127話 序列二位①
数日後・・・
「ナブラチル様、勇者パーティーがこのエタッドの街へと近づいています。」
「そう・・・」
目の前に男性から話しかけられ、ナブラチルと呼ばれた女性が「ふぅ」とため息をついた。
豪華なソファーで横になっているこの女性、服装はシスター服を着ているが、出るとこはハッキリと出て引っ込んでいるところは見事に引っ込んでいる。
まさしくボッキュンボンの体形でシスターとは思えない程に色気があった。
娼婦が本職?と思える程に似合いそうな感じの女性である。
腰まで届く艶やかな真っ直ぐな金髪に、バンパイア特有の血のように真っ赤な瞳と唇が更に妖艶さを醸し出している。
「あのデブ・・・、何が序列三位よ・・・、役立たずの順位かしら?」
そしてニヤリと笑う。
「我ら高貴なバンパイア一族にあんな豚まんみたいな存在がいる事自体が間違いだったのよ。美しさも我が一族には大切な事よ。そんな事も分からないから滅ぼされるのでしょうね。ふふふ、いい気味よ・・・」
「ナブラチル様、我々は?」
「決まっているわ。フェーデを滅ぼした素材だからね、私が直接出向いて糧にするわ。さぞ極上の味がするでしょうね。アイツを倒したのは勇者に間違い無いだろうしね。」
「私は勇者をもらうわ。勇者の血があれば私は更に美しく若々しさを保てるの!聖女はあなた達が好きにしなさい。」
気だるそうに座っていたナブラチルがゆらりと立ち上がり、ペロッと舌なめずりをする。その前に控えていた男もニヤリと笑った。
「うっ!」
(何だ?急に寒気が?)
「あなた、どうしたの?」
今の俺は御者台に座っていて、その隣にはローズが座っていた。
「い、いや・・・、何か嫌な予感がしてな。多分、気のせいだと思うよ。」
「そう、ならいいけど・・・」
ローズがジッと俺を見つめていたが、そう言って再び俺に寄り添い頭を俺の肩に乗せてきた。
「ローズ・・・」
「ん?どうしたの?」
「いやな、折角の休みなんだし、無理に俺達に合せてここまで来なくても良かったのでは?と思っただけだよ。買い物とかもっと好きな事に時間を使えばいいんじゃないか?」
「ううん・・・、夕食はいつもみんなで食べるし毎日顔を会わせているけど、こうしてあなたと2人っきりってのタイミングはあまり無いからね。この時間が私にとって最高の時間なのよ。」
普段のローズはザガンの街の商業ギルドの顔役や、王都に出店した商会の代表にと、妻達の中では1番忙しい日々を送っている。
ラピスから「たまには休みを取りなさいよ。」と言われ、今はラピスがローズの代わりに仕事をしているけど、ローズの代わりが出来るなんてラピスも超優秀なんだろうな。
まぁ、アイツの事だから『大賢者』の肩書きを最大限に使ってゴリ押しで仕事をしているだろうが・・・
【レンヤ・・・】
(はっ!)
【あんた、今、変な事を考えていなかった?】
(何でラピスの念話が?)
【何かね、予感がしたのよ。あんたが私の悪口を考えているんじゃないかってね。】
ゾゾゾォォォ!
(す、鋭い!鋭すぎる!)
【だ、だ、だ、大丈夫だ!ラピスがいなくて淋しいと思っていたんだよ。早く夜になって会いたいな。】
【レンヤ、私もよ。それじゃ夕食までには帰ってくるからね。愛してるわ、チュッ!】
(ふぅ~、何とか誤魔化したな。)
ラピスは妻の中でも最強のストーカーだよなぁ・・・
俺の魂にマーカーを付けているから、この世界のどこにいても俺の居場所は瞬時に分ると言われている。
しかもだ!有り余る魔法の知識と魔力で、俺の状態もリアルタイムで観察していると自信満々に言っていたよな。テレサも最強クラスのヤンデレだけど、真の最強はラピスで間違い無い!
(普通ならドン引きんなんだろうが・・・)
最初の頃のラピスはテレサのようにグイグイと押しオンリーだけだったけど、こうして妻が増えてくるとちゃんと引く事も出来るようになった。特に時折見せる可愛らしさにには今でもドキッとさせられる。
それに旅をするにもラピスの協力は不可欠だ。
ラピスの愛は確かに重い!とてつもなくな!
だけど、それ以上に俺はラピスに感謝している。
(う~ん、やっぱり重過ぎるか?)
今日はローズと2人っきりでの馬車の旅だ。
ラピスはローズの代わりに仕事をしているし、ソフィアは相変わらず教会の仕事で忙しい。新しく聖女の称号を得たヘレンさんの指導もしているからな。引き継ぎが終われば、ソフィアもやっとゆっくりと俺達の旅に同行出来るはずだ。
マナさんは王都のギルド本部で俺以外の受付も担当するようになった。『緑の狩人』や『白の沈黙』のSランクパーティーも受け持つようになって、とても優秀な受付嬢だとナルルースさんからも絶大な信頼を寄せられていた。
アンとテレサ、シャル、フランは今頃は魔王城で修行をしているだろう。全員が既にSランクパーティーの実力を超えているとラピスが言っていたな。
(俺の周りの女性陣は優秀過ぎる。)
おかげで俺はあまり目立たなくなっているが・・・
(ちょっと悲しいかも?)
