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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
一章 バカ・ホライズン
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バカ・ホライズン

 城から再び車に乗り、揺られること数時間。電灯に負ける星の光を浴びながら、俺たちは前線を目指している。


 勅命という体ではあるが実態は大臣の私情。金は出せないので運転手はアマナだ。俺が運転すると言ったが、私が運転すると言って聞かなかった。


「いやほんと、いくらジュンでも運転だけはほんとダメ」


 俺自身は自覚がないのだが、アマナ曰く俺の運転は非常に荒いらしい。アマナがため息を吐いたので恐らくは正しいのだろう。今よくよく思い返してみれば、俺が運転した後は心なしかアマナのテンションが低かったような気がする。

 よし、これからはアマナが何かやらかしそうになったらドライブに招待しよう。


「前線って大丈夫ですかね? 私ちょっと心配なんですけど」

「命の危険はないよ。なんせこの国のトップ二が集まるからね」

「いや、そうじゃなくて、多分ないとは思うんですけど、私の村の人たちがいたらちょっと面倒だなあって」

「記憶の改竄をすればへーきへーき」


 「ほへえー」とか言っている名無は知らないが、魔道による記憶の改竄は重犯罪の中でも、特に重い部類に入る。アマナはそれに気づいた全員の記憶をいじって隠蔽しそうではある。


 窓から外を見てみれば次第に民家は減っていき、何もない草原が広がり始める。フロントガラスには既に砦が見え始めている。海に突出した陸の地形上、この砦を突破しなければ国の中心部には至れない。

 それでも制空権を持つ魔物の侵入を防ぐことは難しいが、空を貫く細い光線が魔物を撃ち払う。


「おい、お前また変な魔道造ったろ」

「改良して燃費良くして細めのやつを造った」


 その行動を悪いと判断することはできない。現にこうして役に立っているのだから。

 これ、連れ帰るの面倒なやつだ。


 砦のそばに適当に駐車する。普段なら駐禁を切られる場所だが、今ならまあ許されるだろう。

 降車した俺たちはアマナの顔を使って検問を突破する。アマナの権威と振り撒く厄介を恐れて、検問官は顔を背ける。魔族である名無に触れることもない。


「向こう側からちょっとすごい音が聞こえてきますね」

「大方、魔物が逃げ惑う声だろうな……」


 基本的に防衛しか行わない我が国だが、王の影響で兵士の連度が異常に高い。魔物は物量で攻めてくる。こちらは純粋な力量で防衛する。一般兵士のみでも拮抗した状況を生み出せるローンには、バランスブレイカーが複数存在するおかげで一方的な虐殺になる。

 ぶっちゃけ、本腰入れれば魔王軍とか余裕で倒せる。


 重厚な扉をアマナが開ける。魔物と人の声がなだれ込んでくる。アマナと俺はもうすでに慣れているので、そのまま一歩踏み出す。名無は一瞬気圧されて半歩退いた。


「【ブレイジングライザー】ッ!!」


 快活なその宣言とともに、光帯が天に向かって伸びる。少女の掌から展開された魔道陣から照射されるそのビームは、その掌の動きに合わせて矛先を曲げる。

 その先にいた有翼の魔物たちは縦横無尽に空を横切るビームに反応しきれず、体の一部を削られ墜ちるもの、蒸発してその身を残さないものなどがいる。


 一本の光帯は無数の戦果を上げた。一般魔道と比べて消費が多いとは言っても、費用対効果は十二分だ。

 かいてもいない汗を腕で拭った黒髪赤目の少女は、俺たちを見つけて駆け寄ってくる。

 と、字面に起こせば普通だが、移動速度が異常なので周囲に衝撃波が起こっている。ついでに魔物を倒そうとしたのだろうが、味方も巻き込んでいる。


「アマ姉! ジュン! それとよくわかんない女の子! 来てくれたんだね!」


 名を呼んだ順に手を掴み、激しくシェイクする。細かいことを気にしない性格は変わらない。


「やあ、レイ。元気そうで何より」


 ガイ大臣の時と同じく二人で会話を始めたので、名無が俺にすすすと寄ってくる。アマナが水面下で怒るからやめてほしい。


「私、自分のことギャグキャラだと思ってたんですけど、世界は広かったみたいですね」

「何言ってんだお前」


 俺からすればガイ大臣まではギャグキャラだ。俺の身の回りにいるまとも、もしくはツッコミキャラは俺とレオンだけだ。

 アマナとの会話を終えたレイが、今度は俺に狙いを定める。アマナは師弟の関係だけあって、信頼関係もある。レイに嫉妬の矛先を向けることはない。


「ジュンは最近どうなの? 風邪とかひいてない?」

「そんな風に造られてねえよ。お前こそ年中軽装で風邪ひかねえの?」

「鍛えてますから!」


 レイはふんす、と鼻を鳴らし二の腕で力こぶを作ってどや顔を向ける。筋力はともかく、魔力に関して、レイは紛うことなき天才だ。


 美少女が戦場にいる。その美少女が盤面を左右する戦力である。そのふたつは、兵士の士気を飛躍的に向上させる。何度目かも分からない侵攻を、やる気をなくさず手を抜かず追い返しているのも、レイの存在に依るところが大きい。


 雑談はこのくらいにして、そろそろ本題に入ろうか。今すぐ連れ帰ったとしても、晩飯時が過ぎることは確定している。日を跨ぐのは避けたいところだ。


「今日は何しに来たの? アマ姉とジュンがこんなところに来るの珍しいよね?」


 お前は過去の自分の行動を鑑みることができないのか。俺たちがここに来る理由なんて、ひとつしかないだろう。


「お前を連れ戻しに――」

「【ハイ・ピコ・キャノン】」


 宣言する必要がないものを、わざわざ格好つけるためだけに宣言して、レイは指先から極細のビームを放つ。熱量すら圧縮されているのか、それが俺の頬を掠めてもまったく熱を感じなかった。

 すぐに打ち止めたおかげで、砦にまで届くことはなかった。俺はほっと息を吐く。


「次は当てるよ」


 真顔で、マジトーンで、レイは言った。


 俺は呆れすら通り越して、憐みの目をレイに注ぐ。

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