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105話 王都決戦⑬

転移でいつの間にかラピスが戻ってきている。

さりげなくアンの隣に立って、いかにも『ずっとここにいましたよ』アピールをしているのは微笑ましいな。


「ラピス、サンキューな。」


「どういたしまして。」


嬉しそうにラピスが微笑んでいるが、俺に抱きついているソフィアが顔を上げてラピスを見つめていた。


「不意打ちは最初から分かっていたわ。ラピスが助けてくれなかったなら、私が速攻で倒していたけどね。」


ソフィアがニヤッと笑うと、ラピスはギリっと目を吊り上げ睨んでくる。


「ちっ!あのくそ野郎じゃなくて、ソフィア、あんたを打ち抜けば良かったわ。あんただけ消滅させる事も可能だったからね。しまったわ・・・、そう考えると勿体ない事をしたわ。そうすればライバルが1人減るのにね。」


ギュッとソフィアが抱きつく力が強くなってくる。


「ラピス、あんたくらいの魔法なんて、私はいくらでも簡単に跳ね返せるわよ。レンヤさんに纏わり付く害虫駆除も私の仕事だからね!」


「害虫って!ソフィア!それこそあんたがレンヤに纏わり付く害虫そのものよ!」


「何ぃいいい!ラピス!その言葉は絶対に許さない!」


いきなりソフィアが離れラピスへと飛びかかろうとした。


「はいはい、ここまでよ。」


スッとアンが俺の横まで移動し腕を組んできた。


「「あぁああああああああああああ!」」


ラピスとソフィアが見事にハモって悲鳴を上げていた。


(アンよ、見事なタイミングだったよ。)


「それにしても、ラピスさんとソフィアさんって本当に仲が良いのですね。さすがはかつて一緒に苦楽を共にした仲間だけあります。仲間がいない私にとってちょっと羨ましいです・・・」


「アン、心配しなくていいわよ。あなたも私達の仲間よ。ソフィアともすぐに仲良くなれるわ。何たってアンはレンヤ大好き妻連合の筆頭メンバーだからね。悔しいけど、レンヤと一番ラブラブなのは認めるわ。」


ラピスがアンにウインクすると、アンも嬉しそうに微笑んだ。



「アンって・・・、もしや、アンジェリカ様ですか?」



ラピスの後ろから声が聞こえた。


「ん?」


(誰だ?)


ラピスの後ろから1人の女性が現れた。

褐色の肌にアンと同じ銀色の髪だ。だけど、耳はラピスと同じく長く尖っている。


そして、この顔には見覚えがあった。


「ダークエルフ、そしてその顔は覚えがある。まさか・・・」


「シヴァの関係者なの?」


横でアンが呟いた。

アンを見るとポロポロと涙を流している。


「私の名前を知っているという事は・・・」


ダークエルフの女性も涙を流していた。

そのまま床に膝を付き臣下の礼を取った。


「やはりアンジェリカ様・・・、よくぞお目覚めになられて、このシヴァ、これ以上の感激はありません。」


「ダークエルフはエルフよりも長生きですよね。あの時、私に仕えていたシヴァはどうなりました?まだ健在ですか?」


「はい!祖母はまだ健在です。ただ・・・」

シヴァと呼ばれた女性が暗い顔になっている。

「当時、四天王として勇者達と戦いましたが、負けた上に見逃してもらったとの事で、『負け犬』と言われマルコシアス家の恥さらしとして冷遇されていました。ですが・・・、そんな祖母は、一切勇者達にも恨みを言わず、私にいつもアンジェリカ様の事を楽しそうにお話しをしてくれていました。」


「そうですか・・・」

アンが涙を流している。

「彼女は私との約束を守ってくれていたのですね。」


「約束?」


「そう、2人だけの約束です。シヴァは私のたった一人の親友でした。勇者との戦いが激化し、魔王城でとうとう四天王と勇者達との戦いが始まる事になったのです。そして約束を交わしました。」



