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あの日、守りたかったもの。  作者: のん
第1章 宝来 万海(ホウライマミ)
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過去2



そして、まだ、みちのことを、みっちーって呼んでた頃。

「美智男…いる?」


移動教室からの戻りで、靖がサッカーの強化合宿で、居なくて、美智男も購買に寄らなきゃと言って1人で先に教室に戻ってた時だった。


クラスを訪ねてきたのは、昼間(ヒルマ) 千秋(チアキ)だった。

教室にいた数名は、万海に目線を向ける。



「まだ、戻ってきてないよ。

購買よるって言ってたから、もう少ししたら来るんじゃないかな?」


「そか、ありがとう」



ただ、それだけだけだが。

その時千秋の目は万海を睨んでた。周りは気づかなかったようだが。

その目を万海は忘れなかった。




△△△△△

そして、日は巡り、

7月のソフトテニス個人インターハイの決定する試合の日。

「つぎ……」

「ほい、差し入れ。まーちゃんの方は勝ち進んでんの?」


この頃はもう、美智男は万海のことをまーちゃんと呼んでいた。



「組んでくれる先輩やりやすいからね。

次で個人ベスト16かな。

負けたら、インハイの出場かけて…ってやつになるから勝ちたい…」


「お、すごいじゃん、俺も1年ペアだけど、次負けそうなんだよね…」

「昼間くんだっけ?ペア」


「そー、あいつの中学よく優勝してた所だったからめっちゃ組みやすいんだよね~」



「美智男」




次の試合時間やコートを確認するボードの前にで、千秋はまたも睨むように万海を見ながら美智男にこえをかける。



「だから、".みっちー"って呼んでよ!千秋!」


「…いやだ。とりあえず、次の相手10コートで試合してるから見てろって岡本先生からいわれたから。いくぞ」


「お、まじか!

じゃ、またね、まーちゃん!」



ひらひらと手を振りながら、美智男が、千秋に対して背を向けると千秋の視線は万海を睨んでいた。




──嫉妬?かな…



試合は、結局万海も、千秋も、インターハイにあと少しという所で負けた。



「じゃ、万海ゴミ担よろしくー」

「はい、お疲れ様でした。」

駐車場で、ミーティング後解散となった。



「お疲れ様でした、宝来さん。」



「山下先生…?」

隣のサッカー場からはかなり距離があるが、担任の山下が、駐車場で自家用車だろうか?

車を回して待っていた。



「すみません、前田くんが倒れてしまって、近くに宝来さんも住まわれてるとお聞きしたので、一緒に乗って帰りませんか?」

なんで、また。


「宝来、悪い、頼む。」

車内には、具合の悪そうな靖が乗っていた。

"宝来"なんて、日頃呼ばないのに。



「わかりました。──前田くん、大丈夫?」

先輩や、同期の視線が痛い。

それもそうだろう。

万海の入ってる女子ソフトテニスは、

恋愛禁止、炭酸禁止など、強豪校としてのいくつかのルールがあった。


そして、もともと特待生として万海は呼ばれていたが、勉強と両立するため、スポーツ優先する女子のみの学科ではなく、共学の学科へと進んだのだから。



車に乗り込むと、どこかケガをしたのかエアーサロンパスの匂いがした。

車内はいたって静かに、靖の家へと進んだ。


「家、ここ?」

「そう、宝来のマンションの裏になるかな」

「知らなかった」

「知ってたら、こえーよ」


肩を貸し、車から降りながら、

見慣れた笑みが靖から見えて、万海はすこし安堵する。




家の前まで行くと、後ろから声がした。

「にいちゃん?え?まみちゃん?」


それは、万海もよく知る人物だ。

よく万海の弟万里と遊んでくれる、(ショウ)だった。

「あら、弟さんですか?」

山下先生が、竦の頭を撫でようとした瞬間


「先生!!!」


思わず、びくりと、万海の体が反応する。


「送ってくれて、ありがとうございました。竦、おいで。」

「うん!…げっ!にいちゃん足怪我してんじゃん!だっさー!」

万海は、ほのぼのとする前田兄弟の会話を耳にしながら、ゆっくりと山下の方を見ると、ゾッとするような、そんな笑みを浮かべてこちらを見ていた。

こちらと言うよりは、靖を。






それから間もなくして、三者面談と称して、学校に行けないと言う母のせいで、

山下先生は、宝来家に来ていた。


「宝来さんは、…万海さんは、とても勤勉でして、インターハイも惜しかったですしね。」

「あらー、そうなんですか?

