Sequence:02 Encounter and beginning (出逢いそして始まり)
……。
一面真っ暗な世界。
そんな世界の真ん中で、私は立ち竦んでいた。
後悔と絶望。2つ感情が私の心は支配している。
私は戦う為だけに生まれた道具。
『役に立たないお前は、偵察でもしておけ。』
『戦う事が出来ない道具には用は無い。』
司令官の怒号と罵声が脳裏を過る。
結局、私は何の為に生まれてきたんだろう。
誰の役にも立てず、何も成し遂げる事が出来なかった。
段々、意識が拡散していく。
私はこのまま死ぬのだ。
それも良いのかもしれない。
役に立たない道具はいらないのだから。
私は静かに目を閉じる。
『……桜……月。桜月』
どこからか私の名前を呼ぶ女性の声が聞こえる気がする。
聞き覚えのある声だが、思い出せない。
私はゆっくり目を開けると、私の前に綺麗な女性が立っていた。その女性を私は知っている気がした。でも、記憶に靄がかかり思い出せない。
女性は、そんな私の両手を優しく握る。
『桜月。貴方はまだここに来てはいけないわ。やるべき事、果たすべき役割が残っているでしょう。』
暖かい手。急に何とも言えない懐かしさに襲われる。
「……落ちこぼれの私に出来る事なんて何もありません。」
……やるべき事、果たすべき役割。
落ちこぼれの私に一体何が出来るのだろう。
私は情けなくなり、俯く。
そんな私を女性は包み込むように優しく抱きしめる。
『桜月。ごめんなさい。貴方には重い使命を背負わせてしまったのね。でも、貴方だからこそ私は選んだ。だから大丈夫。貴方ならきっと出来るわ。』
暖かく、どこか懐かしい。
『……彼の事を頼むわね。さぁ、もう行きなさい。』
視界が急に眩しくなる。
目を覚ます。
視界がぼやけていたが、やがて木々の間から綺麗な月がはっきりと見えるようになる。
深く息を吸い、起き上がる。
身体中に走る激痛がまだ生きている事を実感させる。
「目が覚めたんだね。良かったよ、とりあえず無事で。」
声がした方を向くと、軍服を着た男性が木の根元に腰掛けていた。
年のころは30代半ばだろうか? 軍人とは思えない整った顔立ち。優しげな表情が印象的で、黒い眼鏡と
軍服が良く似合っていた。
襟元の階級章に視線を移す。
茶色の帯に銀の星3つ。大尉!!
私は慌てて敬礼をする。
右手に激痛が走るが構ってはいられない。
「私は中部戦域第四旅団『華閃』所属の『桜型IRISES』二等兵、桜月と申します。」
「ああ、怪我しているのだから、無理しなくて良いよ。僕は本日付けで中部戦域第四旅団『華閃』所属された工作技術科の孤姿だ。宜しくね。」
大尉は、優しい笑顔を浮かべている。
その笑顔が何故か先ほどの女性の笑顔と被る。
「桜月、僕は着任の挨拶に向かう途中で『華閃』の事を知ったのだけれど、他に生き残っていそうな人に心当たりはあるかい?」
「私1人で偵察任務についており、帰還した時には既に常滑駐屯地は火に包まれておりましたので、心当たりはありません。申し訳ありません。」
「謝る必要ないよ。教えてくれてありがとう。『華閃』の事は本当に残念だったけれど、君が生き残っていてくれて本当に良かったよ。応急処置とナノマシンの補充はしておいたけれど、両足の破損が激しくてここでは治せない。一旦、一番近い知多駐屯地に向おう。もしかしたら『華閃』の生き残りのメンバーも向かっているかもしれない。」
大尉は立ち上がると、私に近づき背を向けながら腰を下ろす。
「その足ではまともに歩けないだろうから、背負っていくよ。」
私は想定外の大尉の行動に驚いてしまう。
「どうしたんだい?……やっぱり知らない男に背負われるのは嫌かい?」
大尉は、振り向きながら笑顔を見せる。
私は大きく首を横に振る。
「いえ、いえ、滅相もございません。私如きが、上官であり、人間様である孤姿大尉のお手を煩わせるなど、とても出来ません。私なら大丈夫です。這ってでも戻りますので、大尉は先に避難して下さい。」
大尉は私の方に身体を向け、座り込む。
「良いかい? 君は誰の為に戦い、こんなにも傷ついたんだい?」
「え。何の事ですか?」
「君は、僕達人間を守る為に戦い、傷ついたのだろう? だったら、傷ついた君を守るのは僕達人間の役目でもあるんだよ。だから遠慮しなくて良い。」
「そんな、私達は所詮道具です。道具が使命を果たすのは当たり前で、壊れれば捨てて頂ければ良いのです。」
大尉は深く溜息を吐く。
「桜月。君が今までどういう環境にいたのかは分からない。でも、君は、君達は、道具じゃない。僕達の大事な仲間だ。少なくとも僕はそう思う。だから、一緒に行こう。」
「大尉。御言葉は大変嬉しいのですが、私は落ちこぼれです。戦闘ではミスばかりで、偵察任務ばかりに就いていました。だから、助けて頂いてもお役に立てるとは思えません。」
「桜月。偵察だって大事な任務だよ。それに、僕達も君達も皆個性がある。その個性を最大限に活かせば、誰だって活躍できる。君が活躍できていないと思うのであれば、それは君の個性を活かしきれていない僕達上官の責任だ。」
大尉は優しく私の頭を撫でる。
「さあ、早くここから移動しよう。暗い内に動いた方が無事に移動できる可能性が高い。因みにこれは上官命令だから、反論は許さないよ。」
大尉は優しい笑顔を浮かべる。
私はその笑顔に反論する事が出来ず、大尉の背中に身体を預ける。
「あの、大尉?重くありませんか?」
「大丈夫、大丈夫。これでもそこそこ身体は鍛えているんだよ。それに君の兵装はだいぶ壊れていたから、外させてもらったからね。」
「……大尉。助けて頂いてありがとうございます。」
「構わないさ。君達は僕達人間を守るために身を呈して戦ってくれている。お互い様だよ。それに君達のメンテナンスをするのも工作技術科の仕事の1つだからね。」
大尉の背中が大きく感じる。
なんだか、とても安心する。
私は、私の存在を否定しなかった大尉の優しさに涙腺が緩むのを我慢していた。
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次回の更新は3月17日の予定です。
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