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131話 次の街へ

「勇者様、道中お気を付けて。」


教会の前に立っているナブラチルさんが深々と俺達にお辞儀をしてくれた。


(こうも変わるものなんだなぁ~)


彼女はこのエダットの街に入る手前で襲撃してきたバンパイアの1人だった。

まぁ、彼女以外のバンパイアはユウ達が蹴散らしてくれた。残った彼女も襲いかかってきたけど、ローズが神竜であるミドリさんを召喚してしまい、そのミドリさんの迫力だけで気絶して心が折れて、その後ローズの部下になってしまったのだよな。


心が折れる前の彼女は高飛車な感じで、いかにも『私は女王様よぉおおお!おぉほほほぉおおお!』だった。


(実際にバンパイア達の女王だったのだろうな。)


そんな彼女だったが、俺の妻軍団&フランに会った瞬間にまたもや土下座をしてしまったのだよなぁ・・・

俺から見ても妻軍団の実力はナブラチルさんよりも遥かに上だと分かるし、彼女もそれを感じ取ったのだろう。彼女は強いからこそ相手の実力を測れるのだろうな。

ミドリさんの時の様に気絶する事は無かったけど、あの時の怯えようは・・・


(見ていて可哀想なくらいだったよな。)


さすがにそんな状態を見かねてか、ソフィアが優しく彼女を立たせ励ましていたよ。

誰もが心から安心する優しい目で見つめ、泣いている彼女を抱きしめポンポンと背中をさすっていた。

そんな光景を見ると、ソフィアはやっぱり聖女だと再認識するよ。


そして、ユウ達も彼女に優しく接してくれた。初対面の時は殺し合いをしたけど、ユウ達はそんな事はもう関係無いって感じで、彼女を姉のように扱っていた。

ユウ達が圧倒的に強かったのもあったし、素直に自らの非を認め俺達の仲間に入ったのもある。


「ナブラチル姉さんって長いから、ナビ姉さんって呼んでいい?」


てな。


最初はぎこちなかったけど、数日もすると3人とも仲良くなってくれた。

本当の姉弟のように見えるほどに仲良くなったのは良い事だ。


将来、ユウと彼女が結婚してしまうなんて今は想像もしていなかったよ。


どちらかと言えばキツい表情をした感じの美人だったけど、今の彼女の顔から険が抜けとても優しい表情になった。

教会を訪れてくる信者にも真摯に対応し、わずか数日で信者達の信頼を得ていた。

これならローズの部下でもソフィアの補佐でも大丈夫だろうな。

ソフィアは俺と一緒に旅をするし、この聖教国を影から支配しているバンパイア達から解放してもこの国の代表になる事は出来ない。その代わりに彼女ナブラチルさんを代表にする計画をしているみたいだ。


(今の彼女なら代表になる資格は満たしているだろうな。ソフィアもローズも、そのようにして動いているみたいだしな。)


ナブラチルさんは前の街にいたフェーデとは違い、一般のシスターとして陰でバンパイア達をまとめていたから、街の人達も彼女がこの街の支配者であるバンパイアロードだった事も知らない。

それでも信者達が彼女をとても慕っている姿を見ると、かつてのソフィアを思い出すな。



(頑張れよ・・・)




街を出て俺は馬車の御者台に座っていた。

隣にはアンが寄り添って座っている。

そのアンは偽装を解き魔族の姿に戻っていた。


あれだけ乗り物に弱かったアンだけど、今ではもう普通に馬車に乗れるようになっていた。

まぁ、こういうのは慣れもあるけど、さすがはシャル専用の馬車だけあるな。

一般の乗り合い馬車のようにガタガタと激しく全身がシェイクされ、長く乗っていると腰も肩も首も痛くなるような事は無い。単に車体に車軸を通すだけの構造でなく、衝撃を吸収する機能があるバネを取り付けているから、道の凸凹をかなり吸収してくれていた。


(ただねぇ・・・)


この馬車って王族専用の馬車だから、外観が豪華でとっても目立つ!

王族であるシャルが乗っているから仕方ないけど、正直、こんなに目立つのは好きでないんだけどなぁ・・・


そのシャルは今は王城で仕事があると言ってメイド3姉妹と一緒に王城でお留守番だったりする。

どんなに離れていても転移で一瞬に移動出来るし、無理に馬車に乗って旅をする必要も無いんだよな。

この旅は転移の移動先を増やす為みたいなものだ。

父親の国王様にとっては、可愛い娘がいつも目の届くところにいるし、これ以上無い安全な旅だからとても喜んでいる。

シャルの姉2人が他国へ嫁いでしまっているし、残ったシャルが可愛くて堪らないのは仕方ないのだろうが、いつまでも子離れ出来ない親もどうかと思うが・・・



俺の隣にはアンが座っているけど、膝にはフランが座っていて、俺を背もたれのようにして寄りかかっていた。

時々振り向いて俺に笑顔を向けてくるものだから・・・


(目茶苦茶可愛いよ!)


