109話 王都決戦⑰
4枚のモニターの中から1枚のモニターが大きくなった。
「これは?」
国王が声を上げると画面が切り替わった。
草原の上で誰かが立っている。
「あれはラピス様!」
シヴァが大声で叫ぶと隣にカイン王子が立つ。
「この目で伝説の英雄の活躍を見られるとは・・・、この機会を与えてくれた女神様に感謝を・・・」
「そうね・・・、そして、こうして私を理解してくれる人に巡り合わせてくれたラピス様にも感謝を・・・」
シヴァがカイン王子の腕に抱き着き寄り添っていた。
「さて、大賢者の称号は伊達じゃないって分からせてあげないとね!」
果てしなく続く平原だが、ラピスの視線の先には大量の土煙を上げながら、おびただしい数の魔物の群れが行進していた。
まるで真っ黒な絨毯が移動しているのでは?と見間違えるほどの大量の魔物の群れだった。
「確かにレンヤの言った通り3万は下らない感じね。」
ペロッと舌舐めずりをする。
「あの魔神どもめぇぇぇ・・・、アンとソフィアに目を付けて私は無視だってぇぇぇ・・・、誰が一番怖いか分からせてあげる。」
杖を頭上に高々と掲げた。
「あの女魔神だけが使える魔法じゃないわ!私も神の魔法は使えるのよ!」
杖の先に直径は10メートルは軽く超える炎の玉が出来上がった。
その玉がみるみると姿を変え巨大な炎の鳥になり羽ばたく。
「喰らいなさい!」
「燃え尽きよ!フェニックスゥウウウウウ!プロミネンスッ!」
GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!
炎の鳥が咆哮を上げながら魔物達の群れへと飛んで行った。
カッ!
炎の鳥は進路上の魔物達をことごとく焼き尽くしながら、群れの中心で大きな爆発を起こした。
その直後、爆心地に巨大な炎の竜巻が発生する。
その竜巻が更に大きくなり、魔物達を次々と吸い込んでいく。
吸い込まれた魔物は一瞬で燃え尽き、その竜巻は魔物を求めるように群れの中を蹂躙していった。
その巨大な竜巻が一気に弾け、魔物を巻き込み大爆発を起こした。
煙が晴れると、そこには巨大なクレーターが出来上がっていて、魔物の群れの半分以上はこの一撃で吹き飛んだのに間違いは無かった。
「う~ん・・・、ちょっとやり過ぎたかな?まぁ、メテオを落とすよりも環境の被害は少ないと思うけどね。後は・・・、折角の神界の魔物だし、この世界に無い素材もたくさん取れるからね。ギルドの資金にするためにも素材を残しておきましょう。」
今度は杖の先端を魔物達の方へ向けた。
「氷の精霊セルシウスよ!我の呼びかけに応え、その力を示せ!」
「この地を氷の世界に!極大魔法!アブソリュート!ゼロォオオオオオオオオオオオオ!」
サァァァァァ・・・
ラピスの前から音が消えた。
目の前に見える光景全てが氷の世界へと変わっていた。
空を飛んでいた魔物も今は1匹も飛んでいないく、澄み切った青空が広がっていた。
地上では全ての生命体が凍りつき、氷の彫像と化して身動き一つしていない。
墜落した魔物は地面へ落ちた際に砕けて粉々になっていた。
「残りの魔物よ!砕けなさい。」
パリィイイイイイイイイイイッン!
地上で凍りづけになった全ての魔物が粉々になって砕け散り、再び平原に静寂が戻った。
「こ、これが・・・、大賢者様の真の力・・・」
シヴァが青い顔で画面を見ている。
「あの方が本気で戦う姿があれだけ凄まじいとは・・・、だけど、私も必ず追い付きます。」
キッと真剣な眼差しに変わり、画面をジッと見つめた。
「あのお方が伝説のソフィア様・・・」
帝国の皇女だったリーゼロッテがうっとりとした表情で画面を見ていた。
ラピスが映っていたモニターが小さくなり、隣のモニターが大ききくなった。そのモニターには大きく翼を広げ空中で佇んでいるソフィアが映っている。
「そうだよ。あのお方が君を生き返らせてくれた伝説の英雄ソフィア様だよ。」
アベル王子がリーゼロッテの隣に立ち優しく肩を寄せた。
彼女が王子のを見つめると涙が流れ始めた。
