128話 序列二位②
SIDE ナブラチル
(な、な、な!何なのこの女は?!)
私の前にいるこいつは!人間の女に間違いないのに!
ここまで美しい女が存在するとは・・・
(尚更認められない!)
私が1番なのよ!
私より美しい存在は認められない!
しかし、その女は私を見てニヤリと笑ったわ。
そして「私の勝ちね・・・」ってほざきやがった!
(絶対に許せない!)
「人間の分際でぇぇぇぇぇ・・・、この私よりも美しいと言い張るの?生意気な・・・」
私に勝てる人間なんていないのよ!私が1番!私が1番美の神に認められているのよぉおおおおおお!
ふふふ、あの女は八つ裂きにするだけでは物足りない、徹底的に絶望を味わせて殺してやる。
隣にいる男は勇者に間違いないわね。
たかが男1人で何が出来るの?
フェーデを倒したのもパーティー全員で力を合わせて辛うじて倒したのでしょうね。いくら勇者でも1人でハイロードクラスのバンパイアに勝てる訳がないはずよ!そのフェーデよりも序列が上の私に敵うはずがないわ!
まぁ、私の部下も精鋭揃いで勇者にも引けを取らないと思うし、任せても大丈夫でしょうね。
「このメス豚は私が直接殺す!お前達は勇者を殺せ!死んでもすぐなら血の効果はあるからな。私の美貌にケチを付ける奴は生かしておけないよ!」
ふふふ、あの女の顔が恐怖と絶望で歪む姿を想像すると笑いが止まらないわ。
キィキィ!
何?耳障りな声ね。
(ん?)
何で私達の使い魔があの人間の女に懐いているのよ?
高貴な私達に仕えるのが眷属なのに、あいつらは人間に汚れてしまったの?
(人間に尻尾を振る眷属はいらないわね。一緒に処分よ。)
それにしても本当に腹が立つわ!
あそこまで眷属が人間に懐く?何か人間に言われているみたいだけど、人間の言葉が分かってるのかしら?
人間の言葉が分かる眷属なんて前代未聞よ!
「むっ!」
眷属が輝いた?何が起きたの?
「そ、そんなの・・・」
信じられない光景を目にしてしまった。
下等な魔物である眷属が一瞬にして人間の姿になる?あれは眷属じゃなくて元々が私達と同じバンパイア一族だったの?
(あり得ない・・・)
あの3人は初めて見る顔だわ。しかもよ!あの生意気な女に似ている!
それによ!同じバンパイアなら私達の強さが分かるはずよ!
私は序列二位!しかも連れている部下もレッサーバンパイアだけど、もうすぐにロードになるほどの強さなのよ!
それを・・・
あのガキどもは全く私達を恐れていない。
どういう事なのよ?
それか、あのガキどもは生まれたばかりで強さも何も分かっていないって事?
(舐めた真似をしてくれたわね。)
大人の私達が躾をしてあげるわ。ガキが大人に逆らったらどうなるか?
「何?」
ガキの1人が前に出てくる?しかもニヤニヤ笑っている?
「バンパイアのみなさん、私達の実戦訓練にお付き合いさせてもらいます。」
(はぁあああああああああ?)
このガキがぁぁぁぁぁ・・・
生意気にも程があるわ・・・
(殺す!徹底的にこの世に生まれた事を後悔させるほどに!)
ジロッとあのガキを睨んだわ。
「嘘・・・?そ、そんな・・・」
あのガキ達から何て殺気が出ているの?
今までは実力を隠していたの?
体がガタガタと震えている!
「あ、あり得ない・・・、あんなガキに私が恐れている?」
あのガキ達が笑った?
「それじゃ、簡単に死なないで下さいね。」
(は、速い!)
あのガキ達から翼が生えたと思った瞬間に、あっという間に私達の高さまで飛び上がっている。
しかもよ!空を飛べるバンパイアはレッサーでも上位のクラスよ!
このガキ達はもうそのクラスまでの存在なの?
「お前達!」
部下が私の言葉にゆっくりと頷いてくれた。
細かい指示をしなくても分かってくれているみたいね。
「まずはあのガキ達を血祭りにしなさい!たった3人で何が出来るっていうのよ!」
部下の1人が腰に掛けていた剣を握りガキへと襲いかかったわ。
あんな小さなガキに何が出来るっていうのよ!
(大人を舐めないでよ!)
斬!
「えっ!」
ガキ達に襲いかかった部下がいきなり縦に割れた?
ドシャ!
そのまま地面に落ち、砂となって消え去ってしまった。
(な、な、な、な、な、何が起きたのよ?)
視線をガキへ戻すと・・・
「あ、アレは・・・、そ、そんなの・・・」
あのガキ達はさっきまで手ぶらだったのよ!それなのに・・・
1番前に浮いている男のガキは巨大な赤黒い結晶のようなバトルアックスを・・・
後ろの女のガキ達は片方が赤黒い槍を・・・
もう一人の周りにはいくつもの赤黒い円盤が回っている・・・
「血闘術・・・」
血闘術
この技は我らハイロードでもごく一部しか使えない技よ。
自分の血を操って結晶化し武器とする技・・・
私でも使えない技なのよ。序列一位である法王様しか使えない技なのに・・・
こいつらは何者なの?
