107話 王都決戦⑮
「くそぉおおおおおおお!」
女魔人が展開した魔法陣の中から3人の人影が降り立った。
(これは?)
見た目は俺達人間と全く変わらない。
1人目は金髪の短い髪の男で緑色の目を俺達へと向けている。
2人目は真っ赤な髪の身長は軽く2メートルは超えている筋肉質の男だ。
3人目は女の魔神だろう。真っ黒な腰まである長い髪の毛に紫色の瞳が特徴的だ。しかも、ローズに匹敵する美貌とプロボーションを誇っており、体のラインがハッキリ分かる赤いドレスを着ている。
しかし!
「レンヤ!気を付けて!」
ラピスが杖を構え臨戦態勢に入っている。
ここまでの真剣な表情のラピスは久しぶりに見た。
それだけの存在の相手とは・・・
「分かっている!アイツ等は化け物だって事をな!」
アイツ等から発せられている気配は間違いない!
(神のみ纏う神気だ!)
3人の1人がおもむろに掌を俺達の方へ向けた。
ゾクッ!と背筋に嫌な汗が流れる。
(マズい!)
ドンッ!
咄嗟にソフィアとシャルが俺達の前に飛び出した。
「「イージスの盾!」」
黄金に輝く大きな2枚の光の盾が展開した。
青白い大きな炎が盾に振れた瞬間・・・
パリィイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
大きな音を立てて砕けてしまった。
「くっ!」
ソフィアがギリギリと歯ぎしりをしている。
さっきまではずっと余裕な表情をしていたのに、ここまで焦る程の相手か!
「まさか!イージスの盾2枚重ねでやっと防げるなんて・・・、シャルロットちゃんがいなかったらヤバかったわ。」
シャルも真剣な表情で魔神達を睨んでいる。
「あれが本物の神・・・、プレッシャーで押しつぶされそう・・・」
「ほぉ・・・」
炎の玉を撃った魔神が関心した表情で俺達を見ている。
「まさか、人間が我ら神のみぞ使える魔法、イージスの盾を使えるとは・・・、数千年振りに目を覚ましたが、面白い事になっている。」
そして、今度はシャルをジッと見つめた。
「ほほぉぉぉ~~~、この神気は覚えがある。微かにだが貴様から漏れている神気がな。」
「どういう事?」
シャルがギロッとその魔人を睨んだ。
「かつて、神界を地獄に落とした『災厄の女神ガーネット』の気配がするぞ。あの闇に堕ちた女神はフローリア達に倒されたと聞いていたが・・・」
突然、シャルの体が輝いた。
「そう・・・、あなた方は私の過去を知っているのね。」
(どうした?いつものシャルじゃない!)
「これは!」
今度はラピスが驚いた顔でシャルを見つめている。
そして膝を付き頭を下げた。
「あなた様はもしかしてアイリス様?」
そうラピスが呟くとシャルがニコッと微笑んだ。
「そうよ、私はフローリア様の娘アイリスよ。かつてはガーネットとして神界を騒がせた邪神の1人だったわ。だけどね、私はみんなの力で浄化されてアイリスとして蘇ったの。そして、邪神として滅んだ時に砕けた魂の欠片の1つがこの子の中に取り込まれていたのよ。その魂の欠片が私、アイリスの力となって表れたの。」
「そ、それで・・・、いきなり女神の力を使えた訳ですか?」
「そうよ、だけどね、単に使いたいって思うだけじゃ使えないわ。真に守りたい気持ち、みんなを助けたいと思ったからこそ、この子の中にあった私の力が覚醒したのでしょうね。でもね、まだこの子は力を使いこなしていない。だから、あなた達が教えてあげてね。フローリア様の力を正しく受け継いだあなた達がね。」
スーとシャルの輝きが消えた。
「ふふふ・・・、ふはははぁあああああああああ!あのガーネットが改心したと?面白い・・・、邪神はどこまでいっても邪神だ!堕ちた神は決して元に戻れないと、俺が教えてやる!」
「黙りなさい!」
ヒュン!