こんな可愛いフランを見ていると、シャルを手放したくない国王様の気持ちも分る気がする。


将来、フランは誰と結婚するのか?

そんな男は俺がちゃんと見極めないといけないよな。


(そう考える俺も親バカなのかもな?)


思わす口元がにやけてしまう。


「レンヤさん・・・」


(お!アンの声だ。)


「何、フランちゃんを見ながら楽しそうにしているの?まさか・・・、レンヤさんってロリコン?」


(ちゃう!ちゃう!)


何だよ、アンめ・・・

いきなり変な事をいわないでくれよ。


「パパ、いいのよ、私を好きにしてもね。パパのリクエストにはいくらでも応えるからね。えへへ・・・」


フランが悪戯っぽい笑みを浮かべて俺を見ているよ。


「こら!大人を揶揄うんじゃないわ!」


アンがフランの頭に軽く拳骨を落とした。


「痛ったぁああああああああ!」


フランが頭を押さえ少し涙目になりながら俺を見ているよ。


「パパァァァ・・・、ママが虐めるよぉぉぉ・・・」


「フラン、今のはお前が悪い。それにだ、思いっきり手加減している拳骨だから痛くないはずだぞ。」


「えへへ、バレたか・・・」


ペロッとフランが舌を出して笑っている。


「だけどね、パパ・・・」


「うん?何だ?」


急に真面目な顔になってジッと俺を見つめた。


「今の私は子供の姿だから娘枠で我慢するけど、ちゃんと大人に成長したらパパのお嫁さんになるからね。これだけはパパに何を言われても『絶対に!!!』譲らないから!」


そしてニタリと笑った。


「はいぃいいいいいいいいい?」


フランの今の笑顔にゾッと背筋に冷たい汗が流れる。

えらく『絶対に』を強調してきたよ。

婚約してから分ったけど、シャルはお淑やかに見えるが、性格はかなりを通り越してとても頑固なんだよな。そんな血を受け継いで生れたフランもシャルの性格にそっくりかも?

そう簡単に今の言葉を変える事は無さそうだ。


(前世は全くモテなかったのに、今の人生はモテ過ぎだよ。何の罰ゲームなんだ?)


世の中の男連中が俺の悩みを聞けば全員から恨まれるだろうが・・・


「パパはテレサママとも結婚したんだから、娘の私も許容範囲内なんだからね。だからパパは私と結婚する!これは決定事項なのよ。ふふふ、早く大人になりたいな。」


そう言って俺に寄りかかり体重を預けてきた。

見た目は5歳くらいの女の子だから寄りかかってこられても全く重さを感じないけど、中身はしっかりと大人なんだから子供の戯言って流す事も出来ない。

ブラコンだけじゃなくてファザコン属性の子まで増えてしまうとは・・・


チラッと隣のアンを見るとニコニコ微笑んでいた。


(おや?)


アンもかなりのヤキモチ焼きだし、他の妻でもアンの前でイチャイチャすると少し機嫌が悪くなる。

だけど、フランの時はほとんど大人しく微笑んでいるんだよな。



「レンヤさんって子供の扱いも上手だし、今度、私が幼児みたいに甘えてみようかな?こうやって見ていると私も甘えたくなってくるわ・・・」



(ん?)


アンが何かブツブツ言っているけどよく聞こえなかった。

大した事ではないと思うが、気になる・・・



「ねぇ、パパ・・・」


フランが空を見上げながら俺に話しかけてきた。


「あぁ、俺だけじゃなくてアンも気付いているよ。」


「それじゃ撃ち落とす?」


右腕を空へ伸ばし人差し指と親指を立てた。

どうやらブラッド・バレットを撃つみたいだな。


「放っておきましょう。どうせ彼とは今向かっている聖都で片をつけるからね。こちらには聖女であるソフィアさんがいるし、街中では下手な事はしてこないでしょう。ナブラチルさんの情報が確かなら、私にも用事があるでしょうし、尚更手は出してこないはずよ。」


アンも上空を見つめながら微笑んでいた。


「だけど、あんなデタラメな報告を信用するかしら?ふふふ・・・」






時間は少しさかのぼる



「法王様、ナブラチル様より連絡がありました。」


豪華な椅子に座りながら頬杖をついて目を閉じていた男が、ゆっくりと目を開けギロッと目の前にいる男を睨んだ。


「やっと報告が来たか・・・、勇者を殺すのにどれだけ時間がかかっている。それで、内容は?」


「も、申し上げにくいのですが・・・」


法王の前にいる男の顔が真っ青になっていた。


「エタッドの街が陥落、我ら同志もナブラチル様を除き全滅と・・・」


「はぁあああああああ?」


「で、ですが、ナブラチル様はバンパイアの正体を明かさず勇者パーティーに潜り込む事に成功したようです。内々に情報を集めてきまして、その報告です。」


『勇者自身は恐れる程でもなし。真に驚異は聖女ソフィアであり、その浄化能力は街全体をも浄化する程に凄まじいが、発動までに時間がかかる事を仲間の犠牲で判明したので、接近戦に弱い聖女を先に狙う事を優先する。決して魔法を使わせる事の無いように。』


ゴクリと男が喉を鳴らす。


「そして、もっと興味深い報告もあがっています!」


「何だ?」


「どういう経過か分りませんが、魔族の女もいます!勇者がなぜ魔族と一緒にいるのでしょうか?」


「そんな事、私に分る訳が無いだろうが!その魔族の女の名前は?


