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魔法にできないことはない  作者: 白辺 衣介
四章 ひなげしのさく頃に
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ひなげしのさく頃に

 俺は春が嫌いだ。何故か? そりゃあ決まってるだろ――



「魔王領地にしかいない虫を探しに行きたいんだが……付き合ってくれるか?」



 レオンすら馬鹿になるからだ。



 俺の身内には、精神が子供な奴が多い。

 アマナは我がままで、陛下は中学生で、レイは特撮オタクだ。特にこの時期は俺を除けば、名無の精神年齢が一番高いと言えるかもしれない。


 春でさえなければダントツでレオンなんだが、春となるとレオンはレイと同レベルまで堕ちる。

 レオンの虫蒐集趣味は周囲の人間には知れ渡っている事実で、この時期になると毎年長期で休暇をもらっているという。去年も俺は付き合わされ、一週間近く森の中をさまよった。

 いつかに言った通り、魔王軍が占領している土地は元々人間が住んでいた場所だ。その地域にしか生息していない虫もいれば、虫系の魔物も存在する。まあ、レオンは後者に興味はないようだが。


「シラジラカブトと言ってだな、角を含めて全身が真っ白なカブトムシを捕りに行きたい」

「うん、まあ、別に何かやることがあるわけでもねえし、いいんだが」


 普段よりも明らかに口調が明るく、口数も増えているレオンには未だ慣れない。目も、特撮やビーム、レーザーについて語っている時のレイと同等に輝いている。

 最近はアマナのストーキングも直接なものではなくなってきているので、自由度は上がっている。その分精度は上がっている。この前造った、俺の居場所を感知する魔法を改良したと言っていた。

 喜ぶべきか、悲しむべきか。


「ならよかった。集合場所はいつもの噴水広場だ。時間は午前十時。あと、一応名無にも声をかけておいてくれ」

「あいよ」


 アマナは自室に引きこもって、おそらく魔法の製造を行っている。ファストに慣れた名無は、アマナから支給された小遣いを手に、レイとともにショッピングに出かけている。

 故郷での傷もほとんど癒えたようで、最近はよく笑う。無理をしている様子もない。


 言うべきことを言い残して、レオンは出て行った。明日一番重装備になるのはあいつだ。魔王領地に行く関係上、普段の恰好よりも大層な装備になる可能性もある。


「ただいま帰りましたー」

「おうお帰り」


 レオンと入れ替わりで名無が帰ってくる。女子らしく服でも買ってきたらしく、手に提げている袋にプリントされたロゴは、ファストでも有名なブランドのものだ。


「この時期は売れ残った冬物が安くていいですねえ」

「ほーん」

「ちょっと反応薄くないですか?」

「アマナも俺も、服とか興味ねえからなあ」


 アマナはいつどこでも黒のインナーに白のローブだ。魔法で温度調節もできるので、あいつが季節によって服装を変えることはない。

 俺は流石に季節によって服装は変わるが、着られてダサくなけりゃあ何でもいいと思っているので、必要以上に洒落たりはしない。うちにあるタンスは名無が来るまで飾り同然だった。

 買ってきた服を一旦ソファの上に置いた名無は、その隣に座る。その位置は俺の対面になる。


「駄目ですよ。ジュンさんもアマナさんも容姿がいいんですから、ちゃんとお洒落しないと」

「着飾ったところで、互いの好きな相手に好かれてたらどうでも良くね?」


 明確に付き合っているわけではないし、相手に向けてちゃんとした告白をしたわけでもないが、アマナと俺は一応相思相愛の関係だ。必要以上にモテたら関係が拗れるだけで、何もいいことはない。


「そう言われるとそうではありますけど」


 着飾るということは、見栄を張ることが目的でなければ、求愛行動だと俺は思っている。人間には明確な発情期がない。だからこうして、常日頃から自分を美しく見せるのだ。名無は魔族だが。


「ていうかお前、最近俺のことよく褒めるよな」

「ほわっ!?」


 背後が背もたれなので、下がることはできないながらも、下がったように錯覚した。それほどまでに名無は身を引いた。

 名無の故郷の件から一か月。それまでと比べて、名無は明らかに俺を褒める頻度が高くなっている。何なら服を買いに行く頻度も高くなっている。

 名無の顔は赤かった。


「いや! いや! いあ! いあ! そんなことないですよ!」

「今ちょっと正気度下がったろ」


 一瞬海底に意識が飛んで行った名無は、髪を振り乱しながら俺の言葉を否定した。お前が頭を振り回すと角的に洒落にならないからやめてくれ。

 数度深呼吸をして、ある程度落ち着きを取り戻した名無が胸を張る。耳はまだ赤い。


「第一、私がジュンさんを褒めて何になるんですか? アマナさんならまだしも、ジュンさんを褒めても何も出ないでしょう?」

「俺の好感度が上がる」

「あわわわわわわ……」


 なんだこいつ面白いな。

 しかしあんまりいじめるのも可哀想なので、レオンに任されていた話に切り替える。


「話は変わるが、レオンが虫捕りに行くから、お前も着いて来ないか、だってよ」

「いあ、いあ、ふたぐん、ふたぐん」

「駄目だこりゃ」


 名無は正気度がマイナスに振り切り、海底だか宇宙の果てだかに意識がすっ飛んでしまった。ぐるぐると目を回して、背もたれに頭を預けて交信している。

 服を放置しておくのも何なので、手に引っ提げて二階にある名無の部屋の適当な場所に置く。ついでに、明日のことをアマナにも声をかける。

 数度ノックすると入っていいとの返事があったので、戸を開けて頭だけ出す。アマナは魔法の製造ではなく、なにやら本を書いている様子だった。


「ジュンか。どうしたんだい?」

「明日、レオンと虫捕りに行くわ」


 実年齢二歳とはいえ、精神年齢は十代後半だ。足して二で割って初めて、台詞通りの年齢になる。我ながら、なかなかおかしいことを言っている自覚はある。


「もうそんな季節か。うん、行ってくるといい」


 アマナは椅子を回し、俺に正面を合わせてそう言った。

 許可を下したアマナは、すぐに机に向かった。アマナが書いている本の中身が気になるが、中身を問うと変にいじられることは分かっているので、そのまま退散する。


 虫捕りにあたって、俺はこれといって準備するものはない。せいぜい虫よけスプレーを買うか、虫よけの魔道をアマナに教えてもらうかだ。

 後者は絶対に面倒なことになるので、俺は虫よけスプレーを買うために家を出た。

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