(まさか!ハイロード以上の存在なの?)
それこそあり得ない!
「あり得ない!あり得ない!あり得ないわぁああああああああああああああああああ!」
「ナブラチル様!落ち着いて下さい!」
(はっ!)
部下が心配そうに私を見ている。
いけない!私が動揺してしまっては士気に影響が出てしまう!
だけど、おかげで冷静になれたわ。
冷静に考えればあんなガキ達が血闘術なんて使える訳がないはずだしね。
たまたまそれに似た武器を使っているだけよね。
「お前達!あんた達はガキ達を相手にしな!たかが3人、お前達全員が相手なら簡単だろうね。私はあの女と勇者を殺す!分かった!」
部下達が頷いてくれる。
あの生意気なガキ達、大人を舐めるな!
チラッとガキ達を見ると・・・
(何ぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!)
まだニヤニヤしている!
「とことん生意気なガキめぇぇぇ・・・」
もう勘弁ならないわ!勇者や女よりも先に殺してやる!徹底的にぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!いたぶってね!
「お前達!やっておしまい!」
「「「はっ!」」」
部下達が一斉にガキの方へ飛んで行った。
「お父さん!」
男のガキが勇者へと話したけど、情報では勇者には子供がいないはずよ。何で?
勇者が何でか嬉しそうだけど・・・
「ユウ、あまりやり過ぎるな。ユアとアズにも相手を残しておけ。」
「うん!分かったよ。」
はぁ?このほのぼの会話は?
あんた達、この状況が分かっていないの?
男のガキがニタリと笑った。
どうして?私の背筋に冷たい汗が流れる。
(こんな変な気持ちは初めてよ。どうしてこんなに不安になるの?)
「まずは一匹!」
いきなり斧を持ったガキの姿が消えた。
斬!
「ぎゃぁああああああああああああああ!」
「嘘・・・」
また1人の部下が胴体を真っ二つにされ落ちていったわ。
いつの間に後ろに回ったのよ・・・
「そ、そんなぁぁぁ・・・」
斧がグニャリと形を変える。2つに分かれ、今度は2振りの双剣を握っていた。
「あれは本当に血闘術なの?信じられない・・・」
「ブラッディ!クロス!」
今度は別の部下が4つに切り裂かれ塵となって消えた。
(間違い無い!!!)
あのガキは血闘術の使い手よ!
そうなると・・・
私より、いえ!法王様よりも・・・
(マ、マズイ!)
部下のレッサーバンパイアだと足止めにもならない!
「スパイラルソニック!」
赤黒い槍を構えていたガキが槍を突き出した。
ゴシャァアアアアアアアアアアアア!
槍の周囲に巨大な空気の渦が発生して部下達を巻き込んでいくわ!
渦に巻き込まれた部下達が粉々に千切れて消滅してしまう。
(う、嘘よ・・・)
「チャクラム!シューター!」
円盤が一斉に部下へと飛んで行く。
ズバババババァアアアアアアアアアア!
いくつもの円盤に全身をズタズタに切り裂かれ散り散りになって地面へと落ちていく。
(に、逃げなきゃ・・・)
このままだと私も殺される!
何という屈辱!
序列二位の私が尻尾を巻いて逃げるなんて!
だけど!あいつらは化け物よ!
あんな化け物相手に馬鹿正直に戦えるものですかぁああああああああああああああああ!
気が付けば私以外のバンパイアは全員がガキ達に殺されていた・・・
精鋭をあっという間に倒してしまうなんて、このガキ達は私のクラスであるハイロードを軽く超えているのに間違い無い・・・
まさか伝説の真祖クラスなの?
(こ、殺されたくない!)
慌てて後ろへと振り向き街へ戻ろうとした。
しかし・・・
ザッ!
ガキ達が私の前に立ちふさがった!
(う、動けない・・・)
何でこんな化け物が存在するの?
しかも!同じバンパイア一族よ!どうして真祖クラスのバンパイアが勇者パーティーと一緒にいるの?
(そういえば?)
あの男のガキは勇者の事を「お父さん」って呼んでいたわね。
(私が助かるには・・・)
クルッと後ろを向くと視線の先に勇者と女がいた。
(あの2人なら私でも勝てるはずよ!2人を人質に取って・・・)
ジャキ!
爪を伸ばし一気に急降下し勇者達へと飛んで行く。
狙いはあの女!
あの女はただの人間!
あの女さえ人質にすればぁああああああああああああああ!
「何!」
あの女が私を見てニヤッと笑った!
(どういう事なのよ!)
たかが人間!
そんな人間が私のような上位の存在に恐れていないなんて!
「あ、アレは!」
女が両手を上に掲げて何か呟いている!
(な、何が起きるの?)
ブォン!
遙か上空に巨大な真っ赤な魔法陣が浮かんでいる!
ズズズ・・・
「何かが出てくる!しかも!巨大な何かが!」
巨大な何かの全身が現われて私を睨んでいる!
「そ、そんなぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
(グリーンドラゴン!いえ!あれはそんな普通の存在ではない!もっと遙か上位の!)
目が合った瞬間に目の前が真っ暗になり、私の意識が無くなってしまった。




