。

街に入る門の前だけど、教会から街の人々に事前に連絡が届いていたのだろう。


『聖女様御一行!大歓迎!』


と、大きな旗やのぼりを手にした人々が入り口で待っていた。

もちろん、人々の先頭には教会の関係者であろう神父やシスターもたくさん並んでいる。

どの人も目を潤ませ、ソフィアをこの目で見ようと張り切っているのは見え見えだけどな。


(ホント、この国のソフィア人気はとんでもないな・・・)


「ねぇ、レンヤ・・・」


隣にいるラピスが苦虫を嚙み潰したような顔で俺を見ていた。


「目の前のいる人達は普通の人間ね。ただ、目の前の数人に邪眼で操られている魔力を感じるわ。邪眼で操ってこうして人々を扇動しているのでしょうね。」


「俺にもそれは分かっている。俺達は勇者パーティーだから人々に危害を加えないと・・・、こうやって人を盾にして後ろから様子を伺っているのだろう。隙を見せれば一気に暗殺される可能性もある訳だ。」


「それは確実ね。さて、どうしようかしら?」


「レンヤさん、ここは私の出番ね。」


スッとソフィアが馬車から降りてきた。


「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」


とても煌びやかな法衣を纏ったソフィアが降り立った瞬間、目の前の人々全員がソフィアにひれ伏した。


「私がこうして目の前にいれば、あいつらも簡単に手出しは出来ないでしょうね。」


パチンと俺にウインクをしてくれる。


「みなさん、どうか落ち着いて下さい。」


目の前の人々に声をかけるが、人々は更に頭を下げてしまった。


(ソフィアの人気はハンパないよ!)


しかし、人々の後ろから数人の男達が現れ、ゆっくりと歩きながら近づいてきた。


(この反応は・・・)


「レンヤ・・・」


ラピスが鋭い目で俺を見ている。


「あぁ、間違いない。どうやらお出ましのようだな。」


サーチの反応には『バンパイアロード』と脳裏に表示が浮かんでいる。


しかし、ソフィアの方はラピスと違いニッコリと微笑んで俺を見ていた。


【レンヤさん、大丈夫よ。いくら何でもここで下手な事はしないでしょうね。多分、教会へと案内されるでしょうから、そこで勝負になると思うわ。】


念話を送ってきたけど俺もそう思う。お互いにここで下手な行動をすればマイナスの結果にしかならない事も分かっているだろう。

特にバンパイア達は教会を隠れ蓑にして勢力を広げてきた。教会は信者あってのものだし、信者に対してマイナスのイメージを持たせる訳にいかない。特に、今はソフィアがいるし彼女を敵に回すような行動は絶対にしないだろう。


(今はな・・・)


その男達が俺達の前に立ち、ゆっくりと膝を付き頭を下げた。

1人の男が頭を上げ俺達へと顔を向けた。


「これは勇者様に聖女様、こうして直接お目にかかれるとは感激の極みでございます。」


【ふふふ、白々しいわね。】


ラピスが念話を送ってきたけど、まぁ、そんなものだろうな。

そして、男達の視線は馬車の中に向いているのも見え見えだった。


(バンパイア達の狙いはナブラチルさんの情報通りアンか?)



ガチャ!



再び馬車のドアが開いた。



「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」



ソフィアが出てきた時以上に大きな歓声が上がった。


「こ、これ程まで美しいとは・・・」


目の前の男達の一人が呟いた。


メイド服を着たテレサに手を引かれアンが出てきた。

アンの服装はいつもの旅人の服装ではなく、俺と初めて出会った時の青いドレス姿だったが、金色の角は偽装の魔法で見えなくしている。

瞳は偽装を施す事なく金色の瞳だ。しかし、この瞳がかえってアンを神秘的な美しさに引き立てていた。

その姿はまるで教会に飾られているフローリア様の絵のように、とても厳かな雰囲気を纏っていた。


そのアンがソフィアの横に立った。

まるで女神様が2人ここに降り立ったのでは?と思う程に幻想的に見える。


(見慣れているはずの2人なんだけど、こうして凛としている姿はあまり見た事が無いな。惚れ直すよ。)