「うっ!」
魔神の右腕がポトリと落ちた。
「き、貴様はぁぁぁぁぁ・・・」
魔剣を握りしめたアンがシャルの前に立っている。
「私の妹を!大切な妹をバカにしないで!シャルはいつもみんなの事を思って頑張っているのよ!何が邪神?そんなのはシャルには関係無いわ!シャルはシャル!」
アンの全身から黄金のオーラが湧き出した。
「私もあなた方の邪神ダリウスからの呪縛から解放され、こうしてフローリア様の使徒としてあなた方に対抗出来る力を授かったわ。全ては自分の心一つ!自分だけしか考えていないから邪神や魔神となったあなた方には負けません!」
「ほほぉ・・・、貴様がフローリアの使徒だと?だがな・・・」
アンが切り落とした腕が一瞬で再生し、元の状態に戻っていた。
「こんな児戯で俺をどうか出来ると思っているのか?まぁ、こうして傷を付けられるだけ少しは楽しめるか・・・」
くそ!腕を切り落としたっていうのに全くダメージらしきものも無い!
「残念ですが、あなたとは楽しむつもりはありません。あなた方を倒さなければ平和が訪れないとなれば、私は例え神であっても歯向かいます!この世界に平和を取り戻す為に!」
「そいういう事だ!邪神?魔神?関係無い!そんな奴らは俺がぶっ倒す!」
俺もアンの隣に立ち聖剣を構えた。
「「「私達もよ!」」」
ラピスにソフィア、テレサもシャルの前に立った。
「み、みなさん・・・」
シャルがポロポロと涙を流している。
「ありがとう・・・、そして私の中に眠る女神アイリス様!私は頑張ります!こうして素敵な仲間が出来たのですから、その想いは誰にも負けません!」
ガカッ!
シャルの体が真っ白に激しく輝いた。
(これは!)
「「「うっ!」」」
3人の魔人が後ろへ下がり困惑している。
「そんなバカな!闇に堕ちた神が聖なる神気を取り戻しているだと!あり得ん・・・」
「仕方あるまい・・・」
隣にいるもう1人の魔人がニヤッと笑った。
「今回は残念ながら引くとしよう。」
「そうね、それが正しいし、後の方がもっと楽しめそうね。」
3人の中で1人いる女性の魔神が妖艶な笑みで俺へ微笑んだ。
「あなたが勇者かしら?私の好みにピッタリな男ね。あなたをどう料理しようかしら?人格を消して私の操り人形にしてしまうのもいいかもね。ずっとあなたを愛してあげるわ。ふふふ・・・」
ゾクっと背中が寒くなった。
あの女魔神の強さは相当なものだろう。
えらい奴に目を付けられた気がする。
(果たして、俺の力で勝てるか?)
「それなら、俺は腕を切り落とした女だな。あの顔が俺だけしか見る事が出来ないように教育してやる。誰に逆らったかを教えてやらないとな。」
ニヤリと笑った。
「俺の名前はロキ。忘れられない男にしてあげるからな。」
「だったら、私はあの金髪女だな。」
そう言ってソフィアを見つめている。
「私の名はヴリトラ。貴様の程の女は神界でもそういないぞ。私のコレクションの1つのしてあげよう。永遠に死なずにずっと美しく生きたまま蝋人形になるのだ。その時の苦痛の悲鳴も私の最高の音楽だ。せいぜい楽しませてくれ。」
スッ・・・
(何だ!)
いきなり女魔神が俺の隣に現れた。
(転移か?しかし魔力の揺らぎも感じない!)
いきなり魔人が俺に抱きついてきた。
「レンヤ!」「レンヤさん!」「兄さん!」
「ふふふ・・・、大丈夫よ。今は何もしないわ。」
女魔神がニコッと微笑んで俺の頬にキスをした。
「あなた、本当に最高よ。こうしていると私の体が疼くわ。どう?こんなガキどもじゃなくて私と一緒に暮らさない?あなたなら私の全てを捧げられるかもね。それだけ、あなたの魂は美味しい匂いがする。まるで同じなのよ。かつて私が唯一心から愛した最強の天使ブ・・・」
「ふざけるな!」
女魔神を振りほどこうとしたが手応えが無かった。
いつの間にか他の魔神と一緒の場所に転移していた。
「ふふふ・・・、私の名はデミウルゴスよ。あなたは私が必ず手に入れる。絶対にね・・・」
ペロッと舌なめずりをして俺を見つめていた。
(何だ?あの魔神は俺に執着しているなんて・・・、俺と彼女の間に何かあったのか?)
