11話 2人目の婚約者
「ところで、ラピス、お前はどうやってここまで来たのだ?いつの間にか目の前に現れていたし・・・」
「それはもちろん、あなたを追いかけてきたのよ。あなたの魂に転生魔法をかける際にマーカーを付けておいたの。あなたが目覚めた時にすぐに見つける事が出来るようにね。そしてやっと見つけたのよ。あなたの反応をね。後は転移魔法で反応があった場所までひとっとびよ。」
「でもね、あなたのすぐ近くに現れたのは良かったけど、目の前であなたがどこの誰だか分からない女とキスしようとしていたからね。さすがに止めさせてもらったわよ。」
「それでか・・・、お前がすぐ目の前に現れたのは・・・」
(ちょっと待った!おい!俺の魂にマーカーを付けただと!俺の居場所はすぐに分かるってか?これって完全にストーカーだぞ!ここまで俺の事を・・・)
(もう、お前から逃げられないって事か?)
(『覚悟を決めろ!』って事なのか・・・、ラピス、ストーカー化したお前が恐ろしい・・・)
「んっ!」
「どうしたのレンヤ・・・」
心配そうにラピスが俺の顔を覗き込んだ。
「お前、今、転生魔法って言わなかったか?」
「そうよ、それが?」
「そうか・・・」
(ラピス、お前はそれだけ俺の事を・・・女神様が言っていたな、『かなり無茶をした』って・・・、そしてラピスが俺を転生させなければ、アンとこうして出会う事もなかった。)
「ラピス、ありがとう。」
「ど、ど、どうしたのよ急に!」
ラピスが真っ赤になってあたふたしている。こんな姿のラピスなんて初めて見るし、何か可愛らしいよ。
「ラピスのおかげで、今の俺は存在しているんだよ。復讐だけで死んでしまった500年前の俺は、生まれ変わって温かい家族と一緒に暮らす事も出来た。戦いに明け暮れていた前世と違って・・・」
右手でアンの左手を取ると頬がポッと赤くなった。
「そして、アンと巡り会う事も出来た。500年後の未来にこうして・・・」
左手でラピスの右手を取った。ラピスの顔がまだ赤い。
「全てはラピスのおかげだ。俺とアンの運命の出会いの中にお前も入っていたとはな・・・」
アンがラピスの手を取り、3人が手を繋ぎ輪になっている。
「私がこうしてレンヤさんと出会えたのは、全てラピスさんのおかげだったのですね。魔王の娘としてこうして500年後の世界に1人取り残されてしまった私を救ってくれたのはレンヤさんでした。そのレンヤさんを500年後に生まれ変わらせてくれたのはラピスさん・・・、私はあなたに感謝してもしきれません。」
ニコッとアンが微笑んだ。
「こうして3人仲良く一緒にいましょうね。レンヤさんが大好きな私とラピスさん、認めますよ、ラピスさんがレンヤさんの婚約者になる事をね。」
「アンジェリカ・・・」
「ラピスさん、私の事はアンって呼んで下さい。」
「分かったわ、アン、これで良いかしら?」
「はい、今はお互い婚約者になっていますが、1番目の妻の座は譲りませんよ。レンヤさんに1番愛してもらうのは私ですからね。」
ニヤッとラピスが笑った。
「ほほぉぉぉ~、小娘が生意気な事を言うわね。この喧嘩、買ったわ!レンヤに1番愛してもらうのは私なのよ!これは譲れないわ!」
2人がニヤ~と笑いながら見つめ合っている。
(うわぁ~、また修羅場が始まったぞ。ここは一旦離れた方が良いな、巻き込まれたら堪らん!)
ゆっくりと2人から離れた。
だいぶ距離を取ったが、まだ睨み合いが続いている。
急に2人が俺の方を向いた。
「レンヤさん!」
「レンヤ!」
ゆっくりと2人が俺へと歩いてくる。幻覚か?2人からどす黒いオーラが放出されているのが見える。
(に、逃げるんだ!アレは危険だ!)
しかし、体が硬直して動かない!
(どうした!体が動かん!まさか、あの2人の迫力にビビッている?逃げなきゃ・・・、逃げるんだぁああああああああああああああ!)
