104話 王都決戦⑫
「勇者レンヤ様!」
シャルの父親、この国の国王が俺を呼んだ。
「アレックス賢王様の予言通りでした。」
国王以外にも一緒にいる王妃達やその王子達も全員が床に膝を付け頭を下げた。
「アレックスが?」
「左様です。勇者様は遠い未来に必ず蘇られると、我が国王のみに口伝にて語り継がれていました。そして、今、この目で勇者様を、かつての賢王様のお仲間もご一緒に見られるとは・・・」
「我が人生で最高の瞬間です!」
国王が涙を流しながら俺達を見ていた。
まだラピスは戻ってはいないけど、俺とソフィアもいるからな。物語にしか登場しない伝説の人間達がここにいるのだ。
俺も普通の市民だったら歓喜するのは間違いないだろうな。
「父様・・・」
シャルが国王へ向いた。
「お話は後です。今は目の前に魔王がいるのですから、そちらの方が重要です。」
「そ、そうだな・・・」
「レンヤさん・・・」
今度は俺の方に向いた。
「今がチャンスです!魔王を倒しこの世界に平和を!私も頑張ります!」
グッとシャルが拳を握ったが・・・
「テレサとシャル、お前達はしばらく休んでいろ。」
「「どうして!」」
2人が納得出来ない顔で俺を睨んでいる。
「お前達は俺達が来る前まで頑張っていた。俺が気付かないと思っているのか?元気そうに見えているけど、かなり無理をしているだろう?いくら神の力を得てもその力を完全に制御は出来ていないはずだ。これ以上の無理はさせられない。」
「「だ、だけど・・・」」
「俺達が負けるとでも思っているのか?」
2人がプルプルと首を振っている。
「そういう事だ。なぁ、アンにソフィア!」
「さすがレンヤさんね。魔王は私に任せて頂戴。どちらが上か思い知らせてあげるわ。私が目指す未来、あんな紛い物の魔王に邪魔される訳にいかないわ。」
アンが不敵に笑っている。
「この子とレンヤさんの心が通じ合っているのは納得出来ないけど、私もレンヤさんのパーティーの一員だしね。この戦いでレンヤさんの1番を奪い取ってあげる。500年前みたいな思いはしたくないから、ガンガンいくから覚悟してね。」
ソフィアもアンと同じく不敵に笑っているけど・・・
う~ん、何だろう、かつてのソフィアとのギャップが大きいよ。だけど、今のソフィアはとても頼りになるのは間違いないな。
「分かったわ、兄さん。私とシャルは少し休んでいるわね。でもね兄さん、情けないところを見せないでよ。そんな事にでもなったらすぐにシャルと2人でお仕置きするからね。兄さんは最強!それは私の誇りなんだからね。」
テレサがサムズアップして微笑んだ。
「分かったよ。シャルもな。」
「はい、分かってますよ。」
そう言って微笑んでくれたが、いきなり目の前に移動しキスをしてきた。
俺の目にも見えない動きだった。
「「「!!!」」」
すぐに唇が離れたが、3人が口を押えて驚いている。
「もう父様達にも見られてしまいましたからね。私は遠慮しません。だから、レンヤさん・・・」
じっと俺を見ている。
「私が休んでいる間に終わらせて下さいね。そして、私を堂々とさらって下さいね。」
可愛くシャルがウインクしたけど、チラッとアン達を見ると・・・
(うわぁ~~~、完全に嫉妬の目で見ているよ。)
ある意味、あいつらのやる気が出たのかな?
ポジティブに考えよう・・・
そして国王を見ると・・・
ニカッと笑って「娘をよろしく!」と言ってサムズアップしているよ。
やっぱりアレックスの子孫だ!仕草があいつと変わらない!こんなところが遺伝するとは思わなかった。
「貴様らぁああああああああああああ!」
おっと、ちょい余裕を見せ過ぎてしまったな。
魔王が真っ赤な顔で怒っているよ。
「魔王様!私が先陣を!あの中の1人に因縁があるもので・・・」
さっきのガタイがデカい魔人だ。
そういえばソフィアに喧嘩を売っていたな?
