116話 両親に再び結婚の報告
「うぎゃぁああああああああああああ!」
マッチョが腕を押さえながら悲鳴を上げている。
(うん、完全にやり過ぎた・・・)
「ヒール!」
マッチョへと手をかざしヒールを唱えると全身が仄かに光った。
「い、痛みが引いていく・・・、そ、それに・・・、砕けた骨が元に戻って・・・」
不思議そうに手を開いたり閉じたりして、肩や肘もグルグルと回しながら確認をしていた。
ピタッと動きが止まると、ゆっくりと俺の方へと首を向けてくる。
(な、何だ?)
そのままダッシュで俺の前に移動し、いきなり土下座をしてきた。
「あ!兄貴!これからは兄貴と呼ばせて下さい!」
(・・・、いきなり何が起きた?)
「勇者としての圧倒的な強さ!しかも!俺の無礼な態度は殺されても不思議じゃないのに、完全に治してくれる何とも寛容な心!兄貴はまさしく俺の尊敬する人だ!さっきまで生意気な態度を取ってすみませんでしたぁあああああああああああああ!」
(はい?)
チラッと隣のテレサを見ると・・・
「さすが兄さんね。こうして兄さんの凄さを分かってもらえるなんてね。ふふふ・・・、嬉しい・・・」
「姉御!俺は兄貴との結婚を祝福します!兄貴と姉御は本当にお似合いだよ!」
マッチョのこの変化って何?
俺って、そんなに凄い事をした?
「さすがは勇者様ですね。」
王子様がニコニコ笑って俺を見ている。
「あのゲイツはなかなかの曲者でしてね、私とテレサ以外には絶対に言う事を聞かなかったのですよ。まぁ、いわゆる『自分より強い者にしか従わない』ってやつですね。そんな彼をあっという間に従えてしまうなんて凄いです。」
ブワッと王子様から闘気が溢れ出した。
「私も自分の力を試したくなってきましたよ。実はですね、先日の魔王襲撃の際に彼女シヴァをドラゴンから助けると決めた時に、私に頭の中に声が聞こえたのです。まさか私の称号が『上級騎士』から伝説の称号の1つ『守護騎士』にクラスチェンジするとはね。この称号はかつての賢王様の称号『聖騎士』に匹敵する称号です。その後は皆さんが魔人を蹂躙してしまい、私の出番はありませんでしたが・・・」
新しいテーブルに腕を置きスタンバイしているよ。
どうやら自分の称号の力を試したいようだな。
(その誘い、乗った!)
「勇者様に勝とうとは思いませんよ。ですが、私もこの国の守護者の1人、だけど今の私はシヴァよりは弱いと自覚しています。勇者様の強さをこの身に染み込ませて、更なる研鑽の末にシヴァと並んで戦えるようになりたいのですよ。」
「その意気はさすがシャルの兄貴だな。俺も思いっきりさせてもらうよ。」
ガシッと王子様の手を握り準備が整った。
「それではいきますよ。」
「おう!全力でこい!」
グワッ!
こ、これは!
王子様の力がハンパない!俺の力に匹敵するほどだぞ!
ギリギリィィィ!
さすがレア称号の力だ。俺の身体能力に近いほどまで強化されているなんてな。
しばらく様子を見させてもらおうと思ったら・・・
バキィイイイ!
「「あっ!」」
テーブルが砕けてしまった。
「「「おおおぉおおおおおおおおおおお!」」」
「団長が勇者様と互角だなんて・・・」
「やっぱり我々の団長だ。」
「俺もあんな美人の嫁さんが欲しいよ。」
等々
騎士達がザワザワしているけど、どうやら王子様が俺と互角という事で称賛しているみたいだ。
これなら王子様も騎士団をまとめるのも楽になるだろう。
「さすがですね。」
王子様が俺へ右手を差し出した。その手を俺も握る。
「手加減してもらってもまだまだ勇者様に及ばないとは、私の力不足を実感しますよ。」
「そんな事はないと思いますよ。戦いで一番のご法度は自惚れですからね。カイン王子様、あなたはその事が良く分かっていると思いますよ。まだまだ強くなれると俺が保証します。」
そう話すと王子様がニコッと微笑んだ。
「勇者様にそう言っていただけると、とても心強いですね。更なる精進をするとします。」
そしてテレサへとウインクをしている。
(何で?)
「テレサ、幸せになるんだ。でもね、勇者様に愛想を尽かせたら私が受け入れるよ。シヴァ以外に妻を娶る気はないが、テレサ、君だけは特別だよ。」
おいおい、何を言っているんだ?
