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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
四章 ひなげしのさく頃に
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ひなげしのさく頃に

 陽が落ちてから、レオンは布に光が当たるようにライトを設置した。薄いオレンジのランプで光量は多い。白熱灯は森火事になる可能性があるので採用せず、近代で新たに開発されたものを使っている。

 そもそも、電気を使った電球自体が最近では少ない。電球という名前自体は残っているものの、最近は魔力で動くものがほとんどだ。


 夜の見張りの順番は俺、レイ、レオンの順だ。早めに眠ったこともあり、俺が今日の成果を知ることになるのは、早朝だった。

 今現在、早朝。寝床からそう離れていない場所に、布は仕掛けてある。陽もまだ登り切らないうちに目が覚めた俺は、レオンが見張っているであろう場所へ向かう。


「キモッ」


 布が視界に入るなり、俺は思わずそう呟いた。

 布に張り付いている虫の数自体はさほど多くはない。ただ、光を焚いた影響か、蛾が中心として多い。見たこともないクワガタやカブトも張り付いている。虫たちは蠢き、数は少なくも蜜を求めて犇めき、俺はただキモイと思った。

 そばにいるレオンの様子を見る限り、目当てのシラジラカブトとやらは捕まえられていない。その近くに転がっている虫籠には、何匹か虫が入っているが。


「もう一泊だな」


 蜜を貪っている虫たちを追い払いながら、レオンは冷静にそう言った。



 そして、一八日の月日が流れた。



 俺の食糧もそろそろ心もとなく、レイは相変わらずどこから出したか分からない食べ物ばかりを食べ、レオンは蜜に呼ばれた虫の中で食べられるものを食べる、というとんでもない芸当に走り出した。

 曰く、「貴重なタンパク源」なのだそう。

交代制で見張っていると言えど、普段と違う環境でこれだけ過ごせば、心身ともに疲弊してくる。レイに至っては暇すぎて一人でボードゲームやTRPGをやり始めている。

そしてもう数えるのも嫌になった日の朝、最早日課とも言えるレオンのもとへの訪問は、今までと違う様相を呈していた。


「……ふーっ、ふーっ……!」


 異様に興奮しているレオンがそこにいた。目は血走り、虫網を握る手は汗が滲み震えている。視線の先には白く輝く、体長およそ一五センチメートルのカブトムシがいた。レオンの様子からして、こいつがシラジラカブトで間違いない。

 レオンの話曰く、シラジラカブトの警戒心はそう高くない。はずなのだが、今のレオンからは余裕というものが一切感じられない。


 大剣を振りかぶるかのような体勢で、レオンはカブトムシににじり寄る。布に張り付いている他の虫は、見覚えのある虫ばかりだった。


「すぅー……ふぅー……」


 虫網の射程圏内に虫を捉えたレオンは、精神統一のために大きく深呼吸を繰り返す。

 雰囲気に呑まれている俺もその様子を、固唾を飲んで見守っている。レイはまだ眠っている。

 その時だった。シラジラカブトは内翅を伸ばし、飛翔の体勢へ移行する。レオンもまさかこのタイミングで飛ぶとは思っていなかったのか、一瞬体を強張らせて硬直する。


 しかし、そこからの判断は早かった。即座に普段刀剣を握っている片手へ、虫網を持ち替える。そのまま、跳躍を混ぜながら逆袈裟に網を振り抜いた。

 その網の中には、朝日に照らされる、純白のカブトムシがあった。





 多数の虫が暴れまわる籠を引っ提げながら、レオンはご満悦だ。俺達を中心として、およそ二メートル圏内に人がいない。なんなら、この車両に残っている人は五人しかいない。

 羽音や鳴き声、虫々が籠にぶつかる音が、人を遠ざけた結果だ。


「レオンは何日ぐらいで捕れると思ってたんだ?」

「短く見積もって一か月だな。二〇日で捕れたのは嬉しい誤算だった」


 目的駅であるファスト駅で下車する。体力的にはともかく、精神的に参っているレイは、俺の肩を借りながら、引きずられるようにして歩いている。いや、歩いているのか?

 最終目的地は城にある騎士宿舎だ。レオンは虫を育成するために、特別に数部屋借りている。陛下もたまにその様子を見に来ることがあるという。

 ちなみに、レオンの虫捕りも恒例と化しているので、ファストに来てからはほとんど注目を集めていない。精々幼い男の子からの視線だけだ。


「あーんもう疲れたー! 早く城のベッドで寝たいー!」

「寝たいなら自分の家で眠ればいいだろ」

「だって城のベッドの方が寝心地いいんだもん。気持ちいいよー? あそこのベッド」


 駅から城までの道に、レイの家はある。だが、こうしたしょうもないわがままのために、俺は必要のない苦労を背負うことになった。

 レイは城のことを別荘か何かだと思っている。祖父が祖父なので、レイに向かって直接口に出すことができる者は数少ない。ガイ大臣に告げ口すれば済む問題でもある。


 しばらく歩いて、城に到着した俺達はまず宿舎へ向かった。レイの個人的な願望は後回しだ。今回、こいつは野草による痒みに遭っただけで、一番苦労していない。

 大量にある荷物を一旦整理するために、レオンが生活している部屋を空ける。


「おっすお帰り! 結構早かったな」


 陛下がいた。十中八九、九割九分九厘、国務を投げ出してここにいる。理由はおおかたの予想がつく。


「陛下、いらしていたのですね」

「いやあ、シラジラカブトって言えば激レアカブトだろ? お目にかかれるのなら、男としてこれを逃すのはあり得ねえよ! なあジュン!」

「は、はあ、そうかもしれませんね」


 レオンからの頼みでなければ、俺は同行していないんだけどな。


「おーい水くせえなあ! 敬語はいらねえっていつも言ってんだろ?」

「ですから、俺もいつも言っている通り、俺は一市民で、陛下は陛下ですから」

「かーっ! お固いねえジュンは!」

「そうだよねえ。ジュンは変なところで固いから、いっつも損するんだよ。ねえ陛下」

「お前は敬語使えや」

「ええっ!」


 陛下の中での、敬語の有無を決める基準がよく分からない。俺にタメを強要するぐらいなら、師匠の孫に敬語を使わせるのはおかしいと思うんだが。

 俺が訝しんでいると、陛下がおっさん臭い掛け声とともに立ち上がって、大きく伸びをした。


「よっしゃ! シラジラカブトを見せてもらった礼だ! 虫の整理、俺も手伝うぜ!」

「ですが陛下、国務はよろし――」

「国より虫だ!」


 陛下がレオンの指摘を遮って声を上げる。本人の中では、本当にこの台詞通りなのだろう。

 この国はもう駄目かもしれない。

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