124話 フラン③
「フラン・・・、その姿は?」
フランがゆっくりと俺達の方へ振り向いた。
「パパ・・・、この姿が本当の私・・・」
俺の目に映っているフランは単にシャルがもっと大人になった姿ではなかった。
確かに顔はシャルによく似ているが、清楚な感じのシャルとは正反対の感じで、まるでローズのような妖艶な笑みを浮かべている。
髪は黒色のドリルツインテールと変わってはいなかったが、瞳は右目が金色で左目が赤色のオッドアイになっていた。妖艶な表情と併せて更にミステリアスな感じだ。
背が伸び大人のスタイルとなっているが、不思議な事にゴスロリ服も成長に合せてなのかジャストサイズな大きさであった。
見た目はシャルに似ているが、ある一部分だけがシャルとは正反対で思いっ切り主張していた。
ここもローズに似ている。
「何でココだけ私と全く違うのよぉおおおおおおおおおおおおお!私の身体情報じゃないの?」
シャルが絶叫している。
(その気持ちは分る。)
慎ましい胸のシャルだけど、今のフランの胸はローズに匹敵するほどの爆乳で激しく自己主張していた。
「ママ、大丈夫よ。ママも将来はこんな胸になるからね。」
涙目になっていたシャルにフランが微笑んだ。
「フラン、本当に?」
「本当よ。ママって元々女神様の魂を持っていたから、潜在魔力が普通の人と比べて桁違いなのよ。強過ぎる魔力が体に影響を与えていて、それで体の成長がチグハグになっていたの。女神様も今の私以上に巨乳だし、あと数年もすればママも私と同じスタイルになるに間違い無いわ。その時は2人でパパを誘惑しようね。ふふふ・・・」
「そうなんだ、私もいつかは巨乳になる希望が持てるのね。もう貧乳で悩まなくても良いんだ。」
シャルがうっとりとした表情で自分の胸に手を当てている。
「そ、そんなぁぁぁ・・・」
ラピスがガックリと膝を付いて蹲ってしまった。
(どうしてだ?)
「シャルとの『ペッタンコ同盟』はどうなるのよぉぉぉ~~~~~~~、シャルが巨乳になったら、また私だけが貧乳になるの?いやぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~」
(あっ!)
ラピスがショックで戦闘不能になってしまった。
コイツは胸の大きさにかなりのコンプレックスを持っているからなぁ・・・
落ち込んでいるラピスをジッと見ていたけど・・・
ダメだぁぁぁ~~~
今はラピスに何も言えない。
男の俺が下手に何か言ってしまうと更に傷口を広げるかもしれん・・・
今夜はラピスと一緒にいて慰めてあげよう。
俺の口から何も言えないけど、一緒に一晩黙って寄り添ってあげれば少しは元気が出るだろうな。
アイツはそんな事に関しては現金なヤツだからな。
(ん?)
ちょっと待て!
今は戦闘中だぞ!
ソフィアの玉潰しネタといい、フランとシャルの巨乳問題といい、お前達・・・、ちょっと余裕過ぎないか?
大司祭を見ると、こめかみに大量の青筋をピクピクと浮かべて震えているぞ。
この大司祭はかなりのおデブだし、ポッテリと出ているお腹も一緒にプルプルと震えている。
(こんな太ったバンパイアは見た事がないぞ。見た目は面白いけどな。)
「貴様等ぁぁぁ・・・、とことん我々をコケにしやがってぇぇぇ・・・」
(あぁ~~~、やっぱり怒っているよ。)
「遊びは終わりね。バンパイアのみなさん、これからが本番よ。まぁ、私もバンパイアだけど、あなた達とは決して相容れない間柄と思想だから、私も遠慮しないわよ。」
ニヤリとフランがバンパイア達へと微笑んだ。
「ふ、ふざけるなぁああああああああああ!」
大司祭のフェーデが絶叫し、左右にいたバンパイア達が右手を前に突き出す。
「ダークフレア!」
「ファイアーボール!」
「ダークレイ!」
「シャドウスフィア!」
「ストーンブラスト!」
いくつも魔法がフランへ目がけて飛んでくる。
「フ、フラン!」
思わず叫んでしまったが、妖艶な笑みでなく優雅にフランが俺へと微笑んだ。
まるで女神化したシャルの様に神々しい微笑みだった。
「パパ、大丈夫よ。」
(何だ?)
フランの周囲に赤い球体がいくつも浮かび上がって回り始めた。
(シャルのプラズマボールみたいなモノか?いや、違う!)