「あいつが出てくるなら私の出番ね。」
ソフィアがニコッと微笑みながら前に出てきた。
ポキポキと拳を鳴らして身構えている。
魔人が飛び上がった。
(ガタイの割には動きが素早いな。筋肉も見かけ倒しではなさそうだ。)
ソフィアの前に降り立ってニヤニヤ笑っている。
「私は七将軍が1人、戦鬼ガーランドだ!親友ゾーンの仇を討たせてもらう!」
「残念だけど、あなたの希望には沿えないわ。あなたの実力じゃ私には敵わない。私と勝負したければもっと強くなってから来なさい。」
ニヤリとソフィアが笑うと、魔人は目を吊り上げてまさに鬼のような形相でソフィアを睨んでいた。
「ふざけるな!この細腕で何が出来る!俺の筋肉に勝てる奴はいないんだ!簡単に殺すのは勿体ない。散々なぶり者にして女に生まれた事をを後悔させてやる!お前のような女を屈服させるのも楽しみだ・・・、最後は俺に腰を振って懇願するまで徹底的に犯してやる!」
「はぁ~」
ソフィアがため息をしている。
「クズのテンプレなセリフですね。最初の紳士的なセリフもすぐにボロが出て言葉が汚くなるし・・・、そんなに女に飢えているのですか?あぁ~汚らしい・・・、正直触る気にもなりませんね。それに私の初めてはレンヤさんに捧げると決めているのですよ。」
(おい!今、そんな事を言うな!恥ずかしくて死にそう・・・)
「もう容赦しません。私に喧嘩を売った時点で終わっていたと教えてあげましょう。」
そう言ってソフィアが構えた。
独特の構えだ。
右足と右腕を前に出して体は相手に対して直角に向け、体の中心の急所は絶対に相手に向けないようにしている。
「私のこの『白狼神掌拳』、神殺しの拳を!あなたの身でじっくりと味わいなさい!」
しかし魔人がニヤニヤと笑っている。
「何と言った?こんな流派は聞いた事も無い!そんな無名の流派で俺に勝とうなんて馬鹿だな。ふふふ、この筋肉の鎧は伊達ではない!どんな攻撃も通さない鉄壁な鎧なんだよ!皇帝陛下に魔人の力を与えられ、更に強固になった!お前の方が俺に喧嘩を売った事を後悔するんだな。まぁ、俺の奴隷になって一生忠誠を誓うなら助けてやってもいいぞ。お前ほどの美人はそういないから徹底的に可愛がってあげるぞ。」
「そう・・・」
一瞬でソフィアが魔人の目の前まで移動した。
トン・・・
軽く魔人の腹に拳を当てたが・・・
「はぁ?」
魔人が不思議そうにソフィアが当てた腹を見ていた。
「何だ?これがお前の攻撃か?蚊よりも手応えが無いぞ・・・、バカにしているの・・・」
「がふっ!」
突然魔人が膝を付いた。
口から大量に血が溢れている。
「何だ?何が起きた?」
ガクガクと震えながらソフィアを見ていた。
「どうしたの?自慢の筋肉なんでしょう?もしかして、この筋肉って見かけ倒しなのかな?触りたくないけど仕方ないですし・・・」
ニヤニヤとソフィアが魔人を見下した視線で見ている。
「ふ、ふざけるなぁああああああああああ!」
雄叫びを上げながら勢いよく立ち上がったが、まだ足下がフラフラとしている。
だが、自分自身を鼓舞する為なのか、グッと拳を握り身構えた。
「コレは何かの間違いだ!貴様の様な女が俺の筋肉を無視して内蔵にダメージを与えられるはずが無い!俺の筋肉は剣や槍だけじゃなく魔法も通さないんだ!貴様なんぞ、俺の拳で木っ端微塵にしてやる!」
「そう?出来るのなら頑張ってね。」
ソフィアが再び構え、右手の指をクイクイと曲げて挑発している。
「ふざける・・・、なぁあああああああああああああああああああああああああああああ!」
ソフィアの態度にとうとうキレたのか、思いっ切り拳を振り上げ力任せに振り下ろした。
ビタッ!
