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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
一章 バカ・ホライズン
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バカ・ホライズン

 ある歴史学者曰く、前暦近世に逆戻りしたかのような街並みの中、荘厳な雰囲気を纏う城がある。ローン城。ローン王国の中心部。外観は威厳に満ち溢れているが、そこで従事する者たちは、現在魔王軍とドンパチやっているとは到底思えないほどに和やかだ。


 トップがあれなら、堅苦しくする意味もない。必要最低限の礼節だけ弁えていればそれでいい。

 王の勅命とは言うが、実際のところあの王がアマナを呼び出すことは少ない。よっぽどの問題でもない限りは、自分の力で解決できるだけの力がある。力技だが。


 普段城にはアマナの弟子もいるし、本当に大抵のことは何とかなる。

 それでもアマナが呼び出されるのは、一番小回りが利くからだ。先に述べた二人は加減ができない。仮に魔物退治に駆り出せば地形が変わる。


「ようやっと来たか、問題押し売り屋」

「料金取っていいの?」


 王の名を借りてアマナを呼び出すのは決まってこの老人、ガイ・レーンだ。ローンの大臣の中でも特に古株で、若い頃は陛下の家庭教師もやっていたらしい。


 つまりは、今の陛下がああなった原因とも言える。

 その件は関係ないので、わけのわからないことを言っているアマナの脇腹をつねる。


「大変お待たせしてしまい申し訳ありませんガイ大臣」

「君が気にする必要はない。この阿呆が悪いんじゃ」

「うるさいよ痴呆」

「まだボケとらんわ!」


 陛下とアマナは同時期に、イ大臣から指導を受けていたことがある。

 そう考えると、アマナの世代はたった二人だけにしても、その二人がとんでもない才能を持っていることになる。まあ、俺の世代にも一人、規格外の人間がいるが。


「で、用件はなんなのさ。私をわざわざ呼んだんだから、相応の用なんだろうね」

「ああ! そうそう! レイがまた前線に出おってな、お前に連れ戻してほしい」

「やだよ。私はこれでも忙しいんだ」


 嘘吐け昼まで眠りこけてただろ。


 あくまで名無には触れない方向で話を進めるガイ大臣。まあ、こいつに触れたら面倒なことになるのは、アマナとある程度の付き合いがあればわかる。

 蚊帳の外どころか家の外に放り出された名無は俺に声をかけてくる。


「あのお爺さん、まさか本当にボケてます?」

「お前今から打ち首にされても文句言えねえからな」

「じょーだんですよお!」


 拘束が解かれた名無が俺の腕に抱きついて、あからさまに胸を当ててくる。そんなものが俺に効くとでも思っているのだろうか。

 明後日の方向に視線を飛ばしながら、レイについて思いをはせる。


 レイ・レーン。通称ホライゾン。アマナがとった唯一の弟子だ。

 ガイ大臣の孫と言うこともあり、元から資質があったレイはアマナの教鞭により、その才能を遥か彼方へとかっ飛ばした。


 なんでも、ビームが気に入ったとか。


 普通の人間ならビームを放つだけの魔力も技術もない。そもそも、当時にビームを照射するようなふざけた魔道はない。しかし、レイには魔力があり、アマナには両方があった。

 結果、レイはおおよそ日に三発限定で、ビームを照射できるようになった。


 俺やレオンよりも少年の心を理解し、それを持っているレイは、それを放って魔物を一掃することが趣味で、今回のように周囲の目から隠れて戦争の前線へ向かうことがままある。

 ガイ大臣からこの依頼を受けるのも、これで二桁目になる。


「ていうかいつもいつも逃げられてさ、もう少し見張っておくとか、監視をつけるとかできないわけ?」

「ノータイムでビームぶっ放す奴の監視をしたがる奴がいると思うとるのか?」

「いないね」


 ちなみに、レイは好んでビームを使うだけで、その気になれば普通に戦えたりする。流石と言うかなんと言うか、こういう時のアマナは抜け目ない。


「ノータイムと言うのはどういうことで?」

「詠唱キャンセル、無宣言で直径約五メートルのビームが飛んでくる。加えて、特殊な防御ができねえと消し炭になる」

「ひえっ……」


 基本的に、魔道は詠唱と魔道名の宣言を必要とする。どれかを省けば魔道として不成立となるが、一定以上の技量があれば話は変わってくる。上達と共に、まずは詠唱の短縮、次に詠唱のキャンセルを行っても魔道が発動できるようになり、極めれば魔道名すら宣言せずに魔道が起動する。


 俺はまだ詠唱キャンセルまでしかできない。アマナは当たり前のように無宣言だ。魔族は魔術という別の体系のものを使うので、詠唱も名も必要としない。


「報酬金ならオレの懐から出す。あの子が一人前の魔道士だとは分かっとるが、祖父としては心配でな。この気持ちはお前にも分かるだろ?」


 そう言って、ガイ大臣は俺に視線を注いだ。

 レイは幼いころに戦争で両親を亡くし、その面倒はガイ大臣が見ていた。普段の立場が逆転しているとはいえ、アマナも一応は俺の保護者。子を思う親心のようなものがあることは、俺が一番知っている。

 目を閉じてやれやれという風に首を横に振ったアマナは、少しだけ口角を釣り上げながら、


「それとこれとは話が別」


 俺はアマナの後頭部に拳骨を叩き込んだ。


「いった! いいったあ! 本気で殴ったよねえ今あ!?」

「当ったり前だろうがこんのクソ親! お前に生んでもらったことが恥ずかしいわ!」


 しゃがみ込んで後頭部を両手で抑え、涙目になりながら俺を見上げるアマナは何故かキレている。


「だって面倒だもん仕方ないじゃん! レイなら無傷で戻ってくるよ!」

「ああそうかい! じゃあ俺一人で連れ戻してやるよ!」

「それはダメ。ジュンが怪我したらどうするの」

「そういうことだっつってんだろうが!!」

「……分かったよ」


 そこまで言って漸く納得したように腕を組んだアマナ。いつもならもう少しすんなり納得するが、今日はそうではなかった。どうやら俺と名無が二人でこそこそ会話していたのが気に食わなかったようだ。

 そんなくだらない理由で怒らせるのはやめてほしい。マジで。


「あの二人っていつもあんな感じなんですか?」

「鉄板って言うか、天丼って言うか、まあそんなもんだわな」


 ごく自然に会話するのやめろ。


 俺がアマナに構ったからか、名無がガイ大臣と絡みに行ったからか、ご満悦なアマナは跳び上がって立ち上がる。


「よし! じゃあぱぱっと魔族と魔物を滅ぼそうか!」

「っ」


 名無が身震いした。

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