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101話 王都決戦⑨(冒険者ギルド④)

「ラピス様!」


ナルルースが臣下の礼を取りラピスへと深々と頭を下げている。


「ふぅ、ギリギリ間に合ったわね。遅れてゴメン、ちょっと予想外の事が起きたからね。」


「いえ、問題ありません。ラピス様の魔法のおかげで魔法陣が起動前に全て吹き飛びましたので、これで安心してあの豚を倒せます。」


そう言って、ナルルースがゾルダークへ視線を移しニヤリと笑った。


「確かに豚ね。まだ周りの連中の方がまともな感じよ。あなた達の働きを少し見させてもらうわ。」


「ふざけるな!誰が豚だと!」

ゾルダークが真っ赤な顔でラピスを睨んでいるが、そんなのはどこ吹く風と涼しげな表情でラピスが佇んでいる。


「どうやら力の差が分かっていないみたいね。」


スッと右手を前に突き出した。


「アース・スパイク!」


ドスドスドス!


「ぐあぁあああああああ!」


ゾルダークの横にいた1人の魔族が地面からいきなり生えた何本もの槍にくし刺しにされていた。

そのまま宙に持ち上げられ、体が一気に崩れ塵になって消えてしまった。


「そ、そんな・・・、この屋敷には魔法防御の結界が張られているんだぞ!魔法が届くどころか、その結界を無視して中で魔法が発動するなんてあり得ない・・・」


ゾルダークが大汗をかきながら地面から生えた何本もの槍を見ていた。


「何言っているの?こんな紙みたいな結界が私に通用すると思っているの?私を舐めないで・・・」


ギロリとゾルダークを睨んでからエミリア達のところへと歩いていく。


「あら!」

ラピスの視線がエミリアへと注いだ。

「まさか、昨日の子?魔力に変わりはないけど、ちょっと見た目が変わり過ぎない?」


そう言って隣にいるマックスに気付くと、ニヤリと笑った。


「そういう事ね。彼の実力の事はナルルースから聞いているわ。ふふふ・・・、アンが言った通りね。昨日の今日で運命の王子様を見つけてしまうなんてちょっと驚きだけど、おめでとう。」


2人が真っ赤になってモジモジしている。


「良いわね、こんな反応は初々しいから好きよ。ねぇ、ナルルース。」


「そうですね。」

ラピスの後ろに立っていたナルルースが恭しく頭を下げた。

「私も昔の事を思い出しました。旦那様は昔から変わらず無愛想ですけど、私を娶ってくれた時の優しい笑顔を思い出しますね。」


「「ラピス様・・・」」


ナルルースにも弄られ、更に2人が赤くなってしまった。



「あなたがラピスなの!」



突然、ラピスの横から大声で叫んんだ人物がいた。


「そうだけど、あぁ・・・、そういう事ね。」


シヴァがジッとラピスを睨んでいたが、ラピスは相変わらず笑顔でシヴァを見ていた。


「あの時のシヴァの子孫ね。ダークエルフだから、あなたはその孫かな?」


「そうよ!私の祖母はあんた達のせいで!」


「あの時は戦争だったからね。お互いに分かって戦っていたのよ。無事に生き残ってこうして可愛い孫が出来るなんて良かったわ。」


「そんな事を言うな!私の大好きな祖母も同じ事を言っていたわ!だけど!勇者パーティーに負けて、お情けで見逃されたって一族から笑い者にされたわ!でも、そんな祖母は一切私にも不満を言わなかった!私はそんな祖母の無念を晴らす!」


シヴァから大量の冷気が溢れ出した。


「無理ね・・・」


ラピスがそう呟いた瞬間にシヴァから発生していた冷気がピタッと止まった。


「な、何で!」

シヴァが驚愕の表情で自分の体を見ている。


「あなたはかつての四天王のシヴァと比べて格段に実力が落ちるわ。今のあなたでは私の前では何も出来ないわよ。それだけの力の差を本当は分かっているのでは?」


ギリギリとシヴァが歯ぎしりをしている。

「そ、それでも!この命に代えてもあんたを倒す!祖母の名誉を守る為に!」


「そう・・・、そうすればアンも悲しむわね。」


「アンって!まさか、アンジェリカ様の事?」


「そうよ、アンは今は私と一緒にいるのよ。私と同じ勇者レンヤの妻の1人としてね。昨日、聞いたわよ。マルコシアス家はアンが眠りにつく前からよく自分に仕えてくれていたってね。そして、当時のシヴァはアンの数少ない友人の1人だったと・・・、本当は戦いが嫌いでとても優しい心の持ち主だってね。その一族が生き残っていた事にすごく喜んでいたわ。今のアンは500年前から目覚めたけど、誰も知っている人がいないのよ。その孤独がどれだけあの子の苦しみになっているか分かっているの?本当にアンの為に思うなら、元気な顔でアンに会うべきじゃないかしら?」


