1話 プロローグ
新作始めました。
「これで終わりだぁああああああああああああああ!」
ズン!
「ぐあっ!こ、これまでか・・・」
黄金の剣が大柄な男の胸に突き刺さった。
青年が剣を手放し距離を取る。
胸に剣が刺さったままの男が地面に膝を付き苦しそうにしていた。
青年は男から距離をとり右手を男に向けた。
「どんなに防御が高くても、内部からの攻撃には耐えられない筈だ!トドメだ!魔王ぉおおおおお!」
「ライトニング!」
青年の腕から稲妻が走り、男の胸に刺さっている剣に当たった。
「がぁああああああああああああああ!」
男の全身が放電し、放電が収まると体のあちこちから煙が立ち上る。
そのままうつ伏せに倒れた。
男の足が徐々に崩れ灰となっていく。
「やったのか?」
しかし、青年の方も力尽きたのか、ガクッと膝を付き苦しそうな表情をしていた。
「頼む・・・、これで終わってくれ・・・」
青年の後ろには3人の男女がボロボロの状態で倒れている。
しかし、その中の1人がヨロヨロと起き上がり青年の方へ歩いていった。
騎士風の全身鎧を纏った男が青年の横に来て、再びガクッと膝を地面に付けた。
「レンヤ・・・、やったな。あれは魔族が滅ぶ時の現象だ。お前がトドメを刺したんだよ・・・」
青年に向けてニカッと白い歯を見せて微笑んだ。
金髪でかなりのイケメンだが疲労の色が濃い。
「アレックス・・・、みんなは大丈夫なのか?」
「あぁ、何とか全員生きているよ。ラピスのマジックシールドで魔王の魔法をギリギリ防げたし、ソフィアの回復魔法で何とか動けるまでになった。まぁ、おかげで2人の魔力はスッカラカンだけどな。俺も体力は限界だ、もうこれ以上戦うなんて御免だよ。」
アレックスと呼ばれた男がレンヤの肩に手を乗せた。
「レンヤ、お前のおかげで魔王との戦いに終止符を打てた。これで人類は魔王からの脅威に怯える事は無くなった。お前の友人として、フォーゼリア王国の王子としてお礼を言うよ。」
しかしレンヤは首を振った。
「俺はそんな大した事をしていないよ。魔族に滅ぼされた里の敵討ちでここまで来たんだ。【勇者】の称号を持っていても、俺が行ったのは単なる復讐だからな。」
白い修道服を着た女性が次に起き上がりレンヤの横に寄り添った。激しい戦闘でかなり汚れてあちこちと破れている。
「レンヤさん、そんな悲しい事を言わないで下さい。レンヤさんのおかげで人類は希望を持てたのです。そしてその希望が現実になりました。だから胸を張って下さい。あなたの行った事はまさしく勇者でしたからね。」
「ソフィア、ありがとう。これで俺もゆっくり出来る。戦いはもううんざりだよ。どこかの田舎でゆっくり暮らすとしようかな。」
「その時は私も一緒にお供しますよ。」
ソフィアと呼ばれた女性がレンヤに微笑んだ。
「ソフィア、君は【聖女】なんだぞ。そんな事をしたら教会が大騒ぎになってしまう。頼むからゴタゴタは勘弁してくれよ・・・」
「分かりました。じゃぁ、きちんと引き継ぎも終わらせて、私が聖女ではなくなった時には、レンヤさん、私を迎えて下さいね。」
アレックスがレンヤの肩をパンパン叩く。
「レンヤ、お前の負けだよ。しかし、勿体ないよなぁ~、お前程の男なら、俺の城で仕えれば近衛隊の隊長にまで簡単になれるのにな。俺が王となった時は俺の隣にお前がいて欲しいんだが・・・」
「それも悪くないかもな。アレックス、お前なら良い王になれると思うよ。王族の中でお前程聡明な人間はいないと思う。こうして魔王討伐に同行もしてくれたし、何より誠実な人間だけしかなれない【聖騎士】の称号を持っているくらいだからな。それに、お前が悪さをしたら殴ってやる奴も必要だな。」
「あぁ、頼む。俺だって完璧ではないし、時には間違った判断をする事もあるだろう。そんな時にお前がいてくれれば頼もしいよ。遠慮無くぶっとばしても構わないぞ。」
「そうさせてもらうよ。」
「まだだ・・・」
「「「っ!」」」
魔王が顔を上げレンヤ達を睨みつけていた。しかし、下半身と左腕は既に灰と化しており、もう消滅は免れないと分かっているのだが、魔王からの威圧が尋常ではない。
プルプルと震えながら右手を前にかざした。
「聖女・・・、貴様さえいなければ・・・、我の力がここまで抑え込められられずに済んだのに・・・、忌々しい・・・」
「お前も道連れだぁあああああ!」
魔王の掌から真っ黒な光がソフィア目がけて飛んでいく。
「ソフィアァアアアアアアアア!」
ドン!