2人の圧倒的な美しさに目の前にいる人々も声すら上げずに見とれていた。

バンパイアロード達も同様だった。


「こ、このお方が・・・、法王様の・・・」


思わずだろうが、バンパイアロードの1人が言葉を洩らした瞬間にハッと我に返ったようだ。

急に顔が真剣になり俺を見つめる。


「勇者様、聖女様の隣におられる女性は?」


おいおい・・・、思わずポロっと言ってしまった事は分っているんだぞ。

まぁまぁ今は聞かなかった事で知らないふりをしていた方が良さそうだな。


「この女性はある国の貴族のご令嬢様だよ。今は訳あって俺達と一緒にいる。」


「さ、左様ですか・・・」


白々しいけど、アンの美しさはバンパイア達にとって予想外だったようだな。

ナブラチルさんとアンのやり取りを思い出すよ。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「我々バンパイア達の序列一位でアーガンと名乗るバンパイアロードは、500年前の魔王四天王の1人であるデスロードの部下でありました。」


「アーガンですって!」


今まで黙っていたアンがいきなり叫んだ。


「アン、突然どうした?」


「レンヤさん、ゴメン・・・、でもね、今のアーガンって人は覚えているわ。確かデスロードの副官のはずよ。」


デスロード・・・


俺はこの名前はしっかりと覚えている。

魔王四天王の1人で死霊騎士団を率いていたからな。主にバンパイアやワイト、レイスといった不死族の属性の魔物を中心にした部隊だった。

俺とアレックスとは特に戦いの相性は悪かったが、ソフィアの聖魔法のおかげで終始有利に戦えたよ。

副官の事までは俺は知らないが、アンは魔王軍にいたから部下も記憶があったのだろうな。

そのアーガンは俺達の戦いで生き残った訳だ。それか、別の任務で戦いの場にいなかったのかもしれない。


「それで、アン、そのアーガンってヤツはどんな男だったのだ。」


突然、アンが困った顔をしてしまった。

何か嫌な思い出でもあるのだろうか?


「い、いえねぇ・・・、当時のバンパイア一族の中では天才だと言われた程に優秀な人材だったわ。レッサーバンパイアだったけど、実力はバンパイアロードに匹敵していたし、その実力を買われてデスロードの副官として大抜擢されたって、魔王城では有名な話だったのよ。」



「はいぃぃぃ?」



何だ、今度はナブラチルさんが変な顔をしている。どうしてだ?


「あ、あのぉぉぉ、失礼ですが、あなた様は魔族ですよね?魔族が500年前の事を覚えているなんて信じられないのですが・・・、そんな長生きの魔族は存在しないはずですよね?」


あ!そうか!


「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はアンジェリカ、かつての500年前に存在していた魔王の娘です。」


「へ!アンジェリカ・・・、500年前の魔王の娘?」


ナブラチルさんの顔がみるみると青くなってきた。

しばらく放心状態だったが、急に我に返ったと思ったらいきなり土下座をしてしまった。

今までの俺達に対する謝罪の時の土下座とは違い、床に額がめり込むのでは?と思う程に可哀想なくらい必死に土下座をしていた。


「し、し、し、し、し!失礼しましたぁああああああああああああ!」


「一体どうしたのですか?そんなに怯えてしまって・・・」


アンが慌ててナブラチルさんの前に座り、手を取って頭を上げさせ座らせた。

そのナブラチルさんだが、アンの顔を見つめ涙を流していた。


「ほ、本物のアンジェリカ様ですよね?」


「そうですが何か?」


「アンジェリカ様が今、私の前に・・・、こんな幸せな事はございません。」


ナブラチルさんが片膝を付いた臣下の礼をアンに取り深々と頭を下げた。


「500年前の魔王様と勇者との戦いで生き延びたアーガンが言っていました。」


『魔王様の御息女でおられますアンジェリカ様は、勇者との最終決戦の直前に魔王様の手により長き眠りにつかれたと・・・、そして、いつかの未来に蘇り我々魔族領の人々をお導きになられる。その伴侶になるのは私アーガンであり、その為にもこの世界を私が手に入れ、アンジェリカ様の忠誠の証とするのだ。』