そしてエミリアの方に視線を移した。


「エミリア、あなたもアンに報告しないとね。呪いが解けて本当の姿になれたし、こんな素敵な彼氏が出来たのだからね。」


「はい!もちろんです!」


エミリアが元気よく頷いた。


再びラピスがシヴァに視線を戻した。

「どう?これでもまだ私と戦う?」


「くっ!」

そしてがっくりと項垂れた。

「私の負けよ・・・、あなたと戦う事はアンジェリカ様への不敬になるわ。そんな事は私には出来ない。」



「この役立たずがぁあああ!」


ゾルダークが真っ赤な顔で叫んでいた。


「ふざけるな!アンジェリカ様が勇者の妻だと!そんな訳があるはずが無い!あのお方は私に嫁ぐべきなのだぁあああ!この魔族でも最高の公爵家の当主である私のところへな!ラピスだぁあああ!!そんな化石みたいな女に私が負ける訳がない!」


ブワッと大量の魔力が溢れ出した。


「この私の本気の力を見せてやる。誰に逆らったのかをなぁああああああ!」


「はぁ~、こんなものね。雑魚が粋がってもねぇ・・・」


呆れた表情のラピスだったが、シヴァへ視線を移した。


「あなた、本気で強くなりたい?私やアンと並べる程にね。どう?」


ギリッとシヴァが唇を噛んでしばらく黙ってしまった。

そして強い視線でラピスを見つめた。


「強くなりたい・・・、負け犬の血筋と言われたくない!祖母の名誉を挽回する為にも強くなりたい!」


「分かったわ。あなたに最適な指導者がいるから呼ぶわね。」


その瞬間、ラピスの目の前の地面に巨大な魔法陣が浮かび上がった。


「我との盟約に応えよ。その孤高なる魂を!全てを凍てつかせる静寂なる世界を!」


魔法陣が激しく輝き始めた。

青い光が視界に広がっていく。


「出でよ!氷の女王よ!その名はシヴァ!」


魔法陣の中から少しずつ人影が浮かび上がってくる。


「まさか!そのお方は!伝説の精霊・・・、そんなお方まで召喚出来るとは・・・」


魔法陣の上に1人の女性が立っていた。

髪はまるで氷のように透き通った薄い青色で、瞳も髪と同じくアイスブルーでラピスを見つめている。

身に着けているドレスも氷の結晶のような青いドレスだった。

目の前にいるエミリアの肌よりも更に真っ白に透き通るような肌で、男女問わず全ての人を魅了するかのような魔性の笑みを浮かべていた。


「あのお方が伝説の氷の精霊女王シヴァ様・・・、我らマルコシアス家の象徴とされているお方・・・」


圧倒的な存在感にシヴァがひれ伏してしまった。


精霊女王のシヴァはラピスを見てニコリと微笑み恭しく頭を下げた。

「我が主でおられるラピス様、お久しぶりです。此度はどのようなご用で我をお呼びで?」


ラピスもニコッと微笑んだ。

「本当に久しぶりね。400年前にコーキュートス・コフィンで私を封印するお手伝いをしてもらった時以来ね。」


そしてひれ伏しているシヴァへ視線を向けた。


「主のお考えは理解しました。そこにいる者の魔力には覚えがあります。遙か昔に我の力の一部を与えた一族の子孫に間違い無いです。世代を重ねるうちに我の力もかなり弱くなっていますね。いきなり力を与えてはあの者の体が崩壊してしまいますので、しばらくは彼女の中に入ってゆっくりと魔力を鍛える事にします。」


「シヴァ、頼んだわよ。」


「主よ、お任せ下さい。」


精霊女王の体が白く輝き始めた。

全身が光に包まれると体が崩れ、吹雪となりシヴァの周りを回っていた。


「こ、これは・・・」


今度はシヴァの体が青く輝き、光が収まると周りの雪も消えていた。


「分かる・・・、精霊女王様が私の中にいる・・・、力が・・・、信じられない程に湧き上がってくるわ。」


そしてゾルダークの方へ向き直った。


「ゾルダーク・アスタロト!我がマルコシアス家はダンタリオン家同様にアンジェリカ様へ忠誠を捧げている!断じてお前の為に従う意志は無い!そして貴様は私利私欲の為にアンジェリカ様を利用しようとしていた!その罪は断じて許されるものではない!」


