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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
一章 バカ・ホライズン
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バカ・ホライズン

「な、何その目」

「小遣い抜き」

「ぬぐっ!」


 俺が言葉の槍を投擲すると、レイは胸を押さえて背を丸めた。


「ジュン? いきなり切り札を出すのは……」

「飯抜き」

「うああっ!」


 アマナがレイを憐れんで俺を制止しようとするも、俺はそれを無視してカードを切り続ける。


「……お、お願い、やめて……それ以上は……」


 レイは地に伏せ、涙目で俺を見上げる。俺はそれを依然として変わらない眼で見下ろす。

「ゲーム禁止」

「かはっ……!」


 短い息を吐いたレイは、前のめりになって倒れたきり、ピクリとも動かなくなった。

 ため息を吐きながらレイを担ぐ俺、目を瞑って頭を横に振るアマナ、双方を見た名無はひとりごちる。


「なんですかこの茶番」





「ドナドナ歌っていい?」

「お前の歌は騒音兵器だからやめろ!」


 両手足を物理的に拘束されたレイは諦めて大人しくしている。経済制裁が酷く効いたようだ。

 これらの手札はあらかじめガイ大臣から渡されているもので、レイが言うことを聞かない際、暴れて手が付けられない際に切ることを許されたものだ。


 大臣からの小遣いによって生活しているレイにとって、ライフラインを絶たれるのは文字通り死活問題。加えて趣味の一部であるゲームまで禁止されては、人生の四割を奪われたに等しい。

 残りの六割は、五割魔道、一割食事睡眠ぐらいの割合だ。


「ところで助手席に座ってる子は誰? 見たところ魔族っぽいけど」

「俺の命を狙ってる魔族」

「よし殺そうか」


 身をよじらせて指先を名無に向けようとしたレイの手を、俺の手で遮る。

 レイは仲のいい人間に危機が迫ると、その危機を全力で排除しようとする。アマナが全力を出すのは俺に危機が迫った時だけなので、人間性でいえばレイはアマナの上位互換と言える。


 ビームを阻止したことで、レイは一瞬むっとする。狙われている俺本人が阻止したからか、アマナが表情を変えずに運転しているからか、レイはその手を下した。


「悪い魔族もいればいい魔族もいるってことさ。私のような善良な人間がいるように、クロノのような野蛮な人間がいるように」

「お前も陛下もろくでもねえからな!?」


 アマナは言わずもがな、散歩と称して城壁や城門に大穴を開ける陛下も、決して善良とは言えない。

 そもそも一国の王が、気分転換とかいうどうでもいい理由で執務を投げ出していいはずがない。しかも一度出て行ったらその日中は帰ってこねえし。


「人殺しを目的にする魔族がいい魔族とは思えないけどにゃー」

「失敬な。目的は名前を取り戻すことで、殺しはあくまで手段です!」

「なるほど」

「なるほどじゃねえよ!」

「お爺ちゃんが言ってた。殺しを目的にする奴は反吐以下の悪だけど、殺しを手段にする奴は少なくともまともな奴だって」

「素敵なお爺さんですね」

「何言ってんだあの大臣……」


 言わんとすることは分からないでもないが、それは殺しを正当化できる言葉じゃない。

 レイのことだから、多分自分に都合のいいところを聞いていて、残りを聞いていない可能性もある。


「そういうことなら私は積極的に手を出さないよ。まあ、ジュンは守るけど」

「そもそも守られるまでもねえよ」

「ええー、そう? ジュンって私より弱くなかった?」

「お前に勝てる奴なんざ、それこそアマナぐらいしかいねえだろ。そうじゃなくて、そもそも名無が俺より弱いんだよ」

「こ、これでも村じゃ一番強かったんですからね!」


 魔族は部族ごとに強弱があるのは、双方の陣営にとって周知の事実だ。個体差や突然変異ではすまない差と数がある。アマナ、陛下、レイのような、神が才能を尖らせすぎた者たちとは毛色が違う。

 まあ、魔族という総称自体、今でこそ浸透しているものの正しい呼び方とは言えない。


「ま、私からすれば強い弱いとか関係ないんだけどネ!」

「調整ミスのバグキャラは黙ってろ」


 お前からすれば全人類が雑魚だっつーの。


 そんな雑談をしているうちに、そびえ立つローン城とファスト市街が見えてきた。

 ファストは王都にしては警備が非常にザルだ。一市民からして荒事上等な気質なので、魔族数人程度なら市民が束になれば余裕で制圧できるからだ。


 俺が言えた義理じゃねえが、本当に戦闘民族だなこの国は。

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