125話 戦いが終わって
「パパ、どうだった?」
フランがゆっくりと俺へと向き直った。
さっきまでの妖艶な笑顔と違いニッコリと微笑んで、まさに天使の笑顔みたいな感じだよ。
(この笑顔がフランの素の笑顔なんだろうな。)
「凄いな。ここまで強いとは思わなかったよ。さすがは俺とシャルの血を受け継いだだけあるな。」
「嬉しい!」
嬉しそうにフランがギュッと俺に抱き着いてきた。
・・・
・・・
(ちょっと・・・)
(フランさんやぁぁぁ・・・)
これってワザとなのか?
フランが俺に抱き着いているけど、ローズ級の胸をグイグイと押し付けている気がするのだが、気のせいか?
今、俺に抱き着いているフランは大人の姿で、マナさんやローズくらいの年齢に見える。
(俺やシャルよりも大人に見える娘って・・・)
「ははは・・・」
恥ずかしさで思わず苦笑いしてしまった。
グリグリ
(だ~か~ら~)
胸を押し付けてくるなよ。いくら何でもはしたないぞ!
だけど、とっても柔らかい感触が・・・
(いかん!)
フランは俺達の子供なんだ。やましい事を考えたらダメだ!
しかし、フランが俺の顔を上目遣いで覗いてくる。
大人フランの可愛さと色っぽさの絶妙なバランスがハンパないぞ!
(まさにアンやラピスと同じで人外の美しさだよ。)
そうはいっても、2人以外の女性メンバーも全員がとんでもない美人に間違い無いしなぁ・・・
「パパ、どうしたの?ふふふ・・・、もしかして、私に・・・」
ゆっくりとフランの顔が迫ってくる。
(ヤバイ!ヤバイ!近すぎるぞ!)
吐息がかかるほどに俺のすぐ目の前までフランの顔が迫ってきた。
金と赤のオッドアイがジッと俺を見つめている。
まるで瞳に吸い込まれてしまうかのようにフランの美しい顔から目を逸らせなくなってしまう。
(い、いかん!フラン!これ以上はぁああああああああああああああああ!)
グイ!
「い!痛ったぁああああああああああああああい!」
フランが悲鳴を上げて悶えていた。
(さすがに調子に乗り過ぎだったな。)
「フ~~~ラ~~~ン~~~、ちょっとママとお話しをしようね。」
「フランちゃぁぁぁぁぁん、ちょっと教育的指導をしましょうね。兄さんへの接し方を一から教えないといけないわ。」
シャルとテレサに両耳を摘ままれ、あまりの痛さなのか俺に抱き着いていた腕を放した。
そのまま2人に耳を引っ張られながらズルズルと部屋の隅まで連行されていった。
チラッと見てみると・・・
あ~ぁ、正座をさせられて何かガミガミと2人から言われているみたいだな。
あれだけの強さでもあの2人には敵わないみたいだな。
「ふぅ~、シャルとテレサの連携は見事だよ。お互いに親友と言っているだけあるな。」
「そうね。」
いつの間にかアンが俺の隣に立っている。
「まさか魔族でもごく一部の伝説でしか伝わっていない神祖のバンパイアが、2人の血で蘇ったなんて驚きね。しかも私達の味方、いえ、娘としてなんてね。女神様の魂の欠片を持つシャルといい、レンヤさんの周りで何があっても不思議でないわ。」
「おいおい、俺はここまで変ではないぞ。」
「いいえ・・・」
アンがニコニコしながら首を振っている。
「こうして私達がレンヤさんを中心にして集まっている事自体が神の意志を感じるわ。」
「でもね・・・」
そっと俺の腕を組んできた。
「私がレンヤさんを好きなのは私の意志よ。この好きな気持ちは決して誰かの意思が介入している事はないわ。」
「そうだな・・・」
俺もアンが好きな気持ちは俺の意志に間違い無い!
こうして巡り会う事が運命だったとしても、好きになる事は別問題だしな。
「俺もアンが大好きだよ。俺の場合はアンと会う運命に感謝だな。こうして俺が生まれ変わったのも、お互いに過去の柵を無くして向き合える為だったのかもな。」
「そうね・・・」
うっとりとした表情でアンが俺にもたれかかってくる。
最近はアン以外の連中が騒がしかったので、こうして2人で寄り添う事は少なくなってしまった。
でも、アンにはあまり寂しい思いをさせたくないな。
「「ちょっとぉおおおおおおおおおおお!」」
(おや?ラピスとソフィアの声だ。)
ズカズカと2人が俺に近づいてくる。
「あんた達!ちょっと目を離した隙にすぐにイチャイチャするんだから!いつも言っているでしょう、私も混ぜなさいってね!」
「そうよ!ラピスよりも私を優先してね。こんな駄エルフなんか相手をしなくてもいいからね!」
「何ぃいいいいいいいいい!」
おいおい・・・、ラピスさんやぁぁぁ~~~~~
何、ソフィアにメンチを切っているんだよ?
