126話 フランパワーは強力
う~~~~~
心臓がドキドキして今にも破裂しそうな程に緊張している。
前世も含めてここまで緊張したのは初めてだ。
今、俺は王城へと戻っている。
そしてある部屋の中にいて、とても大きなテーブルの前に座っていた。
テーブルの反対側の俺の前には・・・
国王様が真正面に座っていた。
その両隣に第一王妃様とシャルの母親である第二王妃様が座っていた。
第一王妃様の隣にはその息子である第一王子のアベル殿下と、その婚約者であるリーゼロッテ皇女殿下が座っている。
第二王妃様の隣には息子の第二王子であるカイン殿下と、その婚約者のシヴァが座っている。
目の前の全員の視線が俺 → 俺の隣 → またその隣 → 俺の隣 → 俺へと順番で何度も往復していた。
俺の隣にはフラン、シャルと順番に座っている。
いわゆる、全員が俺 → フラン → シャル → フラン → 俺と順番に視線が注がれているんだよな。
誰も一言も言葉を発せず黙々とジロジロと見られている状態だ。
いつまでこの沈黙が続くのだ?
(うぅぅぅ・・・、緊張で胃に穴が開きそう・・・)
「さて・・・、婿殿、これはどういう事だ?」
あまりのプレッシャーで大声を出しそうな程に精神が追い詰められていたけど、国王様がボソッと話し始めてくれた。
だからといって、俺にとっては胃が痛くなるようなプレッシャーは全く変わっていない。
チラッとフランを見たけど、俺の気持ちとは裏腹にニコニコしながら俺を見ている。
シャルも愛おしそうにフランの頭を撫でていた。
フランがどのようにして生まれたのか関係ない。こうして見ると母親と娘の微笑ましい姿だよ。
「国王様、この子、フランは間違い無く俺とシャルの子供です。」
ピキッ!
俺の正面の国王様達の雰囲気が一気に変わった。
全員がとても鋭い目で俺を見つめている。この視線だけで射殺せるほどに鋭い。
「レンヤさん・・・」
シャルの母親である第二王妃様が口を開いた。
「この子は4~5歳に見えるけど、どう見てもあなたとシャルが出会ってからの計算が合わないのよ。何で?もしかして、この子ってシャルの隠し子だったの?顔は小さい頃のシャルにソックリだし、間違いなくあなたの子なの?そんな前からあなた達はそんな関係になっていたの?」
いやいや!そんな事は無いです!
だけど、どうやって説明しようか?
「お母様、この子は今朝生まれたのです。私とレンヤさんの血を吸って・・・、だから私にそっくりな顔で、髪と瞳はレンヤさんと同じ黒色なんですよ。」
「今朝生まれた?あなた達の血を吸って?ますます訳が分からなくなってしまったわ・・・」
第二王妃様が頭を抱えている。
さすがにこの説明だけじゃ理解出来ないだろうし、フランの正体が魔物だと言うべきか?
だけど、俺とシャルの血でこうして人間の姿になったのだ。シャルだけじゃない、俺の妻達全員からも可愛がられているフランはもう魔物ではない!間違いなく俺達と同じ人間だ!
(それをどうやって説明するか?)
「血を?もしかして?」
シヴァがボソッと呟いた。
「シヴァさん、何か知っているのですか?」
第二王妃様がシヴァへと尋ねた。
「祖母から聞いた事があります。祖母はかつての魔王四天王の1人でしたが、他の四天王の中で魔物を纏めていた四天王がいました。その魔物の中にバンパイア族がいたと言っていました。そのバンパイア一族の中でもごく一部の上位の存在だけが、吸血する事により相手の能力や特性を身に付けると聞いています。だけど、その一族も先代勇者により四天王もろとも滅ぼされたと聞いていますが・・・」
「まさか、あの子はバンパイアなの?」
第二王妃様が怯えた目でフランを見つめる。
(やはりそうなるか・・・)
みんなから何を言われようが、俺とシャルはお前の味方だ。
フランに視線を移すとシャルもフランを見つめている。
(さて、父親として頑張らないとな。)
「その子はシヴァの言う通りバンパイアに間違い無いわ。だけどね、決して邪悪な存在では無い事は私が保証するわよ。」
突然ラピスの声が聞こえた。
声は俺達の後ろから聞こえてくる。
(はいぃいいいいいいいいいいい?いつの間に?)