そういえばシャルから聞いたけど、この王子様はかつてテレサに求婚したってな。
まだ未練が残っているのか?
「殿下、その件はお断りします。私は絶対に兄さんから離れませんので・・・」
ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオ!
(何だ!この圧倒的な冷気は?)
床が凍りつき始めているぞ!
王子様の後ろを見ると・・・
「「げっ!」」
俺もテレサも思わず声が出てしまう。
そこにいたのは・・・
夜叉のような顔をしたシヴァが立っていた。
全身から凄まじい冷気が放出されている!このままでは、この食堂全体が凍りついてしまうぞ!
「あなた・・・、私以外の女に色目を使ったわね・・・」
(ヤッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッイ!)
嫉妬の塊のシヴァがとても怖い!
500年前に戦った先代シヴァとは比べ物にならない程の冷気を放出している!
その矛先が王子様へと向けられているのはすぐに分かった。
「シ、シヴァ!こ、これは誤解なんだよ!」
王子様があたふたしているけど、シヴァの殺気は収まらない。
(王子様、この発言は自業自得です。ご愁傷様・・・)
「あなたのバカァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
ピキィイイイイイイイイン!
あちゃぁぁぁ~~~、食堂全体が凍りついてしまったよ。
俺達や騎士達の被害はなさそうだけど・・・
俺の目の前にいるカイン王子様が・・・
「兄さん、見事に凍りついてしまったわね。」
テレサが呆れた顔で氷の彫像と化したカイン王子様を見ていた。
「おほほほぉぉぉ・・・、それではお邪魔しますね。」
シヴァが引きつった笑顔で氷の彫像と化した王子様を引きずりながら食堂から出て行った。
「いやぁ~、女って怖いねぇぇぇ・・・」
俺がボソッと言うと、テレサもボソッと呟いた。
「ホント、女の嫉妬ってねぇ・・・、私はそんな事はしないけどね。」
(おい・・・)
テレサよ、どの口が言っている?
お前が1番の危険人物だぞ!
人間、自分の事って意外と分かっていないものなんだなぁ~
その夜・・・
「テレサ、本当に良いの?」
シャルが心配そうにテレサを見つめている。
「大丈夫よ。私は兄さん以外の男の人に誰にも心も体も委ねるつもりはないからね。こうして、兄さんと一緒にいる事が私の1番の幸せなのよ。」
「そう・・・、テレサの気持ちは私も認めるわ。レンヤさんとテレサを公認の夫婦として認めるわよ。アンジェリカ姉様からも了解は貰っているけどね。」
「シャル・・・」
「出し抜いた私の事を許してくれる?」
「もちろんよ。だって、私とシャルは親友だしね。それに、あの時に約束したじゃないの。一緒に兄さんと結婚しようってね。だから大丈夫、順番はシャルが先だっただけの事よ。もう気にしていないわ。」
そしてポッとテレサの顔が赤くなった。
「それにね、私は初めてだから経験者のシャルがいると安心するわ。だからね、色々と教えて欲しいな・・・」
「任せて。王族や貴族にはね、夜の夫婦の契りも教養の1つとして勉強させられるのよ。だから知識はたくさんあるし、いつもレンヤさんには満足してもらったわ。」
(そんな事を言うなよ・・・、恥ずかしいぞ。)
「だからね、テレサにもちゃんと教えてあげるわよ。王族秘伝の技をね。ちょうどここにはレンヤさんもいるし、今夜はテレサの実践訓練よ!」
シャルがニヤッと笑うと、ゆっくりと俺の方へ顔を向ける。
テレサもシャルの動きに合わせて一緒に俺の方を向いた。
「ど、どうした?何か怖いぞ・・・」
何だ?背中に冷たい汗が流れている気がする。
無事に朝を迎えられるか不安になってきた。
「レンヤさん、大丈夫よ。いつもよりも少し激しいだけだからね。」
「とうとう兄さんと・・・、感激でもう死んでも良いわ・・・」
ジリジリ2人が迫ってくる。
テレサはヤンデレだから多少の暴走は覚悟していたけど、シャルまで何で?
「ふふふ・・・、レンヤさんの温もりは久々ね。今夜は枯渇してしまったレンヤさん成分を心ゆくまで補充させてもらうわ。」
「兄さん、忘れられない夜にしてね。これからは妹でなく妻として・・・、愛してるわ。」
こいつらはこんな肉食系だったか?
