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115話 つかの間の休息④

「おはよう・・・」


(ん?この声は?)


目を覚ますとソフィアがニコニコした顔で覗き込んでいた。

窓を見るとまだ薄暗いから日の出少し前の感じだ。

うっとりとした表情のソフィアが俺を見つめている。

寝顔をジッと見られていたなんて、ちょっと恥ずかしいな。


「早いな・・・、昨日の夜はあれだけ頑張ったのにもう起きたのか?」


照れ隠しで俺がそう言うとソフィアの顔が真っ赤になった。


ズンッ!


「ぐほっ!」


おでこにソフィアのチョップがぶち当たった。

っていうか!額にめり込んでいるぞぉおおおおおおおおおおおおおお!


「もぉぉぉ・・・、恥ずかしい事を言わないの!」


そんな照れているソフィアは可愛いのだが、照れ隠しで殺人チョップをお見舞いされるとは予想外だった。

多分、本人は軽く当てているつもりだろうが、俺にとっては頭が真っ二つにされそうになる程に痛い!

あの魔物達の殲滅戦をラピスの再生魔法で見せてもらったけど、素手で地形を平地から峡谷へガラッと変えるなんて、ソフィアの実力は俺の想像をはるかに超えていた。

神から直々に指導を受けたと昨夜聞いたけど、こんな破壊兵器を作る神ってどんな化け物なんだ?


「のぉぉぉ~~~~~~~~」


あまりの痛さに思わずおでこを押さえ唸ってしまう。


「ご、ごめん!」


俺の顔がソフィアの大きな胸に包まれた。

お互いに裸だし、大きな胸の感触がダイレクトに伝わる。


(これはヤバい・・・、嬉しいけど!い、息がぁぁぁ・・・)


最高に気持ちが良いけど、息が出来ない!

天国と地獄、その両方を同時に味わうとは!


しばらくしてソフィアの胸が離れた。

もう少しで窒息死するところだったぞ。しかも、とても幸せそうな顔で死ぬなんてどんな辱めだよ・・・

例え万が一死んでも、ソフィアなら何食わぬ顔で蘇生してしまうと思う。


「レンヤさん・・・」

じっとソフィアが俺を見ている。

「苦しそうだったのに、何かとても嬉しそうな顔ね?」


ニヤリと笑っているよ・・・


「そんなに私の胸が良かったの?だったらいくらでも・・・」



「はいストップ!」



「「げっ!」」


思わず俺もソフィアも叫んでしまった。


「これ以上はアウトよ。2人のイチャイチャタイムは終わって、次は私の番だからね。」


俺とソフィアの間に裸のラピスが割り込んでいた。どうしてなのかはすぐに分かったけどな。


「おい・・・、そんな転移の使い方は心臓に悪いぞ。いきなり目の前に割り込んでくるなんて・・・」


「良いじゃないの。」


とても嬉しそうに微笑んでいる。


「何が良いんだよ・・・」


「良いのよ、こうして500年ぶりに3人が揃ったしね。朝食まで時間があるから、今からは3人の時間よ。」


「ラピス・・・、あなた・・・」


おいおい、ソフィアも呆れているぞ。


「そうね、500年ぶりの同窓会みたいなものね。」


おい!ソフィア・・・

お前までもラピスの案に乗っかったのか?


「レンヤ、そういう事よ。私とソフィアは親友だし、久しぶりにこの3人でいるのも悪くないと思うわ。」


ラピスが嬉しそうに俺に抱きついてくる。


「でもねぇ~、ラピス!あなたいきなり過ぎよ!もう少しレンヤさんとの余韻を楽しみたかったのにぃいいい!」


かつての旅ではこんな楽しそうな2人は見た事が無かったな・・・

あの時の俺は精神的な余裕は無かったし、しかも最初の頃は彼女達からは怖いと思われていたしな。


それにしても・・・


こうして3人が仲良く一緒になるなんて当時は想像していなかったよ。


「レンヤさん、どうしたの?楽しそうに私達を見ているけど?」


ソフィアが俺を見つめている。

ラピスもソフィアの声で俺の視線に気付いたみたいだ。抱きついたまま上目遣いで俺を見ている。


「500年前はこんなに楽しい雰囲気になっていなかったと思ってな・・・、ラピスもソフィアもこんなに仲が良かったのに、俺の前で仲良くする事も出来なかったみたいで・・・、すまん、俺が無愛想で空気を読めなかったし、それで気を遣わせたみたいだったな。」