「お互いに絶対に死に別れない。戦いが終わったら、また友達としてお付き合いいましょう。」



「そう約束を交わしたのです。だけど、私は父に魔剣で眠らされ・・・」


そして俺をジッと見た。


「500年経った今、私はこうして眠りから目覚めました。レンヤさんが父の封印を解いてくれました。」


「そ、そんな・・・、なぜ勇者がお父上である魔王様の封印を解けたのですか?信じられません!」



「「魔王ですって!」」



シャルとテレサが叫んだ。


「兄さん!これはどういう事なの?アンジェリカ姉さんがあの500年前の魔王の娘ですって!何で私には言ってくれなかったのよ・・・、どうして?」


2人が悲しそうな顔で俺を見ている。



「そうか・・・」

魔王がニヤリと笑った。

「貴様があのアンジェリカなのか?」


「魔王!何を知っているんだ!」


俺が叫ぶと、再び魔王が笑った。


「ふはははぁあああああ!魔王の娘であるアンジェリカはな!魔族が血眼になって探していた存在だ!500年前に倒された魔王の娘の話は魔族の公爵家の中では有名な話だったからな。父親である魔王に封印されたがいつか蘇り、魔族の希望となって魔族を率いる存在になるとな!それほどまでに貴様は魔族の希望だったのだ!魔族歴代最強の強さと美貌の話は公爵家であったアスタロト家に受け継がれていた。貴様の前には魔族全てがひれ伏すと言っていたよ!」


(マジかい!あの魔王以上にアンが強かっただと!)




「俺がそれを利用しない訳がないだろう!」




そして魔王がアンへと手を伸ばす。


「さぁ、俺の元に来い!俺と一緒に人類、魔族、いや!この世界の全ての支配者になるのだ!貴様はその資格がある!どうだ?父親が成し遂げられなかった世界征服だ・・・、俺とならそれも可能・・・」




「黙りなさい!」



アンの凛とした声が響いた。


「何を勘違いしているのですか?私がそんな事を望んでいるといつ話をしました?私は争いが大嫌いなんですよ。いくら強大な力を持っていても、私は父の人族への侵略戦争には手を貸しませんでした。例え、父より強くても・・・」



「そして、父は私を決して戦いに利用しようとしなかった!私を封印したのも、私が怒りに狂った人族の嬲り者にされたくない、戦いが終わり平和になった世界で生きて欲しい!と純粋に娘を想う父としての願いでした。」



「父は最後に言っていました。『お前の幸せを願う』と・・・」


ジッとアンが俺を見つめている。


「レンヤさんも聞いていましたよね?正気に戻った父の最後の言葉を・・・」


確かに覚えている。

あのデスケルベロスの最後の言葉を・・・


「あぁ、残留思念となってもアン、お前の幸せを願っていたよ。」



「そして、私を幸せにしてくれると父が選んだのがレンヤさんです!父は私の気持ちを知っていました。だけど、魔王として、ダリウスの使途としての宿命には逆らえませんでした!日に日に自分が人族への憎しみへと染められて、自分ではもうどうしようも無くなっていた事も!自分が出来なかった世界を!それを私に託して!なぜ、その話を知っているのか!」


その瞬間、アンの胸から黒い霧が沸き上がってくる。


「何だ!」


俺の前に霧が段々と人の形になってきた。


「貴様は!」


思わず身構えてしまう。ラピスもソフィアも一瞬で臨戦態勢に入っていた。


『ふふふ・・・、勇者よ、久しぶりだな。こうして柵のない状態で話すのは初めてだよ。』


目の前にいる人物がニヤリと笑った。


「貴様は魔王・・・、アンの中にいたのか?」


アンの胸に刺さっていた魔剣を抜いた時に、あの魔剣は霧となってアンの胸の傷口へと吸い込まれていった。その後、傷口は綺麗に無くなっていた。その魔剣が今、人の姿となって俺の前にいるのか?


『そうだ、だが今の我は単なる残留思念で力は全く無いけどな。お前が我が娘を心から受け入れてくれたあの夜、真に正気に戻った我はアンジェリカに真実を伝えのだよ。夢の啓示としてな・・・』


そう言って魔王が苦笑いをしているよ。


『勇者レンヤ、お前は我を倒した男だ。まぁ、最後にダリウスの呪いで相打ちになってしまったけどな。だが、お前と戦った我には分かる。女神に愛されているお前は無限大の可能性を秘めているとな。お前なら我が娘を幸せに出来るとな。魔王である我の娘、そんな立場であった娘をお前はそんな事は一切気にしなかった。ただ1人の女として扱ってくれた。そして幸せにすると約束をしてくれた。それにな、お前と一緒にいるアンジェリカは、我にも見せた事が無い幸せな顔をいくつも見せてくれた。我にはそれが嬉しかったぞ。』