「そ、そ、それが・・・」


「どうした?何を怯えている?」


「は、はい!その魔族の女の名前は『アンジェリカ』と・・・」


「何だと!」


法王が血相を変えて立ち上がった。


「貴様ぁあああああああああああ!その高貴なお名前を呼び捨てにするのかぁあああああああああ!」


「で、ですが!ナブラチル様からの使い魔の報告にはこの名前が・・・」



ズバッ!



「へやぁあああ!」


男の体が縦に中心からずれて、そのまま左右に分かれて床に転がってしまった。


「この不敬者がぁあああああああああああ!それにしても何という事だ・・・、あのお方が・・・」


右手に赤黒い剣を握りながら法王がブルブルと震え立っていた。


「人違いではない・・・、その高貴なお名前は、いつかは復活し魔族を率いるお方だとの事で、どんな高貴な家系に生れた娘であろうが、誰もそのお名前を付けられる事は許されていない。それが魔族領での500年前からの掟・・・、そのお名前がとうとう・・・」



「ふはははははぁあああああああああああああああ!!



「法王様!どうされましたか!」


数人の男が法王の部屋へ駆け込んできた。


「大丈夫だ。少し嬉しい事があってな・・・」


「さ、左様ですか?」


男達が法王へと片膝を付き頭を下げた。


「お前達!今すぐ使い魔を外に放て!勇者パーティーがこの街に近づいている!ナブラチルが懸命に飛ばした使い魔に勇者パーティーの情報が入っている。すぐに場所を特定し、使い魔との視覚をすぐに私と同調するようにしろ!」


「「「ははぁあああああああああああ!」」」


男達が一礼し慌てて部屋から出て行った。


「この私が直々に確認してやろう。」



しばらくすると男達が戻って来る。


「法王様!使い魔を放ちました!そろそろ勇者パーティーの上空に到着します!」


「そうか・・・」


そう言って、椅子に深々と座り目を閉じた。


目を閉じた法王の脳裏に使い魔が見ている景色が浮かんできた。

遠くに1台の馬車があった。

その映像をぐんぐんと拡大する。


「そ、そんなぁあああ!あれはまさしく!」


レンヤの隣に座っている女性に気付き、その人がアンジェリカだとすぐに分った。


「間違い無い!あのお姿はアンジェリカ様!あのお姿はこの500年間、一瞬たりとも忘れた事はなかった!だけど角と瞳が金色になっているのはなぜだ?500年の間に何かあったのか?しかも隣の男は何者だ?もしやナブラチルの報告にあった勇者か?だが、なぜ勇者とアンジェリカ様が一緒に?アンジェリカ様の封印を破ったのは勇者なのか?あり得ん・・・」


両手を握り締めてワナワナと震えている。


「アンジェリカ様は精神操作をされているに違いない!でなければ、あんな人族の隣におられるお方ではないのだ!私の隣が相応しいに決まっている!だが!今は駄目だ!勇者が隣にいるという事は、万が一にもアンジェリカ様に身の危険が・・・」


「法王様・・・」


男達が心配そうに法王を見ている。

しかし、法王が男達をニヤリと笑い見返した。


「心配するな、少し興奮しただけだ。お前達、勇者パーティーの監視は引き続き行え!この街へ到着したなら、丁寧にこの教会へと連れて来い!そしてだ!銀髪の女性は最上級のおもてなしで迎えるのだ!必ず勇者達と引き離せ!この命令は最優先で行え!勇者はこの私が直接手を下す!聖女は結界を張られる前に教会の暗部達で早急に葬るのだ!聖女の事はよく覚えている。あの時も直接戦闘能力は皆無だったからな。復活したばかりで申し訳ないがすぐに死んでもらおう。」


「「「はっ!」」」


男達が頭を下げ姿が消えた。

1人部屋に残された法王が両手を上げ高らかに笑い声を上げている。


「ふはははははぁあああああああああああああああ!とうとうアンジェリカ様がこの手に!このアーガン、500年前よりずっとアンジェリカ様をお慕いしておりました。この私こそがアンジェリカ様を幸せに出来るのだぁああああああああああああああ!」


しかし、フッと表情が真面目になった。


「ふふふ、私とした事が興奮し過ぎた。かつての私の上官であった四天王のデスロードは功を焦って勇者パーティに敗北した。私は同じ轍を踏まん。勇者パーティーよ、私が今度は地獄を見せてやろう。ふはははははぁあああああああああああああああ!」


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