「私は生き返って良かったのでしょうか?父は邪神に魂を売ってしまい、世界征服という名の下にこの世界を滅ぼそうとしています。そんな父の娘である私は生きる資格なんて・・・」
ギュッと王子が彼女を抱き締める。
「そんな悲しい事を言わないでくれ・・・、私には君がいないとダメなんだ・・・、君は私の太陽だ。」
「そ、そんな・・・、でも・・・」
「でもじゃない!あの勇者様と一緒にいるアンジェリカ様もかつては人族を滅ぼそうとした魔王の娘だと仰っている。しかし、今は勇者様の妻の1人になって、邪神達と戦うフローリア様の使徒となっているんだ。親は関係ないんだよ!君は君だ!君は何かをしたか?君も邪神に踊らされた犠牲者の1人なんだよ。」
「アベル様・・・」
リーゼロッテがアベル王子をジッと見つめている。
「私は・・・、私は一緒にいてもよろしいのですか?大罪人の娘である私が・・・」
「リーゼロッテ皇女・・・」
国王が彼女の前に立った。
「何も心配する必要はない。貴方は我が王子であるアベルの伴侶として我々が認めているのだ。貴方の心は良く分かっている。何せ我が国の王子が認めた女性だからな。」
国王の後ろにいる王妃や侍女たちもニッコリと微笑んで彼女を見ている。
「あ、ありがとうございます・・・」
「アベルよ!」
「はっ!」
国王がアベル王子へと叫んだ。
「お前はこれからは何をするべきか分かっているな!」
「父上!もちろんです!彼女はこれからは内外問わず数多くの中傷にさらされるでしょう。それを私が全て受け止め、彼女の居場所を作る事です!」
「うむ・・・、見事だ!男をみせろよ!そして我々も勇者様に負けないよう、差別の無い国を作らないとな!」
そう言ってカイン王子を見つめる。
「父上!私ももちろんです!彼女も堂々と我が国の中を歩けるよう、私も頑張ります!」
「そ、そんな・・・、私の為に・・・」
シヴァもリーゼロッテと同じように涙を流しカイン王子を見つめていた。
「ふぅ、500年前はこうして私も攻撃側になるとは思わなかったわね。」
ソフィアが上空で翼を広げ眼下の魔獣達の群れを見つめている。
「ここは空の魔物はいないみたいね。まぁ、いても殲滅する事には変わらないけどね。」
グッと両手を上げた。
「大聖女唯一の攻撃スキル!だけどぉおおお!強力よぉおおおおおお!」
空が青白く輝いた。
「ホーリーィイイイイイイイイ!ジャッジメントォオオオオオオオ!」
空の青白い部分が巨大な十字架の形に輝く。
まるで空が落ちたかのように、輝く十字架が地上の魔物達の上へと落ちてきた。
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
視界が真っ白に輝き塗り潰される。
しばらくすると輝きが納まり目の前の光景は・・・
「う~ん・・・、思ったよりも残ったわね。1万も倒せなかったなんて・・・」
それでもソフィアの眼下には魔物の死体が死屍累々と広がっていた。
「やっぱり聖属性は回復やバフが基本だから、攻撃力に関してはラピスの極大魔法に敵わないわね。」
魔物がいない場所へゆっくり地面へと降り立った。
しかし、ソフィアのはるか前方に1万匹以上の残っている魔物達がソフィアへと目がけて進んでいる。
グッと両拳を構えた。
「やっぱりこっちの方が落ち着くわね。師匠のおかげで私もここまで強くなれた。その成果をレンヤさんに見てもらわないとね!」
グッと脇を締め右足を前に踏み出し、右腕も前に出して左腕は後ろへ下げ構えた。
スッと目を閉じ精神を集中している。
ダンッ!
右足を軸に体の回転を始め左足を前に踏み出す。地面が踏み出した左足を中心に放射線状のヒビが走った。
「よく見てなさぃいいいいいいいいいいいいいいい!」
すると、左腕を中心にしたとても大きな黄金の魔力の渦が発生した。
その渦がグルグルと回転が激しくなり、更に大きく輝いている。
「唸れぇえええええええええええ!黄金の左ぃいいい!ファントムッッッ!クラッアアアアッシャーァアアアアアアッ!」
フォオオオオオオオオオオオオオオオン!
