123話 フラン②
いやいや!このメンバーはどうなっているのだ?
アンとラピスの強さは元々分かっていたけど、ソフィアとテレサの強さも異常と呼べるレベルだ。
バンパイアはまだ出てきていないが、グールが出てきたら簡単に瞬殺している。
グールはゾンビの上位アンデッドのはずなんだけど・・・
時々、只の人間がバンパイアの邪眼で操られて襲ってくる事もあったが、その時はソフィアの当て身であっさりと気絶させ回復魔法で正気に戻している。
正気に戻ってソフィアが目の前にいると分かった時のみんなの顔といったら・・・
感激して号泣はするわ、土下座して感謝の言葉を述べているわ・・・
さすが教国だな。
ソフィアはこの国では女神様と同格の扱いになっているとは・・・
この国の女王になって欲しいとまで懇願されていたな。
さすがにソフィアも断っていたよ。
何度が戦闘になったけど全員が落ち着いて対処しており、全く危なげなく進んでいるには内心驚いている。
(ここまでの強さなんて、確実に500年前よりも強いパーティーになっている。)
俺の予想以上にだ!
それにフランの戦闘力がハンパない!
アンと同じ闇属性の魔法を得意としているが、ラピスやソフィアと同等の無詠唱の魔法でさっさと相手を倒してしまっていた。
見た目は5歳児の幼女だけど、中身はラピスの言った通りバンパイアロードに間違いないだろう。
レッサーバンパイアは500年前、冒険者時代に戦った事があるから大体の強さは分かっているはずだ。
その時の強さと比較してもフランは格段に強いと思う。
(本当に頼りになる娘だよ。)
だけどなぁ・・・
シャルの両親である国王様や王妃様に何て言えばいいんだ?
『いやぁ~~~、俺とシャルの子です。』
なんて言ったら、速攻で国王様にぶっ飛ばされるのは間違いないよなぁ~
国王様のシャルの溺愛ぶりはハンパないし、根掘り葉掘り徹底的に聞かれる未来が見える。
悪戯好きな王妃様には逆ドッキリが出来るかも?
あの浴場鼻血事件のお返しだな。
(う~ん・・・)
王国に帰りたくないよ。
でもなぁ~、シャルは昨夜は王城に戻っていないし、今夜返さないと絶対にヤバイよな?
王妃様に渡した転移の指輪の機能を使って、メイド3人組と一緒に押しかけてくる事間違いないだろう。
あの行動力の塊の王妃様は恐るべしだよ。
(シャルの母親だけある・・・)
どっちにしてもフランの存在がバレてしまうのは間違い無い・・・
(覚悟を決めるしかないな。)
クイクイ
(ん?)
誰かに服を引っ張られている。
いかん、いかん、考え事をしていたらボ~としていた。)
視線を移すとフランが俺の服を引っ張っていた。
「パパ、ボ~としてどうしたの?」
「悪い、悪い、ちょっと考え事をしていた。」
「もぉ~~~、パパったら戦いの最中なのに気を抜き過ぎ!」
本気で怒っていないけど、プンプンとしている仕草のフランも可愛い。
「ほら!この扉の先が大礼拝場よ。ここに大司祭がいるわ。それと、残りのバンパイアも待ち構えているに違いないわ。」
俺の目の前に巨大な扉がある。
これだけ大きな扉なら、中の部屋も相当大きいのも想像出来た。
サーチにもしっかりと中に待ち構えている反応が出ている。
「さて・・・、行くか・・・」
ドカァアアアアアアアアアアアア!
(はい?)