2人が俺の目の前まで迫ってきた。
「ふふふ・・・、レンヤさん・・・」
「ぐふふふ・・・、レンヤァァァ~~~」
完全に2人の目がイっている。
お前等!美人が色々と台無しだぞ!
「愛してますぅううううううううううう!」
「愛してるわぁあああああああああああ!」
2人が俺へとダイブしてきた。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああ!」
「ふふふ、幸せ・・・」
「これがレンヤの温もりなのね・・・」
両腕に2人がヒシッと抱きついている。
抱きつかれただけで良かった。あれだけの迫力だったから、俺の貞操がヤバイと思っていたけど、無事に何もなかった。まぁ、まだキスすらしていないし、いきなり飛び越えて肉体関係までにはならないだろう。
しかし・・・
いつかはこいつらに襲われる未来しか見えない・・・
今回の事で分かった、いくら勇者として目覚めて最強クラスの力を手に入れても、この2人の前では俺なんて肉食獣の前に取り残された小鹿だって事をな・・・
女って怖いよ・・・
「ねぇ、レンヤ・・・」
俺の腕に抱きついているラピスが上目づかいで俺を見つめながら話しかけてきた。
「どうした?」
「あなたって500年前と比べて雰囲気が変わったわね。当時はいつもピリピリして抜き身の剣のような感じだったわよ。それが、今のあなたはとても落ち着いている。こうしてあなたに寄り添っていると、私もすごく安心するのよ。」
「まぁ、確かに当時の俺は里を滅ぼされた復讐だけで生きていたからな。それ以外に何も考えていなかったよ。」
「レンヤさん・・・、すみません、父のせいで・・・」
反対側の腕に申し訳なさそうにアンが抱きついている。
「だから、もうその話は気にするな。今はこうしてアンと一緒にいられるんだ。過去ばかり悔やんでも前に進めない、俺達は前に進まないといけないからな。」
「それに、勇者に覚醒した時に女神フローリア様から言われた事も気になっているからな・・・」
ラピスの目が鋭くなった。
「レンヤ、あなた、女神様にお会いしたの?」
「あぁ、そうだ。」
「私も女神様から言われたのよ。『将来起こるであろう災厄に立ち向かって』って・・・、どうやら、レンヤがこの時代に転生したのは偶然じゃないようね。そして、アンと出会った事も・・・」
バッとラピスが俺の腕から離れた。
「ずっと立ったままこうして抱きついていても疲れてしまうから、今日はここで休みましょう。色々と話もしたいし、ゆっくり出来る場所で休みながらね。」
「こんな場所でか?大丈夫なのか?」
ラピスが俺にウインクする。
「まぁ、私に任せて。これだけ広くて高い天井なら問題無いわ。しかも、出入口もあの大きな扉だけだし、そう簡単に破られる事もないから、このホールはとても安全な場所よ、念の為、結界魔法もかけておくから、お邪魔虫は一切近寄れないわ。」
ホールの中央の大きな穴に近づいた。
「この穴は邪魔ね。取り敢えず塞ぐわ。」
床に手を添えるとラピスの体から膨大な魔力が溢れ出す。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
穴の縁から地盤が再生し始めた。地盤が元に戻ると次は石畳みが次々と再生している。
あっという間に穴が塞がり、元の広いホールの姿に戻った。
「すごい・・・」
思わす呟いてしまう。
ラピスがドヤ顔で俺を見ていた。
「レンヤ、これくらいは土魔法で片手間に誰でも出来る事よ。こんな事で驚いていたら、次の事には失神してしまうわよ。」
「いやいや、これだけの再生なんて片手間で出来るのはお前くらいだよ。どんなに魔力があっても、これだけ細かい魔力操作は俺でも無理だ。さすがは【大賢者】の称号を持っているだけあるな。」
「えへへへ・・・、レンヤに褒められた・・・、最高よ・・・」
クネクネとラピスが悶えている。
う~ん・・・、折角の美人なのに色々と残念だよ。
「これでOK、さぁ、休むとしましょう。」
???
