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あの日、守りたかったもの。  作者: のん
第1章 宝来 万海(ホウライマミ)
3/5

過去



自動ドアをぬける。

少し前を歩く美青年に、万海は話しかけずにいられなかった。

「みち、」

「家に着いたら話そう。」


しかし、万海は待たずに。

車の扉を閉めた瞬間、口を開く。

「殺された人、私たち知ってる人だよ。

千秋が殺そうと思った理由も、私は分かるかもしれない。」


西に話さなかった。

美智男は、なにも。

そしてなにより、万海に話させないようにしてた。


「殺されて当然のやつだったろ?」

「みちは、何を知ってるの?

私と違って、千秋のそばにいたでしょ?

私の知らない、みちの理由もあるの?」

美智男は、聞こえなかったかのように、車のエンジンをつけ、自宅へと車を走らせた。


△△△△△



『殺された、山下(ヤマシタ) (ヨシ)さんですが、おふたりの先生でしたよね?

なにか、昼間が山下さんに恨みを抱いてた理由などは』

『知りません』


揺れる紫煙を眺めながら、先程の会話を思い出す。

梅村という男の方が、昼間よりも、面倒な相手だと思った。




△△△△△


美智男と万海が、家に着くと、万里が可愛らしいフリルのエプロンをつけながら、ケーキや、万海の好きなご飯が作られていた。


「おっかえりー!」

「ばんちゃん、今日は豪華ね…」



万里は、誇ったように笑みを浮かべる


「俺だって、成長してるんだぜ!」

「万里、家には帰ってるの?」

「帰るわけないじゃん、(メグミ)さんビックリしてたもん、俺の頭見て」



それはそうだろう。



「"お母さん"でしょう?

最悪おふくろとでも、呼びなさいよ…」

呆れたような、万海の声など耳にもせずに、万里は嬉しそうに美智男と万海に席を進める。



「いーからすわって!

今日から、3人でお泊まり会でしょ!」

「その前に、色々聞きたいんだけど。」

それを、まみが許すはずもなく。


「事件のこと。

ちゃんと教えて?万里は、わからないけど、少なくともみちの方が知ってるでしょ?」

「……万里、ちょっと外出て貰えるか?」

「いやだね、俺だって知りたいもん。

ちーちゃん、なんであんなことしたのか。」

困ったように、美智男がため息をこぼす。

そして、万海をみて、再びため息をついた。



「俺の知ってる分だけだけどな。

俺も、なんとなくの部分だけしか話せないけど…」



そして、美智男は口を開いた。



△△△△△




それは、今年の夏休みだった。

世話になった、高校の部活の先生に会いに来てた。次の対戦相手だろう、コートを定位置の木の影から見つめるメガネの男性に、美智男は気づいた。

「おー、岡もっちゃん」


顧問の岡本(オカモト)先生だ。

この夏、2人で高校ソフトテニスのインハイ行きを決める試合を見に来てた。



「なんだ、お前らか。

大学生らしく髪なんぞ染めよって。

しかも、なんだその色は…」


「いやー、俺は似合うっしょ?赤」

「んー、みちは、そうでも無いけど、

俺はそんなに似合わないことないと思うけどな。この紫。」


髪の毛も派手だが、千秋と、美智男は、そこそこ背もあり、特に美智男はそこらでは、イケメンのソフトテニスの選手としても有名だったので、並ぶと迫力がある。

周りの目は、チラチラと2人に向けられていた。


「今年は、インハイ行けそうっすか?」

「個人しか厳しいんじゃないかな?

去年の2年の北陽の選手いいかんじだったし。団体は…ほぼ無理だと思うな」

「んー、そうだな、千秋のゆう通りだな…」



「岡本先生」




そんなたわいも無いそんな話に、千秋たちの後ろから聞きなれた声がした。



「おー。山下先生、女子はどうですか?」



瞬間、千秋の目付きが変わった。

「順調ですよ…って、あれ?昼間くんに、梅村くんじゃないですか!応援に来てくれたんだね?」

天気のいい、このコートに似合わない、真っ白な肌の先生が、手を振りながらこちらに近ずいてきてた。



「みっちー、行こ。」

「お?え?ちーちゃん??