ソフィアもソフィアだ、事ある度にラピスにちょっかいを出しているしな。
「ふん!ラピス!喧嘩ならいくらでも買うわよ!」
「舐めるなぁあああああああああ!」
(あぁぁぁ~~~~~、2人がキャットファイトを始めたよ・・・)
本気で喧嘩をする訳じゃないけど、ホントこの2人は仲が良いよな。
「親友って良いわね・・・」
アンが羨ましそうに2人のキャットファイトを見ている。
(そうだった・・・)
アンは魔王の娘、いわゆるお姫様だったから友達も殆どいないって言っていたな。唯一の親友であった先代シヴァは魔族領で隠居生活だし、あの2人を見ると昔を思い出すのだろう。
(だけど・・・)
アンの肩に手を置き抱き寄せた。
「レンヤさん?」
不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んできた。
「心配するな。アンも立派な俺達家族の一員だし、まだ出会ってから数ヶ月だからそう焦るな。そう遠くないうちに嫌でもあの喧嘩の中に入ると思うぞ。」
「そうね・・・」
「このぉおおおおおおおお!無駄爆乳女めぇええええええええええ!」
アンが微笑んで俺に言いかけた瞬間にラピスが叫ぶ。
「ウォーターボール!あんたの胸なんか潰れてしまえぇええええええええ!」
ラピスがソフィアへ向かって掌を突き出すと、上半身ほどの大きさの水球が出来上がり、そのままソフィアへと飛んで行く。
「舐めるなぁあああああああああ!そのままお返ししてあげるわぁあああああ!」
ソフィアの両手がポゥっと淡く輝く。
飛んで来た巨大な水球を両手で「ふん!」と掴んだ。
「ま、マジかい?」
いくら水の魔法とはいえ、素手で掴むなんてあり得ない!
「ふふふ・・・、魔法は魔法で相殺出来るからね。私の手に魔力を纏わせればこうして掴む事も可能よ。そして!」
そのままグルン!と一回転するとラピスへと水球を投げつけた。
(ソフィアよ・・・、何でもありな存在になってしまったな・・・)
「やるわね!だけど甘いわ!リフレクション!」
ラピスの正面に光輝く盾が出現した瞬間、巨大な水球が盾にぶち当たり跳ね返された。
ゾクッ!
(何だ?嫌な予感が・・・)
ドッパァアアアアアアアアアアアアアアアアン!
跳ね返った水球が俺と俺に寄り添っていたアンに直撃した。
まぁ、この水球は本来の攻撃用と違い、殺傷力0の威嚇用の水球で単にずぶ濡れになるだけだが・・・
プルプル・・・
マズい!アンも巻き込まれて、下を向いて震えている・・・
「ふふふ・・・」
ゆらりと顔をラピス達へと向ける。
目がマジになっている!
「この喧嘩・・・、私も買ったわ・・・」
アンがラピスへと駆け出した。
(みんな、仲が良いな・・・)
3人がキャットファイトを始め、俺1人がずぶ濡れのまま立ち尽くしていた。
「これで良し!」
ソフィアの前に数十人の神官服を着た男性と、シスター服を着た女性達が整列をして立っていた。
バンパイア達もさすがに全員をグールにする訳にいかなったから、かなりの人間が邪眼で操られこの教会の中で仕事をしていた。
グールがアンデッドモンスターだから戦い以外では役に立たないし、教会の業務などは生きた人間が行わなくてならない事もあったからな。
そえにしても大司祭の邪眼の洗脳はかなりのレベルだった。
本人達は操られた実感も無く、坦々と当たり前に業務をこなすだけの思考になってしまい、傍から見ると真面目に仕事をする司祭様やシスターと街の人から見られていた。
そのおかげで教会がバンパイアの巣窟になっている事を誰も分らなかったのだろう。
大司教を倒した事によって邪眼の洗脳も解け、正気に戻った人々がパニックになりかけたが、そこは聖女ソフィアの力、あっという間にみんなを落ち着かせ、全員がこの大礼拝場へと集まった。
みんなの前でソフィアが堂々とした姿で立っている。
聖女として数々の仕事をしてきた彼女だ。数千人の前に立って宣言をしていた事もあったし、数十人くらいの人数の前では落ち着いた感じだ。
「みなさんは本当に大変でしたね。ですが、もうこの街はバンパイアから解放されました。」
「「「おぉぉぉ~~~」」」とみんなが再び喜びの声を上げた。
「しかし、聖都の本殿を浄化しない限り、再びこの街が狙われるでしょう。だけど安心して下さい。」
次の瞬間、ソフィアの全身が輝く。
光が収まるとソフィアの背中に大きな白い翼が生えていて、瞳も金色に輝いている。
「おぉおおお!あのお姿はまさしく!」
「こうして聖女様のお姿をお目に掛かる事が出来るとは・・・」
「こ、これが伝説の聖女の・・・」
「もう、思い残すことはありません・・・」
「女神様が降臨された・・・」
各々が膝を着き頭を下げてソフィアへ祈りながら呟いていた。
これがソフィアの聖女としての真の力・・・
この圧倒的な存在感の前には信者がひれ伏すのは納得だよ。
「神域結界!」
膨大な聖なる魔力がソフィアから放たれた。
「みなさん、安心して下さい。この街は私が結界で囲みました。邪悪な者はこの街に入ることは出来ないでしょう。もうバンパイアに怯える事はありませんよ。」
「女神様だ・・・、本当に女神様が我々に希望を・・・」
先頭の司祭が呟くと、後ろにいた全員が涙を流しながら頭を下げていた。
「レンヤ・・・」
ラピスがソッと俺の隣に来た。
「さすがソフィアの浄化魔法ね。この街の中に潜んでいたバンパイアもその眷属も一瞬で浄化され消えてしまったわ。この街全体を覆う結界なんて、あの子は本当に女神様と同等の力を手にしたのは間違いないわね。」
「そうだな、ここまで規格外とは俺もビックリだよ。頼りになるな。」
チラッとラピスを見ると・・・
(何だ?ジロリと俺を見ているけど・・・)
あっ!
