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106話 王都決戦⑭

七将軍のカイゼルが真っ二つになって、あっさりと倒されてしまった。

アンの右手にはいつの間にか真っ黒な細剣が握られている。


「こ、この魔剣は・・・」


シヴァが真っ青な顔でアンの握っていた剣を見ていた。


「あら、分かります?」


和やかにアンがシヴァへと微笑んでいた。


「分かるも何も、魔族の間では知らない者はいないですよ。勇者の聖剣に並ぶ最強の魔剣に間違いありません。まさか、アンジェリカ様が継承者だったとは・・・」



「よくも!カイゼル様をぉおおおおおおおおおおお!」


バリバリバリィイイイイイイイイイ!


魔法使いのローブを来た魔人が叫び、そいつから大量の漆黒の雷が俺達へと襲いかかる。


ヒュン!


アンが細剣を軽く振ると・・・


パリィイイイイイイイイイイン!


雷が粉々に砕け消滅してしまった。


「そ、そんなぁぁぁ・・・」


魔人が唖然とした顔で消滅してしまった魔法を見つめていた。フードが捲れ顔が露わになったが、声からして想像通りに女の魔人だった。


「何で!何で、剣ごときで魔法を切り裂けるの?それも剣の間合いとは程遠い距離で・・・」


アンが剣を構えた。

「私の魔剣・・・、その名はデスペーラード。この魔剣は空間そのものを切る事が可能な魔剣よ。どれだけ硬い物質だろうが、魔法だろうが、剣の間合いから離れていようが・・・、全てを空間ごと切り裂きます。」


(マジかい・・・)


これで納得したよ。

アンがあっという間に魔獣の解体が出来た事も、ゴブリンキングが間合い外でも首を簡単に切り落とした事も・・・

空間を切る魔剣なら納得だ。

正直、この魔剣の性能はあり得ないぞ。チートどころの性能ではない!

空間そのものを切り裂けるという事は、どんな防御も無意味だって事だよ。盾だろうが魔法障壁だろうが、空間ごとぶった切ってしまえば終わりだからな。理論上、切れない物は無いって事だ。


(アンが敵にならなくて良かったと心から思う。)



「まさか・・・、ここまでとは・・・」


「さて、次は何をするのですか?」


魔王がギリギリとアンを睨みつけているが、アンの方はニコニコした表情で魔王を見ている。


「だが!まだ手はある!」

ガリガリの魔人が魔王の隣に立った。

「俺のビースト・ティマーの技なら!これを見てもそんな態度でいられるか!」


(これは!)


ヤツの足下にいくつもの黒い魔法陣が浮かび上がる。

その魔法陣の中から巨大な魔獣が現われた。


「ちっ!固定式の魔法陣は全部潰したのに、まだあったの?」


ラピスが舌打ちすると魔人の方が高笑いをしていた。


「ふはははははぁああああああ!切り札は最後まで取っておくものだ!魔王様!今のうちに立て直しの準備を!三魔将様をお呼び下さい!」


「仕方あるまい・・・、勇者の復活は予想していなかった。女神フローリアめぇぇぇ・・・、我が神であるダリウス様の復活を邪魔するとは侮れん・・・」



「くっ!させるかぁああああああああああ!」


ザッ!


アーク・ライトを構えたが、俺達の前に魔獣達が立ち塞がった。

先頭のブラック・ドラゴンを始め、ゴブリン・キング、オーク・ロード、キマイラなど・・・、どれもSSランク以上の危険度の認定をされている魔獣ばかりだ。


「お前達!時間を稼ぐのだ!」


魔人が叫ぶと魔獣達が俺達の方ではなく、国王や貴族達の方へと懸けだした。


「くそ!あっちの方にか!」


魔獣の中のブラック・ドラゴンが国王へと迫った。ソフィアが障壁を張ってくれてはいるが、相手はあのドラゴンだ!そう長くは保たない!


「高速移動が出来る私が!」


両手に漆黒の双剣を握ったシヴァが一瞬にしてドラゴンの前に立ち塞がった。

しかしドラゴンがクルッと後ろを振り向いたと思った瞬間に、巨大な尻尾をシヴァへと叩き付けた。


(まずい!いくら何でもあの尻尾はマズイ!確実に吹き飛ばされる!)


ガシィイイイイイイイイイイイ!