「それがどうした!我がアスタロト家よりも格段に劣る弱小公爵家が何をほざく!この私が魔族を掌握するのだ!私に逆らうとどうなるかぁあああああああああああ!」


ゾルダークが両手を広げ高笑いをしている。

しかし、エミリアもシヴァもため息をしてお互いに頷いていた。


「はぁ~、何も分かっていないお坊ちゃんだわ・・・、ここまで馬鹿だったとはね・・・」


「そうね・・・、確かに力はあるかもしれないけど、私とエミリアとの力の差まで分かっていないんてね。家の力を自分の力と勘違いしている典型的な例ね。救いようが無いわ。」


「シヴァ、あなたの気持ちも分からなくはないけど、あの豚は私にトドメを刺させてね。この20年の精算をするからね。」


シヴァがコクリと頷いた。


「分かったわ。トドメは任せるわ。それまでの露払いは私がするね。」


ゆらりとゾルダーク達へと体を向けると、だらりと下げていた掌に黒い霧が集まり始めた。


「シヴァ様が私の中で新しい力を目覚めさせてくれたわ。まさか、私が伝説の魔剣の継承者だったなんてね。」


シヴァの両手に一対の漆黒の剣が逆手で握られている。

両手を交差して構えた。


「ば、馬鹿な・・・、双剣の魔剣はただ1つ・・・」

ゾルダークがシヴァが構えている剣を驚愕の表情で見ていた。

「間違いない、あれは魔剣デスガイア。魔族に伝わる最強の3大魔剣の1つ・・・、貴様が継承者だと!そんな負け犬の血統が・・・、あり得ん・・・」


「シヴァ、やるじゃないの。伝説の魔剣使いなんて、さすが私の親友ね。それじゃ、私も見せてあげるわ。」


フォン!


エミリアが右腕を横に振ると・・・


先程の巨大な黒い剣がいきなり現われ握っていた。


「そ、そんな・・・、嘘だ!あの魔剣は・・・、それこそあり得ない・・・」


シヴァの時よりも更に大きく目を見開いてエミリアの魔剣を凝視している。


「かつての・・・、先代魔王の魔剣であった、あのデスブリンガーだと・・・、そんな伝説の魔剣が再び甦ったのか?何であんな小娘に・・・、伝説の魔剣3本の内2本もこの場に・・・」


「エミリア・・・」

ジト目でシヴァがエミリアを見ていた。

「あんたも大概ね・・・、さっき見た時にまさかと思ったけど、やっぱり魔王様の魔剣だったのね。何であんたに継承されているのか?まぁ、あの強さを見れば納得だわ。アンジェリカ様に仕える資格は完璧ね。」


「嘘だ!嘘だ!そんなの認めない!」

ゾルダークが半狂乱になって叫んでいる。

「私が!いや!俺が魔族の頂点なんだよ!ゴミくずみたいなガキ共が魔剣の継承者だと!そんなのはあり得ないのだぁあああああああああああああああああああああ!」


「「はぁ~」」


エミリアとシヴァが同時にため息をしていた。


「何、あのバカは・・・・、見苦しいにも程があるわ。それに言葉も汚くなってきたから、あれが本性ね。」


「そうね・・・、トドメはエミリアに任せているけど、何かアイツを切るのが魔剣にとって可哀そうに思ってきたわ。切る価値すら無いかも?凍らせて氷像にしておく?」


「う~ん、それも良いかもしれないけど、やっぱりケジメを着けないとね。」



「貴様ら!この俺を無視して何を話をしている。お前ら!あいつらを殺せ!なぶり殺しにしろ!」



ゾルダークが叫ぶと、周りの十数人の男達が身構える。


「そうはいかないわ!」


シヴァが叫ぶと姿が消えた。


ザン!


いつの間にかシヴァが男達の後ろに立っている。


「お前ら!何をしている!小娘が後ろにいるんだぞ!ボケ~とするな!」


だが、男達は動く気配が無い。


「どういう事だ?何が起きている?」


ズルッ!