「今の私達はまだ目覚めたばかりだし、完全には力を使えないわ。だからね、もう少し私達が本気の力を出せるまで待っていて欲しいのよ。」
チュッと女魔神が投げキッスをしてくる。
「ダーリン、次こそはあなたの全てをいただくわ。それまで少しのお別れね。」
「う、う、うわぁあああああああああああああああ!」
(何だ?)
いきなり魔王達の方から叫び声が聞こえる。
あのガリガリの魔人がガタガタ震えていたが、何か様子が変だ。
「イレイザーよ!最後の力で俺達の役に立つのだな!」
魔王が魔人の胸に腕を突き刺していた。
「ま、魔王様!ど、どうして?」
ニヤリと魔王が笑った。
「お前の力を最大に高めてやる!この王都を地獄に変えるためにな!」
「い、いやだぁぁぁ・・・、死にたくない!」
「うるさい!死ね・・・」
ロキと名乗った魔神はガタガタ振るえながら泣いていた魔人の首を無慈悲に切り飛ばした。
「ふん!まだ人間の業が残っているとはな・・・、まぁ良い。」
そして魔王へと視線を移した。
「貴様は我がダリウス様の大事な依り代になる身だ。大事に扱わなくてはな。」
「ははぁぁぁ・・・」
魔王が魔神へと深々と頭を下げた。
「ロキよ、これでこの国も終わりだろう。十万の魔物のスタンピードに人間どもは太刀打ちは出来まい。」
ヴリトラと名乗った魔神がニタニタと笑いながらテラスへ視線を移し、外の景色を見ていた。
「何だと!貴様ら!何をしたぁあああああああああ!」
(十万の魔物のスタンピードだと?そんな化け物のような魔物の氾濫なんて聞いた事が無い!)
「簡単よぉぉぉ~~~、この男の命を使って魔物を召喚したのよ。さすがにダリウス様の力を分け与えられただけあるわね。十万の魔物をこの周りに召喚出来たわ。しかもよ、この世界じゃなくて、私達がいた神界の魔物よ。強さは比べ物にならないわ。」
「な、何だとぉぉぉ・・・」
あまりの怒りでワナワナと体が震える。
「でもねぇ~~~」
フッとまたもや姿が消える。
「これくらいでね・・・」
(うっ!)
俺の背中に転移し、またもや抱きつかれた。
「ダーリンは私のものにするの・・・、でもね、これくらいで死んでしまってもねぇ~、ダーリンの力を見たいのもあるのよ。ゾクゾクする戦いを見せて、必ず生きて私のところに辿り着いてね。」
今度は首筋にキスをされる。
「いい加減に離れろぉおおおおおおおおおお!」
ソフィアが俺の顔面スレスレに突きを放った。
チッ!
またもや転移で移動し、今度は2人の魔神ところに立っていた。
「ふふふ・・・、子猫ちゃん、人間ごときが頑張っても無・・・」
突然、女魔神が硬直した。
「ゆ、ゆ、許さないぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~」
「私のこの美しい顔を・・・・」
プルプルと女魔神が震えている。その頬には薄っすらと傷が付いて赤く血が流れていた。
(ソフィアの突きでの傷?)
「このぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!メスガキがぁああああああああああああああああ!」
頭上に手をかざすと巨大な炎の鳥が現れた。
「死ねェエエエエエエエエエエエエエ!フェニックス・プロミネンスゥウウウウウウウ!」
炎の鳥が大きく翼を広げ飛び上がり、一直線にソフィアへと向かっている。
「あれはマズい!」
ソフィアの前に立ちアーク・ライトに魔力を込めた。
刀身が黄金に輝く。
「唸れぇええええええええええええ!一刀両断!光牙斬っっっ!」
バキィイイイイイイイイイイイッン!
