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122話 フラン①

「シャル・・・」


思わずシャルを見つめてしまう。


「レンヤさん・・・」


シャルも何が何だか分からない顔だ。

俺も同じ気持ちだけど・・・


「混乱させてごめんなさい!」


目の前のゴスロリ幼女がペコペコと頭を下げている。

何だかその姿がとても可愛いよ。


「あなた・・・、本当にフランなの?」


シャルが恐る恐る少女へ尋ねると、とても嬉しそうに微笑み、シャルに抱き着いた。


「はい!お母様!フランです!」


シャルがフランを持ち上げると、ニコニコ顔でシャルの胸元を頬ずりしている。


「お母様って・・・、私、まだ婚約で結婚していないのにもう子供が出来たの?信じられない・・・」


「お母様に間違いありません。」


「どうして?」


「お母様の血を飲んで、私は自我と知性を得ました。信じられないかもしれませんが、その時から私は私と意識するようになったのです。だから、あなたは私のお母様に違いありません!」


そういう事か、納得したよ。

シャルには女神の魂が宿っている。女神の力に目覚めたシャルには、その血にも女神の力が宿っていたって事だな。

その血を飲んだフランが自我と知性を得るまでに進化した訳だ。


(だったら、俺は?)


勇者としての力を持ってはいるけど単なる人間だぞ!


(いや・・・)


確か・・・、王城での戦いの時に魔神やデウス様と呼ばれた神から・・・


(俺って?)


「お父様!」


少し考え事をしているとフランに呼ばれた。

とても嬉しそうな顔で俺を見ているよ。

俺の方へ両手を伸ばしてきたので、今度は俺がフランを抱き上げた。


「お父様・・・、いい匂い・・・」


こらこら、男に向かっていい匂いって・・・

まだ加齢臭が出てくる歳でもないし、いい匂いと言われてちょっと嬉しい。


「コウモリの姿のフランがこうしてちっちゃなシャルみたいな姿になるとは驚きだよな。」


「はい、この姿はお母様の血の情報で形作られました。ですが、こうして人間の姿になれたのはお父様の血のおかげです。だから、あなたが私のお父様で間違いありません!」


そういう事ね。

さっきラピスが言っていたな。


『もしかしてバンパイアに進化するのかも?』


その通りになってしまった。


「それにしても、お父様の血は素晴らしいを通り越してこの世のものでないほどに甘美な味でした。たった一滴舐めただけこうして進化するとは・・・、それにとても力が湧いてきます。まるで神様から直接力をいただいたような・・・」



「やっぱり進化したのね。」



後ろからラピスの声が聞こえた。


「普通はキラーバットがいきなりバンパイアに進化するのは前例が無いわよ。最低でも3段階の進化を繰り返してやっとレッサーバンパイアになるのを、一足飛びでいきなり進化してしまうなんて・・・、しかもよ、この子はレッサーバンパイアよりも上位の存在の気がするわ。あんた達2人はどんだけ規格外なの?」


いやいや、そう言われてもなぁ・・・


横を向くとシャルと目が合ったけど、シャルも同じ事を考えているみたいだな。

お互いに肩を竦めてしまった。


「それにしても、本当にシャルに似ているわね。シャルの子供って言っても納得するわ。」


ラピスがジッとフランを見つめている。


「フラン」


「はい!お父様。」


う~ん・・・、何だか仕草が固いよな。子供の姿なのに、この口調はねぇ・・・


「フラン、子供なんだからもっと子供らしくしても大丈夫なんだぞ。その方がもっと可愛いと思うけどな。」


「そうですか?」


キョトンとした顔で俺を見つめているけど、そんな仕草も可愛い。


「そうよ、フランちゃん。」

シャルが優しい目でフランを見つめながら頭を撫でている。

「知性は私の情報を元にしたのなら、マナーや仕草を気にするのは仕方ないけど、あなたはまだ子供よ。子供は子供らしくしなさい。私達の前では気にしないで欲しいな。」


「はぃ・・・、うん!ママ!」


さっきよりも自然な可愛い感じの笑顔でフランが微笑んでくれた。

これがフランの本当の笑顔なんだろうな。


「ふふふ、こうして見ると完全に家族の姿ね。ちょっと悔しいけど、早く私子供が欲しくなってきたわ。」


マナさんがニマニマしながら俺達を見ているが・・・

いや!ソフィアやローズも一緒な視線だぞ!