先生今日はすみませんね、私が体調崩してるばかりに…」

嘘をつけ。いつもはしないメイクをたっぷりして。

家の掃除も、キツいカサブランカの匂いも、全部紛い物のようなものなのに。

父がいたらなんというのだろうか。



「では、面談はこれで。

今日はありがとうございました、宝来さん、また学校で。」

「ありがとうございました」

「先生ぇ、またいつでも来てくださいねぇ、今度はお好きな和菓子を買っておきますので」


にこやかに、山下は宝来家をあとにした。



「あんた、下まで、先生送ってきなさいよ、」

「はい」

万海は、母親の(メグミ)に言われるまま、サンダルを引っ掛けエレベーター前の山下を追う。


「あれ?僕忘れ物でもしたかな?」

「いえ、母が下まで見送りなさいって。」



山下の、目線が宝来家の方を見る。

軽く会釈をしていた。

振り返ると、恵がこちらを見て聖母のような微笑みでこちらを見ていた。



とりつくろうのだけは、上手いんだから。



「あ、先生どーぞ。 」

「では、宝来さんに甘えましょうかね」

2人で、エントランスに行くと、竦と万里が居た。



「お、ねぇちゃん!」

「まみちゃん!」

身長に見合ってきた学ランの2人が小学生の中に混じっていた。



「もう、家入っていい頃?」

「いいと思うよ、竦くん、待たせたね」

「大丈夫ですよ!

今日もおじゃましますね!」

元気のいい事だ。



「弟さん…ですよね?宝来さんの。そして、前田さんの」

「あ、そうです。

よくくるんですよ。前田くんの弟くん」

よくというか、ほぼ毎日だが。



そうですか。と、山下は満足そうに零すと、こちらで大丈夫ですよ。と、見送りを断られた。

車には乗らず、歩いて帰ってた。




そして、いつしか、ひとつの噂が飛び交っていた。




【前田が男とホテルに行ってた】




「せーちゃん、きにすんなって、嘘も75日ってやつだよー」


「靖、大丈夫だよー」


「や、2人とも棒読み過ぎない?!

しかも、俺めっちゃ女の子しか興味無いんですけどね!!」

昼休みのそんな会話が飛び交ってるなか、噂は何故か広まり、靖は、生徒指導室に呼ばれた。「ただの確認だった。」そう報告されたが、心無いことを言われたのだろう。

目に見えて、靖は気持ちが沈んでいた。



「万海ちゃん、靖の噂…信じてる?」

可愛らしいほっぺを膨らませ、あまり怒ってるようには見えない、本人的にはおこってるんだろうが。

マリアとは、万海とよく体育のペアを組む相手だ。本名西郷 マリア(サイゴウ マリア)。どんな女性かと言うと、苗字とは程遠いほど可憐な女の子といえる。



「信じてないね」

「だよねー!ほんとタチ悪い!靖のやつ、早く元気になればいいんだけど…」




でも、どこから噂が出てきてるのだろうか?



わたしはそれが、すごく引っかかっていた。




△△△△△


季節はすぎ、まだ、靖の噂は消えず。

むしろ消えるどころかコースの違う女子のクラスにも広まっていた。

また、学年も超えて。


そんな中、文化祭の準備が始まる。

コース別、学年別、そして、部活別で出し物があり、1年共学コース3クラスで演劇があてがわれた。


「マリア、」

「ぅー、万海ちゃん、私なんで名前同じだからって理由でマリアなのさー、」



そう、この聖心高校は、キリスト系の学校の為、演目はキリストの生誕。

「私、放送部員だし、ナレーションしたかったのに…」


「マリアが裏方って似合わないと思ったんじゃない?」

主に男子が。

「それなら、万海だって、いやでしょ!その役!天使だよ?天使!」

「別に。セリフないならなんでもいいよ?」

「くぅ…、え、千秋くんは?その役嫌じゃなかったの?」


「べつに」



本当にこちらに1ミリも興味が無いかのように、いやないんだろうけど。

即答する千秋。先程からマリアが、何度も話を降っても、答えは同じだった。



「お、3人で練習?」

「美智男、遅い」



へらへらと、美智男がやってきた。

しっかりと、衣装を着こなして。


「"3人で練習?"じゃないよ!

梅村くんいれて4人で練習しようって話したじゃん!」

きゃんきゃんと、子犬が吠えるように話すマリアに、美智男が申し訳なさそうにする。



「ごめん、ごめん、ちゃんと練習するね。

ってか、衣装凄くない?これ」

美智男は、キリスト役なので、白い布を巻き付けていた。腰で緑色の紐でそれをきゅっと閉めている。そして、頭には茨の冠。

似合うも何も。



「美智男、どっかいくなら俺も連れてけよ」


「千秋は、子供かよ!

いーじゃん、少し浮かれたってー」


「浮かれる?それ着て?

おれ、そうゆうスカートみたいなのは嫌いだから着たくないけどな。」

その言葉に美智男は残念そうな顔をしてた。



「おまえ、天使だからこれより短いぜ?」



その美智男の言葉に、千秋がものすごい顔で衣装担当を睨んでたのは無理もない。





練習を終え、帰り支度をしてた。


文化祭準備のときは、部活に遅れてしまうのでまわりの視線が痛いので急がねばならない。

"劇の役に選ばれた?なんで当日の役回りにならなかったのよ"

"団体メンバーの自覚あるの?!"



ありますとも。





「まーちゃん?」



タイミングが悪かった。

振り向いた瞬間、万海の目から溜め込んでたなにかが落ちた。



「何してんだよ…」

美智男が、万海の頬に触れようとした。



「なにもない。」

万海は、されるがままになってた。

それも、タイミングが悪かった。







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