表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
終章 魔族は衰退しました
30/30

魔族は衰退しました

 最近、自分の年齢が二三歳なのか、一八歳なのか悩んでいる。

 戸籍上は二三になっているが、アマナがクロノに口利きしたからそうなっているだけだ。実際五年間は死んでいたわけで。肉体年齢に従うなら一八で、精神年齢は二年分、二人の記憶が重なっているので計ることは難しい。


 まあ、どちらかに決めたところで、不備が生まれるわけではないのだが。

 ボードを倒したあの日から数日。アマナは名無に「君には魔法の才能がある。私にいい考えがあるから着いて来なさい」と言い出し、それからは連日名無を連れ出しては、何やらよく分からない訓練をしている。


「んで、暇なのか」

「家にいてもなにもねえし、だったらここに来るだろ」

「暇つぶしに城に来るって、テメー最近アマナに似てきたんじゃねえ?」

「そうかもな」


 あれだけの影響力を持っている超人だ。四六時中あいつと一緒にいる俺が悪影響を受けてもおかしくない。クロノを敬う必要もないし。

 うちでは絶対に買わない、美味い紅茶を啜りながら、クロノがテキトーに流している書類を流し読みしていく。魔王を倒した後でも、魔族に関連する報告や仕事はしばらく絶えなさそうだ。


 それでも魔族は衰退した。

 魔王ボードという絶大な君臨者を失った魔族たちは大きく二分した。

名無の故郷の魔族のような穏健・友好派と過激・維持派の二つだ。前者は魔王がいる手前言い出せなかった連中が主となっている。今までもあの村と同じ、見せしめや粛清があったのだろう。


 人間に攻め入る余裕もなく、魔族は内紛まみれのとんでもない情勢になっている。

 ローン以外の国々も魔王がいないならと、友好派に与する国が大量に動きを見せている。

今までビビッてうちに物的支援を送るだけだったくせに、調子のいい連中だ。


「ところでジュン、お前って最近自分の戸籍見たか?」

「生き返った後ソッコー見た」


 何せ当時は記憶喪失だ。得体の知れない(アマナ)に名前だけ教えられて、はいそうですかと納得できるわけがない。もちろん確認した。すぐに見た。この時代の戸籍は確認が楽でいい。


