魔力の無い男と天才少女
正門を潜り、学園内に入ると、
内装は豪奢な装飾や騎士人形により飾り付けられている
いかにも貴族の好みそうな装飾だ
装飾を見ながら、廊下を道なりに進んでいると、
案内係である講師に声を掛けられる…
「貴方達が連邦国からの留学生、一ノ瀬 恭也君と黒波 麗花さんですね、お待ちしていました…
クラス分けの為にも魔力測定をする必要がありますので、
こちらに着いてきてください」
「魔力測定?」
「帝国は魔力量の有無でクラス分けしてるって話は聞いた事あったが、マジだったんだな」
「入学前にお二人の学院から送られてきた資料にも、既に魔力量などの事は載っていましたが、こちらの方でも改めて確認させて頂きたいので……
と言っても、連邦国でも名高いセインアーク学院の首席生徒である黒波 麗花さんには必要の無い事だとは思いますが」
「……えぇ?」
「なんだよ、その目は」
コイツ、マジで優秀だったの…?
「ただのナルシストの最低女だと思ってたのに」
「残念だったな、実は超優秀で超自意識過剰な超美少女だったんだぜ」
超、って三回も言った、コイツが優秀とか嘘だろ
「それに比べ、一ノ瀬 恭也君の方は……ふふっ、失礼、笑ってはいけませんね、誰しも才能という物はありますから」
麗花に向けた期待の視線とは真逆の蔑んだ視線で俺の方を見る……
「そうっすねぇ、俺みたいな超超優秀な人材と比べたら、麗花なんて有象無象っすから、先生、笑っちゃ駄目っすよ」
「超超ってなんだ、超馬鹿だろ」
そう言って、呆れたような表情を向けてくる麗花…
先程の講師の発言に対して、何かを気にする訳でもなく、
変わらずに接してくれる辺り、根は良い奴なのかもしれない
しばらく歩いていると、小さな扉の前に着き、
講師がその扉を開く…
中には数十名の生徒と、白い大きな結晶が幾つも浮いていた…
「着きましたよ、中に測定結晶があるのでそこで測定して下さい……魔力結晶について、なにか質問はありますか?」
「あー、私が恭也にも教えとくから、先生は戻っても大丈夫だぞ」
「それを聞いて安心しました、優秀な麗花さんになら安心して任せられます」
そう言って、講師は去っていく……
「だいぶ昔にやった事はあるけど、もう覚えてねえんだよなぁ…魔力測定って、どうすりゃいいんだ?」
「ん、あの結晶に触れたら色が変わるから、それで魔力の質を大まかに判断するんだよ
因みに白は結晶が魔力に反応してない状態、青が並程度、赤が貴族、黄が皇族、黒が測定限界を超えた場合になる。
魔力量は結晶が輝けば輝くほど多い」
「ふーん……なら、白、青、赤、黄、黒の順番で魔力の質が分かる、そして輝き方で量が分かるわけか」
周りを見渡すと、
ほとんどの生徒が結晶を青く光らせている…
白い服を着た貴族生徒も青はおらず、赤き光を放っている
「大抵は青か赤、って感じか」
「そうだな……ほら、向こうでソフィーが測定しようとしてるから、見てみろよ」
麗花が指した方向を見ると、
先程、出会った少女、ソフィア・アインフィールドが魔力結晶の前に立っていた……
「ソフィアは貴族だから、赤になんのか?」
「さあな、才能があれば黄に光る事もあるし、無ければ青って事もある」
俺達が話している合間に、
ソフィアは魔力結晶に触れる…
すると、
「おおぉ……!」
「すげぇ、めちゃくちゃ光ってるぞ…」
周りの生徒達がざわめき始め、結晶の方を見ると、
結晶は赤く染まり、
部屋全体を照らすほどの赤い光が迸る……
その様子を見て、麗花は顎に手をやり、
「大したもんだな、量に関しては並の貴族の二倍はあるぞ」
「へぇ、じゃあ、俺達の学年じゃ、ソフィアが一番っぽいな」