「何だと!」


シヴァの前に大きなタワーシールドを構えた男が、ドラゴンの尻尾を盾で受け止めていた。


(あの顔は覚えている。確かシャルの兄さんでテレサの上司である騎士団団長のカイン第2王子だ。)


「さっきは遅れをとったが、今度こそは!」


カイン王子の後ろでシヴァがワナワナと震えている。


「何で・・・、何であなた人族が私みたいな魔族を助けるの?魔族は人族の敵なのよ!」


「シールド!バニッシュ!」


カイン王子がシールドで尻尾を押し返した。ドラゴンがよろけて後ずさり、距離を取って睨んでいる。


「ほぉ~、咄嗟に出てしまったが、障壁からは出るのは容易だったのだな。」

そして後ろにいるシヴァへと視線を移した。

「なぜ助けるか?それはあなたが女性だからだ。騎士は弱き者、女性を助けるのが当たり前だし、それに、あなたほど美しい女性に戦わせるのは騎士としてあるまじき行為だよ。人族?魔族?そんなのは私に関係無いよ。目の前の人を助ける、それが騎士の努めだしな。」


「わ、私が美しい・・・?そんな事、言われた事がなかった。」


「そうだ、君ほど美しい女性は見た事が無かった。」


「そ、そんな・・・、だけど、嬉しい・・・」


シヴァが真っ赤になってモジモジしているよ。

おいおい・・・、今は戦闘中だよ。

いきなりラブロマンスが始まるのか?


GAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!


ドラゴンが吠えた。

口を大きく開け、王子達の方へ顔を向けている。


(あれはぁあああ!マズい!ブレスを吐かれる!)


口の中が真っ赤に輝いた。



「ライジングゥウウウウウ!インパクトォオオオオオオオ!」



ドカッ!


大きな破壊音がドラゴンの頭から聞こえる。

ドラゴンの頭の上に真っ白な槍が刺さっていた。

その横にはシャルが立っている。


「はっ!」


刺さった槍を残しシャルが翼を広げ飛び上がり、カイン王子の前に降り立った。

右手をドラゴンの前に突き出し拳をギュッと握った。


「爆砕!」


カッ!と槍が輝き大爆発を起こす。


ドオォオオオオオオオオオオッッッンンン!


GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!


同時にドラゴンの悲鳴が響き渡った。


シャルがクルッとドラゴンに背を向けると爆発の煙が晴れ、頭部が消滅したドラゴンがゆっくりと倒れた。

シャルの右手が輝き再び槍が具現化する。


「す、すごい・・・」


カイン王子がシャルを見て感嘆の声を上げ、シャルはゆっくりと王子へ振り向いた。

そしてニヤッと笑う。


「カイン兄様、ちゃんと戦いに集中して下さいね。まぁ、ラピス様に匹敵する美貌のエルフの方ですから張り切るの分かりますけどね。」


「い、いや・・・、シャル、そんなつもりは・・・」


おぉぉぉ~~~、シャルが兄貴を追い込んでいるぞ。それに、何かシャルが楽しそうだな。


「兄様、私は怒っていません。どうせなら頑張ってくれれば良いと思っていますけどね。」


「おい、シャル、それは・・・」


「兄様、勇者レンヤさんは魔王を宣言しましたアンジェリカ姉様と夫婦になっているのですよ。あのお2人は人族と魔族との融和、その象徴です。兄様もそうすれば良いのでは?この国からもそんな希望が生まれると私も嬉しいですよ。私から見てもどうもお互いに意識しているみたいですので・・・」


そのままニヤリと笑いシヴァを見つめると、シヴァの方も顔が赤くなっている。


(おぉおおお!これは脈ありだ!)


「そうよ!」


テレサの声だ!


声の方に向くとキマイラの前足の爪を剣で受け止めていた。


「えぇえええいっ!鬱陶しいわね!」


剣の腹で爪を受け流すと、クルッと体を回転させキマイラの前足を切り落としている。

さっきよりも体の動きがスムーズだ。神の剣術もテレサの体に馴染んできたのかもしれない。


「無蒼流秘奥義!第3の型!無塵斬っっっ!」


テレサとキマイラの間に無数の光の線が見えた。



バサッ!



(嘘だろう・・・、テレサの剣術はここまでなのか!)


キマイラの全身が一瞬で塵と化し、サラサラと崩れ消滅した。

どんな剣筋だ!

