第3話 突然のDeath
0-1 セラ・アスレの家
「ただいまー!!」
アスレは元気よくセラに言う。
「おかえり、アスレ。御飯、出来てるわよ」
「わーい!! いっただっきま――――」
「アスレ! 食べる前はこれでしょ?」
そう言って、セラはポケットから、何やらスプレーを出し、それをアスレの手に吹き掛ける。
「ありがとっ! お母さん! いっただっきまーすー!!」
アスレは口にいっぱい食べ物を入れ、頬を膨れさせながら、モグモグと美味しそうに食べている。
「シン。貴方の分も作っておいたから、食べるといいわ」
俺にはそれだけを言って、セラはキッチンの方に消えた。
「……あ……キュアードも御飯……いるよな……」
さっき、木の実食べなかったから、もしかしたら、お腹空いてるかもしれない。そのためか、アスレや俺に出された料理を羨ましそうに見ている。
「アスレ。俺、ちょっと出掛けてくる。キュアードの御飯、探さないと……」
「えっ!? 危ないよ……! アスレも行く!!」
アスレがそう言うと、背後から恐ろしいオーラを放つ人が……
「…………」
セラがアスレをキッと睨む。
「あ……あの……アスレ……まだ御飯食べてた……。き、気を付けるんだよ! あ、お母さんが言ってた武器、持って行った方がいいよ!! キュアードがいるって思うかもしれないけど……キュアードも複数のモンスター相手は無理だから……」
アスレは顔を青ざめながら、慌てて俺に言う。……セラを怒らせると怖いのだろうな。ってか、セラ。それは我が子に向けるオーラじゃねぇよ……。明らかに殺意が込められているのだが……。
「…………」
「ひぃ!!」
俺の考えを読み取ったのか、セラは俺にまで、その恐ろしいオーラを向けた。こ、怖えぇよ……。お前、女じゃねぇよ……。獣だよ……。……いや、もうやめておこう。これ以上はセラがさらに機嫌を悪くするし、アスレも今にも泣きそうな顔してるからな……。
「わ、分かった。……セラ、アスレを泣かすんじゃねぇよ……?」
「……貴方に言われる筋合いないし、アスレは私の子なんだから、そういうのは、私の勝手でしょ?」
セラはこれでもかってぐらいに、恐ろしいオーラをまとわせ、俺をキッと睨む。
「……行ってくる。キュアード、お前は来るか?」
「キュアア!!」
キュアードは”もちろん”と言わんばかりに、俺の傍まで飛んできた。
「行こう、キュアード」
「キュア!」
キュアードの御飯を探しに、俺とキュアードは家を出た。……ってか、早く出た方がいいしな。じゃねぇと、俺、絶対セラに殺される。あの目は、かなりガチだ。ガチのやつ。怖い、無理。
0-3 流星湖
キュアードの好きな木の実は、先程行った、修行山に多くあると、アスレは言っていたが、修行山に行く道の他に、道があった。俺は他の場所も見てみたいと思い、修行山とは別の道を選び、歩くと、湖に出た。噂によると、此処にも木の実等があるらしい。
「……!! 凄く綺麗だな……!!」
この世界はずっと夜で、星もよく見える。その星は湖にも映っていた。
「何か……幻想的だな……」
俺はそう言いながら、湖付近を歩き、キュアードの御飯になる、木の実を探した。
「キュアー……!」
キュアードも嬉しそうだ。だが、どうも木の実が見つからない。
「そもそも木がねぇしな……」
湖の周りは、木が一本もなかった。キュアードもキョロキョロと、周りを見渡して、探してくれているが、見つからないようだ。
サァー……
風が出てきたようだ。
「なかなかに冷えるな……」
かなり薄着で来てしまったため、寒くて仕方がなかった。
「へ……へ……へーくしっ!! うぅぅ……さみぃ……」
俺は震える体を擦り、少しでも温かくなるようにした。
「……キュア……?」
「ごめんな……お腹空いただろ……。頑張って探すからな……」
体を震わせながら歩く。すると、ようやく、一本だけ木が生えているのを見つけた。
「……! 木……!!」
俺は慌てて、その木の方へ向かう。近くに行くと、赤い実がいくつもなっているのが分かった。
「キュアード! 御飯だぞ!! 取って帰ろうか」
「キュアア♪」
嬉しそうに飛び回った。俺は初めての木登りに不安になりながら、登る。……? 初めてにしては俺……何だか、慣れた動きしてるな……。したことあるのか……? そう思いながら、あっという間に、赤い木の実を手に入れた。
「よし、取れたぞ!!」
俺は木の実をいくつか取って、木から下りようとすると……
サァーーーー!!!
急に風が強まり、俺は風に突き飛ばされてしまった。
「!!」
そして、木の幹に激突し、地面に落ちた。
「キュア!?」
意識が遠ざかる中、ただキュアードの鳴き声だけが耳に入る。
……駄目だ……。目を開けていられない……。俺……もう……死ぬのか……?