「ラピス、どうやって休むのだ?散らかった荷物以外に何もないが・・・」
・・・
「ぶほぉおおおおおおおお!」
いきなりホールの中央に小屋が現れた。思わず顎が床まで落ちるくらいに開いた口が塞がらなかった。
「な、何じゃ!これはぁあああ!」
小屋といってもかなり大きい。丸太組みでしっかりとした作りのようだ。
ラピスは伝説の収納魔法を使えるが、こんなものが収納されていたなんて想像外だよ。
「ふふふ、びっくりした?」
「あぁ、驚いた。まさか、こんな宿泊施設を持っていたなんて想像しなかったぞ。500年前の旅の時にこんなものがあれば、どんなに旅が楽だったか・・・」
「まぁ、これは私が目覚める前に女神様にお会いして、その時にもらったものだから、あの時は無かったのよ。これで旅も快適よ。それにね、この小屋は『愛の囀り』って呼ぶんだって。しかも、防音も完璧だから中で何をしても音が漏れないと説明を受けたわ。えへへ・・・、レンヤァ~~~、今夜は・・・」
(おい!何を言っている・・・、今夜の俺の貞操がヤバイ・・・)
チラッとアンを見ると・・・
真っ赤になってモジモジしてるよ。
(お前もラピスと同じ事を考えているのかぁあああ!)
「それとね、これと同じ物がもう1つあるのよ。」
(はいぃいいいいいいいいいいいいい!)
「さっき、レンヤの事を鑑定魔法で鑑定したら、レンヤも収納魔法が使えるのよ。しかも、容量は私と同じくらいあるわね。だから、後であげるわね。」
これをもらえるのは嬉しいが、いつの間に鑑定されていたのだ?アイツの前では俺の個人情報は丸裸にされている気がする。
ラピスがこんな危険なヤツだとは・・・
マーカーの事もあるし、多分、俺はラピスから逃げられないのだろうな。腹を括るしかないだろう。
「さぁ、入るわよ!」
ラピスがドアを開けてくれて中へ案内してくれる。
「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
思わず感嘆の声を上げてしまった。
外観よりも中が広い。これは空間魔法を使って内部を拡張しているのか?
しかも、天井にはあちこちと光を出す魔道具が埋め込まれていて、非常に明るい。
リビングにダイニング、それに見た事も無い形状のキッチンも備え付けられている。
テーブルも椅子も高級宿屋顔負けの豪華なものを使っている。ソファーなんてとても柔らかそうで、今すぐにでもダイブしたくなる。
俺の後ろにいるアンも驚きの顔でキョロキョロして、「こんな立派な部屋は見た事ないわ・・・」と、俺と同じように関心していた。
お姫様までも驚かせるとは・・・、女神様って本当にすごい・・・
「どう?驚いた?」
「あぁ、驚きしかないよ。こんなところで泊まったら、もう普通の宿屋には泊まれないな・・・」
「これはね、女神様が私とレンヤの結婚祝いとしてくれたのよ。まだ婚約だけど、もう使っても構わないわ。大好きなレンヤにはゆっくりと休んでもらいたいからね。」
ラピス、お前の事はヤバイ奴だと誤解していた。
俺の事が本当に好きなんだな。好き過ぎてあんな奇行をしてしまう訳か・・・
やっぱりヤバイ奴には間違いないかも?
「それに簡単だけど、お風呂もシャワーもあるから、毎日キレイに出来るわよ。アン、女の身だしなみは大事だからね。」
アンがガシッとラピスの手を握った。
「ラピスさん!最高です!」
「ふふふ、どう?私の事、尊敬した?」
「はい!もちろんです!とても尊敬します!でも・・・、レンヤさんの1番は渡しませんから!」
「子猫ちゃん・・・、何を言っているのかな?今のレンヤはこの愛の囀りで私の評価は急上昇中なのよ。お姫様属性と巨乳だけのあなたでは、今の私には勝てないわ!おほほほぉおおおおおおおおお!」
「ダメです!レンヤさんは渡しません!」
そう言ってアンが俺に抱きついてきた。
「アン!ズルい!私もぉおおおおお!」
ラピスも慌てて俺に抱きついてきた。
はぁ~、賑やかな毎日になりそうだよ・・・