男達の首がズレて落ち、そのまま血飛沫を上げながらゆっくりと倒れた。


「ひぃいいいいいいいいい!」


ゾルダークが悲鳴を上げるとシヴァがニヤリと笑った。


「これがデスガイアの力よ。魔剣の中でも最速の力を持った剣。継承者には神速の動きを与えてくれるわ。これが私の新しい力よ。」


「ひぃいいい!待ってくれ!分かった!お前を俺の臣下にしてやる!俺と一緒にいれば好き放題だぞ!」


「はぁ~、あんたバカ?」


「何ぃいいい!」


再びため息をしたシヴァにゾルダークが睨みつけた。


「状況を分かっているの?今のあんたの命は私の自由なのよ。家の地位に溺れ全く努力もしてこなかった。あんたのこの体を見れば何をしていたか良く分かるわ!それにさっきから私の一族をバカにした・・・、死をもって償ってね。」


ニヤリとシヴァが微笑むと再び姿が消えた。


「ぐぎゃぁあああああああああああ!」


ゾルダークの両腕が肩から切断され吹き飛んでいた。


「これで終わり!今までののお返しよ!」


ドォオオオオオオオオオオオン!


エミリアが魔剣を上段に構え一気に振り下ろした。


「ぎゃっ!」


短い悲鳴を上げてゾルダークが縦に真っ二つになり、ゆっくりと左右に分かれ地面に転がった。



「あっけない最後だったわね。」


エミリアが呟くとシヴァが微笑んだ。


「小悪党の最後ってこんなものよ。それよりも・・・」


シヴァがエミリアへ右手を差し出した。

その手をエミリアがしっかりと握る。


「エミリア、お帰り。これでまた一緒にいられるわね。」


しかし、エミリアが首を振った。


「シヴァ、ゴメン・・・、私にはもう一緒になる人が決まってしまったの。」

そう言って、メンバーと一緒にいるマックスを見つめた。

「アンジェリカ様にはもちろん忠誠を誓うわ。でもね、私は彼と一緒に人生を歩みたいの。人族と魔族、過去からのしがらみは思った以上なのは分かっているし、これからも苦労すると思う。でもね、アンジェリカ様が勇者様と結ばれたように、私も頑張ってみたいの。私も人族と魔族の懸け橋になれるかな?ってね。」


エミリアの視線にマックスが気付き近づいてきた。


「エミリア、ご苦労様だね。これで君も過去から決別できたね。」


マックスがニコッと微笑んでエミリアを見つめている。


「ダーリン、ありがとう。これでダーリンと一緒にいられるわ。ずっと一緒よ。」


「そうだね、ずっと一緒だよ。種族なんて関係ない。僕は君が好きだからね。」


2人が手を取り合い抱き合った。


「うん、私もダーリンが大好き。私を受け入れてくれてありがとう。」



「熱いねぇ~、ちょっとは人目を気にしろよ!」


ガッツがニヤニヤしながら近づいてくる。慌てて2人が離れたけどしっかりと手を握っていた。


「それにしてもなぁ・・・」


ガッツが視線をゾルダーク達へ移したが、ゾルダーク達の死体は既に崩れ消え始めていた。


「俺達の出番が全くなかったぞ。どんだけ強いんだ?マックス、お前は絶対にエミリアちゃんの尻に敷かれるぞ。がはははぁあああああ!」」


「失礼ね!ダーリンにはそんな事はしないわよ!」


「どうだか?マックスは意外とモテるから、エミリアちゃんは気を付けた方がいいわよ。油断していると誰かに取れてしまうからね。」


アーシャがそう言ってエミリアをからかうと、真っ赤になったエミリアがマックスにヒシっと抱き付いた。

その光景を見て白の沈黙のメンバーが大笑いをしている。



「そうか・・・、エミリアは居場所を見つけたんだね・・・」


シヴァが寂しそうにエミリア達を見ていたが、突然肩を叩かれ慌てて振り向くとラピスが微笑んでいた。


「あなたにも居場所はちゃんとあるはずよ。アンの受け売りじゃないけど、意外とあなたの居場所も近くにあるかもね。まずはアンに会いに行かない?ずっと会いたかったのでしょう?」


「はい!お願いします!」


シヴァが深々と頭を下げた。


「ナルルース」


「は!」


「これから王城へ行くわ。レンヤ達の手伝いをしないといけないからね。後はよろしく頼んだわよ。」


「承知しました。」


ナルルースも深々とラピスへと頭を下げる。


ラピスとシヴァの足元に魔法陣が浮かび上がると2人の姿が消えた。


「ラピス様、ご武運を・・・」


ジッと王城の方を見ながらナルルースが呟いた。


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