「そんな事はないわ。」

「そうよ、そんなレンヤも含めて好きになったのよ。」


「私もラピスもお互い好きと気付いた時は遅かったけどね。私がレンヤさんの事が好きと自覚したのは、魔王城の戦いの前だったかな?」


ソフィアがそう言うとラピスもうんうんと頷いている。


「そうね、私はまさかレンヤがいなくなるって思った時に気付くなんて・・・、でもね、こうしてやり直せる機会がもらえてフローリア様に感謝ね。」


「そう、私もね。そして、こうして一緒にまた戦えるし、今度は私も前線に出れるから安心して。その為に強くなったから。」


「いやいや・・・、鉄拳制裁の聖女様ってイメージが湧かないぞ。」


「そうそう・・・、聖女って厳かな雰囲気よね。こんなお転婆聖女なんて教会のイメージを壊すわよ。」


ニタニタした目でラピスがソフィアを見ているけど、そんなソフィアが真っ赤な顔でラピスを睨んでいる。


「あぁ、そぉ~、あなたがそんな事を言うとはね。大賢者の称号持ちで最高の魔法使いのイメージを大事にしているみたいだけど、まさかの剣豪の称号も持っているあなたがねぇ~~~~」


「こ、こら!」

今度はラピスが真っ赤になった。

「レンヤやアレックスが剣士だから、剣は目立たないようにしていたのにぃぃぃ・・・」


(マジ?ラピスが剣も得意だって?)


「し、知らなかった・・・」


「確かに剣も得意だけど、今のレンヤやテレサちゃんと比べればねぇ~~~、神の剣術には程遠いわよ。」


ちょっと拗ねた感じのラピスだけど、そんな表情も可愛いよ。


「ふふふ・・・、こうして和気藹々と話をするなんてね。」


ソフィアがラピスを挟んで俺に抱きついてきた。


「ちょっと!ソフィアァアアアアア!苦しいわよ!」


「良いじゃないの。昔はこんな事なんて無かったし、もう少し、こうして楽しみましょうね。」


とても嬉しそうにソフィアが微笑むと、ラピスも釣られて微笑んでいた。


「そ、そうね。もう少し楽しむ事にするわ。アン達ばかりにいい思いをさせられないからね。」



おいおい、ベッドの中で裸で美女2人とイチャイチャなんて・・・

前世の俺だと考えられない状態だよな。




「ふわぁぁぁ~~~、眠い・・・」


王城に転移で戻り朝食を食べると急に眠気が襲ってきた。

いかん・・・、あの後、2人とイチャイチャし過ぎた。

転移があるから移動の時間がかからないし、ギリギリの時間までいられるからなぁ・・・

少し時間にルーズになっている気がする。


(自重しなくては・・・)


ラピスとソフィアは・・・


とても満足した表情で、お肌もツッヤツヤな感じだよ。朝のあのイチャイチャしている時に俺の精気を吸収しているんじゃないか?


「レンヤさん、お疲れの感じね。朝から頑張り過ぎじゃない?」

アンが話しかけてくれたけど、視線が妙に痛い・・・

「まぁ、最近は私の相手が多かったし、今は何も言わないわ。でも、程々にね・・・」


「は、はい・・・」


アンのプレッシャーがハンパない!早朝のハッスルは控えるようにしよう・・・

せめて添い寝までだな。


「今夜は私でお願いしたいと思ったけど、予定はマナ姉様とローズマリーさんだしね。まぁ、後の予定から考えても姉様達以外はあり得ないからね。」



その後、マナさんとローズを連れて城内のある場所へと移動した。

アン達も一緒にいるけど、どうしてもこの2人を連れて行きたかった。


「ここは?」


マナさんが不思議そうにしている。


ここは王城内にある王家の墓所だ。

その奥まで俺達は移動した。


そこには俺の膝までの高さしかない2基の小さな墓石が建てられていた。


「どうして?涙が止まらない・・・」


その墓石を見つめながらローズが泣いている。

隣にいるマナさんも泣いていた。


「この墓はかつての姉さんと、婚約者であったホムラの墓だよ。俺がアレックスと一緒に必死になって里から逃げた時に辛うじて姉さんの頭とホムラの亡骸を運び出す事が出来た。当時の王の計らいでこの王家の墓所に埋葬を許されたんだ・・・」


その小さな墓の前にしゃがんだ。


「姉さん、ホムラ・・・、500年ぶりに戻ってきたよ。そして、2人の生まれ変わった人も連れてきた・・・」


後ろにはマナさんとローズが立っている。


「あの時、俺は何も出来なかった。魔王達にみんなが殺され惨めにアレックスと逃げた・・・、そして、この前で魔王を倒すと誓った。誓いは守られたけど、俺も死んでしまったけどな。」