「先手必勝よぉおおおおおおおおおお!」
腰を低く構え左手を脇に引き、右腕を真っ直ぐ突き出した残心をとった姿のソフィアがいた。
ふぅ~と軽く息を整えている。
ソフィアさんやぁ・・・
あの扉を正拳突き一発で吹き飛ばすって・・・
「こ、この野郎!」
背中にコウモリの翼を生やした1体のバンパイアが、部屋の中から空を飛びながら飛び出してきた。
「ソフィア!」
思わず声をかけてしまったが、ソフィアはニヤリと笑って俺をチラッと見た。
どうやらソフィアもバンパイアの事はしっかりと気付いていたみたいだ。
バンパイアが高速でソフィアの目の前まで移動し鋭いかぎ爪をソフィアへ振り下ろす。
「ふっ!遅いわ!」
ソフィアが前に突き出していた右手を曲げ、拳を裏拳のようにクルッと回転させた。
ガッ!
そのまま裏拳で打ちつけたソフィアの拳がバンパイアの手首にぶち当たった。
裏拳の威力にバンパイアが仰け反ってしまう。
「隙あり!そしてトドメぇえええええええええ!」
ズドン!
「えぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
バンパイアの悲鳴が響き渡った。
(合掌・・・)
思わずバンパイアに同情してしまい、心の中で手を合せてしまった。
同じ男としてこんなやられ方だけは絶対にご免だ!
ソフィアが右手の裏拳でバンパイアの手首を殴り仰け反った瞬間だった。
バンパイアは宙に浮いている、そしてソフィアの視線より少し下にバンパイアの股間があった。
右手を引き脇に引いていた左拳を前に突き出す。
その拳が真っ白に輝いていた。
すくい上げるような動作で輝く左拳がバンパイアへと吸い込まれた。
だが!
その拳の突き刺さった場所は・・・
思わず下半身のある部分がキュッとなってしまった。
(あれは痛いってもんじゃない!確実に2つ揃って潰れたな・・・)
バンパイアが白目を剥き口から泡が噴き出した。
ソフィア必殺の『玉潰し』、男にとっては最凶最悪の必殺技だ!
あの一撃で男の尊厳が全て砕かれてしまう。
一度死んだ俺だけど、あんな死に方だけは絶対に嫌だ!
「このまま消滅しなさい!弾けろ!ターン・アンデッド!」
相手の股間にめり込んでいたソフィアの左拳が一際激しく白く輝いていた。
「きょひぇええええええええええええええ!」
悲鳴のような歓喜のような声を上げ、バンパイアが下半身から光に包まれ消滅した。
「ねぇ、ソフィア・・・」
ラピスがジト~~~~~~~~とした目でソフィアを見ていた。
「何、ラピス?」
「玉潰しは封印よ!今度からは私達が許可した時だけ使って!」
「えぇぇぇ~~~、何で?」
ソフィアがブーブー言っているよ。ソフィアには悪いが、ラピスの気持ちは良く分かる。
「あの技は精神衛生上!良くないのよ!玉子を見るとアレを連想してしまうから、玉子が食べられなくなってしまうの!分かった?」
「ちぇ!分ったわよ。まっ!相手に地獄の苦しみを与えながら倒す方法はまだまだあるからね。さて、次はどんな技を使おうかしら?ふふふ・・・、腕が鳴るわ・・・」
おいおい、頼むから普通に戦ってくれ・・・
ソフィアって実はドSだったのか?
その矛先が俺に向かないように注意しないとな。
下手にソフィアを刺激して、俺がドMに開発されたらシャレにならん!
「ソフィア!あんたは後方待機!分った?」
ラピスがジロッとソフィアを睨んだ。
「えぇぇぇ~~~、何でぇぇぇ~~~」
「アンタが強いのは分っているから、あんたが戦うと私達の出番が無くなるの!最近はあんたに良いところばかり取られているから、少しは私達に出番をよこしなさい!」
「ちぇっ!分ったわ。」
ソフィアが俺の隣へとやって来た。
「私達は後ろでゆっくりしていましょう。」
「おいおい、そんな訳にいかんだろう?」
しかし、ソフィアがニコッと微笑んだ。
「大丈夫よ。ラピス達も私と同じくらいに強いからね。ここの敵のレベルじゃ相手にならないと思うわ。」
「そ、そうか・・・」
アンとラピスを先頭にして部屋の中に飛び込んだ。
俺とソフィアとフランが後方で立っている。
アン達と俺達の間にシャルとテレサがいるフォーメーションをとっていた。
案の定、中に入ると10体ほどのバンパイアが待ち構えていた。
そのバンパイア達が左右にスッと分かれ、中央に1人の豪華な法衣を纏った男が立っていた。
(あの男が大司祭か?)
