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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
六章 デッド・ア・ライフ
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デッド・ア・ライフ

 ボードがいるはずの場所にいない。



「不味――ッ!」


 気がついた時には、俺の視界は反転していた。

 浮遊感が俺の体を包む。目の前に現れたボードが俺の脇腹を蹴り抜く。

 音速もかくやとばかりの速度で振り抜かれた脚は、俺の体を球技の球であるかの如く蹴り飛ばした。知覚する間もなく、最も近い木に俺は右肩から衝突した。

 蹴られた左腹周辺の内臓はもう駄目だろう。右肩も力が入らない。満身創痍で状況を確認すると、俺の近くにはアマナも転がっていた。


「……じ、あ……」


 ただ、呆然としている名無だけが無事だ。無理もない。戦う覚悟を決め、打倒する決意を固めた直後にこれだ。


「今の攻防で、総魔力のうち、三分の一を消費した。人間に全力を出すのは癪だが、全力で相手をしてやろう」


 朗報と悲報を同時に報せられる。不幸中の幸いだったのは、下半身がまだ生きていること、切り札のための布石が打ち終わっていたことだ。

 喉元から湧き上がる血を吐き捨て、左腕を立てて立ち上がる。アマナも自身に治癒をかけながら立ち上がっている。


「アマナ、魔力譲渡の魔道はできてるか?」

「突貫工事だけど、一応は完成してるよ」


 俺の肩と脇腹、それぞれに治癒をかけながらアマナは答える。アマナは治癒の魔道はあまり得意ではない。全快はできないだろう。


「……あとは名無だな」


 さっき受けた分は返したと言わんばかりに、俺たちの出方を伺っているボードに感謝する。

 家を出る前にアマナに頼んでおいた魔道は形になっている。発動のための下地もできている。あとは魔力だけだ。


「ジュンさん! アマナさん!」


 我に返った名無が駆け寄ってくる。ここまで名無は無傷だが、ここからがこいつの大仕事だ。

「いけるか?」

「やります。私にしかできないことですから」


 名無の決意は聞いた。アマナの覚悟も知っている。

 あとは俺がボードを所定の位置に誘導するだけだ。

 四度目の攻防。これで決着が着く。この場にいる全員がそれを確信している。


 タスクはもう発動しない。これ以上場をかき乱してもかえって邪魔だ。最大限の身体強化でボードの全力にしがみついて行かなければならない。

 もう一度深呼吸。俺が駆け出すと同時に、ボードも土煙を上げた。

 ボードの攻撃をいなしながら徐々に移動していく。さっきの攻撃で若干頭に血が上っているボードは、誘導されていることに気づかない。

 そして、目的の場所にボードが到達する。


「今だッ!! 【「竜の眼光・起」ッ!!】」

「阿呆め、頭を打って状況判断すらできなくなったか!」


 魔力の鎧を纏ったボードを、再現されたタスクは貫くことはできない。

 ――否、貫こうとはしていない。


「っ! そういう、ことか……っ!」


 無数に張り巡らされたタスクがボードの体を絡め捕る。魔力でできた拘束具が、ボードの四肢の自由を奪っている。

 それに気づいたボードは身を捩じらせるが、そう簡単には抜けられない。

そして、俺は詠唱を開始する。


「――一二の星天を巡り・六の道を行き・三界を辿り・果てに至り・此処に還らん・星が描く世よ・尊くあれ――」

「ジュン・ネリン、お前……っ!!」


 詠唱を綴るほどに魔力が失われ、その度に魔力が流れ込む。俺の視線の先にいるのは、ボードではない。アマナと名無だ。

 これが俺の切り札。魔王を殺すためだけの魔道。本来なら魔道陣を描く必要があるものを、俺はタスクが描いた軌跡によって代用した。アマナがグロスを捕らえる際に披露した技術の劣化版だ。

 詠唱を完了したことで、陣が眩い輝きを放ち始める。


 その魔道の名は――――


「【|星は巡りやがて人と成らん(スターライト・エンタープライズ)】」


 光の柱が伸びる。月まで、他の星まで伸びていると錯覚してもおかしくない。その高さの果ては俺でさえ計り知れない。

 陣の中心部にいたボードは光の柱の中心部にいる。命を焼き尽くすその光が止んだ後に、


 ボードが蹲っていた(・・・・・・・・・)


「……惜しかったな、ジュン・ネリン……っ!」


 確かなダメージを感じさせながら、しかし無傷で立ち上がる。


「俺の心臓は特別製でな……魔力を消費して身体を再生させることができる。お前の切り札は、俺の再生力に勝てなかったのだ」


 俺の魔力はもうほとんど残っていない。アマナの魔力も同じだ。魔力譲渡のために大量の魔力を消費した。他人に譲渡できる限界まで俺に託した名無の角は、見間違いではなく、縮んでいる。


「だが、人間にしてはよくやった。俺の魔力を使い切らせたのはお前が、お前たちが初めてだ。ここは一旦、退かせてもらおう」


 そう言って、ボードが膝を軽く曲げる。ここから居城とも言える建造物まで一跳びで戻るつもりだ。そうなれば回復に時間を与えることになる。回復されればもう打つ手はない。

 拘束しようにも、俺が放つことができる魔道は残り一回が限度。ここで拘束のために魔力を消費してしまえば、とどめの一撃が放てない。

 逃がすまいと、ボードに向けて手を伸ばす。


「【スパイダーウェブ】!」

「何っ!?」


 ボードに向けて魔道が放たれる。それは拘束を主目的とした魔道であり、ボードに着弾すると、手足を拘束しながら地にその体を縛り付けた。


「ジュンさんっ!」


 魔道を放ったのは名無。アマナも名無が魔道を使った事実に目を剥いている。いつの間に魔道を習得していたのか等々、聞きたいことはあるが後回しだ。


「この、裏切り者が……! だがこの程度の魔道、一秒もあれば――!」



「――ああ、一秒もあれば十分だ!」



 時間を惜しみつつ、魔力の消費を極力抑えるため、魔道の名を宣言する。


「【裂断「ドラゴンクロウ」】ッ!!」


 竜の爪が、魔王の心臓を貫いた。

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