俺も自然と涙が零れた。


「復讐を誓ったけど、終わった時は本当に空しかったよ。何にも達成感も無かった。でもな、お節介な連中がいて、こうして俺を生まれ変わらせてくれたよ。今の生まれ変わった人生は辛い事もあったけど、とても充実している。あの時に亡くした家族だったけど、今の家族はとても優しいし幸せだよ。まぁ、生意気で重度のブラコンでヤンデレな妹もいるけどな。う~ん、そう言うとテレサってかなりヤバイな。そして、2人の生まれ変わりにも巡り合えた。」


マナさんもローズも俺の後ろでしゃがんだ。


「不思議ね・・・、このお墓は初めて見た気がしないわ。まるで私が来るのを待っていたみたいよ。」

「そうね、このお墓がかつてのあなたの婚約者だったホムラさん・・・、前世の私・・・」


「姉さん、ホムラ・・・、俺は誓うよ。生まれ変わった2人は絶対に幸せにする。そして、俺は2度と復讐で戦う事はしない。こんな思いはもう2度としたくない・・・、2人なら分かってくれるよな?復讐の果てには何も残らないって・・・」


「そうね・・・」

「私も分かる気がする・・・」


2人がそっと俺の背に寄り添ってくれた。


「「絶対に幸せにしてね(よ)。」」


見事に2人がハモったけど、その微笑みはかつての姉さんとホムラの微笑みが重なって見えた。


(必ず幸せにするよ。)


その夜は・・・

あんな事があったから、マナさんとローズの2人が積極的で・・・



さすがに翌日の夜は1人で寝るつもりだった。


(いくら何でも頑張り過ぎ!)


だけど、「添い寝だけでもね。」ってアンに夜這いされ、朝まで一緒にいたけど、約束通り添い寝だけだったので助かったよ。

甘えん坊だけど、ちゃんと節度も守れる。

そんなアンが可愛くて愛おしい。



3日後の夕食時・・・


「兄さん!今までゴメン!やっと気持ちの整理がついたわ!」


「ぶほっ!」


夕食時にいきなりテレサが食堂に飛び込んで来た。

突然の奇襲だったから、口に入れた食べ物を思わず吹きだしてしまった。


今の俺達は王城に住み込みで生活している事になっているので、男の俺の食事は騎士団の食堂で取るようにしている。

特別扱いはあまり好きじゃないからな。

それに、王都までの旅で何人もの騎士と仲良くなった事もある。そんな連中と一緒に食事をするのは楽しいよ。俺の周りは女性ばかりだし、こうして男達と一緒にワイワイするのは気持ちのリフレッシュにもなる。

女性陣の食事はさすがに男の中では取れないから、王妃様やシャルと一緒だけどな。

そんな男連中のところにテレサが来たものだから目立つ、目立つ!


「あ、姉御!辞めたって聞いたのにどうしたんすか?」


俺と一緒に食事をしていた騎士の1人がテレサに話しかけたが、その言葉を無視してズカズカと俺の前まで歩いてくる。


(元気になったようだけど、どうした?)


俺の前に立ってニヤリと笑ったよ。


「兄さん、私1人で落ち込んでグタグタしてゴメン!みんなから言われたわ。『人は人、あなたは本心ではどうしたいの?』ってね。順番はもうどうでも良いわ、誰が兄さんを1番愛しているかよ。」


(おいおい・・・、ここでこんな話をする?)


チラッと周りを見ると、みんなニヤニヤしながら俺達を見ている。

テレサよ!俺を羞恥責めにして精神的な抹殺を狙っているのか?


あっ!

思い出した・・・


マナさんがテレサを煽るって言っていたよな?

想像通りにイノシシのようにここに突貫してきたって事かい?


(勘弁してくれ・・・)


「私は生れてからずっと兄さんと一緒に暮らしてきたわ。義姉さん達よりもずっと長くね!だから私が1番なの!私が1番兄さんに愛される立場だし、愛しているのよ!」



「「「おぉおおおおおおおおおおおおお!」」」



周りから歓声が上がった。


だが!


俺は羞恥で死にそうだ!

何で公開処刑をされなきゃならん!



「兄貴!おめでとう!」って声が上がったけど、男達の中から特に屈強な騎士がズイッと前に出てきた。


「俺は反対だ!姉御を1番好きなのは俺だ!俺が姉御を幸せにする!誰にも渡さん!」


(おぉぉぉいぃぃぃ・・・、面倒くさいヤツが出てきたよ・・・)


人差し指をビシッと俺に向けた。


「勝負だ!姉御をかけてな!勇者だからって手加減はしないぞ!」



「何だ?楽しそうだな。」



(この声は?)