ふとアンに視線を移すと・・・


「私も抱いて良いかな?」


アンがソワソワしながらフランを見ているぞ。


(そうか・・・)


アンは子供が大好きだしな。

目の前に子供がいるし、可愛くて可愛くて仕方ないのだろう。


「はい、大丈夫です。」


ニコッとフランが微笑むと、アンが一瞬ブルっとしてゆっくりと両手をフランへを差し出した。

そのままアンがフランを優しく抱きしめた。


「可愛い・・・」


うっとりとした顔でアンがフランを抱いている。


(本当に子供が好きなんだな。)


「ママ・・・」


フランがそう言ってアンをギュッと抱きしめると、アンがとてもビックリした顔になった。


「フランちゃん・・・、私の事をママって?」


「うん!私って普通に生まれた訳じゃないから、パパの奥さんはみんなママって呼びたいんだ。ダメかな?」


「ううん!そんな事は無いわ!」


「これが母親の気持ち・・・」と言ってギュッとアンがフランを抱きしめていた。



「ちょっと!私も抱かせてよ!」


今度はソフィアがフランを抱こうとアンへと近づくと、フランが「ソフィアママ」と言ってニコっと微笑んだ。


「んんん!!!!!!!!」


何か訳の分からない声を上げて、ソフィアが悶えているぞ。

まぁ、あいつも子供好きだったしな。フランの可愛さに陥落したのだろう。


その後はマナさんもローズもテレサもラピスもニコニコしながら順番にフランを抱いていた。


「ねぇ・・・、レンヤさん・・・」


シャルがジッと俺を見つめている。


「どうした?」


「フランがみんなに受け入れてもらえて良かったわ。いきなり子供が出来てしまったけど、あの子を見ていると母親として頑張ろうと思うの。でもね、ちゃんと生んだ子供も欲しいな。」


「まぁ、子供は授かりものだし頑張るしかないけど、その前にちゃんと結婚してからだな。」


「そうね・・・」

俺に寄り添って腕を組んできた。

「みんな子供好きだし、フランのおかげで子供が欲しいってかなり強く思っているみたいだしね。これからの夜は大変なのは目に見えるわ。ちゃんと私の相手のお願いね。」


「ははは・・・」


この展開は想像していなかった。



何だろう・・・


アイツ等が肉食獣の目付きで襲い掛かってくる姿が思い浮かんだが・・・



(うわぁ~、容易に想像出来るのが怖いよ。)



フランを抱いて満足したのだろうか、嬉しそうな顔でラピスが俺の隣にやってくる。


「フランは可愛いわね。バンパイアとは思えない程よ。ねぇ、レンヤ・・・」


「ん?」


(次の言葉が予想できる。)


「早く私達の子供も欲しいわ・・・」


(うわぁ~~~~~、やっぱり!)


だけど、急に真剣な表情に変わった。


「冗談はさておき、昨日の襲撃だけどバンパイアが絡んでいたのは朝に話した通りよ。だけどね、あの男は日中にも関わらず普通に外に出て私達を案内してくれたわ。太陽の光に弱い種族なのに・・・、レッサーバンパイアは下位のクラスだし、特に弱いはずよ。」


「そうだな・・・、今のフランも普通に外にいるが、アレはどういう事だ?」


「フランは多分だけど、バンパイアロードクラスだと思うわ。ロードになれば太陽の光にもかなり強くなるし、あなたとシャルの血で規格外の進化をしたからね。そして、あいつらはソフィアの血を狙っていたわよ。」


「ソフィアの血?」


「そう・・・、この国の教会になぜバンパイアがいるか考えてみたのよ。バンパイアは元々が闇属性のモンスターよね?基本的には太陽光や聖なる浄化の属性に弱いわ。そんな弱点を聖職者の聖なる血を取り込んだらどうなるか分かる?」


(そうか!あいつらの目的は?)


「ふふふ、レンヤも分かったようね。この国は既にバンパイアの支配下になっているのでしょうね。そして、ソフィアは聖職者の中では最高の癒しの力を持つ存在よ。その力を取り込もうと高位のバンパイアが求めているのでしょうね。自分達の弱点を無くし世界のトップに立つあいつらの野望が見えるわ。まぁ、あの王城での戦いの詳細は公表していないから、500年前のレベルでの基準で考えられているのではないのかな?魔王をギリギリで撃退したことにもしてあるし、私達を舐めていたから簡単に返り討ちにしたけどね。」


やっぱりそういう事か・・・

俺は勇者として復活したと公表はしているが、500年前と比べて格段に強くなっている事は公表していない。

ましてや、シャルが女神の力に目覚めた事は秘密にしている。

フランが俺とシャルの血であれだけの進化をした事は奴らにバレると・・・


(確実に俺もシャルも狙われるだろう・・・)


「かなり厄介な国だな・・・」


思わず言葉が出てしまった。


「そうね・・・、さっさと出て行きたいけど、そう簡単にはいかなさそうね。この街の教会に顔を出す事になっているけど、昨夜の事もあるから確実に警戒されているし、相手もしっかりと準備をして待ち受けているでしょうね。」


ラピスが腕を組んで「う~ん・・・」と唸っている。


「そんなに気にする事もないわ。」

ソフィアが自信満々な表情で俺の前に来る。

「どんな敵だろうが、私の拳で粉砕するわ。昨日の哀れな男のようにね。」


グッと拳を握ったが、その瞬間、ラピスを始め女性陣みんな(テレサだけは普通だけど・・・)の顔が青くなった。そして、朝食の時のように俺の股間に視線が集中した。


(まただ・・・、昨夜は本当に何があったのだ?)


