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Sequence:01 The Only Survivor (唯一の生存者)

 空を翔ける。


 偵察任務を終えて帰還する途中。

 今回の偵察はいつもより成果を上げられたはずだ。

 

 美浜地区はだいぶ戦力が手薄になっていた。

 この調子なら攻略できるかもしれない。


 いつも足を引っ張っている私には偵察くらいしかできない。それでもいつも以上に成果を上げられたことに気分は高揚していた。


 落ちこぼれの私でも役に立てることが嬉しかった。




 しばらく空を飛び続けると、焦げた匂いがする。


 嫌な予感がして、速度を上げた私は自分が向かっている方角の空が赤く染まっていることに気が付く。


 偵察任務から帰還した私が見た光景。


 中部戦域第四旅団『華閃かせん』の常滑駐屯地は激しい炎に包まれていた。


 突然、空気が振動する嫌な音が聞こえる。


 身構えるが、もう遅かった。

 気がついた時には、無数の飛翔体に囲まれていた。


 人の頭ほどの大きさの球体、外観はメタリックな材質、赤い瞳。天使の輪の様な形状の物体が球体の上部に浮くように付いている。


 無人偵察型ステルス殺人兵器『Ver28γ』。私達が旧ガンマと呼んでいる敵。


 人類殲滅プログラム『WATERLILY』の一種であり、人間の果てない欲望が生み出したAIの成れの果て。


 咄嗟に高周波ブレードの柄を握る。

 日本刀の形状をした高周波ブレード『桜花おうか』。私のメイン武器であり、刀身を超高速で振動させることにより高熱を発生させ、斬撃と溶解を同時に発生させる破壊兵器。


 いくら相手がステルス型だとしても、もっと慎重になっていれば、囲まれる前に気づけたかもしれない。


 普段より成果が挙げられた事に浮かれていたのかもしれない。美浜地区が手薄だったのも常滑駐屯地に戦力を傾けていたからに他ならないのに。

 だから、私はいつまでも落ちこぼれなのだ。自分の不甲斐なさに対して怒りがこみ上げてくる。



 機動力を上げる為に、必要最低限の装備しか持っていない今の状態でこの数を相手にするのは無謀のように思えた。


 でも、やるしかない。


 私は身体に纏うナノマシンを戦闘モードで展開する。

 無数のナノマシンが漆黒のガントレットとグリーブ、ゴーグル状のスコープを形成する。


『オペレーション 桜 起動。』


 AIオペレーションシステムが起動し、女性の声が頭の中に響く。


『おはようございます。マスター。ご用件を。』

「桜。オペレーティングお願い。この空域から離脱する。」

『畏まりました。』


 私は『桜花』を構える。高周波ブレード特有の振動音が辺りに響き渡る。

 スコープに光の線が表示される。


『マスター。戦闘空域からの離脱ルートを表示致しました。成功率30%。』

「ありがとう桜。」


 成功率30%。予想以上に厳しい数字に挫けそうになる心を奮い立たせる。


 私は、スコープに表示されたルートに沿って移動を開始する。


 旧ガンマの天使の輪部分が高速で回転を開始し、無数の散弾が射出される。


『マスター、お気をつけ下さい。ナノマシン破壊電磁弾です。ナノマシン残量30%を切ると兵装が維持できません。現在のナノマシン残量88%。』

「了解。」


 左のガントレットからシールドを展開する。

『桜花』が唸りを上げる。

 旧ガンマから射出される無数の電磁弾を浴びながら、離脱ルート上の敵を破壊していく。


「一つ、二つ、三つ、四つ!!」


 破壊しても破壊してもきりがない。


『警告!! ナノマシン残量60、59、57。』


 アラーム音が響く。

 確実にこちらの兵装は削られていく。


 このままではジリ貧だ。

 私は完全に追い込まれていた。


「桜!! スコープ以外の全てのナノマシンを飛行ユニットに回して。」

『確認します。シールドもですか?』

「そうよ!!」

『マスター、そんな事をすれば、電磁弾が直撃します。』

「そんな事は分かっているわ。でもこれしか方法が無いの!! 早くして!!」

『畏まりました。』


 ナノマシンの兵装が解かれ、電磁弾が生身の身体を襲ってくる。私は焼けただれる痛みに耐えながら、『桜花』を前方に構えると、離脱ルート状に存在する無数の敵に突撃していく。


 一瞬、敵の包囲網が薄くなる。

 その一瞬を見逃さず、敵の包囲網を抜ける。


 何とか離脱したと思った瞬間、激しい警告音が鳴り響く。


『警告!! 警告!! 高エネルギー体が接近中!!』


 地面から放たれた空間を断ち切るような一筋の光が私を襲う。


 ……電磁誘導砲レールガン!!


 身体をねじりながらなんとか避ける。


 避け切ったと思ったが、背中の飛行ユニットの一部が接触する。


『警告!! ナノマシン残量49、45、32、30、……。』


 耳障りなノイズ音と共にオペレーションシステムがダウンする。

 

 身体が急に軽くなる。


 気が付くと私の身体は、地面に吸い込まれるように落下していた。


 ……結局、私は何もできなかった。

 やっぱり最後まで落ちこぼれだ。


 地面に叩きつけられる身体。身体がバラバラになるような激しい痛み。

 私の視界は暗くなった。


お読み頂きありがとうございます。

面白いと思て頂ければ、ブックマーク、御感想頂けると嬉しいです。


次回の更新は3月10日の予定です。


宜しければ、ご覧くださいね。

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