「ブラッドシールド!」
フランが叫ぶと周囲の赤い球体に変化が起きた。
十数個あった球体が集まり数個に数が減ったが、その分大きくなる。
その球体が薄く広がり六角形の形になり赤黒く結晶化した。
そのままフランの前に集まり魔法を受け止めた。
ドオォオオオオオオオオオオオオン!
全ての魔法を受け止めたが、結晶の盾は1枚たりとも砕けるどころか欠けもしていなかった。
あれだけの数の魔法を受け止めたのに無傷なんて、あの盾の強度は俺の予想以上に硬いのだろう。
集まっていた盾が分散し、そのままフランの周りを浮いてグルグルと回っている。
「ふふふ、これがパパからもらった血で覚醒した私の力よ。」
「そ、そんなぁぁぁ・・・、貴様は、い、いえ、あなた様は・・・」
大司教が真っ青な顔でガタガタと震えている。
「私はただのフラン・・・、ちょっとだけ変わった生れ方をしただけのバンパイアよ。女神の魂を持った母と、神の魂を持った父の血で生れたか弱い女性なの。」
「女神と神・・・、そんな魂だと?そんなの聖女の血を取り込むよりも・・・」
ドン!
1体のバンパイアの上半身がいきなり吹き飛んだ。
残った下半身がゆっくりと倒れ、黒い灰となって消滅した。
「ブラッド・バレット・・・、それ以上は言わないで。パパとママの血は絶対に渡さない。それに、私はあなた達の上に立つ気はないから・・・」
フランが右手を前に突き出している。
親指を立て、人差し指を大司教達に向けていた。
「頭と心臓を同時に消滅させたから、いくら再生能力が高いバンパイアでも復活は無理よ。」
フランの周囲を回っていた結晶の盾がグニャリと変形し、元の赤い球体へと変わり更に細かく分れフランの前方に集まった。
「ショットガン!」
細かい赤い玉が大司祭の右側にいたバンパイア達へと高速で飛んでいく。
そこに立っていたバンパイア達が一瞬にして全身を穴だらけにされ、驚きの表情になった状態のまま倒れ黒い灰となって消滅する。
「血闘術・・・」
大司祭がさっきよりも激しくガタガタ震えている。
「そ、そ、そんなのは・・・、伝説の技だぞ・・・、ロードたる私でさえ使えないのに・・・、法王様が辛うじて1つの技を使えるとだけしか聞いた事がないのに、目の前のこの小娘はいくつもの技を・・・」
「ハイロード以上の存在・・・、まさか・・・」
「・・・真祖様?」
ドン!
「うぎゃぁああああああああああああああ!」
再び炸裂音が聞こえたと思ったら、大司祭の右腕が肩から吹き飛んでいた。
「これ以上は言わないでって言ったよね?」
「は、はひぃぃぃ・・・」
「「「大司祭様!」」」
大司祭の左側に残っていたバンパイア達が騒ぎ、フランをギロッと睨んだ。
「よくも大司祭様をぉおおおおおおおおおお!」
1体のバンパイアが翼を生やし天井近くまで浮き上がって、手の爪を伸ばしフランへと天井から襲いかかった。
「この小娘がぁああああああああああああ!」
しかし、フランはさっきと同じで落ち着いて上空から迫るバンパイアを見上げている。
右手を軽く振ると、いつの間にか真っ赤な刀身の剣を握っていた。
「ブラッディーソード!」
そのまま一気にジャンプをし、上から迫ってくるバンパイアの上まで飛んだ。
斬!
フランが優雅に床に着地する。
相手の頭頂部から股間まで一気に縦に2つに分れ、そのまま床へと落ちてきた。
ドサッ!
ピクピクと震えていたがすぐに動かなくなり、またもや黒い灰となって消滅した。
「ま、ま、間違い無い・・・、あなた様は真祖・・・、とうとう復活されたのですか?」
しかし、フランは首を振りとても冷たい目で大司祭を見ている。
「さっきも言ったでしょう、あなた聞いていなかったの?私はただのバンパイアであるフランよ。パパとママの子として人間として生きるの。決してあなた達の仲間にならない・・・」
「それに・・・」
フランの視線が更に鋭くなる。
「ここに来るまでに遭遇した大量のグール・・・、あなた達、どれだけの人間を殺してきたの?それにあなた達から漂う濃い血の臭い・・・」
「決して許さない・・・」
「で、ですが!吸血は我々が生きる糧であって!」
「黙りなさい!」
フランから強力な殺気が大司祭達へと放たれた。
「生きるだけなら人間と同じ食事でも十分のはず。それに、吸血行為といっても僅かに血をもらうだけで十分よ。ここまで血の臭いがするって事は、どれだけの犠牲者が・・・」
「下等生物である人間に、なぜそこまで拘るのですか?あいつらは餌、放っておいてもどんどんと数を増やすだけの存在に、なぜ我ら高貴な存在が気に掛ける必要があるのですか?こうして人間を餌に我らバンパイア族は500年かけて準備をしてきたのですよ。この世界の覇者となり、全ての生命体の頂点に立つ為に!それが我々の悲願ではありませんかぁあああ!」
バサッ!