多分だが、シャルまでもテレサのヤンデレオーラに毒されているみたいだ。
王女様のお淑やかさが今夜に限って無いぞ!
その後は・・・
もう言葉にも出来ません。
激しかった・・・
それから1週間後・・・
俺の前には父さんと母さんが並んで座っている。
久しぶりに実家に戻ってきて、両親に改めて結婚報告を行っていた。
パン屋の方は売れに売れてウハウハ状態みたいだ。
新しく住み込みで雇ったエミリーが良く働いてくれて、エミリー目当ての常連も増えている話も聞いた。
ギルドの受付嬢の時みたいな高飛車な態度も全く無く、とても丁寧な接客をしているとローズが褒めていたな。
『ラピス様が言っていたけど、この子は本当に生まれ変わったように頑張っているわ。将来はとても楽しみね。あなたへの罪滅ぼしみたいだけど、今後はどうなるか?そっちの方も面白そうね、ふふふ・・・』
ってローズが最後に気になる事を言っていたが・・・
仕事に関してはとても厳しいローズがエミリーをべた褒めしているなんて、本当に頑張っているのだろうな。
話は元に戻る。
俺の隣にはテレサが座っている。
「お父さん、お母さん・・・、1年ぶりに帰ってきたけど・・・」
テレサがモジモジとしながら俺の腕を抱いていた。
「「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~」」
父さんと母さんからとてつもなく長いため息が出ている。
まぁ、兄妹が結婚するって話をしに来た訳だしな。
普通はそんな話は無いし、親の立場だったら俺をぶん殴るだろう。
「後悔はしないのだな?」
ギロッと父さんが睨んだ。
「1年前にテレサからあの話を聞いた時は信じたくなかったけど、本当にレンヤと結婚するなんて・・・」
母さんは涙目で俺達を見ている。
「普通の兄妹なら認める訳にはいかないだろうが・・・」
父さんが腕を組み天井を見上げた。
「レンヤは勇者、テレサは聖剣ミーティアに選ばれた・・・、2人が結ばれるのは運命なんだろうな。いくら親である俺も母さんも運命で結ばれた2人を引き離す事は出来ん。」
「父さん・・・」
「お父さん・・・」
「認めるしかないだろうな・・・」
しかしとても真剣な目で俺達を見つめた。
「レンヤにテレサ・・・、絶対に無い話ではないが、お前達は兄妹で結婚する事を決めた。それが将来どんな結果になるか俺達も分からん・・・、だがな、絶対に後悔はするなよ。結婚して幸せだったとお互いに思うような一生を送る事を誓え。俺からは言えるのはこれだけだ。」
「そうね・・・、あなたの言う通りね。」
母さんも俺達をジッと見つめた。
「それに、レンヤもテレサも普通じゃないしね。何で私達の子なのかな?別に悪い意味で言った訳じゃないわよ。世界を救う勇者とパートナーがが私達の子供だったなんてね。あなた達は私達の誇りよ。」
そしてテレサを見つめた。
「テレサ・・・」
「お母さん・・・」
「応援するわよ。アンジェリカさんやローズマリーさんのような完璧なお嫁さん達に負けたらダメよ。あなたが1番になりなさいね。頑張りなさい。」
「うん・・・」
テレサが泣きながら頷いた。
とても良い雰囲気だし弱った・・・
チラッとドアの方に視線を移すと、ソフィアとシャルがそっとドアを開けて覗いているよ。
ドアは父さん達の後ろにあるし、今のところは気付かれていない。
(この雰囲気だと言いにくい。どうしよう?)