「そ、そんな!」
火の鳥が真っ二つになって消滅したが・・・
「アーク・ライトが折れた・・・」
「あら、それが噂の聖剣だったの?こんなに脆いなんてねぇ~、でもスッキリしたわ。これでダーリンのの戦力もかなり落ちたわね。ふふふ・・・、どうやって生き残るのかしら?万が一生き残れたら、何でもあなたの言う事を聞いてあげるわ。まっ!絶対に無理でしょうけどね。」
ニヤニヤと女魔神が笑っている。
「だからぁ~、ダーリン、諦めて私と一緒になってよ。そうすれば苦労なんてしなくて済むわよ。」
「・・・ざけるな・・・、俺の相棒を・・・」
あの女魔神の笑い顔を見ていると・・・
「えっ!何ていったのかしらね?よく聞こえなかったわね。」
「ふざけるな!って言ったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
とてつもなくムカムカしてくる!
あいつは許さん!
俺の大切な相棒に何て事をぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ガカッ!
「何だ!折れたアーク・ライトが!いや!宝玉が!」
柄頭に埋め込まれていた真っ赤な宝玉が!目を開けられない程に輝いている!
(こんな事は初めてだ!)
ふと輝きが収まった。
そして、俺の前には・・・
(誰だ?フローリア様と同じくらいにこんなに綺麗な人は見た事が無い・・・)
ピンク色の髪に先端が青いウエーブのかかった髪の女性だ。完璧とも思える程に整った顔立ちで、こんなに綺麗な人なんて存在するのかと思う程だった。
それ以上に胸が大きいってものじゃない!
こんなに大きい胸の人は見た事が無い!しかもだ!あれだけ大きいのに重力を無視しているほどに素晴らしい形だなんて!
(いかん!)
あまりの胸に思わず視線が固まってしまう!
マズい!目を逸らさなくては!
しかし・・・
女性陣が俺の視線に気付いたみたいだ。
全員がとても冷たい視線で俺を見ている。
(や、止めてくれぇえええええええええええ!俺をそんな目で見ないでくれぇえええええええ!」
はぁはぁ・・・、何だろう、みんなからの視線での精神ダメージがとてつもなく大きい。
「ふふふ・・・、派手にやったな。さすがは蒼太と同じ魂を持つ男だな。規格外なところは変わらんな。」
ニヤリとその女性が笑った。
「蒼太?」
「おっと!これは言ってはいけない言葉だったな。」
俺の握っていたアーク・ライトが消えた。
(!!!)
いつの間にか目の前の女性が俺の剣を握っている。
しかし、剣は刀身の半ばから折れてしまっていて、その剣をジッと見つめていた。
「やはりな・・・」
「貴様!何者だ!」
ロキがいきなり現れた女性に怒鳴っていた。
(こいつらも知らないのか?)
ゆらりと女性が魔神へと顔を向けた。
「ほほぉ・・・、豪気だな。この私を知らないか・・・、まぁ、数千年も封印されていたのだ。今の私のこの姿では分からないのも当然かもな。ふふふ・・・、久しぶりに私の力を見せるか。」
彼女がスッと右手を上に掲げると・・・
(おい・・・、何の冗談だ?)
折れたアーク・ライトは左手に持っているが、右手に握られた剣が異常過ぎる!
かつての魔王が使っていたあの魔剣『デスブリンガー』よりも更に大きい剣だと!
刃渡りは5メートルは確実にあると思う。しかも、アーク・ライトと同じ金色に輝いている。
いや!それ以上に神々しい輝きだ!
そんな剣を目の前の女性は片手で軽々と上段で構えている。
「馬鹿なぁああああああああああああああああああああああ!」
「あれは!まさしく『神器クローディア』!」
「あの剣を使える者となると・・・」
魔神達があの馬鹿でかい剣を見て狼狽えている。
ラピスがスッと女性の後ろで片膝を付き深々と頭を下げた。
「これはデウス様・・・、わざわざお越しいただき、こうしてお目にかかれるとは・・・」
(デウス?ラピスがここまで畏まる相手とは何者だ?)