(そういう事ね。)
「ラピス、もちろんお前も頼りにしているよ。お前の代わりになる人って誰もいないからな。それと、愛しているからな。」
「うふふふ!レンヤ、嬉しい事を言ってくれるじゃないの。私も愛しているわ。」
嬉しそうにラピスが俺の腕に抱き着いてきた。
だけど、ラピスよ・・・
チョロい・・・、チョロ過ぎる気もしないではないが・・・
「ねぇねぇ、パパ・・・」
フランがクイクイと俺の服を引っ張ってきた。
視線をそこに移すと・・・
幼女状態のフランがいた。
どうやらシャルとテレサの説教地獄から解放されたみたいだな。
「フラン、さっきの姿はどうした?」
「う~ん、実はまだ私って生れてからそんなに経っていないから、基本的にはこの姿なの。あの姿になるには人間と一緒で普通に成長しなくてはならないの。パパの血を飲めば一時的に大人になれるけど、血の効果が無くなればまたこうして元の姿に戻るのね。」
「そうか・・・」
優しくフランの頭を撫でる。
「フラン、俺としては今の姿の方が好きだな。別に俺はロリコンじゃないぞ。俺とシャルの血で生れたんだし、今はちゃんとした子供でいて欲しいな。シャルもそう思っているだろうし、焦って大人になる必要はないからな。」
「うん!分った!」
フランが嬉しそうに微笑んで俺の手を握った。
完璧と言えるほどに美しい大人フランだったけど、今の幼児状態のフランの方が可愛いと思うな。
この姿でパパと呼ばれた方がしっくりとくるよ。
「それで何か話があって来たのか?」
「そうそう、パパ!」
急に小声になって俺に囁くように話し始めた。
「私ってバンパイアでしょう?今、ソフィアママが聖なる結界を張ったけど、何で私は平気なのかな?」
「フランちゃんなら大丈夫よ。」
ラピスがウインクしながらフランへと微笑んだ。
「レンヤとシャルの血を取り込んだから、あなたは神格を得たのよ。だから聖属性の魔法も問題無いのよ。あいつらが教会やソフィアを狙ったのも同じ理由だけどね。まぁ、レンヤ達の方がもっと進化出来る血だと分ったら大変な事になるけど・・・」
「大丈夫です!絶対にパパ達の血は渡しません!」
「フランちゃん頼りにしているわよ。」
「法王様、メルボンの街からの連絡が途絶えました。」
「なんだと?本当か?」
「はい、街の中にいた我ら同士全てから連絡が途絶えてしまいました、しかも、あの街に眷属を放つと聖なる結界が張られていまして・・・、眷属がことごとく浄化されてしまい中に入ることさえ出来ない状況です。中で何があったのか?」
「聖女に全滅させられたのだろう。そして我々が入れないように結界を張られたに間違いないな。馬鹿者めが・・・、あれほど油断するなと言っておいたのに・・・、我々の存在に気付かれたようだな。」
法王が目の前にある巨大な女神像に跪き祈り始めた。
「我らが女神たる『アンジェリカ』様・・・、魔王に封印されてから500年も経ちました。いつになれば我々の前に神々しいお姿をお見せになられるのでしょうか?アンジェリカ様がお目覚めになられてもすぐにこの世界の女王様とおなりになれるよう、我々がこの世界を征服します。ですから、もう少しお待ち下さい。必ずや聖女を手に入れ最強となった我らバンパイア一族が・・・」
「私の初恋・・・、愛しきアンジェリカ様にこの世界を捧げます。」