「こ、これはぁあああああああああああああああああああああ!」
フランの変化に大司教がガクガクと震える。
彼女の背中に大きな翼が生えていた。
他のバンパイア達のようなコウモリの翼ではなく、シャルと同じ女神の翼が生えている。
シャルは純白の翼に対し、フランは漆黒の翼だった。
「そ、その翼は・・・、信じられん・・・、伝説にすらならない遥か昔、我らの祖先が神の世界にいた時は女神と同じ翼だったと・・・、光と闇の戦いで闇の陣営だった我らがこの世界へ落とされた時、高貴な翼はもぎ取られ、今のコウモリの翼に変わってしまったと・・・、まさか、この翼をこの目で見られる日が・・・」
「だが!もう遅い!」
グッと大司祭が構えると、周りにいるバンパイア達も剣を構えたり鋭いかぎ爪を伸ばし、大司祭の前に立ち構えていた。
「我ら一族は法王様の下にこの世界の覇者になるのだ!今の私の前には聖女だけではない!神の力を持つ勇者に女神がいるのだ!こいつらの血を我らの身に宿せば世界最強は間違い無い!いくら『神祖』様であろうが、目覚めたばかりでは能力も十分に発揮出来まい!」
ズルッ!
吹き飛ばされた大司祭の腕の付け根から鞭のような肉塊が飛び出し、みるみるうちに元の右手へと形成される。
しかし、元に戻るどころか筋肉が肥大化していく。
「これは?」
体も大きくなり、まさに筋肉の塊のように巨大化した大司祭が立っていた。
全身から発散されている殺気もかなりのものだ。あの魔王よりも強力な殺気が出ている。
(こんな奴もいたなんて・・・)
これで序列三位とは、二位や一位の法王はどれだけの強さなんだ?
少なくとも魔神クラスの力はあるかもしれん。
「ぐふふふ・・・、この本気になった私に勝てるかな?いくら神祖様でも、500年人間の生命力をこの体にため込んできたのだ。その力は神に匹敵する。そして、貴様達が宿している神の力を手に入れ、神をも超える存在となるのだ!」
「はぁ~~~~~~~~」
フランが思いっ切りため息をしていた。
アンやソフィア達も同様に呆れた感じで大司祭達を見ている。
「身の程知らずとはこの事を言うんだね。パパ、さっさと終わらせるわ。」
サッと右手を前に突き出した。
「ブラックホール!」
小さな黒い球が右手の掌から飛び出し、バンパイア達へと飛んで行く。
その玉が1体のバンパイアに当たると、そのバンパイアが一気に玉に吸い込まれ消滅してしまった。
その玉から発せられている超重力から逃れられず、残りのバンパイア達も吸い込まれてしまい、大司祭だけがその場に1体だけ残っている。
「こ、こんな・・・」
「この超重力に耐えられるなんて、少しは見直したわ。」
フランがニヤリと笑った。
「だけど、無駄な事だったけどね。」
背中の漆黒の翼が大きく広がった。
右手に握っていた剣を構えふわりと浮き上がり、一気に大司祭へと飛んで行く。
「血闘術!秘奥義!百花乱舞!」
真っ赤な刀身が何十本、いや、何百本にも見える。
まるで真っ赤な花が咲いたように大司祭が数百本の刀身に包まれた。
「ぐぎゃぁああああああああああああああああ!」
大司祭の悲鳴が響き渡った。
スタッ!
フランが大司祭を背に優雅に降り立った。
ブシュゥウウウウウ!
大司祭が真っ赤な血を噴き出し、散り散りになって崩れ落ち灰と化し消え去った。
「手応えの無い相手だったわね。分不相応な思想を持つからこんな事になったのよ。私の願い・・・、それはパパやママ達と一緒に平和に暮らす事・・・、平和を望んだのは、戦いに明け暮れ疲れ果ててしまったご先祖様の最後の願いだったのよ。神祖に目覚めてご先祖様の意思が蘇ったから分かる。」
「そんなご先祖様の願いを踏みにじる奴は許さない・・・」