「ははは・・・」


アンが苦笑いしているよ。


「アン、どうした?」


「そのアーガンの話はね続きがあるの。彼は確かに天才だったけど、当時は私よりも年下で可愛い弟みたいな人だと思っていたのよ。でもね、何か私を見る目が性的な意味で全身を舐め回すように見てちょっと怖かったり、事ある度に私の前に偶然に現われたりしたわ。外観はとってもハンサムだったし、いつも流し目で私の気を引こうとしていたわね。父のおかげで男性と触れ合う機会はほとんど無かったけど、いくら私でも気持ち悪いと感じた程ね。」


(やっぱり)


「アン、そいつはアンのストーカーだよ。しかも、世界を手に入れアンにプレゼントするつもりだなんて、そこまで病的なんて呆れて何も言えんな。」


「実は私もそう思っていました。事ある度に『アンジェリカ様、アンジェリカ様』って言っていましたからね。ですが、彼の実力はバンパイアでも最強ですし、強さ=序列の我々には彼に逆らう事は出来ませんでした。ですが、我々が人間を支配するうちに私も人間に対して優越感が湧き調子に乗っていたと思います。そんな私のくだらないプライドを皆様が粉々に砕いてくれ、正気に戻して下さり感謝しかありません。」


「それにしても教会を使って支配するのは考えたものね。」


ラピスが感心したように頷いていた。


「普通に武力で支配しても、そう簡単に長続きはしないからね。絶対君主や独裁なんて歴史が物語るように決して長続きしないのよ。唯一長く続いているのは宗教ね。」


確かにそうだ。

しかもだ!光の象徴でもある女神教が実は闇の住人の巣窟だったとは誰も想像していないだろう。

今はこの国だけを把握しているが、下手をすれば世界中の教会を支配していたかもしれない。

バンパイアは魔物に分類されていはいるが、不死族と言われるだけあって寿命はエルフ以上に長いし、上位のバンパイアはそれこそ1000年単位で生きると聞いている。

そんなバンパイア一族は500年前の俺達との戦いで滅びたはずだった。


(その生き残りがいたなんて・・・)


しかも、アスタロト家のようにアンが封印されていた事も知っていたなんてな。


(500年前からの因縁はそう簡単に終わっていなかった訳だな。)


「ナブラチルさん」


「は、はい!」


ん?アンがナブラチルさんに話しかけたけど、何の用だ?


「私達は500年前からの因縁の精算を行いに聖都ウインブルへと行きます。聖都の法王は私達が倒しますが、単純に倒すだけではこの国は乱れてしまうでしょうね。だからナブラチルさん・・・」


「はい!」


「あなたが聖女となってこの国の代表になりなさい。」


「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」


ナブラチルさんの絶叫が響き渡ったけど当然だろう。

いきなり国の代表になれって言われるしな。


ほら、以外とテンパりやすいナブラチルさんだ、また顔が真っ青になっているぞ。

その彼女の手をアンがそっと握った。


「ナブラチルさん、あなたなら大丈夫・・・、今のあなたなら信者のみなさんを導ける存在になれるわ。」


「そうよ、私も協力するからね。」


ソフィアもナブラチルさんへ寄り添った。


「レンヤさんの血はキラーバットをフランちゃんやユウ君達みたいに神祖や真祖に進化するほどに強力な血だから、あなたには強すぎて毒になるかもしれないわ。でもね、私の血ならあなたを聖女に出来るかもしれないと思うの。私の称号は『大聖女』だし、今のあなたの資質なら大丈夫と思うわ。」


「そ、ソフィア様・・・」


「まぁ、それが嫌なら私のこの拳で徹底的に鍛えて聖女にしちゃうけどね。」


ソフィアがニヤリと笑いグッと拳を握った。


(おいおい・・・、どんな鍛え方だ?そんなので聖女になれるのか?)


「は!はいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!死ぬ気で頑張りますぅううううううううううううううううううううううううううううううう!」


またもやナブラチルさんが真っ青になって叫んでいた。


(死なないように頑張れ。俺はこれしか言えないよ。)



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「勇者様方、それでは教会へとご案内します。」


先頭の司祭が立ち上がり、深々と頭を下げて俺達を教会へと案内しようとしている。



(さて・・・)



教会ではどんな歓迎をしてくれるかな?


最近は彼女達ばかり頑張っているから、俺も少しは活躍しないとな。


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