「えっ!」
ソフィアが地面に倒れていた。慌てて自分の体を確認しているが無事のようだ。
「何ともない・・・、ま、まさか・・・」
ハッとした表情のソフィアが顔を上げると・・・
「ごふっ・・・」
レンヤがソフィアの前で仁王立ちになっていたが、大量の吐血をしていた。
そのままゆっくりと仰向けに倒れた。
慌ててソフィアが駆け寄る。
しかし、レンヤの吐血は口からだけでなく、胸にも大きな穴が開いていて、そこからも大量の血が流れていた。
「レ、レンヤさん・・・、何で私を庇って・・・」
「ふはははぁあああああああ!甘い!甘いな!勇者!お前なら必ず聖女を庇うと思っていた。最後の賭けに勝ったのは我だ!」
「ヒール!」
ソフィアが呪文を唱えると、レンヤの胸の傷に当てている掌から淡い光が放たれる。
「何で!傷が塞がらない!」
勝ち誇った表情で魔王が笑っていた。
「無駄だぁあああ!この傷は我の最後の力を全て込めた呪いだ!どんな回復呪文だろうが回復は不可能!薬も治療も役には立たん!勇者がそのまま死んでいくの黙って見ているがよい!」
しかし、魔王も血を吐きもう顔には生気は無い。
「勇者さえいなければ・・・、勇者の血筋は途絶えた。いつか我の跡を継いだ魔王にとっての脅威はもう無い・・・、ふはははぁあああああ!今回は我の負けだが、次は新しい魔王が人間どもを・・・」
「黙れぇええええええええええええ!グラビティ・プレッシャー!」
ドォオオオオオオオオン!
「ぐひゃ!」
魔王が巨大な何かに押しつぶされるように地面にめり込んだ。そのまま灰となって消えてしまう。
ゆらりと1人の女性が立っている。
若草色ののローブを纏い豪華な装飾が施された杖を支えにして、やっとの状態で立っていた。
「済まない・・・、目が覚めるのが遅くなった。」
しかし、血まみれで横たわっているレンヤの姿を見て愕然とし、ヨロヨロとした足取りでレンヤに近づいた。
「レンヤ・・・、どうして?」
ソフィアがゆっくりと首を振った。
「ラピス、ゴメン・・・、これは魔王の呪い・・・、私の力ではもうどうにもならない・・・」
「・・・」
「私を庇ったせいで・・・」
ポロポロとソフィアの目から涙が溢れてくる。
アレックスも涙を流していた。
「そ、そんなぁぁぁ・・・」
ラピスと呼ばれた女性がレンヤの横でガックリと地面に膝を付けてしまった。
恐る恐るレンヤの顔に手を伸ばした。
「冗談だよね?私をドッキリさせる為だよね?」
しかしレンヤは弱々しく首を横に振った。
「レンヤ・・・、この戦いが無事に終わったら、私を娶って一緒に暮らしてくれる約束だったよね?」
「待て、いつの間にそんな話になっている。初めて聞いたぞ。」
「それはね、私が決めた事なのよ。ハイエルフとして生まれて200年、私の事を対等に見てくれた男はあなたが初めてだったわ。どの男も私の事を欲望の対象としか見なかった。あなたが初めてよ、私を見ても普通に接してくれたのは・・・、だから私はあなたと添い遂げる事を決めたの。」
「ふっ・・・、ラピスみたいな美の女神みたいな女性に求婚されるのは男冥利に尽きるよ。だけど、俺はもうダメだ。それくらいは分かる。だから、その気持ちはアレックスに向けてくれないか?アレックスもラピスの事は普通に見ていたし、お似合いだと思うぞ。」
しかしラピスは首を横に振った。
「それはダメ・・・、私はあなたと一緒にいたかったのよ。私が認めた人はあなただけ。それに、アレックスには婚約者がいるわ。いくら重婚が可能でも、王族にハイエルフの血が入るのは、今後の継承権も含めて良い事にならない。寿命が違いすぎるから、将来は絶対に継承権争いが起きるわ。」
「そうか・・・、勝手に死んでいく俺を許してくれ・・・願わくば、ラピス、俺よりも良い相手を見つけてくれ・・・、ソフィアもな・・・」
ソフィアが誰にも聞こえないくらい小さな声で呟いた。