「そうか、ならいいか」


 クロノの言わんとすることを俺は察した。察したからこそ、俺はそれ以上この件には触れなかった。


「ここでもやることねえなあ……」


 親がいた頃ならともかく、今の俺はクロノの職権濫用によって戸籍を弄りまわした結果、ただの一市民だ。世界の情勢を知っても意味がない。ため息を吐きながら立ち上がる。


「行くのか?」

「街をふらついてくる」


 クロノが普段執務をしている部屋のすぐ近くには隠し通路がある。クロノがアマナに頼んで造ってもらったもので、あいつが仕事を放り出す際はいつもここを通っている。

 そこを通って外に出る。ファストの街はいつも通りに盛り上がっている。

 少し体を伸ばすと、俺に続いて隠し通路の出口から誰かが出てくる音がした。俺につられたクロノがサボったのだろうと、振り返る。


「あっ」

「は?」


 グロスがいた。幻影ではなく、本体。


「何してんだお前!」

「違う。待て。落ち着け。俺は怪しい者じゃねえ!」


 現状のこの国に、こいつ以上に怪しい奴はいないと断言できる。


「魔王が死んだと聞いたその瞬間に、俺は決心したんだ」

「何をだよ」


 俺に向かって両手を突き出しながら、グロスはしみじみと語る。


「人間側に着いた方がいいって」

「とんでもねえクズだな!」


 檻の中で俺に見せた忠義はどこに行ったんだ。

 しかしまあ、その発想自体は間違いではない。人間と敵対する魔族は敗北必至。強力な魔族の多くは死に、数の利も覆されたに近い。維持派はもう後がない。


「それで二重スパイになったんだが、陛下と気が合ってな、公認でサボってるってわけよ」


 確かに、クロノとグロスの気質は似ていないでもない。アマナとクロノを足して二で割れば、こんな感じになるかもしれない。


「じゃあな!」

「じゃあなじゃねえよ。どこ行くんだよ」

「可愛い女の子を探しに行くのさ!」


 意気揚々と、グロスは市街の人混みに溶けていった。クロノもグロスに着いて行けば、もしかすると彼女ができるかもしれない。なんとなくそう思った。





 結局何をするでもなく散歩だけで時間を消費して、家に帰ってきた。老人か俺は。

アマナの部屋に入って、異界総記の第二版、その原稿を見る。これが果たしてこれから先必要になるのか、何専門家気取ってんだとか、いろいろ突っ込みどころがある。

 魔王の項を読み終え、そろそろ晩飯の準備でも始めようかと思った矢先、誰かが返ってきた。足音からするに、アマナか名無のどちらか一人だ。


「帰ってたんだ」


 最近は監視されることもない。ボードを倒したことで、アマナの胸中にあった不安の種がなくなったのだろう。それでもストーカー気質は治ってないが。

 こいつの執着心は昔から変わらない。俺の戸籍から見ても、それは明らかだ。


「アマナ。ひとつ質問いいか?」

「何? 改まって」

「一体俺はいつから、お前と結婚してるんだ(・・・・・・・・・・)?」


 俺の名前は元々「ジュン・トライア」だ。王家に連なるトライア家の一人息子で、跡取りだった男だ。それが何故、「ジュン・ネリン」と家名がアマナのものになっているのか。


 その答えはただひとつ。

 クロノに頼んで戸籍を弄った際、ついでに俺と入籍してやがったからに他ならない。


「き、きみ、君のよよようなかかかか」


 焦りすぎて舌が回っていない。こいつはこの事実を、相当な自信を持って隠していたらしい。はっきり言って馬鹿だ。戸籍確認に際する本人確認の最終手段は、申請者の血液を使う。一度死んだとはいえ、この体は二三年前、俺が生まれた時のものだ。


「俺が戸籍を確認した当時は記憶がなかったから、最初は姉で納得した」


 だが、それではアマナが近親相姦趣味の、今よりレベルが数段上の変態になる。

 弟が欲しい! 造った!

 頭がおかしいとしか言えない。


「次に、天涯孤独の女が寂しくなって俺を造ったんだと思った」


 それでも十分にイカレた思考回路だが、さっきよりはマシだ。天涯孤独と言うにはやや交友があると思いもしたが、それ以外に理由付けできる理由は思いつかなかった。


「そして最後に、お前が一線を超えられないヘタレだと思い出した」


 面と向かって言えないなら、面と向かわなければいい。驚くほど論理的(ロジカル)だ。

 アマナは俺のことが病的に好きだ。監視もその延長線上にある。蘇生がその最たる例だ。

発動さえすれば、魔法にできないことはない。アマナが本気になれば、俺を逆姦することは非常に容易い。押しに弱いことからも分かる通り、こいつは自分から一線を超えられないヘタレだ。


「な、何か悪い!? 恥ずかしかったんだよっ!」


 ついには開き直る。顔を真っ赤にして、帰ってきた名無が部屋の戸越しに、ちらちらと俺たちを見ていることにすら気づいていない。


「別に悪いとか言ってねえだろ。ただ、いつからか訊いただけだ」


 そう、ただの好奇心。というか、知っていてしかるべきことを、俺は知らない。普通結婚記念日とか忘れたら、めちゃくちゃ怒られると思う。いや、そもそも知らないんだが。

 顔は赤くしたまま、そっぽを向いたアマナは小声で言う。


「……今日で、五年……」

「今日かよ!」


 そんな急に言われても何もできねえよ!

 おそらく、人生で最も大きいため息を吐いて、アマナの手を取る。


「空いてるか分からねえが、飯行くぞ」

「い、今から!?」

「当たり前だろ」


 俺たちが部屋から出ようとすると、名無も隠れられていると思っていたのか、慌てて離れようとする。

 そうはさせない。素早く戸を開けて名無の腕を掴んで捕まえる。


「ちょ、えっ、ちょっと! 私もですか!? 負けヒロイン連れて行くんですか!?」

「関係あるか! 祝い事は家族全員でだ!」


 騒がしく、落ち着きがない。思えば、昔からそうだった。アマナかクロノが中心になって、トラブルを起こして、俺が巻き込まれて……そこに名無やレオン、レイが加わった。

 日常の形は変わっても、その本質は変わっていない。


 改めて手にした日常を、俺はこれから「ジュン・ネリン」として享受するのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