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 翌週、渡瀬のマンションには彼と、烏丸、そして新たに呼んだ一条が居た。

 一条には今回プレイするゲームについて事前に簡単に説明してあったが、

「まだ、始めないでくれ」

 とも言っていた。彼の操作キャラにもチートを施そうと考えていたからである。

 一条も

「最近はめっきりゲームをやらなくなった。どっちにしろお前らと一緒じゃなけりゃ食指が動かないよ」

 と言っており、この日が初プレイであった。

「俺はどうすればいいんだ? 言われた通り何もやっていないが、その代償として今日やるゲームの知識はほとんどないぞ。操作キャラの能力を底上げしてログインするとのことだったが、強化されたキャラを動かすこともままならないかもしれない」

 と、レモネードを飲みながら一条は渡瀬へ問いかけるが、

「俺も一週間前からログインしていない。上手く自キャラを作ることができたか確かめるからちょっと待ってくれ」

 とのことであった。

 烏丸と渡瀬は先行してログインした。

 烏丸の『サークルレイヴン』は特に改造していないのでそのままだったが、渡瀬の操作キャラは大幅に変わっていた。クラスが騎兵に、名前が『バンデット』に変わっており、見た目がワイルドな格好をした女性になっているのである。表示されている数字もおかしく、レベルが『ああああ』時の16ではなく!#@6という妙なものに変わっており、体力が999/150と表記されていた。レベルはよく分からないが、体力だけをみれば521/521の『サークルレイヴン』より遥かに多いと言えるだろう。

 それを見て渡瀬は

「上手くいったみたいだな」

 と言ったが、烏丸からしてみればどこがどう上手くいったのか分からない。

「レベルと体力が変な事になってるぞ」

 と指摘すると、

「レベルは99以上に引き上げたらそうなった。他のステータスも軒並み999まで底上げしてあるけど、どういう訳か最大値はレベル16の時のまま直せなかったから、ほったらかしにしてある。まぁ、プレイするのに支障は無いだろう」

 とのことだった。

 ただ、改造が完全でないとなると一条は安心できなかった。彼が持ってきているノートパソコンは学校で使用している物であり、壊されると非常に困る。

 そこで、

「やっぱり俺は普通に始めるわ。その方が盛りに盛ったお前のキャラと最初から始めた俺のキャラでどう違うのか確認し易いだろうしな」

 と言ってキャラを作成し始めた。プレイヤー名は『スペード』で、クラスはバーサーカーである。

「何でスペードなんだ?」

 と烏丸が尋ねたところ、

「俺たちは元々ゲーム仲間だろう。ゲームからトランプを、トランプからスペードを連想したんだよ」

 とのことであった。

 その後、唸るほどある『バンデット』の所持金を使って『スペード』の装備を整えた後、三人は力試しのために先日と同じガマの油のクエストへと向かって行った。


 三人は森を凄まじいスピードで進んで行った。

 これだけの進行スピードが出せた要因は主に『バンデット』にある。

 彼女はバーサーカーしか携行できない筈の重火器を騎兵の身で携行し、レンジャーの専売特許である動物の操作を行って、隠れている敵に対しても攻撃を仕掛けていたのである。騎兵の弱点である防御力も、シューターの能力である筈の防盾(ぼうじゅん)召喚で克服しているため、最早弱点が無い。

 彼女が偵察、攻撃、防御を一人で担う事ができるため、今回は『サークルレイヴン』も積極的に攻勢に回る事ができたが、彼女が強すぎるため、基本的には彼女が撃ち漏らした敵を攻撃する事しかやる事がない。

 その様子を見て、

「技術の烏丸、総合力の渡瀬、可能性の俺だな」

 などと一条が笑いながら言っていたが、ここまで強いと技術もへったくれもないだろう。

 三人は森の中の敵を狩り尽くした状態で洞窟へと到達した。『スペード』はレベル13になっている。


 洞窟内での進行速度も前回のそれを遥かに上回っていた。

 要因はやはり『バンデット』であった。

 彼女はレンジャーなどよりも遥かに夜目が利くらしく、渡瀬のパソコン画面は(すこぶ)る明るい。

 渡瀬は、

「前は向こうからはこっちが丸見えで、こっちからは向こうが視認できないって状況だったからな。これでようやくフェアな戦いができるだろう」

 などと言いながら『バンデット』にガトリング砲を連射させていた。バーサーカーは重火器を使用すると反動でダメージを負うようになっているが、彼女にはそれもない。

 フェアどころかモンスター虐待と言っていいほどに一方的であり、同行していた『スペード』のレベルはボス到達前に以前の『ああああ』と同じレベル16になってしまった。ただ、初期装備だった『ああああ』とは違って彼の装備はそこそこ戦う事ができる。

「ここからは俺も攻撃し始めるわ」

 と言って、一条の『スペード』も戦闘に加わり始めた。

 三人の快進撃はより速度を上げて続き、あっという間に最下層へと到達した。

 ここまでのダメージは『サークルレイヴン』と『バンデット』が無傷であり、『スペード』が重火器の反動で微量なダメージを負った程度である。

 つまり、敵からは一回も攻撃を受けずにここまで到達していた。

「前回は蛙の声も少しは不気味に聞こえたが、こうバッチリ見えているとそれもないな」

 と、言いながら渡瀬はガトリング砲を連射して火蓋を切った。

 弾丸はほとんど蛙の身体に吸い込まれ、一瞬でほとんどの体力を持っていった。

 あと数発で撃破というところまで追い詰めると、

「スペードがトドメを刺せ。倒した奴に一番経験値が入るシステムらしい」

 と、言って射撃を止めた。

『スペード』は蛙に向かって突っ込んで行った。バーサーカーの真骨頂は自傷を必要とする重火器ではなく、徒手空拳であった。バーサー化というモードを使って身体能力を底上げし、一気に殴り倒すという物である。

 渡瀬のパソコン画面と違って一条の画面はかなり暗かったが、モード使用中は視力も向上する設定らしいので、現在は蛙を視認できる程度には画面が明るくなっている。

 接近し終わると、アッパーを食らわし、さらに回し蹴りを叩き込んだ。

 その二発で蛙は体力が尽きたらしく、ガマの油をドロップしながら消滅した。

 この戦闘で『スペード』のレベルは18まで上昇している。

「本当にこんなんでいいのかねぇ」

 と、一条は疑問に思ったが、物足りなさは烏丸も渡瀬も感じており、

「これなら適正レベル50のクエストにも行けるんじゃないか?」

「ちょっとクラッキングを仕掛けて、敵を強くしてみるか」

 と、それぞれ言った。

 その後、渡瀬が新たにクラッキング仕掛ける事になったので、一ヶ月間は各々ゲームを進める事になった。その間『サークルレイヴン』はレベル67に、『スペード』はレベル35になり腕も向上したが、『バンデット』はレベル!#@6から変化もなく腕も向上していない。その事がこの後渡瀬の足を引っ張る事になるのだが、この時の彼はそんな事は夢にも思わず運営のサーバーを攻撃していた。

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