振り向くとラピスとソフィアが立ってニッコリと微笑んでいた。
「この子は私達の味方だと聖女の私も保証しますよ。」
どうやらラピスの転移でこの部屋に移動してきたようだ。
とはいってもなぁ~~~
仮にも王族が集まっている場所にいきなり転移してくるなんて不敬も甚だしいぞ。
俺達がその気になれば何でも出来るってのは、あまり見せつけるのは良くないと思うが、どうなんだ?
まぁ、この世界で最強と言われるほどの2人だ、誰も注意する事は出来ないだろうな。
「ラピスママにソフィアママ!」
嬉しそうにフランが2人へと振り向き立ち上がった。
トテテテ!と走りラピスへと抱きついた。
その横でソフィアが羨ましそうに2人を見ていたのは気付かないフリをしておこう。
「大賢者様と聖女様が認めていらっしゃるなら我々も認めないといけないですな。それにしてもお二人まで母親と呼ばれるなんて想像もしませんでしたよ。」
「この子は確かにレンヤとシャルの血で生まれた子供だけど、私達全員が母親になって育てる事にしているのよ。ちょっと変わった生まれ方をしたけど、私達の大切な子供に間違い無いわ。この子も幸せになって欲しいからね。」
ラピスが嬉しそうにフランを抱きながら国王様と話をしている。
国王様も嬉しそうな顔でフランを見つめているよ。
フランが振り返り、国王様をジッと見つめて
「おじいちゃん?」
って言ったものだから、国王様が・・・
ブルブルと震えて何かとても嬉しそうだ。
「そうか、そうか、シャルの姉2人は他国へ嫁いでいったし、孫が生まれた話は聞いていたが、実際に孫に会えた事は無かった・・・、こうして孫を見ると・・・」
ニコニコした顔で国王様が両手をフランへと広げた。
「フランや・・・、儂も抱かせてもらっても良いかな?」
「いや!」
プイッとフランがそっぽを向けてしまった。
「そ、そんな・・・」
この世を全て絶望したような表情で国王様が床に膝を着いてうなだれてしまった。
(おいおい・・・、フランよ、何トドメを刺しているんだ?)
「ママ・・・」
フランがラピスを見つめると、ラピスがニッコリと微笑んだ。
「ふふふ・・・、あなたも策士ね。行ってらっしゃい。」
「うん!」
フランもラピスと同じようにニッコリと微笑んで、ラピスの腕の中から飛び降り国王様へと駆け出した。
そのまま国王様にヒシッと抱き着いた。
「おじいちゃん、ごめんね・・・、ちょっと意地悪しちゃった。」
「おぉおおおおおおおおお!フランや!儂をおじいちゃんと呼んでくれるのか?」
さっきまで絶望的な表情だった国王様だったけど、今まで見た事が無いほどに嬉しそうにフランを抱きしめていた。
(はい!国王様も陥落だな。)
フランの可愛さに俺の妻達全員もメロメロになっているんだ。国王様も例外ではないだろう。
そのままフランを抱いたまま自分の席へと戻っていった。
席に座ると第二王妃様も嬉しそうにフランの頭を撫でている。
「可愛いわぁぁぁ~~~、まるであの頃のシャルみたいね。」
そして、チラッとカイン王子に視線を移した。
「カイン、あなた達の子供も待っているわよ。」
カイン王子とシヴァがお互いに見つめ合い真っ赤な顔になって俯いてしまう。
(王妃様、あまりプレッシャーをかけたらねぇ・・・)
「ねぇ、私にも抱かせてくれない?」
第一王妃様が国王様に抱かれているフランへ手を伸ばした。
「いいよ。」
フランが微笑むと第一王妃様も嬉しそうにフランを抱き、自分の膝の上にフランを乗せた。
「懐かしいわぁぁぁ~~~、お嫁に行ったあの子達も小さい時はこうして膝に乗せると喜んでいたのよ。子供お生れたって連絡があったけど、もうあの子達は帰ってこれないからね。だけどフランちゃんのおかげでこうしてまた子供を膝の上に乗せられるのね。ありがとう、フランちゃん。」
そしてアベル王子を見つめた。
「アベル、早くリーゼロッテさんとの子供を見たいわ。2人からならどんなに可愛い子供が生れるのでしょうね?楽しみよ。」
カイン王子達と同じようにアベル王子もリーゼロッテ皇女殿下も真っ赤になっている。
(あらら、こっちにまで飛び火してしまったか・・・)
第二王妃様がフランに微笑んだ。
「ねぇ、フランちゃん、今夜は私と一緒に寝ない?」
「おいおい・・・フランはわしと一緒にだな・・・」
途端に第二王妃様より殺気が放たれる。
「あなた・・・」
国王様の顔が冷や汗ダラダラになっている。
「フランちゃんは私とシャルが一緒なのよ。この年頃の子は母親の愛情が大切なのよ。シャルとフランちゃんが一緒に寝るのは当たり前だけど、成人のシャルとあなたが一緒に同衾するなんて私は認めません!」
「た、確かにそうだが・・・」
「そういう事です!それ以外ならフランちゃんと一緒にいる事は認めますよ。」
「わ、分った・・・」
国王様が項垂れてしまったよ・・・
普段の威厳のある姿はどこに行ったのだ?