一瞬の光が見えたと思ったが、その光は数億もの剣閃に見えた。

光の速さをも凌ぐ剣閃とは・・・


そのまま飛び上がりシャルの横に着地した。


「兄さん!」


テレサが俺を呼んでいる。


「さっきはゴメンね。アンジェリカ義姉さんの事で少し取り乱してしまったわ。義姉さんは何者でも関係無いわ。王都に戻ってくるあの1ヶ月近くの旅で義姉さんと一緒にいたけど、とても優しくて料理上手、私だけじゃなくて騎士団の護衛全員が義姉さんのファンになったわ。姉さんは決して邪悪な存在ではない!それは私だけじゃなく殿下も、あの旅に一緒にいた全員が認めているのよ。」


横にいるシャルも頷いている。


「レンヤさん、私もテレサと同じです。アンジェリカ姉様はとても温かくて、旅の間は一緒にいてずっと楽しく過ごさせていただきました。姉様は魔王の娘?そんなのは私には関係ありません!姉様は私の大事なお方、そしてレンヤさんの正妻序列一位に相応しいお方です!」


テレサの剣にシャルの槍が重なった。


「私は兄さんと義姉さんを祝福するわ!そして!優しい魔王になると宣言した義姉さんの力に!」


「同じく!私も姉様を祝福します!フォーゼリア王国第3王女シャルロットの名に懸けて、アンジェリカ姉様と共にこの世界に平和を取り戻す事を誓うわ!」



「お前達・・・」



テレサとシャルがニコッと微笑んだ。


「テレサさんにシャル・・・」


アンの方を見ると・・・


ポロポロと涙を流しながらアンが微笑んでいた。


(アン、良かったな・・・、みんなから祝福されてな・・・)



「そうなると、私だけが意地を張ってるとみっともないわね!」


ドン!


ソフィアが1体のゴブリン・キングの頭を殴り吹き飛ばしていた。

頭部が無くなったゴブリン・キングがゆっくりと倒れる。

そして残りの1体のゴブリン・キングを睨みつけた。


さすがはキングと呼ばれるモンスターだ。危険度SSは伊達ではない。ソフィアの殺気に一瞬怯んだが、すぐに手の棍棒を構え腰を屈め戦闘態勢に入っている。


「私も認めないとね。あの子がレンヤさんの1番だってのをね!」


ゆらりと構えるとゴブリン・キングが後ずさる。


「だけどね・・・、二位は誰にも譲れないわ・・・」


グッと右拳を構えた。


「私の前に立ちはだかる者、全てをこの拳で打ち砕く!喰らいなさあぁあああああああっいぃいいいいいいいいいいいい!」


ソフィアが左拳を前に突き出し左足を前に出した。右足を後ろへ下げグッと腕を曲げ脇を締めて構えたぞ!

今までとは違う構えだ・・・


(何をする気だ?)


「砕け散れぇえええええええええ!」


体が回転したかと思った瞬間に、とてつもない衝撃波がソフィアの右腕から発せられている!


「マグナムゥウウウ!ブレイクッ!」


ゴシャァアアアアアアアアアアアア!


ゴブリン・キングが一瞬で消滅した。

いや、足元に足首から下がわずかに残っている。


(あのゴブリン・キングを一撃で粉々に消滅させるなんて、どんなパワーなんだよ・・・)


「No.2の座は譲らないわ!」


グッと拳を握りラピスへ突き出していた。

その姿を見てラピスがニヤリと笑う。


「ソフィア、あなただけには負けないわよ。かつての仲間だけど、レンヤの正妻序列二位は私なのよ!」

ジロッと目の前にいる魔獣達を睨んだ。

「これくらいの敵!私には何の障害にもならないわ!」


杖を高く掲げた。


「ディメンション!ゲート!」


突然、魔獣達の後ろの空間が割れた。その割れ目の中はどこまでも真っ暗だった。


UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!


残っていたオーク・ロードやゴブリン・キングが悲鳴を上げながら割れ目に吸い込まれてしまう。


ピタッ!


全ての魔獣を吸い込み終えると割れ目が閉じ、何も無かったかのように静かになった。


(す、すげぇ・・・)


あの500年前のラピスよりも遥かに強くなっている。

ここまでの魔法は使えなかったはずだ。

ソフィアもそうだけど、ラピスもこの500年は黙って眠っていた訳ではなかったのだな。


「城内だからあまり強力な爆裂魔法は使えないからね。これなら静かに殲滅出来たわ。次元の狭間に落としたから、時空間の捻じれで跡形も無く消滅したでしょうね。」


スッキリした顔でラピスが俺に微笑んでくれた。


「どう?これが大賢者ラピスの実力よ。ソフィアなんかには負けないわよ!」



アレックス・・・


最初は俺と2人で作ったパーティーだったな。

それからフローリア様の神託でラピスが加入し、教会からも同じく神託としてソフィアが入ってきた。

この4人で苦労したけど魔王を倒し平和な世界にしたのだな。


俺は死んでしまったけど・・・


それから500年、また楽しい仲間が戻って来たよ。

ラピスもソフィアも500年前の時とは全く違う性格になっている。

特にソフィアがガラッと変わった。当時の面影が無い程にアクティブな性格になったよ。


それにお前の子孫も凄いな。

女神様の力を授かるなんて・・・


俺の今の人生の妹がアレックスのミーティアを継承しているし・・・

しかもブラコンのヤンデレなんだぞ!


