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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
六章 デッド・ア・ライフ
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デッド・ア・ライフ

「ガッ!?」


 だが、ボードは何食わぬ顔で俺の顔に裏拳を放った。

 数メートル吹き飛ばされてからボードを見やると、魔術もなしに傷が復元していく。治癒や回復をしようにも、流れた血は戻らないはず。明らかに致死に達している量の血を流してなお、平然と血の海に立っている。


「俺は本来、戦う者ではない。君臨する者だ。そうだな、今のをおよそ百繰り返せば、俺を殺しきれるだろう」

「残機制かよお前……!」


 比喩でそう言ったが、こいつが一度死んだ様子はない。俺の知らない異界の道具か何かで、常識外れの再生をしているに違いない。ボードを外から観察する限りでは、その類のアイテムは見受けられない。仮にも王が、一切の装飾品を着けていない。


 今の調子なら後数十度は殺せるだろうが、ボードが戦闘に慣れないとも思えない。ボードが死ぬ前に俺が死ぬのは必定だ。

 切り札のために温存しておくつもりだったが、名無のおかげで嬉しい誤算がある。ここは贅沢に魔力を消費すべきだ。


「【「竜の眼光・瞑」】、【裂空「ドラグーンタスク」】」

「それは知っているぞ。グロスから聞いた。確か、魔力を纏っておけばいいのだったな」


 異界総記にはボードの攻略法は載っていなかった。グロスは俺の攻略法を知っていて、それをボードに教えた。

 ただでさえ単純なスペックで負けてるのに、情報アドバンテージでも負けてるってどういう了見だクソッタレ。


 二度目の起動を、魔力の鎧が切れたタイミングに合わせればいいだけだ。そう思うことにする。

 できればアマナや名無の援護が欲しいが……これから俺は縦横無尽に周囲を駆ける。援誤にならないとも言い切れない。もしそうなったら目も当てられない。そのままなし崩し的に殺されるだろう。


「やるっきゃねえか」


 狙うは一撃必殺ではなく、一撃離脱。向こうの実質残機はおおよそ百なのに対して、俺は一。遺体が残れば再挑戦の可能性があるが、俺が生き返ったことを知った以上、最悪跡形もなく消し飛ばされる。

 一撃の重さを考慮したうえで、安全に離脱できる位置取りが重要だ。

 ボードを視界に捉え、意識の中心に置く。一度深呼吸し、地を蹴った。


「【流星「モーメントスター」】」


 アマナが造り、俺に授けた竜シリーズではなく、俺本来が使う魔道を起動する。同じ時空間を操作する類の魔道だが、星シリーズは補助に重きを置いている。昔の俺はこれと装備した短剣を手に戦っていた。

 【「モーメントスター」】、その能力は一定の動作の加速。魔力により捻じ曲げられた時空を駆ける魔道で、効果時間は一秒きっかり。

 これに反応するには、同じ時空間を操作する魔道魔術か、


「そこか」


 ちょうど今のボードのように、超濃密度の魔力で無理矢理干渉するしかない。

 俺の腕を掴んだボードは、そのまま俺を引き寄せ鳩尾を殴りつける。魔術で強化された拳は撞木の如き衝撃を俺の腹部に与えた。

 当然鐘ほどの重量を持たない俺は再び大きく吹き飛ばされた。


「……とんでもない魔力の量だな……」


 得意ではない治癒で痛みを和らげる。性能は低かろうと、咄嗟に防御魔道を発動していなければ内臓が破裂していただろう。

 だが、代わりに奴の片腕をもらった。


「それは足先にも判定があるのか」


 正確には「指」だ。一度に装填できるタスクの数は十だが、クロウと同じく空間を抉る爪は足指にもある。攻撃を食らうと分かった時点で、左脚を振り上げてボードの右腕を抉り飛ばした。