馬車は森の中の薄暗い街道を進んでいたが、寄り添っていたローズが急に背筋を伸ばし真剣な表情になった。
俺のサーチにも反応があった。
「森が騒がしいわね。斥候の鳥達が何かを見つけたみたいよ。」
ローズは元々が動物を使役するティマーの称号を持っていたが、俺と一緒になってからは称号がパワーアップして、使役した動物の感覚(視覚や聴覚)を共有できるようになった。
俺やラピスのサーチを常に使用しなくても、ローズが一緒にいれば使役している動物が周りを監視してくれる。しかも、視覚も共有している事から、どんなものかも見る事が可能だ。反応を感知するサーチ以上に精度が高いから、こうして2人っきりでも安心していられる。
「サーチの反応だとバンパイアっぽいな。街に近づいているから、あちらの方からお出ましなのかな?」
「そうね、この森にはあちこちに奴らの眷属のコウモリが飛んでいたわ。森に入った時点で察知されていたみたいね。」
「それは分かっていたけど、まぁ、今のローズに喧嘩を売るなんて・・・、可哀想を通り越してバカだと思うぞ。」
「そんな事はないわ。私でなくてあの子達が規格外なだけよ。まさか、あの子達もフランちゃんのように進化するなんて、あなたの血は本当に凄いわね。」
ローズが嬉しそうに俺に微笑んでくれた。
俺はそこまで凄いと思っていないけどなぁ・・・
フランも含めてあの子達が頑張ったからだと思うよ。
バンパイア達がかなり接近してきたので馬車を止めた。馬や馬車に被害を出したくないからな。
サーチの反応からは・・・
「大体20人かな?」
「そうね、私の方もその人数で確認しているわ。」
馬車の外に出てしばらくするとかなりの数の殺気が接近している。
さすがはバンパイアだ、最低でもAランクの強さはあるな。
バサッ!
予想通りにかなりの数のバンパイアが俺達の頭上に現れた。どれもコウモリの翼を広げ宙に浮いている。
メルボンの街で序列三位のバンパイアを倒し、街も解放した事もあるから、こいつらは遠慮しないで襲ってきたよ。
(街中じゃないし、俺達も遠慮はしないぞ。)
宙に浮いていたバンパイアが2つに分かれると、その間から1人のバンパイアが現れる。
女性のバンパイアだけど、何か見たような感じだな。
チラッとローズを見ると・・・
(ローズとスタイルが似ているんだ。)
だけど、2人を見比べてみるとローズの方がスタイルが良いのに間違いない。
ローズのスタイルの良さは美人でスタイル抜群な妻達の中でも別格だしな。
それが分かっているのか、ローズがクスリと笑った。
「私の勝ちね・・・」
そう呟いた瞬間に女バンパイアの顔が真っ赤になり目が吊り上がったよ。
どうやらローズの呟きが聞こえたみたいだ。
「人間の分際でぇぇぇぇぇ・・・、この私よりも美しいと言い張るの?生意気な・・・」
おいおい、こんなので競い合うなよ・・・
でも、お互いにスタイルに自信があるのだろうな。
女の戦いは怖い・・・
「お前達!」
女バンパイアが周りのバンパイアに叫ぶと、男達がビシッと姿勢を正した。
どうやら、こいつらの頭はこの女バンパイアのようだ。
「このメス豚は私が直接殺す!お前達は勇者を殺せ!死んでもすぐなら血の効果はあるからな。私の美貌にケチを付ける奴は生かしておけないよ!」
キィキィ!
3匹のコウモリがローズの肩に乗った。
「あら、あなた達も戦うつもりなの?この連中は私の実験にしようと思っていたのにね。」
「「「キュイ!」」」
うんうんと頷くような仕草をしながら3匹のコウモリが返事をしている。
「分かったわ、あなた達も頑張りなさい。フランちゃんに負けないようにね。」
「「「キュイィイイイイイイイイ!」」」
3匹が嬉しそうにローズの肩から飛び出した。
「だけどね、ユウ、ユア、アズ!無理はしないでね。」
その瞬間、3匹が光に包まれた。
光が収まると・・・
10歳くらいの3人の子供が俺達の前に立っていた。
どの子も赤い髪に赤い瞳だ。
1人は男の子で子供なのに黒いスーツ姿をしている。
2人は女の子でメイド服を着ていた。
(う~ん、こうして見るとちっちゃなローズだよな。)
2人の女の子であるユアとアズは双子でほぼ見分けがつかない。だけど、髪の分け目が鏡写しみたいに正反対なだよな。それで判断するしかないけど、不思議とローズはちゃんと2人を見分けられているみたいだ。それにしてもローズ似の美少女だ。
1人は男の子のユウなんだけど、超絶イケメンだよ。あと5年もしたらどうなるか?モテまくりどころではないかもしれない。
(イケメンって羨ましいよ・・・)
ユウが1人前に出てくる。
「バンパイアのみなさん、私達の実戦訓練にお付き合いさせてもらいます。」
深々と頭を下げ、ゆっくりと起き上がるととてつもない殺気が放たれた。
上空に浮かんでいるバンパイア達の表情が驚きに変わる。
「それじゃ、簡単に死なないで下さいね。」
3人が獰猛な笑みを浮かべると、背中にコウモリの翼が生え一斉に飛び上がった。