アンもフローリア様そのものみたいになっている。

まさかな、あの魔王の娘と結婚するなんて当時は想像もしなかった。まぁ、娘がいるなんて事も知らなかったけどな。

しかもだ!最大の敵として殺し合いをした魔王までもが俺とアンとの結婚を祝福してくれている。

本当に世の中何があるか分からないな。


それと・・・

どの女の子も強過ぎる!神の領域に入っている連中ばかりだぞ!

勇者パーティーと言うよりも、『女神パーティー』と改名した方が良いのではないかと思う程だよ。

良く考えたら全員が俺の嫁さんになっているか立候補しているのだな。

世界最強のクラスの女性たちが俺の元に集まっていると思う。



(俺の出番なんかあるのか?)



それくらい個性の強い連中ばかりだな。


どこからか声が聞こえた。



【頑張れよ・・・】



魔獣が邪魔をしていたけど魔王は?


「何だ!あれは?」


女の魔人の頭上に黒い大きな魔法陣が浮かび上がっていた。


「我が命を捧げます!」


自分の胸に腕を突き刺し心臓を取り出した。

その心臓を魔法陣へと掲げた。



ゾクッ!



背中に悪寒が走り汗が流れる。


「アレはぁあああ!『魔神』を降臨させる魔法陣!」


ラピスが青い顔で俺を見つめていたが、同時に頷き視線を魔法陣へと向けた。


「ギガ!サンダー!」

「フレア!」


俺とラピスが同時に魔法を放ち大きな稲妻が、真っ赤な火の玉が魔法陣へと飛んで行った。


パシィイイイイイイイイイ!


「何!」


俺とラピスの魔法が弾かれる!


自ら心臓を取り出し掲げている女の魔人がニヤリと笑う。


「私の全生命をかけた魔法陣が・・・、そんな柔な魔法ではビクともしないわ・・・、我が神、ダリウス神様の側近である神々よ!その名も三魔将!私の呼びかけに応えよ!憎き勇者を血の海に・・・」


「がふっ!」と血を吐き女の魔人が倒れたが、その体が浮き上がり空中の魔法陣に吸い込まれた。


「ドミニクよ!その忠誠、無駄にしないぞ!」


魔王ガルシアが叫ぶと魔法陣が輝いた。


「こ、これは!」


魔法陣の中から圧倒的な魔力とどす黒い霧が溢れ出す。


「レンヤさん!この瘴気は危険です!吸い込まないで!聖域結界!」

ソフィアが叫ぶと俺達の体が仄かに金色に輝いた。


「ふぅ・・・、これでしばらくは大丈夫・・・」


しかし、これは一体?


ラピスが鋭い目で例の魔法陣を睨んでいた。


「くっ!これは予想外だったわ。」


「ラピス!何か知っているのか?」


「えぇ・・・」

タラリとラピスの頬に汗が流れる。

「あの魔法陣は神々の世界である神界に繋がるゲートの魔法陣なのよ!そして、かつてのダリウスには3人の部下がいたわ。邪神の部下、魔神が!この世界でフローリア様に封印された時に、神界にいた彼らも神界の地で封印されたのよ。だけど、この魔法陣はその封印の地とこの世界を結んだのよ!」


「それじゃ、ダリウスの力を与えると・・・」


「そいう事よ。このままではあの神々が蘇ってしまうわ!」



「ふはははぁあああああ!もう遅い!」


ガルシアが叫んでいる。


「七将軍のドミニクが全生命力を魔力に変え、あのお方達にへと力を捧げたのだ!伝説の神々が蘇るのだ!この世界を地獄に変える為になぁあああああああああああ!」


「くそぉおおおおお!」


魔法陣の中から3人の人影が浮かび上がり、ゆっくりと床へと下りてくる。


あの3人は神に間違いない!

ガルシアや魔人とは比較にならない存在感を感じる。


これが魔神の力!


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