巨大な黄金の魔力のリングが衝撃波を放ちながら、ソフィアが突き出した左腕から飛び出した。
ゴシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
黄金のリングが目の前の魔物達を次々と飲み込み消滅させ、彼方まで飛んで行った。
「ふぅ、スッキリしたわ!」
ソフィアの目の前の光景は・・・
地面が深々と抉れ、魔物どころか草木もすべてが根こそぎ吹き飛ばされ、深い谷が延々と遥か彼方まで出来上がっていた。
「う~ん・・・、ちょっとやり過ぎたかも・・・」
変わり果ててしまった風景にソフィアが冷や汗をダラダラと流していた。
「何と・・・」
国王を始めモニターを見ていた全員が、ソフィアのあまりの規格外の攻撃に息を呑んでいた。
「これが聖女の力だと・・・、こんなのは賢王様からの口伝でも聞いていなかったぞ・・・、それ以前に、人間があそこまでの破壊が出来るのか?」
「フローリア様の仰った通り・・・、勇者様だけではない!我々は世界を救う救世主様達の誕生をこの目で見ているのだろう・・・」
ソフィアの映っていたモニターが小さくなった。
代わりに別のモニターが大きくなり、1人の人影が映っていた。
「あれは!テレサ副団長!」
生き返った護衛騎士の1人が呟いた。
「姉御が勇者の1人だったなんて・・・、それにあの姿はまるで天使様だ・・・」
「そうだな・・・、俺は一生姉御に付いていく・・・」
「俺もだ!姉御は兄上である勇者様と結ばれようが、俺達は姉御のファンを辞めないぞ!」
「俺はアンジェリカ様と姉御の両方のファンだ!」
「いや!シャルロット様もあの女神様の雰囲気、一発でファンになったぞ!」
「はぁ~、あなた・・・、アレってあなたの部下でしょう?」
呆れた表情でシヴァが騎士達を見ていた。
「まぁ・・・、騎士団は基本的に男だらけだし・・・、ああやってて副団長が女性なのも初めての事なのだよ。しかもあの美しさだ。ほとんどの団員があんな状態で、誠に恥ずかしい限りだ。」
そしてジッとカイン王子がシヴァを見ている。
「あなたの美しさも大概だし、すぐにあなたに対しても団員が同じ反応をすると思う。」
「そ、そんな・・・」
ポッとシヴァの頬が赤くなる。
「あなたが私の右腕となってくれれば本当に嬉しい。テレサ副団長は勇者様と一緒に戦いに行くのだ。もうテレサ副団長は騎士団にはいられないだろう。代わりと言っては失礼と分かっているが、どうかお願いしたい。私のそばにいて欲しい。」
しばらくの間、シヴァが黙っていたが、真っ赤な顔でカイン王子を見つめている。
「本気なの?私が一緒だと迷惑になるかもしれないわ。」
「そんな事は無い!勇者様がああやって魔族の女性を迎えたのだ。私もその覚悟はある!」
「そう・・・」
シヴァの姿が消えた。
「 ! 」
一瞬でカイン王子の目の前にシヴァが現れ、そのままカイン王子に抱きつき唇を重ねた。
しばらくしてゆっくりと唇が離れた。
「私を本気にしたのよ。ちゃんと責任を取ってね。」
「あぁ、約束する。騎士に二言は無い。」
「私はダークエルフ・・・、あなたよりもはるかに寿命が長いわ。でもね、生涯の番はあなた1人に決めた。これからよろしくね。あなた・・・」
再びキスをすると、周りから盛大な拍手が沸き起こった。
スタッ!
テレサが草原へと降り立った。
背中に生えていた銀色の翼が消え、グッと聖剣を構えている。
「本当に大した数だわ。2万の魔物って実感が湧かなかったけど、こうして見ると凄いわね。草原がまるで黒い絨毯で敷き詰められている感じよ。普通の人間なら確実に恐怖でおかしくなるに間違いないわ。」
しかし、ペロッっと舌なめずりをする。
「私は勇者レンヤの妹、テレサよ!兄さんは勇者になる為に、こんな状況よりもっと過酷な道を歩んできたわ!そんなのに比べればまだ生温いわ!」
聖剣ミーティアを頭上に剣先を空へと掲げた。
「ミーティア!あなたの本気を見せる時よ!能力解放!」
刀身が青白く輝く。
「七星剣!」
テレサが叫んだ瞬間、輝いている刀身から光の玉がいくつも空へと上っていった。
昼間の晴れ渡った青空なのに、上空の空に7つの星が激しく輝いた。
「流星雨!」
ヒュン!と、上空へと掲げた剣を振り下ろした。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォ!
上空に輝いていた星が次々と地面へと落下を始めた。
「聖剣ミーティア、ぞの名前の通り、この剣は流星を司る剣よ。この剣は固有魔法『メテオ』を使う事が出来るのよ。だけど、あまりにも強力過ぎる故に誰でも使う事が出来ないようになっていたわ。いくら所有者として認められてもね・・・」
ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッンンン!
巨大な隕石が次々と魔物の群れの中へと落ちていく。
「デウス様・・・、私を認めていただいてありがとうございます。私は誓います!私は力に溺れない!この剣の力を常に正しい事に使います!兄さんの名に恥じないよう、誇りを持って!」
全ての隕石の落下が終わると、地面にはいくつもの強大なクレーターが出来上がっていた。魔物1匹も動いている姿は見えなかった。
「うわぁ~~~、地形がガラッと変わっているわ・・・、こんな力、おいそれとは使えないわね。封印した理由がよく分かったわ。」
再び背中に銀色の大きな翼が生え大空へと飛び上がった。
「こ、これがミーティアの真なる力・・・、あれだけ大量の隕石をこの王都に落とされると考えたら・・・、間違いなく跡形も無くなってしまう・・・」
国王が真っ青な顔でモニターを見ている。
「フローリア様の仰る通り・・・、この世界を救う救世主達の姿をこの目で見られるとは・・・」
テレサが映っていたモニターが小さくなり、最後の1枚のモニターが大きくなった。
「彼らがこの世界の希望・・・、邪神、魔神を倒してくれる事を信じます。」
そのモニターにはレンヤが聖剣アーク・ライトを構え小高い丘の上で佇んでいるのが映っていた。
彼の両隣にアンジェリカとシャルロットも立っている。