 攻撃自体に間に合わなかったことが惜しい。もう少し早く判断できていれば……


 今のでは駄目だと分かった。しかし攻撃していかなければならない。【竜の眼光】のためにも、切り札のためにも。

 一度吐き出してしまった息を取り戻すために呼吸をしていると、不意に体が楽になった。何事かと思い、振り返ると、アマナが俺に治癒魔道をかけていた。


「ごめん、遅くなった」

「お前はいっつも大事な時に遅れるな」

「だから謝ってるじゃないか」


 縦横無尽に駆け巡ろうとしても、今の二の舞になる。駆け巡りながら攻撃の機を伺おうにも、ボードはその有り余る魔力にものを言わせて突撃してくるに違いない。

 アマナが立ち直ったのなら、援護を期待できる。こいつなら名無よりは誤射の可能性はぐっと低くなる。


「援護射撃頼むぜ」

「言われずとも」


 そして、好機を探さずに再び突貫。馬鹿の一つ覚えと判断したのか、ボードは何の姿勢も見せることはない。紙一重で反撃するつもりだ。

 しかしそうはいかない。ボードが放出系の魔術を使ってこないのは、過去と今までの戦闘で分かった。魔術を統べるのみで、自身が高度な魔術を使えるかは関係ないのだろう。魔族を統べるのなら、魔術を封じるのみで十分だからだ。


「早速連携か。先程の言葉は訂正しておこう」


 およそ二メートル離れた地点で俺は横にステップした。俺の背後には、アマナが放った魔道が追従していた。魔法魔術は封じられたが、アマナは魔道における才能でも一般人とは比べ物にならない。

 ボードを的としているのは【ハウンドヴォルケイノ】。何かに被弾するまで、定めた対象を執拗に狙うマグマの波。地を融解させながらその猟犬はボードに迫る。


 膨大な魔力はそれだけで魔道や魔術と比肩し得る。アマナの魔力量はそこまで多くない。ボードの暴力的な魔力の前では、アマナが放つ魔道はどれも腕を振るっただけで掻き消えてしまうだろう。

 援護は何も、アマナだけじゃない。

 援護の援護とも言うべき、タスクのスナイプ。頭、肩、胸、腹、脚を的確に狙ってタスクを射出する。ガルアの時に乱れ撃ったものとは違う。今度は狙いをきちんとつけている。


「まったく、面倒な……!」


 眉根を寄せたボードが纏った魔力を爆散させる。それにより【ハウンドヴォルケイノ】とタスクは霧消する。距離を取っていたはずの俺もその衝撃に若干ふらつく。

 体勢を立て直した俺はボードに生じた隙を見逃さなかった。魔力をパージしたとでも言うべきだろうか、今のボードは魔力を纏っていなかった。


 無宣言で身体強化をかけた俺は、加えて【「モーメントスター」】も宣言。一気呵成に畳みかける。

 背後から迫った俺は左横腹を裂き、瞬時に勢いを殺してターン、右脇を裂く。


「っく……! 人間風情が……っ!」


 連続で攻撃されたことに怒りか焦りかを抱いたボードは、先程と比べると精細さに欠ける動きで、俺を捕らえようと腕を伸ばす。

 それを半身になることで躱し、俺は中段回し蹴りで弧を描く。ずるりと音がして、ボードの上半身が支えを失って地に伏せた。

 ボードの能力はあくまで再生。周囲には奴が流した夥しい量の血が池を作っている。

 上半身を起点として再生を始めるボードから一旦距離を取る。


「二人でこれなら、思ったよりいけそうだね」

「……いや、これであいつが本気になる。問題はここからだ」


 射殺す眼光が俺とアマナに向けられている。今度は奴からも積極的に攻撃してくるに違いない。


「……私も、手伝います」


 第二ラウンドが始まろうというところで、ダウンしていた名無がよろめきながら立ち上がる。その様子は明らかに憔悴しきっていた。


「無理はするな。お前は切り札でもあるんだ」

「分かってます。前には出ません」


 できればボードに目をつけられることはしてほしくないが、名無の目には決意が宿っている。復讐心ではなく、決意が。

 本人が言った通り、前に出ないように念押しして、俺はボードに向き直った。

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