魔王が深々と頭を下げた。

そして顔を上げると俺をじっと見つめた。あの時に対峙していた魔王の顔とは全く違う。


(これが父親としての魔王の顔なのか。)


『我はもう完全に消滅する。だから、愛するアンジェリカを頼む。必ず幸せにしてくれ・・・、そして、願わくば・・・、アンジェリカの夢である、争いの無い世界に・・・』


魔王の影が薄くなり、そして完全にその姿が消えた。

アンを見ると・・・


「父様・・・、私とレンヤさんとの事を祝福してくれて・・・、ありがとうございます。」


涙を流しながら魔王がいた場所を見つめていた。



「バカな!そんな話があってたまるか!」

今の魔王であるガルシアが叫んでいる。

「あの魔王が勇者に自分の娘を託すだと!そんなバカな話があってたまるか!魔王と勇者は相容れぬ存在だ!我が神の使徒が女神の祝福を受けた者に絆される訳がない!」


「いいえ!それは最初から間違いだったのです!」


「何だと!」


「父は最後の最後にダリウスの呪縛を破ったのです!ダリウスの考えは間違っていると気付きながらも、その呪縛を解く事が出来ず人族との関係は最悪の状態になりましたが・・・、だけど!こうして私を残してくれた事は父の最後の良心の表れだったと思います。ダリウス・・・、それは単なる嫉妬に狂った神!女神フローリア様に横恋慕をしてフラれ、逆恨みをしただけの器の小さな神ですよ。そんな神がいつまでも人を支配出来る訳がありません!」



アンの雰囲気が変わった。

今までとは魔力の高まりが違う。こんな高密度の魔力はあの時の魔王すら超えている。


「私はずっと悩んでいました。このままレンヤさんの妻の1人として只の人間として人生を終えるべきか・・・、それとも、父の後を継ぎ魔族を導くのか・・・、だけど、私が目覚めてからレンヤさんを始め、ラピスさん、マナさん、ローズマリーさん、」


そしてテレサ達を見つめた。


「テレサさんにシャルロットさん、そしてここにはいないけど、ザガンの街のみなさんにダンタリオン家のみなさん・・・、どの方々も温かい人ばかり・・・、この世界は温かい人で溢れていると感じます。憎しみと独占欲に凝り固まったダリウスの呪縛は何て醜いものか・・・、周りの方々が私のやるべき事を教えてくれました。」


アンの全身が金色に輝く。


「私の歩む道・・・、それは、父の魔王という名を継ぎ、私は新たな魔王としてこの世界に君臨します!」


金色の瞳と角、目の前にいるガルシアとは正反対の神々しいオーラをアンが纏っている。


「馬鹿なぁあああ!」

ガルシアがアンの姿を見て叫んだ。

「魔族が金色の瞳に角だと!そんな姿の魔族は存在しないはずだ!金色はダリウス神が最も嫌う色だ!それを何で魔族の貴様がぁあああ!」


「これがアンジェリカ様の真のお姿・・・、何と神々しい・・・、我らマルコシアス家が忠誠を尽くすに相応しいお方・・・」


シヴァが床に膝を付き深々と頭を下げた。



「ただし!私の目指す魔王は父とは違います!」



「私は『優しい魔王』として!この世界の平和を目指す魔王として君臨します!」



ジッとガルシアを見つめた。


「邪神ダリウス!そして使徒である魔王ガルシア!あなたはこの世界には相応しくありません!女神フローリアの名の下に、この世界から退場してもらいます!」



「ほざけぇえええええ!」



ガルシアが大声で怒鳴っている。


「我が覇道を阻む者は誰であろうと排除するのみ!貴様は魔族を俺の国の戦力にする象徴として最適だったが、こうなっては使い物にならん!本気の俺の力を見せてやろう・・・、今までの七将軍とは比べものにならない力をなぁあああああああああああああああ!」


ガルシアの全身からどす黒いオーラが噴き出した。



「魔王様、お待ちを・・・」



スッとガルシアの前に1人の魔人が立った。

「七将軍筆頭である私が全てを終わらせましょう。」

漆黒の剣を握り切っ先をアンへと向けニヤッと笑った。

「私の名は七将軍筆頭カイゼル・・・、私を今までの出来損ないと一緒にするなよ。私の完璧な強さに絶望するがよい!」


バサッ!