「これは勇者パーティーの皆様、聖女様をお連れしていただきありがとうございました。」
ニヤリと笑いながら深々と頭を下げた。
顔を上げるとニヤリと笑い歪んだ口元から鋭い牙が覗いている。
「私の名前はフェーデ、他の雑魚バンパイアと一緒にしないでもらいたい。」
「大した自信ね。」
ラピスが杖を構えジッと大司祭を見つめている。
隣のアンも魔剣を具現化して構えていた。
「私はバンパイアの中でも序列三位なのだよ。昨夜倒した序列にも入らない雑魚を倒して調子に乗るな。いくら最強の勇者とはいえ私に敵うはずがない!大人しく聖女を渡すのだな。そうすれば、お前達は運が良ければ生かして奴隷にしてやってもよい。この世界はもうじきバンパイア一族が支配するからな。我々は500年をかけてこのチャンスを待っていたのだよ。」
「ぐはははははぁああああああああああああああああああああああああああ!」
何だ、この根拠の無い自信は?
(こいつらアホか?)
クイクイ
(ん?)
フランがまた俺の服を引っ張っている。
「フラン、どうした?」
「ねぇねぇ、パパ・・・、私が戦ってもいい?」
(はい?)
フランもフランで何を言い出すんだ!
「パパ達との実力の差も分らないバカは私がお仕置きしたいの。何かパパやママ達が馬鹿にされているようでムカムカする・・・」
「フランちゃん、本当に大丈夫?」
ソフィアが心配そうな顔でフランを見ているよ。
しかし、フランがニコッと微笑んだ。
「ソフィアママ、大丈夫だよ。私だってパパ達と一緒に戦えるって見せたいからね。それに完全体になった私の力も試したいしね。」
マジかい・・・
このままの姿のフランでもかなり強いのに、その更に上の形態もあるのかい?
ラピスの言った通りに規格外の娘みたいだ。
シャルに視線を移すとシャルがゆっくりと頷いてくれた。
「フラン、分ったよ。シャルからも許しが出たからな。」
「ありがとう!パパ!」
フランが嬉しそうにジャンプして、俺の胸の中に飛び込んでくる。
「パパ、ちょっとだけ力を借りるね。」
カプッ!
俺の首にフランが噛みついた。
フランの鋭い犬歯が俺の首筋に刺さり、少し血が出てくる。
その血を美味しそうにフランが吸っていた。
「ちょ、ちょっと!フラン!何をしているの!」
シャルが慌てて俺に駆け寄ってきたが、すぐにフランが俺の首から唇を離し俺を見つめた。
首の傷はあっという間に塞がり傷痕すら残っていない。
「フラン・・・、その顔は?」
今のフランの表情はとても5歳児には見えない程に妖艶な表情に変わっていた。
(これがあの可愛らしいフラン?)
「ふふふ、やっぱりパパの血は最高に美味しい・・・、信じられないくらいの力が湧き上がってくるわ・・・」
フワッとフランが俺の腕の中から浮かび上がり、そのままアン達の前まで飛んでゆっくりと床に着地した。
「「フランちゃん・・・」」
アンもラピスも心配そうにフランを見つめている。
「貴様!何者だ?!いや、その気配は我らと同じバンパイアか?」
大司祭が怪訝な表情でフランを睨んでいた。
俺達の前に立っていたフランがいきなり光輝いた。
黄金の光に包まれたフランの姿がみるみるうちに大きくなっていく。
輝きが収まり、そこに佇んでいたのは・・・
「フラン・・・、その姿は?」
俺の隣に立っているシャルにとても似ているが、そのシャルよりもっと大人の姿になったような姿のフランが立っていた。