俺のその発言を聞き、
麗花はフッ、と笑みを浮かべ…
「いいや、私が一番だ…ちょっと見てろ」
麗花は目の前にある結晶に手を触れる…
その瞬間…
部屋が赤から黒に塗り潰された
「な、何も見えないぞ…!?」
「て、停電か…!?」
視界は黒に染まり、
前方すら把握する事が出来ない…
「っと、魔力を送りすぎたな…光らせるのは少しにしておくか」
そんな麗花の声が聞こえると同時に、
周囲が見えるようになってくる…
まさかとは思っていたが、今のは麗花が結晶に触れた事で起きたようだ…
徐々に視界が元に戻り、
黒い光を放つ結晶とそれに触れる麗花の姿が見えた…
「……う、嘘だろ…?」
「黒い光…?それって、測定不能って事じゃ…」
「俺、初めて見た……」
周囲はその光景に騒ぐのではなく、
驚きで呆然とするしかないようだ……
「…凄い……」
その光景を見ていたソフィアも感嘆の声をもらす…
「どうだ恭也、驚いたか?」
「ビックリし過ぎて、空いた口が塞がらねぇよ」
黒い魔力結晶…
昔、"あの人"が触れた際に黒く染まった結晶は見た事はあるが、二度も目にする事になるとは思ってもみなかった…
「じゃ、後はお前さんだな…」
「お前の後って、プレッシャー重すぎるんですけど?」
「安心しろよ、例え、白でも笑わないでおいてやる…だから、頑張ってこい」
「絶対、笑いそうな気がすんだけど……魔力測定に頑張る必要ってあんのか?」
「ま、結果は変わんねぇけどな」
なら、頑張る必要ないだろ…
と思うが、口には出さないでおく
そして、入れ替わりで場所を交代し…
黒く染まった結晶の前に立つ…
「…お、おい……アイツ、さっきからずっとあの女と話してたけど…まさか…」
「あ、ああ……アイツもやべぇんじゃねぇの…?」
ほら、見た事か…
明らかにプレッシャーがやばい…
これで青とかだったら、
明日から学園に来るのが嫌になるわ
そう思いつつ、
黒い結晶に手を触れると……
「ほら、やっぱりこうなる」
黒い結晶は元の色を取り戻し、
白く、光を感じさせない無機質な結晶へと戻った…
「…え?」
「結晶が反応しない…?」
「って事はアイツ……魔力が無い?」
誰かの放ったその言葉を聞き……
「「「あはははははははは!!」」」
先程まで静まり返っていた部屋が、
笑いの雨に包まれる…
「あはは!!は、腹痛てぇ!!魔力が無いってマジかよ!!?」
「そんなヤツ、本当に居るんだな!?都市伝説かと思ってたぜ」
「俺達、貴族に馬鹿にされるだけかと思ってたけど、案外楽しくなりそうだな、あははは!!」
……チッ、どいつもこいつも好き勝手言いやがって
まあ、慣れてるから気にしないでおくか…
そう思い、麗花の方へと歩いていくと…
「っ…!」
明らかに不機嫌な麗花がそこには居た
「……そのうざってぇ笑い声を止めろ」
底冷えするほどに冷たい声で、
麗花が静かにそう言った…
「私のダチを笑うな、次、笑った奴は魔法で焼き殺すからな」
ギリッ、と生徒達を睨み付ける…
すると、先程まで雰囲気は無くなり、全員が俺達から目を背け始める…
「お前、てっきり大笑いするもんだと思ってたんだけどな」
「私からすれば、お前も他の奴らも魔力が雑魚の有象無象に変わりはねえからな」
なるほど…
圧倒的強者故の余裕というものか…
「さて、この不快な連中と同じ空気を吸いたくないんでな、さっさと部屋から出ようぜ」
そして、再び生徒達を蔑んだ目で睨む…
「追い討ちかけていくなぁ、お前」
俺は麗花と共に部屋を後にする……
だが、二人は気付いていない
「………」
そんな二人の後ろ姿を見つめる銀髪碧眼の少女が居た事に……