カイゼルと名乗った男の背中からコウモリの翼が生えてくる。角も更に大きく捻れ始めた。

手足の甲冑が弾け飛び、真っ黒な鱗に包まれた手足が剥き出しになっていた。


「これは!」


あのリズの変貌と同じだと!


「リズやグレンと同じで悪魔へ変貌するのか?」


俺がそう呟くと男がニタニタと笑っている。


「あんな出来損ないの変貌とは違う!私は悪魔のような低俗な存在ではないのだよ。魔王様やダリウス神様と同じ高次元の存在となったのだよ。私の完全体の力を見せてやろう!」


両手を広げ宙に浮かんだ。


「ふはははははぁあああああああああああああああ!私の力に恐れ跪くが良い!絶対的な強者という存在を見せつけてあげよう!」



「それで?」



アンがフッと笑った。


「はぁあああああ!何だ!余りの圧倒的な力の差を目の当たりにして頭が変になったのか?だが、貴様は魔族を纏めるのにも必要な存在。殺しはないが、痛い目に遭いたくなければ素直に言う事を聞くのだな。」


「はぁ?」


アンがラピスに視線を移すと、ラピスもヤレヤレといった感じで首を振っていた。

ソフィアも残念な人を見るような目で魔人の男を見ていた。


「あなた方は空を飛べるって事ですぐに飛びたがりますね。何とかと煙は高いところが好きと言われていますけど、あなた達も対して変わりませんね。それにここまで自信過剰なのも面白いですよ。身の程知らずというのはあなたの事を言うのでしょうね。」


「ふざけるなぁああああああああああ!」



「それでは私の本当の姿をご覧に入れましょう。」


アンが優雅に微笑むと再び全身が金色の光に包まれた。


「魔装!」



「これは!」


光が収まったアンの姿に思わず見とれてしまう。

アンの全身にシャルと同じような輝く鎧が装着されていた。

その姿はシャル以上に神々しい姿だった。


「「「おぉぉぉ・・・」」」


国王達や貴族達の間から感嘆の声が上がり、中には「フローリア様の化身・・・」と言って跪き祈りを捧げる者までいた。


シャルの鎧は真っ白に輝く鎧だったが、アンの鎧は金色に輝くドレスを模した金属の鎧だった。

そしてその背中には鎧と同じく薄く金色に輝く大きな翼を広げていた。


「アン・・・」


ニッコリとアンが微笑んだ。

今のアンの姿は銀髪を除けば紛れもなくフローリア様と同じ姿だった。


「昔は真っ黒な鎧と翼だったけど、今は金色になるなんて、やっぱりフローリア様の使徒になっているのは間違い無いですね。」


いやいや!

あの魔王でも魔装でここまでの鎧は具現化出来なかったぞ!目の前いるアンの様に体全てを覆う鎧とは・・・、あの鎧は魔力が物質化したモノだ。それだけの鎧を具現化するのはどれだけ規格外か俺でも分かる。

しかも金色に輝いているなんて、間違い無くフローリア様の使徒として認められている証だ。


アンから発せられる存在感が尋常ではない!

まさに目の前に女神が降臨したのでは?と思える程に、今のアンは神々しい姿だった。



「な、何なのだ?この圧倒的な神気は・・・」


カイゼルが唖然とした表情でアンを見ていた。

その唖然としたカイゼルの姿をアンが優しく微笑みながら見つめている。


「どうしました?このまま大人しくお帰りになり、2度と野心を持たなければ命だけは取りませんが・・・」


「ふ!ふざけるなぁああああああああああ!」

カイゼルがギリギリと歯ぎしりをしてから叫んだ。

「黙って聞いていれば!何が見逃すだとぉおおおおおお!この私を馬鹿にするなぁああああああああああああああ!」


ギラッと黒剣の切っ先をアンに向けた。


「そんなハッタリに怖じ気づく私ではない!貴様の化けの皮を剥がしてやる!」


「はぁ・・・」

アンがため息をついた。

「やはり引きませんか・・・」



ヒュン!



どこからか風切り音が聞こえた。



ズルッ!



「あ”!」


カイゼルが間抜けな声を出しながら、縦に真っ二つになって床へと落ちてきた。


ドチャッ!


何かが潰れたような音が聞こえ、カイゼルの体が床の上で魚の開きみたいな姿で転がっていた。しばらくすると砂のように崩れ姿が無くなってしまった。


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