ポンポンとシャルが俺の肩を叩いた。


「どうした?」


「レンヤさん・・・、世の中には知らない方が幸せな事もあるのよ。絶対に知ってはいけないと思うわ。」


ゾクッ!


どうしてだ?急に俺の股間がキュッとなった。

あの王城でのソフィアの『玉潰し』を見た時の記憶が鮮明に蘇る。


(まさか?)


シャルと目が合うと、俺の心が読めたのかシャルがゆっくりと頷いた。


(やっぱり!)


だからか・・・

朝食の時に玉子を食べていた時のみんなの反応が微妙だったのは?


女性陣でもトラウマになりそうな光景はどんな凄惨な玉潰しだったのか?

どうしてだろう?相手の男に急に同情したくなった。


(絶対に聞けない・・・、この話は2度と表に出ないように封印だな。)



ソフィア、恐るべし・・・



「ソフィアは暴れさせたらダメね。さすがに2日連続でアレを見たくないわ・・・」


ラピスが疲れた顔で俺を見ていた。

俺もあの光景は見たくないよ。同じ男として最低のやられ方だ・・・


「今回は俺が頑張るよ。ソフィアだと確実にやり過ぎると思う。」


「えぇ、私もそう思うわ。サポートは任せなさいね。」


俺とラピスが目を合わせ頷く。




「ここか・・・」


現在、俺達は白亜の城と言っていい程の大きな教会の目の前に立っていた。


「親玉が待ち構えているんだろうな。まずはこの街の教会から浄化するとするか!」


門の前は誰も見張りがいない。


(さて・・・、どうして中に入るか?)


そう思っていると、『ギギギ・・・』と自然に門が開いた。


(門番もいないし、完全に誘われているな・・・)


「パパ・・・」


フランがギュッと俺の腕を握っている。

使い魔の時にこの建物から出入りしていたから、この建物の中の構造を覚えているので案内が出来ると言って俺達に付いてきたんだよな。ローズとマナさん達と一緒に馬車で待っているように言ったけど、頑なに俺と一緒にいたいと言われたよ。

シャルからは『レンヤさんが護衛なら絶対大丈夫ね。』と謎の信頼をされたが、一緒にいるフランは何でかとても楽しそうだ。


(はぁ~~~~~~~~、ピクニックじゃないんだけど・・・)


「パパ、大司祭の場所はねぇ・・・」



ガァアアアアアアアアアアアアアアアア!



「おっと!グールだ!」


通路の曲がり角の死角から3体の人間が現れたが、そいつらはもう人間じゃない。

バンパイアに殺され操られた動く死体みたいなものだ。ゾンビとは違い肉体は腐っていないが、人間の肉体のリミッターを外されているから潜在能力100%の力で襲ってくるので、意外と侮れない。


「こいつらがいるって事は、完全にこの建物はバンパイアの巣窟だな。」


「うん、昨日ソフィアママが倒したナーデルを含めて10人くらいのバンパイアがいるよ。その中でも大司祭が一番強いんじゃないかな?でもね、パパの前じゃ大司祭っていっても雑魚も雑魚だと思うけどね。」


何だろう?フランがえらく余裕な姿だな。

それに俺への信頼度がとても高く感じるが気のせいか?

可愛い娘の前だ、俺も良いところを見せるように頑張ろう!



「ダークフレア!」



ドォオオオオオオオオオオオン!



「へっ・・・」



フランが空いている左手の掌をグールに向けるといきなり魔法を放った。

真っ黒な炎に包まれたグール3体が一瞬で消滅してまった。


「ダークフレアって・・・」


ラピスが呆れた顔でフランを見ていた。


「いきなり闇属性の上級魔法を無詠唱で唱えるなんて、レンヤとシャルの規格外(仮)夫婦から生まれただけあるわ・・・、規格外なところもちゃんと受け継いでいるんなんてね。」


「パパ、どう?」


フランがニコニコしながら俺を見ていた。


「フラン、凄いな。」


その頭を優しく撫でてあげると凄く嬉しそうだよ。


「えへへ・・・、パパに褒められた!」



フランを中心にほのぼのとした空気が出来上がっていた。


アンも嬉しそうにフランの頭を撫でている。


「ふふふ、私以外にも闇魔法の使い手が増えて嬉しいわ。フランちゃんにはもっと魔法を教えてあげないとね。」


「うん!ありがとう!アンジェリカママ、楽しみにしているね。」


アンがプルプル震えてギュッと抱きしめていた。


「う~ん!何て可愛いの!」



(うん!完全にピクニックだよな?)

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