「キュア、キュア、キュア!! キュアアアーー!!!」
そのキュアードの叫ぶような鳴き声を最後に、俺の意識は途絶えた。
0-1 セラ・アスレの家
「……遅いなぁ……シン。何処まで木の実を探しに……」
「道にでも迷っているのかもね。人間って生き物、道に迷いやすいから」
そうお母さんはお皿を片付けながら言う。……でも、そんな感じに見えなかったけどな……。あの時も……キュアードの動きにすぐ反応してたし……。私としては、シンはかなり優秀だと思うんだけどな……。
「……!! キュアード……?」
私は外からキュアードらしきものを感じ、家の玄関を開けると……
さっきより2,3倍程の大きさになって、待っていた。
「キュアード……!! どうしたの!? ……あれ。シンは?」
私がそう尋ねると、キュアードは後ろを向き、翼を広げる。そこにはボロボロになったシンがいた。
「シン……!!」
私は駆け寄る。でも、シンの目は硬く閉ざされたまま。……酷い傷だった。
「……シン……? ね、ねぇ、起きて? 家、着いてるよ?」
「…………」
「シ……シン……死んじゃった……の……?」
私はキュアードに尋ねる。すると、キュアードは首を振り
『分からない。私達ね、湖の方に行ったの。それで……木の実を見つけて、シンが木の実を取ったまでは良かったんだけど……急に風が強くなったの……。それでシンは……幹に激突した……』
そう頭に伝えてきた。
「……そうだったの……。お母さん……!! お母さん……!! 早く、来て……!!」
私はとりあえず、お母さんを呼ぶ。
「どうしたの? アスレ……。……!」
お母さんもシンの異変に気付き、ゆっくりと近付く。
「…………」
お母さんはそっと、シンに触れた。
「……キュアア……」
キュアードも心配そうに見つめる。
「……アスレ」
「……! お母さん……?」
私はお母さんを見る。すると、辛そうな顔で私の頭を撫で、こう言った。
「シンは危険な状態だわ。体も冷たいし、出血量も多い。意識不明。心臓は動いてるけど、脈が弱い。緊急処置が必要ね」
「緊急……処置……?」
私はシンを見る。青白い顔。傷だらけ。目を開けない。意識がない。シンのその姿は、とても痛々しくて、見ていられない程だった。
「……シン……」
よく見えない。あれ……私……泣いてるの……? 顔に流れる温かい水。何これ……何……? この……温かくて……でも胸が苦しくて、悲しくて……どうしようもない……この感じは……何……? ねぇ、シン。人間の貴方なら分かるよね……? 教えてよ……。これは何? この気持ちは何? 寝てないで教えてよ……。シン……!!
……ポン、ポン
ふと、頭を優しく叩く感覚がした。
「……俺を勝手に……殺すな」
その言葉と共に。私は顔を上げる。傷だらけのシンがこちらを見ていた。
「シン…………」
「悪りぃな、心配かけて……。俺は、大丈夫……だから安心しろ……」
「あ…………」
……嘘だ。シンは無理をしている。本当は大丈夫じゃない癖に。今にも絶えそうな息遣いなのに。出血が止まらないのに。……強がってる。私はその気遣いに、また温かい水を流す。
「……泣いているのか……? アスレ……。泣くな、可愛い顔が台無しだぞ……?」
……やめて。
「ほら、アスレ……」
やめて……優しく水を拭わないで。
「……アスレ……?」
「……呼ばないで……」
「……え……?」
「優しくしないで……気遣わないで……嘘吐かないで……!!」
「……!!」
「本当は大丈夫じゃない癖に……辛い癖に……元気な振り……しないで……!!!」
そうされると、余計辛くなる。せめて、嘘吐かず、本当のことを言って欲しい。苦しい、辛い、しんどい……。貴方は今、それでいっぱいなんでしょ……?
「……結局、俺は……最低な人間だよな……。……変われなかった。リアルでは、ニートで迷惑ばっかかけてきたから……此処では……役に立とうと思ったのに……。人間って生き物は……そう簡単に変われないんだな……。……アスレ……ごめんな……悲しませて……」
……ポスン
私の頭を優しく叩いていた手が、力なく落ちた。
「……シン……?」
呼んでも、もう返事はなかった。……だって、開かれた目に、もう光は宿っていないのだから。シンは死んだ。短かった。あっけなく。
「キュアアアアア…………」
横にいたキュアードは悲しげに鳴き、シンの顔に顔を擦りつけた後、何処か遠くへ飛んで行った。誓いは主人が死ぬと、破棄される。キュアードの首にかかっていたペンダントも消える。そして、破棄された後は、主人の傍にいることは許されない。
「……既に手遅れ……か……」
お母さんがぽつりと呟く。
「……お母さん……シンはもう……」
「……うん。もう動かない。息もすることもない……人形になった……」
そう言って、お母さんはシンの開かれた目をゆっくりと閉ざした。
「……貴方も、他の人間と同じだったのね……シン……。……安らかにお休み」
――――――――――――――――――………………。
結局俺は、役立たずのニートでしかなかったんだ。俺は……変わることが出来なかった……。
「……死んでしまったか、シン」
「!?」
俺は声のする方に向く。そこには、見覚えのある人物がいた。
「……ユリ……?」
「そう、私はユリ。貴方の元恋人」