俺の隣にいるシャルをチラッと見ると、ニコッと俺に微笑んでくれた。
「フランが父様達に認めてもらえて本当に良かった。」
「そうだな。俺もホッとしたよ。」
「ふふふ・・・、こうなるようにみんなで打ち合わせをしたのですよ。ラピス様やソフィア様もノリノリで協力してくれましたし、フランも『私の魅力でメロメロにしてあげる』って、仕草などは私と念入りに打ち合わせしていたのよ。」
(マジかい・・・)
俺の妻連合の連携は見事過ぎる。
絶対に敵に回したら駄目な連中だよ。
その夜
「ありがとうな。」
俺の隣でラピスがうっとりした表情で抱き着いていた。
今夜の順番はラピスだった。
最近のラピスはギルドの仕事も忙しかったので久しぶりに一緒の夜だからなのか、いつも以上に甘えてくる。
あのクールビューティーだった頃を思い出すと、今のラピスの姿は本当に想像出来ないな。
だけど、今の雰囲気のラピスの方が可愛らしくて好きだ。
「いいのよ、レンヤ。私の口添えで丸く収まるならいくらでも協力するわ。それがあなたの妻である私の役目よ。」
チュッと軽くキスをされた。
「ねぇ、レンヤ・・・」
少し潤んだ瞳で俺を見ている。
「フランを見ているとね・・・、私も子供が欲しくなっちゃった・・・、だから今夜は・・・」
バンッ!
いきなりドアが勢いよく開けられた。
ズラッ!
(何で?)
第二王妃様と一緒にいるシャル以外の俺の妻達が部屋へと入ってくる。
アンがズイッと前に出てきた。
「レンヤさん・・・」
「アン、それにみんな・・・、どうした?」
しかし、アンがニヤリと笑った。
「子供が欲しいのはみんな同じよ。ラピスさん・・・、今夜はあなただけにレンヤさんを独占させないわ。」
「ちょ、ちょっと!みんなどうしたのよ!今夜は私の番なのよ!それなのに何でよ!」
珍しくラピスが慌てている。
「問答無用!」
ソフィアがズイッと前に出てくる。
「あの可愛いフランちゃんを見て、みんな子供が欲しくなったのよ!だから・・・」
「マジなの?」
コクリと全員が頷いた。
「ふふふ・・・、この身の程知らずめがぁぁぁぁぁ~~~~~、例の場所で勝負よ!今夜こそは誰が1番かハッキリさせてあげるわ!」
「「「望むところ!」」」
ラピスが叫ぶと全員も叫んでスッと姿が消えた。
例の場所はどこか分らんが、そこに転移したのだろう。
(ホント、仲の良い連中だ・・・)
全員が移動したものだから、俺1人がポツンとベッドの上に取り残された。
「まぁ、これで1人でゆっくりと眠れるな。」
久しぶりに朝までぐっすりと1人で眠れた。
結局、誰も戻ってこなかった。
とても快適な気持ちで朝を迎えられた事は、絶対にアイツらには言えないな。
(ははは・・・)
朝食の準備をする前には戻ってきていたけど、全員がボロボロになってやつれた雰囲気だった。
(こいつら・・・、何の勝負をしてこうなったのだ?)
とてもとても聞ける感じではなかったけどな。