「「「団長!」」」


カイン王子がシヴァと一緒に食堂へ入ってきた。

ザッ!と騎士達が整列をしてカイン王子を迎えていた。

あのマッチョ騎士も整列しているよ。


「ゲイツ、どうした?早く勝負をしないのか?私が邪魔なら出て行くが・・・」


「い、いえ!そんな事はありません!」


マッチョが汗ダラダラで王子に返事をしていた。

相手はこの国の第2王子だからな、変な対応をして不敬罪で牢に入れられても堪らんだろう。

態度の変わりようが面白いけどな。


「勇者殿、この勝負、私が見届け人となろう。勝負は騎士団伝統のアレだ。いくら勇者様相手でも、ゲイツに万が一もあるかもしれん。頑張れ。」


「は!はい!」


(ん?どんな勝負だ?)


テレサに視線を移すとニヤニヤ笑っているよ。

「私をかけて勝負なんて・・・、とぉおおおおおおおおおおおおおおおっても!嬉しいけど、兄さん、ワザと負けるような真似はしないでよ。」


「お、おぅ・・・、心配するな、大切なお前は誰にも渡なさいからな。そんな事をすれば、お前だけじゃなくてみんなから確実に殺されるよ。そこまで俺も怖い物知らずじゃないからな。」


「た、大切って・・・、幸せで気絶しそう・・・」


おいおい・・・、テレサが変な方向にトリップしてしまったぞ。

しばらくすれば元に戻るか・・・



「これが勝負か?」


「そうだ!怖じ気づいたか?」


俺とマッチョの間に丸テーブルが置かれていた。

テーブルを挟んで向かい合わせになっている状態だ。


(へぇ~、この勝負は・・・)


ニヤニヤとした顔でマッチョがテーブルの上に右肘を乗せた。


「勇者様よ、俺のこの筋肉を見て怖じ気づいたのか?そんな細い体じゃ瞬発力はあってもパワーは俺よりも弱いんじゃないのか?


「ゲイツ、あんた、兄さんを舐め過ぎよ。」


テレサがギロッとマッチョを睨むと、マッチョがビビっている。

流石はテレサだよな、伊達に副団長の肩書きを持っていなかったな。


「あ、姉御・・・、俺は姉御を一目見てから惚れたんだ。俺が姉御を一番に幸せに出来るんだよ。」


「そう・・・」

テレサがニヤッと笑った。

「私は一番強い人が好きだしね。兄さん以上に強い人を見た事が無かったけど、もし兄さんに勝てたなら少しは考えても良いわよ。勝てたならね・・・」


(おいおい・・・、テレサよ・・・、煽ってどうする?)


うわぁ~、食堂中の人が集まってきたよ。

こんなに注目されるなんて、テレサって騎士団ではとても人気があったんだな。


「勇者殿、面白い勝負を見させてもらいますよ。」


カイン王子もニヤニヤして見ているよ。


「兄さん、これ以上ない程の圧勝でお願いね。ふふふ・・・、兄さんの愛の強さが見れるのね。」


(うおぉおおおおおおおい!周りが盛り上がり過ぎ!)


目の前のマッチョは・・・


(はぁ~)


鼻をフンスンと鳴らして肘をテーブルに乗せスタンバっているよ。

こうしてマッチョを見るとすげえ筋肉だな。俺なんかと比べたら大人と子供くらいの見た目の差があるよ。

普通に考えれば俺が圧倒的な差で負けるのは目に見えて明らかだよな。


(だけど、勇者の肩書き舐めんなよ!)


俺もテーブルに肘を置きマッチョの手を握る。

準備完了だ!


王子が俺達の横に立ち握った手の上に手を乗せた。


「お互い準備は良いか?」


俺もマッチョも頷いた。


「レディ~~~!ゴォオオオオオオオオオオオ!」


カイン王子の合図でマッチョが一気に俺の腕を押さえつけようとした。



しかし・・・



ビタッ!



「ば、バカな!う、動かねぇええええええええええええええ!」


マッチョが額に大汗をかきながらプルプルと震えている。


「どうした?コレがお前の全力か?腕相撲なら俺に勝てると思っていたみたいだけど、甘かったな。」


相手に見えるようワザと大きくニヤリと笑ってあげた。


「くっ!くそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


マッチョが叫んで更に力を入れてきたけど、びくともしない。

俺と勝負をするにはまだまだだな・・・

あまり長引かせても可哀想だから、そろそろ終わらせるか。


ぐいっ!



ドォオオオオオオオオオオオオオオン!



相手の腕を押しきったらテーブルが割れてしまい、マッチョの拳をそのまま床にめり込ませた。


あぁぁぁ~~~、マッチョの肩も肘も拳も粉砕骨折をしてしまったな・・・


(ちょっとやり過ぎた・・・)


周りの視線が痛いよ。


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