「何ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!」
魔人の驚愕した声が響く。
(嘘だろう?)
今、俺の目の前で繰り広げられている光景はとても信じられない。
ソフィアが右手の人さし指1本で魔人の拳を受け止めていた。
(本当に何が起きている?)
「どうしたのかしら?」
ニコッとソフィアが微笑んだが、相手の魔人の方は信じられない表情でガタガタ震えながらソフィアを見ている。
「もしかして、あなた、化勁を知らないの?私の白狼神掌拳では基本の技なんだけどね。まぁ、あなた程度では知らないのは仕方ないわ。ハッキリと断言するわ。あなたは私の足下にも及ばない。さっきの魔人と一緒でやっぱり雑魚だったわね。」
ブワっとソフィアの闘気が膨れ上がった。金色の美しい髪の毛が舞い上がるほどに、ソフィアから闘気が溢れている。
こんな膨大な闘気なんてあり得ないぞ!
「白狼神掌拳・・・、この拳を教えてくれた師匠は、あなた達には絶対に届かない場所におられる神よ。神々の住まう世界、その名も『神界』に住まわれているのよ。そして、その神々の中でも最強の7柱と呼ばれる神の1柱!その神が使われる拳法!それがこの白狼神掌拳!」
(やはりソフィアも神の力を手に入れたのか!)
ドン!
「うぎゃぁああああああああああああああ!」
何だ!いきなり魔人の右腕が爆発した!
肘から先が消滅している。
「これが私が手に入れた『大聖女』に並ぶ『武神』の力!単なる鬼ごときが神の称号を持った私に勝てる訳がないわよね?たったこれっぽちの闘気に耐え切れずに崩壊してまう筋肉なんて、私があなたを雑魚と言った意味が分かったでしょう?」
再びソフィアが構えた。
「くっ!これが神の力だと・・・」
グッと歯を食いしばると、消失していた腕がみるみるうちに生えてきて、元の腕に戻っている。
「だが!俺も神の力を手に入れているんだ!そんな力に俺が負ける訳が!」
ドン!
「ぐはっ!」
ソフィアが一歩前に踏み出し、右拳が魔人の鳩尾に食い込んだ。
さっきのそっと触れた程度の突きではなく、拳がめり込むほどの威力のこもった突きだ。
「残念だけど、あなたに勝てる要素は無いわ。単に邪神からもらった力と、長い年月の果てに獲得した力では重みが違うわよ。」
すかさず腕を畳み、再度同じ場所に今度は肘を叩き込む。
「あなたはどれだけの覚悟で自分を鍛えたの?私は500年前、レンヤさんを目の前で失った!私が弱かったばかりに、私を庇ってレンヤさんが!自分の弱さを呪ったわ!私のせいでレンヤさんが!大好きな人を目の前で亡くす悲しみがあなたに分かるの?!もう2度と同じ思いをしたくない!」
ソフィア・・・
お前は・・・
すまん・・・、俺のせいで・・・
膝を上げ叩き付けるように相手の膝横を蹴り飛ばす。
鞭のようなしなやかな蹴りで相手の膝を砕いていた。
「私は願ったわ!弱くて戦う力が無い私に、レンヤさんと一緒に戦える力を!一緒に並んで戦える力を!」
黄金のオーラに包まれている右の手刀が奴の左肩に食い込み、そのまま振り切ると相手の左手が切断され宙に舞った。
「そして神の世界で師匠に出会った!それから必死に師匠に追い付く為に頑張ったわ!それこそ地獄すら生温い修行の日々を!そして1万年もの気の遠くなる年月を!孤独に耐え!理不尽に耐えたこの年月を!」
ジャンプし回転しながら踵を肩にぶち当てた。あまりの威力で胸の中ほどまでソフィアの足が食い込んでいる。
「全てはレンヤさんと一緒に戦う為!私は弱いと言われたくない為!その想いが肉体を凌駕したのよ!」
懐に入り込み強烈なアッパーが奴の顎にヒットした。
浮き上がる事も無く、その場でクルクルと回転している。
(吹き飛ばす事も無く回転するなんて、どれだけのパワーと瞬発力なんだ?完全にサンドバック状態だぞ・・・)
「私のレンヤさんへの想い!それを!あなたなんかに分かる訳がないでしょうが!快楽の為に力を使う!そんな女の敵は私が許さない!そして!乙女の恋心は無敵なのよぉおおおおお!」
おいおい、ソフィアの強さは分かったけど・・・
重い!ソフィアの愛が重い!
