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プロローグ
着流しがよく似合う人。
顔は見えない。
ただ上を見上げている。
俺はその人から目が離せない。
その人が何をみているのか
その人が何をおもっているのか
俺にはわからない。
ただただその人から目が離せない。
家族の中でもひとりぼっち。
いつも難しい顔をして、家族をみる、俺をみる、世界をみる。
笑ったところなんて見たことがない。
喜ぶ顔も怒る顔も哀しむ顔も楽しむ顔も
この人の難しい顔以外を知らない。
俺はその人を見上げる。
“じいちゃん、あなたは幸せだった?”
風が吹く。ピンクが舞う。
哀しそうに桜を見上げるじいちゃんの顔が目にうつった。
その答えを俺は知らない。