「私もレンヤさん以外に素敵な男性はいないと思っているよ・・・」
ぐるりとみんなを見渡した。
「みんな、こんな俺に付いてきてくれて本当にありがとう・・・、俺はみんなと出会えて幸せだった。そして・・・、すま・・・、な・・・、い・・・」
レンヤがゆっくりと目を閉じた。
そして2度と開かれる事は無かった。
「「「レンヤァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」」」
3人の慟哭がどこまでも響き渡った。
「まだ手があるわ。」
ラピスがゆっくり立ち上がりソフィアを見つめる。
「魂はまだ離れていないわね?」
ソフィアが頷いた。
「えぇ、まだ天に召されていない。もうしばらくすれば女神様の元に旅立つわ。」
しかしすぐに驚愕の表情に変わった。
「はっ!ラピス、まさか・・・」
ラピスがゆっくり頷いた。
「えぇ、禁呪を使うわ。これを使えば戒めで100年は魔法が使えなくなるけど、レンヤの存在が無くなる事に比べれば些細な事だわ。レンヤの為なら私は全てを捧げられるの。」
全身から膨大な魔力が溢れると、レンヤの全身を覆う魔法陣が浮かび上がった。
「未来で再び出会う奇蹟を信じて・・・」
レンヤの体が浮かび上がり徐々に姿が薄くなっていく。しばらくすると完全に姿が無くなってしまった。
ふらっとラピスがよろけたが、ソフィアが体を支えた。
ラピスは汗びっしょりだったが、ニコッとソフィアに微笑んだ。
「成功よ。いつの未来になるか分からないけど、レンヤは生まれ変わるわ。それにレンヤの魂に目印を付けたのよ。レンヤが目覚めれば私が察知出来るようね、そして迎えに行くわ。どれだけ離れていても必ず・・・」
しかしソフィアが苦笑いをしている。
「ラピス、それってストーカーじゃない?いきなり告白したかと思えば付きまとう宣言までするなんて、あなたらしくないわね。」
「これが本当の私よ。レンヤに嫌われたくなかったから今まで大人しくしていたのよ。でも、もう我慢するのを止めたわ。こうして死に別れなんて2度と経験したくないの。次は私が彼を全力で守るわ。夫婦になって24時間付きっきりで・・・」
「そう・・・」
ソフィアの目が鋭くなった。
「ラピス・・・、あなたの思い通りにはさせないわ。私も次は必ずレンヤさんを守る。レンヤさんのおかげで私は魔王に殺されなかった。代わりにレンヤさんが亡くなってしまった・・・、私のこの命はもうレンヤさんのものなのよ。だから、私がレンヤさんと添い遂げるわ!」
「ソフィア、何を言っているの?人族のあなたがいつ生まれ変わるか分からないレンヤを待っている事が出来ると思っているの?数年後かも数百年後かも分からないのよ。ハイエルフである私みたいに数千年も生きるのと違って、何を考えているのかしら。」
しかし、ソフィアはニヤッと笑う。
「それは大丈夫よ。私は聖女だから女神様にお願いをするのよ。レンヤさんが目覚めるまで私は眠りに入るわ。歳も取らずね。その秘術は女神様が認めた真の聖女だけが1度だけ使えるスキルよ。すぐに真の聖女になってレンヤさんが目覚めるのを待っているわ。だから、あなたにレンヤさんを独占させない・・・」
「小娘が生意気ね・・・」
2人の視線が火花を上げている。
(おいおい、俺は無視かよ・・・)
空気になっているアレックスであった。
「まぁまぁ、2人とも落ち着け。レンヤがこうなってしまって混乱するのは分かるが、いつかは復活するのだろう?これはこの3人だけの秘密だ。下手に言っても誰も信じないだろうしな。」
そして天井を見上げた。
「俺は多分、お前が再び生を受ける時には生きていないだろう。だから、お前が成し遂げた事をずっと伝えていくよ。それにな、お前が目覚めた時にビックリするくらいにこの国を発展させるからな。」
「さよならは言わないよ。親友・・・」