俺と一緒にいたい気持ちがここまで強いとは・・・
その気持ちで最強の力を手に入れたなんて・・・
ラピスの言っていたソフィアの本当のヤバさは良く分かった気がする。
「これで終わりよぉおおおおおおおおおお!」
グッと両手を後ろへと引いた。拳が金色に輝いている。
「白狼神掌拳!秘奥義!金剛神掌ぉおおおおお!」
そのままソフィアの諸手の掌底突きが魔人の腹に手首まで食い込んだ。
「おごっ!」
2人の動きが止まった。
パァアアアアアアアアアッッッン!
一瞬の静寂の後、魔人の背中が弾けた。
真っ黒な血と粉々になった内臓と背骨や肋骨が魔王達のところへ飛んで行った。
「魔王様!」
誰かが叫ぶと半透明の障壁が魔王達の前に展開された。
その障壁のおかげで血の雨を浴びる事は無かったが、その魔人の顔も狼狽していた。
魔王だけが鋭い目つきでソフィアを睨んでいる。
ゆっくりとソフィアの目の前の魔人が倒れた。
サァァァ・・・
魔人が砂となって消滅してしまう。
(ソフィアの強さって・・・)
俺が想像している以上にソフィアは強かった。
俺を助けられなかった無力感、俺と一緒にいたい為、俺の隣で肩を並べて戦いたい為・・・
その一途な想いだけでこれ程までに強く美しくなったとは・・・
ソフィアの想いは良く分かった。
とてつもなく愛が重いけど受け入れるしかない・・・
それ以外の選択は無いと思う・・・
前々から覚悟はしていたが、やっぱりこれ以上の妻を増やすのはなぁ~、躊躇している俺もいるが、だけど、断るのは不可能だろうし、そんな事を言ってみろ!確実に目の前の魔人の二の舞だ!いや!それ以上の目に遭うのは容易に想像出来る。
今の俺が言える事は・・・
「ソフィア・・・」
彼女がクルッと俺へと振り返った。
「レンヤさん、どうだったかな?」
少し心配そうに俺を見つめていた。
「強くなったな、さすがだよ。もう安心して俺の背中を任せられるよ。これからもずっと頼んだぞ。」
「はい!」
嬉しそうに涙を流しながらソフィアが俺に抱きついてきた。
「もう悲しい思いをしなくていいのね?ずっとレンヤさんと一緒・・・、その為に私は強くなったからね。」
「あぁ、今度こそずっと一緒だ。もうお前を悲しませる事はしない。」
「隙あり!」
魔人達の中から1人が勢いよく飛び上がり、俺の方へ、いや!背を向けたソフィアへと飛びかかってきた。
俺とソフィアが抱き合っている隙を突いてきた。
「ふはははぁあああああ!油断した今なら!ゾーンとガーランドの仇ぃいいいいいいいいいいい!」
真っ黒な剣を振り上げソフィアの背中に切りかかろうとした。
しかし・・・
「甘いわ・・・」
「アトミック!レイ!」
シャルが開けた天井の穴から極太の真っ白な光線が飛び込んできた。
「うぎゃぁああああああああああああ!」
一瞬で魔人が光に飲み込まれ消滅し、床にも大きな穴が開いている。
(おいおい、あんまり城を壊すなよ・・・)
「ふふふ、どうやら間に合ったようね。私の出番が無いのは許さないわ。あんた達だと私が来る前に全部終わらせそうな感じだったからね。」
「ナイス!タイミングだ!さすがはラピスだな。」
俺がニヤッと笑うと、アンの隣に立っているラピスもニヤリと笑った。
「さて、魔王・・・、お前の自慢の七将軍も残りは3人だな。次はどんな手だ?」
ギリギリと歯ぎしりをして、憤怒の形相で魔王が俺を見ている。