俺の視線に母さんが気付いたみたいだ。
母さんが後ろを振り向いて固まってしまう。
「レンヤ・・・、誰なの?1人は何か見た事がある気がするけど・・・」
父さんがまたもやギロッと俺を睨んだ。
「レンヤ・・・、お前・・・、まさか?」
仕方ない、バレてしまったから本当の事を言うしかないな。
「あぁ・・・、新しく妻になった2人だよ。1人はまだ婚約だけどな。」
「「はぁああああああああああああああああああ!」」
2人がこれまでない程に呆れた顔になった。
その気持ちは俺も良く分かる。
ソフィアとシャルがしずしずと部屋の中に入ってきて両親に頭を下げた。
「お父様、お母様、初めまして。私はソフィア・バーモントと申します。」
「初めまして。私はシャルロット・フォーゼリアと申します。」
「「はい?」」
「母さん・・・、俺の聞き違いかな?2人揃って聞いた事のある名前だけど・・・、俺の記憶が確かなら・・・、1人は伝説の勇者の物語に出ていた聖女の名前だぞ。」
「えぇ、あなた・・・、私も同じ事を思ったけどね・・・、もう1人は確かこの国の・・・」
「父さん、母さん、聞き違いじゃないよ。ソフィアはラピスと同じ500年前に教会の奥の間に自分自身を封印して先日甦ったんだよ。かつての伝説の聖女に間違い無い。それにシャルはこの王国の第3王女様だ。シャルに関しては王族の人だから、ソフィアのようにすぐに結婚するのは難しいんだよ。色々と手続きをしてから結婚する事になる。もう少しすれば王都で大々的に婚約式を行うと思う。今はその準備で忙しいけどな。」
「「ははは・・・」」
父さんと母さんの乾いた笑いがリビングに響く。
「伝説の聖女様に現役の王女様?王女様は道理で見た記憶がある訳よ。1年前にテレサが国の騎士団に召し抱えられる時に、我が家に挨拶に来られた方が第3王女のシャルロット様よ。第2王子のカイン様と一緒におられたのを思い出したわ。そんな雲の上にいるような王族の方がレンヤと婚約?これは夢よね?私の頭が変になったのかしら?」
バタン!
(あっ!)
母さんがパニックになって気を失ってしまった。
「普通は考えられないわよね・・・、こんな一平民の家に聖女や王女様が嫁いでくるなんてあり得ないわ。私がお母さんだったら状況が理解出来なくてパニックになるのは当然よ。私もいくら兄さんからソフィア義姉さんが復活すると聞いていても、実際にあの時ソフィア義姉さんとお会いした時は、信じられない思いでパニックになりそうだったからね。」
テレサが冷静に分析をしているよ。
「レンヤ・・・」
父さんがとても疲れた顔で俺を見ている。
「どれだけ俺と母さんを驚かせれば気が済むのだ?これ以上はもう無いだろうな?」
う~ん・・・、マズい・・・
背中に汗がダラダラと流れている。
さすがにまだアンの事は話せないよなぁ・・・
ラピスやソフィアと同じで500年前の魔王の娘だったなんて言えない。
しかもだ!俺達が魔王や邪神を倒す戦いを始めたっていうのも・・・
驚きよりも心配し過ぎて胃に穴が開くかもしれない。特に母さんが心配だよ。
それに・・・
帝国の皇女様から帝国の未来を託された。
今後はアンを中心に帝国の場所に新しい国を興す予定になっている。
アンは『優しい魔王』として君臨し、魔族をまとめるだろう。その時は世界中に衝撃を与えるのは間違い無いだろうな。
そして単なるパン屋の息子の俺が一国の女王の旦那だぞ!
そんなの誰が想像出来る!
(さすがに今はそんな話は出来ないな。まだ実現もしていないし・・・)
「レンヤ、どうした?」
「い、いや・・・、何でもないよ。」
「そうか・・・」
父さんが腕を組んで目を閉じ、しばらく黙ってしまった。
「レンヤ・・・」
目を開けフッと父さんが微笑んだ。
「俺からはもう何も言わないからな。母さんにも目を覚ましたらちゃんと話しておくよ。レンヤもテレサも俺達から巣立って一人前の大人になったとな。だからお前達はやりたい事をすれば良い。何をするかは聞かないが、とんでもない事をするんだろうな。そんな気がする・・・」
「父さん・・・」
「お父さん・・・」
「だけど無理はするなよ。そして、孫が生れたら必ず俺達に見せるんだからな。お前達がどこに行っても俺と母さんの自慢の子供達だからな。それを忘れるなよ。」
自然と涙が出てきた。
隣のテレサも泣いていた。
前世で無くした家族の絆・・・
その為に心を閉ざした俺だった・・・
アレックス、ラピス、ソフィアのおかげで俺は一人でないと思った。
そして、生まれ変わった今の家族で取り戻した家族の絆と温かさ・・・
俺は何て幸せなんだろう。
一度失った温かさを取り戻せた。しかも、前世の時以上にとても温かい家族の絆・・・
この温かさは絶対に無くしたくない!
父さん・・・
母さん・・・
俺は約束する。
絶対に父さん達を悲しませる事はしない。
必ず魔王や邪神を倒しこの世界を平和にする。
そして、今度の俺は絶対に死なない!必ず生きて帰ってくるよ。みんなと一緒にな!
アン達と力を合わせて・・・
みんなで楽しく笑い合える世の中にする為に・・・