ちょ、先生たちまたね!試合みてるから!」



△△△△△




「え、夏に…あったの?山下先生と。」


「そうだね、あの人なんか知らないけど女子のテニス顧問になってたわ。」


ざわり。

そんな感じがした。

万海がなぜ、山下先生を千秋が殺したかがわかってしまったような気がした。

いや、そうかもしれないと思いつつ、これだ。という確信を持ちたくなかったのかもしれないが。



「山下先生って、ねぇちゃんの1年の時の担任だよね?うちにたまに来てた…」

「!?

は?え?まーちゃん、山下先生が家に来てた!?え?!そうなの!?」

美智男の声が男と、おかまの声が混じってる。さすがに驚いてた。

話してないところは万海にもあったから。



「そうだね」



「そうだね…じゃないわよ!?

ってことは、まーちゃんは山下先生と何かあったってこと!?」

「みち…には、教えてなかったから…」

気まずそうに、万海は顔を歪めた。




本当に。なんで、こうなってしまったのか。

万海は、思い出すように高校時代の事を、ポツリ、ポツリと話し始めた。




△△△△△





──春。


高校の入学式も終わり、

ここ、聖心高校(セイシンコウコウ)の1年2組に万海は、座ってた。


ベランダ側の席から外を見れば、青々とした桜の葉っぱがみえる。

道路には散ってしまった桜が薄ピンク色と、茶色くなりながら所々に集まっていた。



ふと1組の方のベランダを見ると、1人の生徒がいた。

ちなみに、ベランダは出ては行けないことになっていた。

注意しようか考えが、まぁ、知らぬ相手に要らぬおせっかいであろう。

見つめすぎたか、男と目が合った。


比較的、整った顔をしていたが、全体的に髪の毛が長く、その男の目元を隠してた。



──キザなやつ。



男は、万海と目が合うと、人差し指を口元に当てた。

内緒にしろということであろう。

もともと、そんな告げ口もする気は無いので、万海は、視線を外から中へと向けるだけだった。

教室では、新任の先生ということで、自己紹介が行われていた。



山下(ヤマシタ) (ヨシ)といいます、

去年新任で副担任だったのですが…、今年からクラス持つことになったので、初めてのことがたくさんでワクワクしてます。

ちなみに、サッカーの顧問になりましたので、部員になる方はよろしくお願いします。

みなさん、1年間どうぞ仲良くしてください」

ひょろっとした。でも、優しそうな先生だという印象だった。



チャイムもなり、各自自己紹介が終わる。

同じ中学から来た人もいるらしく、ちらほらと、会話が弾んでた。

万海は、中学の知り合いはいたが、特に話すこともないので、静かに授業の準備をして教科書を眺めてた。



「真面目かよ」

そう話しかけてきたのは、隣の席の男だった。

「俺のこと覚えた?」

「ごめん、覚えるの苦手なんだ」

短髪の、明るくていかにも野球少年のような彼。たしか、部活はサッカーに入るとか言ってたで、予想が外れてたから覚えてた。




「俺は、前田(マエダ) (セイ)

宝来さんとは、同じ中学だよ。まぁ、1回も同じクラスなったことないけど」

それは、申し訳ない。




「覚えられないよなー、俺らの学校6クラスあったじゃん?

俺も、別に全員覚えてるわけじゃないんだぜ?ま、同中同士仲良くしようぜ」

「えー、俺とも仲良くしてよ」

斜め後ろ、前田の後ろから、声をかけたのは、梅村 美智男だった。




「あなたは覚えてるよ、"みっちー"?だよね」

「えー…なんで、みっちーのことは覚えてんだよ」

だって。



東郷中学校(トウゴウチュウガッコウ)から来ました!

梅村 美智男です、ミッキーみたいなイケメンということで、皆、みっちーって呼んでねぇ♪』


ミッキーみたいなイケメンって…何。


とおもって、思わず覚えてしまった。


思えば、クラスの中で、よく話したのはこのふたりが多かった。

昼ごはんや、移動教室も、この時期このふたりが多かった。





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